【行動科学×習慣】ストレス回避は自分次第!? 「自動思考の暴走抑止」がカギ

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精神論ではなく、行動に焦点を当てて実践する行動科学を店舗運営や接客に活用する方法について、行動科学コンサルタントの冨山真由さんにご指南いただく連載企画。今回は、接客業において切り離せない対人ストレスに注目。日々、笑顔で接客するための「ストレスマネジメント」について話を聞きました。過去の記事は下記からご覧ください。

ストレスをつくり出しているのは自分だった!?

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――そもそも人がストレスを感じるのはなぜでしょうか?

冨山:例えば接客中、お客さまに「いらっしゃいませ」と声を掛けたのに反応がなかったとします。この時、「声を掛けたのに無視された」と認識してストレスを感じるということはよくありますよね。多くの人は、相手や環境が原因でストレスを感じてしまうと思いがちですが、これは大きな間違いです。実際は「声を掛けたが、お客さまから反応がなかった」だけで、お客さまに無視しようという意図はなく、たまたま挨拶の声が聞こえなかっただけかもしれません。それを、無意識のうちに「無視された」とネガティブにとらえてしまうことで、実は自分自身でストレスにつなげています。

このように、無意識で出てくる「自分自身の顕在化されている思考の癖」を、行動科学では「自動思考」といいます

1日約7,500語も、頭の中でネガティブな言葉を発している!

人は頭の中(=脳内)で1日に10,000語ほど発言しており、そのうちの7割以上、約7,500語がネガティブな言葉だといわれています。それくらい、人は無意識にネガティブな感情に陥りやすいのです。

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あなたもどれかに当てはまる!「認知の歪み」10パターン

自動思考が引き起こすネガティブな思考パターンは10種類あり、それを総称して「認知の歪み」といいます。認知の歪みのパターンは生まれた年代、生い立ちや家庭環境、学校教育などの影響を受けて形成されます。 

  1. 全か無か思考 [ All-or-Nothing Thinking ]
  2. 一般化のしすぎ [ Overgeneralization ]
  3. 心のフィルター [ Mental Filter ]
  4. マイナス化思考 (プラスの否定) [ Disqualifying the Positive ]
  5. 結論への飛躍 [ Jumping to Conclusions ]
  6. 拡大解釈 (破滅化)と過小評価 [ Magnification and Minimization ]
  7. 感情的決め付け [ Emotional Reasoning ]
  8. すべき思考 [ Should Statements ]
  9. レッテル貼り [ Labeling and Mislabeling ]
  10. 個人化 [ Personalization ]

この中でも、日本人に多いといわれるのが、「1. 全か無か思考」です。これは、すべてのことにおいて完璧である必要があると考えてしまう完全主義のことで、極端にいえば0か100、少しのミスでもすべてダメと判断してしまうようなタイプです。

また、「2. 一般化のしすぎ」も日本人の多くの人に見られます。これは、ネガティブな出来事があると、その後、すべて良くないことが起こると思い込んでしまい、認知が歪んでしまうこと。例えば、新規のお客さまへ声を掛けて無視された場合、新規のお客さまと関わるのは止めようと思い込んでしまうタイプです。

これら2つ以外にも、ネガティブな思考になる「認知の歪み」は誰もが持っているものであり、同じ出来事に遭遇しても人によって感じ方が異なるのは、人それぞれ持っているパターンが違うため。一つだけではなく、複数持っている人もいます。

POINT:認知の歪みにもジェネレーションギャップがある!

認知の歪みの10パターンは、世代差も大きく影響します。店舗マネージャーとスタッフ間に世代差がある場合は特に要注意。例えば、精神論で育ってきたマネージャー世代が、叱咤激励のつもりで若いスタッフに声を掛けたら、次の日から出勤しなくなってしまったなどが当てはまります。マネジメント層は、認知の歪みが人それぞれ違うことを理解したうえで、スタッフ全員に同じ対応をとるのではなく、一人ひとりに寄り添って細やかに声掛けをする必要があります。それによって、スタッフのストレスが倍増するか減少するか、大きく差がつきます。

 

可視化することがストレスマネジメントの第一歩

――無意識のうちに起きてしまう「認知の歪み」には、どのように対処したらいいのでしょうか?

