店舗の新規オープンや新メニュー販売開始の際、意外に悩みどころなのが店名やメニュー名などのネーミングやキャッチコピー。言葉の選択だけでお店のイメージや集客効果まで左右するという大事な要素ですが、その考え方についてコピーライターの長井謙さんに話を聞きました。シチュエーションに応じた2択クイズ形式で紹介するので、自店に置き換えて考えてみてください。
※洋食屋や居酒屋などには必ずあるメニュー表。そこにPOP的に表記するキャッチコピーを想定。
「A」は、お客さまを意識しつつ「客観的なことば」を使用しています。その点「B」は、「(私たちの)イチオシ」というニュアンスが含まれていて「お店目線」。もちろん、あえてそのような手法をとる場合もありますが、一般的に響きやすいのは「A」でしょう。
とくに日本人には「みんなが楽しんでいるなら、どんなものか試してみたい!」という好奇心があると思うんです。「A」は、「みんなが食べているなら、私も!」が生まれやすいことばです。その点でも、「A」がいいですね。
他にも「ランキング1、2、3位」「当店といえば~」「当店名物~」など、お店のウリがはっきりと分かるキャッチコピーを付けると、初めてきたお客さまにも喜ばれますし、ブランディングにもつながりやすいと思います。
ただ、高級なイメージを大切にしたいお店の場合は、「A」や「B」のようなキャッチコピーよりも、メニュー名にこだわるのが得策。あくまでも主観ですが、メニュー名の長いお店は、単価も上げやすい傾向があります。それは産地や作り方などのこだわりがメニューに詰まっているため、価格にも反映されるわけです。
・産地をウリにしたメニュー
例)マッシュした北海道産ジャガイモのカラフルサラダ/銚子港直送 マイワシの香草オーブン焼き
・こだわりの調理法をウリしたメニュー
例)自家製ソースで仕上げた白身魚のムニエル/燻製した鳥モモ肉をジューシーに焼き上げたチキンソテー
高級路線を打ち出したい場合は、ポイントが分かるこだわりの商品名を付けるといいでしょう。
「B」は絶対にNG?
Bがダメというわけではありません。むしろ、ことばをちょっと追加するだけで、かなり効果的なコピーになります。
改善方法は、「おススメの理由」を入れるだけでOK。「有機野菜を使った」「秘伝のタレ仕込み」など、具体的なことばを入れてイメージしやすくすることで、お客さまの心が動き、「注文してみようかな」という次のアクションにつながります。
POINT
・キャッチコピーは、お店目線よりも「顧客目線」
・お店の特徴が分かるキャッチコピーは、ブランディングにつながる可能性も
・「おススメ」を使う場合は、理由も入れると親切
いくつかのPOPが並ぶスーパーの棚では、「B」のキャッチコピーのほうが心に響きやすいでしょう。
「A」は、お店側の思いをそのままストレートにのせたキャッチコピーです。人によっては、「押し売り」のように感じてしまう可能性があります。それよりも、「B」のように食べるシーンが想像できるキャッチコピーを付けたほうが、お客さまも手に取りやすいと考えられます。
キャッチコピーをイメージするためには?
キャッチコピーは、一方的な押し付けではなく、この商品を誰にどうおススメしようかなと丁寧に考えてみることが大切。そのうえで、商品単体で考えずに、さまざまな角度から連想していくと、しっくりとくるキャッチコピーと出合えるかもしれません。
【POP用キャッチコピーの考え方一例】
商品単体で考えずに、他のものと掛け算をして考えると発想しやすいです。また、シーンや特徴を踏まえ、商品の良さを引き出すようなコピーを考えるといいでしょう。
・商品×食べるシーンのイメージ
例)おつまみの新定番!
・商品×食感をアピール
例)カリふわ食感!
・商品×効果や特徴
例)カカオ99%!
