あふれるレトロ自販機愛が本業を超える日。客が殺到する中古タイヤ店とは?

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レトロ自販機が大人気で、周囲が渋滞してしまうほどの中古タイヤ店がある。そう聞くと、「どっちが本業なの?」「採算は立っているの?」などの疑問が続々浮かんできました。とにかく話が聞ききたいとの一心でいてもたってもいられず、「中古タイヤ市場 相模原店」齊藤辰洋社長に話を伺いました。

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なぜか、もう一度行きたくなる中古タイヤ

「中古タイヤ市場 相模原店」は、小田急線相模大野駅からバスで15分ほどの場所にあります。午前10時半に到着すると、すでに家族連れやカップルなどの姿がチラホラ。広大な駐車場前に並べられたレトロ自販機たちはオーラが漂っているように感じられ、その場はまさに聖地たる雰囲気。レトロ自販機好きならずとも、「おお〜」と呟いて思わず駆け寄ってしまいます。

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ズラリと並ぶレトロ自販機は圧巻

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ハンバーガー、トーストサンドなど、街中では見かけないラインナップ

見たことのない自販機を興味津々で眺めながら、ぐるっと一周。自販機に描かれた時代を感じるイラストや写真、独特の色づかい、どれを見ても昭和の匂いが全開です。ボタンを押したら、どんな商品が出てくるのだろう? と想像しながら歩くと、ワクワクしてきます。こうなったら買わずにはいられない! と、まずはトーストサンドを購入することにしました。

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コンビーフトーストを選びました

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加熱されているので、火傷をしないように備え付けのトングで取り出します

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熱々のトーストサンドがお目見え。しっかりと焼き目が付いてます

ボタンを押してから、完成まで約40秒。「あつっ!」と談笑しながら食べるトーストは、コンビーフが詰まっていて、とても美味。想像以上の美味しさに「違うものも食べてみよう」と次なる自販機へ向かいます。ちょっとしたアミューズメントパークに来た気分です。

これは外せないと一同が声を揃えたのは、ラーメン自販機。ラーメンとチャーシュー麺がありましたが、選んだのは自家製のチャーシュー麺。ボタンを押してから、たったの25秒で取り出し口から顔をのぞかせます。

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昭和40〜50年代に活躍したラーメンの自販機

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プラスチックのどんぶりになみなみ注がれたスープ。こぼれないようにそっと取り出します

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自販機でこのクオリティー。400円でチャーシューが5枚も入っているところにサービス精神を感じます

独特のやわらかな麺をすすり、丼を持ち上げてスープをゴクリと飲むと素朴な味が広がります。チャーシューも噛むごとに肉の旨味が口の中にあふれて、麺やスープとの相性も抜群です。聞くと、ラーメンだけでなくトーストサンドやそば、うどんなど、生産が終了している自販機のメニューは中古タイヤ市場が独自で作ってるのだそう。そう言われると、もっと他の自販機にチャレンジしてみたい気持ちに駆られますが、もうお腹はいっぱいです。次は、ハンバーガーとうどんが食べてみたいなぁ……。

中古タイヤ店でありながら、なぜこんなユニークなスペースが生まれたのでしょうか。興奮冷めやらぬまま、齊藤辰洋社長にあれこれ聞いてみました。

レトロ自販機収集は修理がつきもの

――いきなり失礼ですが、「中古タイヤ市場 相模原店」と名が付くからには、中古タイヤ屋さんなんですよね?

齊藤社長:本業は中古タイヤ販売業です。……が、レトロ自販機の売り上げも負けていません。店舗の外で食事ができることから、コロナ禍でも売上は伸びていて、実は中古タイヤのスタッフよりもレトロ自販機を運営しているスタッフのほうが多かったりします。

――いつから、レトロ自販機を置き始めたのですか?

齊藤社長:レトロ自販機を置き始めたのは2016年からです。私自身、レトロ自販機に興味があって、うどんとそばの自販機を買ってみたのがきっかけでした。タイヤ交換でお客さんを待たせてしまうので、置けば時間つぶしにもなるし、珍しいから面白いかなって。そこからどんどん増えていき、今は95台ほど稼働しています。

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物腰やわらかな 「中古タイヤ市場 相模原店」社長の齊藤辰洋さん

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自販機コーナーの裏手には本業の商品であるタイヤがどんと積まれています

――すごい数ですね。どうしてレトロ自販機に興味を持たれたのですか?