冨山:多くの人は、ストレスは感情(怒らない、落ち込まないなど)で解決しなければいけないと考えていますが、感情では解決できません。では、どうすればいいかというと「行動」を変えることです。そのためにはまず、自分がどんなときにストレスを感じているのかを知ることが大切です。

以前の私は、バスが時間通りに来ないことにイライラしていました。これは「全か無か思考」によるものであることが後に分かったのですが、この認知の歪みによるストレスが自分でも驚くほど強くありました。このように、人にはそれぞれ「イライラしやすいポイント」「ストレスを感じやすい傾向」が存在します。

また、マネジメントをする立場の方が陥りやすい代表的な3つのパターンを紹介します。それぞれの対策も簡単にお伝えしますので、スタッフを指導する立場の方も参考にしてください。

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マネジメント側が陥りやすい、3つの「認知の歪み」

一つ目は「8. すべき思考」。
お客さまに接するときは「〇〇すべき」と決めつけ、スタッフがその通りに接客しないとイライラしてしまうようなタイプです。

対策|○○すべきと決めつけるのではなく、明確に「言語化」して教えましょう。【環境づくり編】で例に挙げた「お客さまが来店したら1分以内に、コップの8分目まで水を注いでください」のように、具体的な指示を出すことです。

 

二つ目は「9. レッテル貼り」。
△△さんは新人だから、△△さんは女性だから……と色眼鏡で判断し、「○○だから無理だね」「○○だから接客には向いていないね」と勝手に決めつけてしまうようなタイプです。

対策|人格を否定したり変えようしたりはせずに、接客をするうえでの「行動」だけ変えるように指導していきましょう。【コミュニケーション編】で例に挙げた「左斜30度の位置に立ち、上の歯4本が見える口角30度を意識してください」のように、具体的に何をすればいいのか伝えることです。

 

三つ目は「10. 個人化」。
部下やスタッフの失敗を、自分のマネジメント能力が乏しいせいだと自己否定してしまうタイプです。

対策|結果だけに焦点を当てて一喜一憂するのではなく、その失敗につながる原因はなにか? を追求し、具体的な行動に置き換えていきましょう。例えば、売り切れでクレームが起きた場合、「お客さまに対しては完売について謝罪し、次回はスタッフ全員が入荷日を周知できるよう朝礼で共有しよう」と行動の前後に着目して、解決に導くことが大切です。

 

これらはごく一部の例ですが、ストレスと感じる事象には人それぞれ傾向があります。まずは自分がどんなことにイライラするか、ストレスを感じるのかを知ることから始めましょう。

――具体的には、どのような方法でストレスを解消していけばいいのでしょうか?

冨山:まずは、自分がどんなときにイライラするか書き出し、可視化することがとても大切です。先ほどの例のように、「バスが時間通りに来なくてイライラした」とか、シンプルなことで構いません。

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そして、書き出したことを客観的に見て、どうでもいいと思える項目は斜線を引き削除します。分かりやすい例としては「雨が降ると気分がすぐれずイライラする」など。文字にして客観視すると、天気でイライラするのはどうでもいいことだと思えますよね。

次に、客観的に見ても割り切れないものには「×」を付けます。そして、イライラしたときのための実行プロセスを書き出します。

例えば、飲食店での接客中、お客さまから「水、早く持ってきてよ」と言われ、「どうしてそんな横柄な言い方をするんだろう」というストレスを感じたとします。この時、相手の言い方に反応するのではなく、単純に「水を持ってきて欲しいと言われた」という“ありのままの事実”だけを受け止めます。

そのうえで、今後同じことでストレスを感じないために、自分ができる行動も考えます。この場合は、「昼頃はお水を早く欲しがる人が多いから、早めに席を回ろう」と行動に変えてみる。そうすることで、お客さまから横柄な態度で水を頼まれることも少なくなり、結果としてストレスを回避することができるのです。