・商品×感想(某複合型書店のPOPイメージ、商品を試して感想を書く)
例)「このレモン感、たまりません!(濃いめのレモンサワー)」
POINT
・商品をただおススメするだけよりも、商品のシーンが浮かぶことばを選ぶ
・「商品×●●●」のように掛け算方式で発想すると、バリエーションが生まれやすい
これまでにお伝えしたように、店舗のキャッチコピーは「顧客目線」であることが大切です。今は店舗の営業時間が通常とは異なる場合が多いため、例えば「お店の営業時間」が一目瞭然なことは、お客さまにとっても分かりやすく親切ですね。
ただ、もちろん「B」が悪いわけではありません。多くのお店が、同じような札看板を採用しているため、差別化しにくいという印象です。
これから新しく作るのであれば、お客さまの共感を生み、入ってみたくなるような札看板を作るのがおススメです。成功すれば、集客効果も変わってくると思います。
共感を呼ぶ、札看板のキャッチコピーとは?
基本、お客さまに「呼びかける」ことが大切です。札看板もお客さまとのコミュニケーションの手段と考えて、以下のような切り口で発想してみてはいかがでしょうか。
・有益な情報を入れる
例)19時まで営業中/1コインで営業中/かき氷始めました
・応援や共感
例)今も負けずに営業中/一生懸命営業中
・店主のキャラが分かりやすい
例)元気に営業中!/真心こめて営業中!
・個性的
例)昼だけこっそり営業中(昼間のみの営業店)/優雅に営業中(豪華店ではなく、小さなお店で使いギャップを狙う。3密回避も)
周辺店舗の札看板やキャッチコピーをリサーチしつつ、周りとは違う発想で考えるのもいいですね。
POINT
・札看板も「お客さまとのコミュニケーション手段」と思おう
・お店がどう見られたいか、どんな存在でありたいかを考えて、札看板を作ろう
お持ち帰り専門のお弁当屋さんの特徴として、コンビニやスーパーとの違いの1つに「できたての温かいお弁当が食べられる」という価値があります。「B」はその特徴にスポットを当てているため、目を引きやすいでしょう。
お弁当屋さんに限らず、テイクアウトメニューを売り出す飲食店の方にとっても、スタンド看板は、まず何を売っているか知ってもらわないと立ち止まってくれません。看板に写真を掲載する場合は、人気のメニュー数点に絞り、情報を整理したほうが逆に目に留まりやすいです。
そうすることで「ここはカレーのおいしいお店」「日替わり定食がお得なお店」などの印象付けができるでしょう。
とはいえ、「A」がNGではありません。キャッチコピーは、具体的に伝えたいことを絞って考えたほうがより心に響きます。そのため、「A」のように「すべてがおススメ」的な見せ方よりも、「何が、どういいのか」を具体的に打ち出してあげたほうが、お客さまに刺さりやすいと思います。
どう発想すればいいの?「スタンド看板」の考え方
スタンド看板は、まずお客さまに「どんなお店」なのかを認知してもらい、「食べてみたい」と思ってもらう必要があります。そのため、以下のことに気を付けてみましょう。
・2段階でアピール
一番目立つ看板で、どんなお店かを分かってもらう
例)当店名物のカレーランチ!
次に目立つPOPや看板で、お客さまへのメリットをアピール
例)できたてカレー、すぐできます!/炊きたてごはん、大盛り無料!
・エリア性を考える
ビジネス街なら価格感、主婦層が多い店ならヘルシー感など
価格感の例)500円ランチ/飲み物付き!お得なランチセット
ヘルシー感の例)野菜たっぷり/低糖質でおススメ!
・時間帯によって内容を変更する
夕方の例)晩酌のおともに/夕飯の一品に!/おうちで贅沢ディナー
POINT
・どんなお店か知ってもらうことを優先的に
・店舗周辺に行き交う人たちの流れや様子、繁盛店を観察して、相手がよろこぶことを伝える
店舗名を考える際に、ついお洒落な言葉を選びがちです。高単価を狙い、あえて付加価値を付けていきたい場合は、お洒落なネーミングもありですが、読めるのが大前提です。読めなければネット検索もしにくいため、集客にも影響してしまう場合があるので気を付けましょう。
店舗名称で意識すべきこととは?