齊藤社長:レトロ自販機の味のある雰囲気と、どういう仕組みで食事が出てくるのかわからないワクワク感が好きなんです。最初はオークションサイトで、自分のお小遣いの範囲内で買えるものを買っていました。ただ、買ったはいいけど動かないものも多くて……。修理して動くようになったときの達成感もたまりません。

――え?ご自身で修理されているんですか?

齊藤社長:初めて買ったとき、もし動かなくても大手企業から出ている機械なので、メーカー修理に出せばなんとかなるだろうと思っていたのですが、メーカーには部品がないという理由で問答無用で断られてしまって。修理業者からも時間と手間がかかる、と敬遠されてしまいました。もう自分でやるしかないんだと悟り、試行錯誤しながら修理するようになりました。似たような部品を使ったり、代わりになる部品がないときは自分で手作りしています。廃棄処分されるところを引き取ったラーメンの自販機なんか、最初は鍵も開かなかったんですよ。説明書も何もないので、全部の部品をバラして一から組み直して構造を理解することから始めました。

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苦労したラーメン自販機の内部。ラーメンとスープは別々に入っていて、ボタンを押したらスープが器に注がれる構造

――修理って、どのくらい時間がかかるのでしょうか?

齊藤社長:2週間くらいで直るものが多いですが、長いと3カ月ほどかかります。仕事の合間を縫って作業するのですが、当初は趣味であり利益になっていないわけですから、従業員の視線が痛かったですね。しかも、ラーメンやうどん、そば、トーストサンドは食品自体が既に市場では販売していないものなので、手作りするしかなく……。肩身が狭くて。

料理もレトロなクオリティを再現

――修理から商品づくりまで、全てやらないといけないんですね……。自販機の中に入れる商品が売っていないと分かったとき、諦めようと思いませんでしたか?

齊藤社長:自販機をお店に並べようと思いついた時点で、商品が手に入らないのは分かっていたので、なんとか自分でやろうと考えていましたね。そこで、過去に撮影された動画をインターネットで探して、ハンバーガーやトーストサンドはシンプルにするなど、当時の素朴なスタイルを踏襲したメニューを目指しました。うどんやそばはボタンを押してから25秒しか調理時間がないので、その間に完成形になるように仕上げなくてはいけません。これがけっこう難しいんですよ。

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ラーメンの仕込みの様子。10杯に1杯は当たりの味玉が入っている

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朝は仕込みで大忙し。現在は複数人のパートさんが調理を手がける

――そもそも、中古タイヤのお店なのに飲食部門を立ち上げる発想がすごいです。

齊藤社長実は湯河原で軽食も提供するコンビニを運営していたので、飲食という業態は未経験ではありません。そのため、自販機を並べ始めた頃は湯河原のお店で調理し、運んでくるという方法でした。でも、徐々に売れはじめると、現地(現在の中古タイヤ店)に調理場がなければ供給が追いつかないようになってしまって、今のシステムになりました。飲食店のカウンターで出すのと違うので、保健所から許可をもらうのもかなり難航したんです。当時、神奈川県内で自動販売機から料理を出す前例がなかったそうで、衛生管理の面で保健所とお互い手探りで進めました。いやぁ、あれは大変でしたね。

――お聞きしていると、すごい手間がかかっているように感じるのですが、それで利益が出るのでしょうか?

齊藤社長:いえ、ちょっとしたサービスのつもりで始めましたし、そもそも利益を出そうと考えていませんでした。ただ、やるからには自分が食べたいと思える美味しさのレベルにしたいじゃないですか。出汁を工夫したり、チャーシュー麺はチャーシューを5枚ものせたり、採算度外視でやってますね。そこが喜んでいただけているポイントでもあるので、今さらチャーシューを減らしたりもできなくて。

メディアの効果もあり、ついに収益化

――でも、そうしたサービス精神がお客の心を掴んでいる部分もありそうです。やはり自販機を置いてから、お客さまの流れは変わりましたか?

齊藤社長:初めの頃はタイヤを買いに来るお客さんが楽しみ半分で食べてくれていましたが、しばらくするとレトロ自販機マニアの人が増えました。みなさん高そうなカメラを持ってきて、じっくり撮って帰られるんです。自分もレトロ自販機のファンですけど、はるかにマニアックな方が多いのには驚きました。その後、クチコミもあって知名度も上がったのか、メディアに取り上げていただき、置き始めてから2年くらいでドッとお客さんの数が増えました。やっとそこで、収益化にも成功したんです。

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ランチタイムが近づくと、多くの人が集まる

――ついに……!