POINT:気持ちをリセットする「マイルール」の習慣づけを

自分が頑張れそうだと思う行動を決めて習慣づけることで、常にリセットされた状態を保つことができ、本来の姿で臨めるようになります。髪を触る、ポーズをとるなど、スポーツ選手がペナルティーキックやフリースローの前にする行動がありますよね。これらを行うことで気持ちを落ち着かせ、次のアクションに向けて集中させているのです。ネガティブな出来事に遭遇したとき、女性ならメイクをし直し、鏡の自分と目を合わせて「よし」と声に出してみるのもいいでしょう。ストレスを感じても、気持ちをすぐに切り替えられます。

 

ストレスの起因は負のスパイラルから

――すでにあるストレスを減らすだけでなく、ストレスを感じない思考を持つことはできますか?

冨山:過去や未来にとらわれず「今」に向き合うことです。過去と未来は、勝手に認知を歪ませてしまうため、「あの人はあの時○○だったから、今度もそうなるに違いない」と、どんどん自動思考が暴走して負のスパイラルに陥ってしまいます。そうならないために、「今」に向き合うことが大切です。

ありのままの「今」に気持ちを向けることを「マインドフルネス」といいますが、マインドフルネスは意識してなるものではなく、結果として手に入れるものです。マインドフルネスになりたければ、まずは環境を整えておく必要があります。

――マインドフルネスな状態になるためには、どうすればいいでしょうか。

冨山:方法はいろいろありますが、一つは情報を絶つことです。現代はスマートフォンなどでいつでも情報が手に入りますが、多様な情報があることで「今」に向き合えなくなってしまうので、一定時間スマートフォンから離れるのが効果的です。

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私が実践しているのは、ゴールデンタイムと呼ばれる22時以降はスマートフォンから離れ、本を読んだりストレッチしたりすること。スマートフォンを見たいのを我慢するのではなく、スマートフォンに集中を妨げられない、あたらしい自分の時間をつくるというイメージです。

「気付いたら、スマートフォンを触っていなかった」という状態を1日のうちに最初は30分、徐々に1~2時間と伸ばしていくと良いでしょう。

マインドフルネスな状態を手に入れられるようになると、他人に対して寛容な態度で接し、受け入れることができるようになり、ストレス要因の減少にもつながります。

無意識にある「自動思考」をコントロールすることが最大のストレスマネジメント

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接客業に従事する方はストレスがたくさんあると思います。しかし、今感じているストレスは行動によって減らすことができるのです。そのために大切なのは、感情に左右されないこと。ありのままの事実だけを認め、自動思考を抑制することで、ストレスを回避する実行プロセスが見えてきます。

また、日頃からマインドフルネスな状態を手に入れるための環境づくりを意識し、自分の許容量を増やしていくことで、そもそもストレスを感じることがなくなっていくというのも興味深いですね。

完全なストレスフリーを手に入れるのは、もはや禅の域かもしれません。そこまで到達しないまでも、自分の思考パターンを把握して「行動」を見直していくことで、ストレスフルな状態から抜け出しましょう。

 

監修者プロフィール/冨山真由さん
大学で健康行動理論を学んだのち、医療業界にて受診者への行動変容アプローチ指導や予防医療推進のための環境づくりを経て、人材育成の業界へ。日本では数少ない行動科学コンサルタントとして、多店舗展開の飲食店をはじめ大手メーカー、金融サービス業など数多くの企業の新人研修、マネージャー・店長研修に携わる。学術理論に基づき、現場で実践させるために体系化されたオリジナルメソッドに定評あり。
http://mayu-tomiyama.com/

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取材・文/前田実穂
編集ライター、メディアディレクター。原宿カルチャーから社会インフラまで、そしてローティーンからシニアまでとジャンル・世代問わず幅広く経験。飲食と接客が好きすぎて下北沢にてバルを運営(6年目)。実はITOベンチャーのCRM職出身という異色の経歴も。

画像提供/PIXTA(ピクスタ)