・印象付けたいイメージに合ったことばを選ぶ
今回はマッサージ店ということで、やわらかなやさしいイメージにするため、丸みのあるひらがなを使用し「ゆるりえ」に。カタカナですと「ユルリエ」となり、角ばった文字になることでまた違う印象を与えます。
・外国語の店名は「格好いいから」ではやらない
ネーミングを作る際、コピーライターはさまざまなことばを掛け合わせて考えます。場合によっては、完成したネーミングが、他の国のことばでは別の意味を持っていて、思わぬバッシングにあってしまう可能性もあります。色んな角度から、チェックしましょう。
・一発で分かるように
回答Bの「Guérison(ゲリゾン)」は、フランス語で「癒し」という意味。言われれば納得できるかもしれませんが、教えてもらえなければ、読み方も分からないでしょう。高級路線でいく場合は別ですが、一般客層を狙う場合は、誰もが一発で分かることが、店舗名称の第一条件といえます。
・お客さまの気持ちを想像してみる
リラクゼーション施設のキャッチコピーにおいても、「お店が何をしているのか」や「お客さまへの具体的なメリット」を伝えていくのが大切です。「癒し」というざっくりしたキーワードを使いがちですが、ここを具体的にしていくことで、他のお店との違いを打ち出せます。
よく見かけるフレーズをそのまま使うと、逆に響きにくくなってしまいます。それよりも「ゴッドハンドによる施術」「1時間1,000円で体験可能」など、お店の独自性やお客さまの具体的なメリットになることを打ち出したほうがいいでしょう。
POINT
・店舗にあったネーミングを付ける
・すぐに覚えられるネーミング
・お店の特徴から考えると、独自性が生まれやすい
すべて高級パン屋さんの店舗名です。くだけたトーンのネーミングにすることで、普段、高級パンを積極的に購入しない層にもアプローチしている事例といえます。
また、ネーミング自体も、店舗目線のことばではなく、お客さまの感想や、顧客目線のことばを使っている点にも注目です。繰り返しになりますが、ネーミングやキャッチコピーは、「お店目線」ではなく「顧客目線」が大切です。
ネーミングで遊ぶにはテクニックと熟考が必要
お題にあげたお店は、すべて総合的にブランディングをしたうえで、くだけたネーミングを行っています。もし同じように取り入れたいのであれば、店名ではなく、商品名なら応用しやすいかもしれません。通常ではリーチしない客層にアプローチできる可能性もあります。
例えば、1つ1,000円のエクレアのネーミングならば、通常は外国語などを使ったお洒落なネーミングを考えがちですが、そこをあえて「ほっぺが落ちるエクレア」など、少し遊び心のあるトーンを入れることで多くの人の目を引く可能性があります。
POINT
・ネーミングによりふだんとは違う客層にアプローチも可能
まとめ
最後まで読んでいただいた人は、もうお気付きと思いますが、ネーミングやキャッチコピーは、「お客さまとのコミュニケーション」です。コミュニケーションの基本は相手の状況を想像し、配慮すること。ネーミングやキャッチコピーにも、対面接客時と同じようにお客さまへの気持ちを踏まえて考えていきましょう!
人の素直な気持ちから生まれたことばは、どんな耳障りのいいことばよりも、心に響きます。定型文やテンプレートではなく、皆さんから出たことばで、お客さまを迎える。難しく考えず、まずは解説にある一例を活用するところから始めてみましょう!
監修者プロフィール/長井謙さん
新聞社でコンテンツ制作、広告制作、記事配信の経験を経て、フリーライターとして独立。「ことばやさん」の代表。商品の魅力を分かりやすく1行で伝えるキャッチコピーを得意とし、商品パッケージや店舗看板などさまざまな媒体でコピーライティングの実績あり。宣伝会議賞やコピーコンテストにおいて多数の受賞経験あり。
https://kotobayasan.com/
取材・文/夏野久万
宝石店販売員や大手求人広告代理店の営業兼原稿執筆を経て、出版社や制作会社にてライター・コピーライターとして勤務。現在はフリーライターとして活動している。恋愛記事からビジネス系まで、幅広く対応。インタビュー・取材記事のほか、エッセイ、コラムなども執筆している。イラスト/なかがわみか