齊藤社長:ちょうど外国産の安いタイヤが出始めて、中古タイヤの売上が減少していた時期だったので助かりましたね。

――なるほど。副収入として、売上補填に一役買ったわけですね。今はどんなお客さまが多いんですか?

齊藤社長:時間帯や曜日によって違います。平日の早朝はタクシーの運転手さん、それから出勤前のビジネスマンが朝食を食べに来てくださって、夜は若者が仲間と一緒に。深夜の1、2時は人出を避けてレトロ自販機マニアの方がいらっしゃいます。土日は家族連れが多いですね。

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齊藤さんの後ろにあるレトロゲームも業者から譲り受けたもの

――24時間営業で、自由に飲食できるのはいいですね。接客するスタッフがいないのは、売る側にも買う側にもメリットに感じます。

齊藤社長:コロナ禍で営業していないお店が多い中、屋外でスタッフとやりとりせずに食べられるので、重宝されているみたいです。コンビニと喫茶店の間のような感覚で使っていただいたり、自販機をきっかけにタイヤ交換に来るお客さんもいます。あと、知名度が上がってきた副産物として、自販機の整備会社や修理会社から「古いのがあるんだけど、引き取らないか?」という話が舞い込むようにもなりましたね。

――そんなこともあるんですね。

齊藤社長:以前はネットでの購入がほとんどでしたが、今は業者さんから譲り受けることも増えてきました。業者さんが新しい自販機を納品するときに古い自販機を引き取って、そこにレトロ自販機があったら電話がかかってきます。あとは、お客さんを通してお話をいただいたり。

自然発生的に増えていくレトロ自販機

――すごい。ファンのコミュニティができあがっているんですね。

齊藤社長:おかげさまで自販機が増えてしまって、そろそろ置く場所を考えないと……。と言いつつ、毎日のようにネットオークションで、新たなレトロ自販機がないかパトロールもしています。見つけたら、つい欲しくなっちゃうんですよね。

――今、欲しいレトロ自販機はありますか?

齊藤社長:ついこの前、欲しかったものを買ってしまいました。現在、日本で動いている機械がない、カレーの自販機です。パック形式ではなく、レトルトのルーをご飯にかけた状態で出てきます。なんとか動いて欲しいと、頑張って修理している最中です。

――どんどん引き取って手探りで修理していくのは、レトロ自販機への愛ゆえでしょうか。

齊藤社長:レトロ自販機は絶滅危惧種だと思うんです。新しいものはもう出てこない、今あるものを維持していくしか道はありません。子どもたちがレトロ自販機で喜んでいるのを見たら、できるだけ動く状態でいろいろな人たちに楽しんでもらいたいと使命感を抱くようになりました。機械は稼働させなければダメになってしまうので、修理した自販機を他店に譲ったりもしますよ。

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業者やマニアのお客さまの力もあり、集まったレトロ自販機

――商売というよりもお客さまに喜んでもらう、レトロ自販機を知ってもらうという意志が強いですよね。きっと同じように好きなことでお店を盛り立てたいと考える人が多いと思いますが、アドバイスはありますか?

齊藤社長:当初は、一部の人でもいいから自分の好きなもので楽しんでもらえたらと始めたのですが、運よく広く受け入れてもらえて、ここまで成長しました。商売で好きなことをやるって、すごい情が入っちゃうんです。でも、どっぷり浸かり過ぎず、あくまでどうすればお客さんが喜ぶかを考えていましたね。

――商売は、やはりお客さまありきを原点に展開していくべきなのですね。

齊藤社長:そうですね。お客さんに喜んでいただくためにも、これからもレトロ自販機やレトロゲームをできる限り増やしていきたいですね。

帰り際、再びお店を一周。20代のカップル、小さい子ども連れの夫婦などが訪れ、レトロ自販機の前は笑顔であふれていました。

 

【取材先紹介】
中古タイヤ市場 相模原店
神奈川県相模原市南区下溝2661-1
電話 042-714-5333

取材・文/福井 晶
関西生まれ、東京住まいのフリーライター。町歩きと商店街巡りがライフワークで、純喫茶、居酒屋など古き良き飲食店の取材を手がける。相撲の番付表の貼ってある酒場が好き。

撮影/高橋敬大(TABLEROCK)