料理写真は「光」と「ズーム」!フードフォトのプロが教えるスマホ撮影術

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自分のスマホで料理の写真を撮影し、SNSなどで公開するお店が増えていますが、「写真のクオリティー」はお店の注目度や集客を左右するほど大切な要素です。そこで、フードフォトのプロで写真教室「フェリカスピコ」を運営するカメラマンの佐藤朗さんに、初心者でも実践できるスマホの撮影テクニックを指南いただきました。

【準備 その1仕上がりのビジョンを決めておこう

おいしそうに見える料理写真を撮るためには、事前にどんな写真にしたいか「ビジョン」を決めておく必要があります。雑誌やSNSなどを参考にすると、いいアイデアが思い付くかもしれません。また、「これイイな」と思った写真があれば保存しておき、同じように撮影してみるのもおすすめです。

【準備 その2】料理撮影に必要な道具をチェックしよう

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料理撮影で必要な基本の道具は4つです。

1. スマートフォン
お手持ちのiPhoneもしくはAndroid 。
※今回の取材では、iPhone(8・Ⅺ)とXperiaを使用し、撮影を行いました。

2. レフ板
レフ板とは、光を反射させる道具のことです。レフ板が光を反射することで、被写体の影になっている部分にも光を当てることができます。レフ板を被写体に近づけると影がより明るくなり、離すと濃くなります。

本格的なレフ板は大きいサイズのものが多いため、スケッチブック(白無地で直立できるならOK)などで代用することもできます。

3. 撮影用ライト
料理写真は「光」がとても重要です。自然光が入らない、日中に撮影ができない店舗の場合は、撮影用のライトを用意しましょう。

「ライトは1万円台で購入できるものもあります。高価な機材を選ばなくてもOK。ただ、クリップライトなどではなく、できる限り撮影用のライトにしてください」(佐藤さん)

4. ディフューザー(トレーシングペーパー&ペーパー取り付け器具)
撮影用ライトや直射日光などの光を直接被写体に当てて撮影すると、白飛び(明るい部分が白く写ること)が起こりやすくなります。このような光を「かたい光」といいますが、逆にライトと被写体の間に、フィルターのような役割のトレーシングペーパーを使用することで、「やわらかい光」になります。

この「やわらかい光」をつくるための道具をディフューザーと呼びます。白色で光を透過する素材ならば、100円ショップなどで入手できる障子紙や半透明のゴミ袋などでも代用可能。ペーパーなどを取り付ける器具は、新型コロナ感染対策で利用されているアクリル板などを使用するといいでしょう。

【レクチャー1 / 光を知る 】撮影の向きについて知ろう

道具の配置の基本は、以下の並び順になるようにセッティングしていきます。

1)撮影用ライトと、その前にディフューザー

2)料理(被写体)

3)ライトと平行の位置にレフ板

4)部屋の照明を消す

撮影用のライトは、料理をどう見せたいかによって置く位置が変わります。ここでは、料理撮影でよく使われる2つの光の向きを紹介します。

■ツヤ感を出したい場合は「斜め逆光(半逆光)」

逆光とは、被写体の後ろから光を当てること。真正面の逆光で撮ると乱反射しやすいので、少しずらして「斜め逆光」の位置で撮るといいでしょう。料理のキラッとしたツヤ感が表現できます。

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斜め逆光が向いているメニュー例)
ソースがかかったステーキやパスタ、みずみずしいフルーツなど。「照り」「ツヤ」といった特徴がある料理

■ツヤを抑えて立体感を出したい場合は「サイド光」

サイド光とは、被写体の真横から光を当てることです。カメラに対してライトを右か左に置くことで、表面のツヤは抑えられ、立体的に写すことができます。レフ板は、ライトと向かい合うように配置しましょう。

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サイド光が向いているメニュー例)
パンや焼き菓子などの表面にツヤのない料理。スープなどの汁物やドリンク系

レクチャー2 カメラを知る】スマホカメラの3つの撮影テクを覚えよ

スマホ撮影における、3つのポイントをおさえておきましょう。

1.ズーム機能を利用し、倍率は「2.5」

スマホのメインレンズの仕様は、一般のカメラでいう「広角」レンズです。実は、この広角レンズが料理撮影ではデメリットになります。幅広いテーブルや撮影台が必要なうえ、奥が広がったりゆがんで写ったりします。しかし、カメラでいう「望遠」の役割を果たす「ズーム機能」を使うことで、デメリットが解消されます。

例えるなら、望遠レンズは真っ直ぐな筒状の棒で被写体を見るのに対し、広角レンズはメガホンなど円錐の棒で見るイメージです。料理写真はズーム機能で撮ったほうが正しい形に撮れるため、ズームをしたときに出てくる数値を「2.5」(2.5を選択できない場合は近い数値、またはスライドバーの中央辺り)に合わせましょう。

アップで撮りたい場合は、ズーム倍率「2.5」は動かさず、カメラの位置(スマホ)を前後に移動させましょう。「2.5より数値を上げればいいのでは?」と疑問に思うかもしれませんが、この数値が写真のクオリティーギリギリで、数値を上げ過ぎると画質が悪くなります。料理写真は、画質の良さも重要なポイントです。

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iPhoneⅪとXperiaはピンチアウト(ズーム)することで数値が現れる

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iPhone8はスライドバーで調整。バーの中央辺りが「2.5」に値する

2.露出を変更して、明るさを調整

露出とは、撮影するときに取り込まれる光の量のこと。画面をタップすると現れる「太陽マーク」が露出の調整機能で、スライドバーを上へスライドすることで明るくなります。

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撮影用のライトを使用しても、逆光で撮ると暗く写ることが多いので、明るめに調整する方が色鮮やかに仕上がる
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Xperiaはマニュアルモードから露出のほか、ホワイトバランスなどの変更も可能。料理撮影のときのホワイトバランスは「曇天」がおすすめ

3.カメラの位置が決まったら、自分は動かず料理を動かす

料理を違う角度から撮りたいとき、思わずカメラ(スマホ)の向きを変えたり、自身が移動してアングルを変えがちですがそれはNG。なぜなら、カメラが移動することで光の向きが変わってしまうからです。料理をクローズアップさせるときはスマホを前後に動かして対応しますが、光の方向は狙った位置から変わらないようにします。料理撮影は光が大切。カメラの位置は極力そのままで、お皿を回転させて向きを変えるなど料理を動かしましょう。

LESSON実際に撮って、見比べてみよう

いよいよ実践編です。ここでは取材スタッフがレクチャー前に撮った写真「Before」と、レクチャーの内容を実践した写真「After」(佐藤さん撮影)を掲載しています。

また、4つの料理はそれぞれに課題があり、「ツヤ感」「アングル」「立体感」「清涼感」などを意識して撮影しています。自分のお店のメニューならどこを意識するか、どのように撮影したら良いか、参考にしてみてください。

※撮影に使用した機種はすべてXperiaです。

FOOD PHOTO 1:オムライス

Before]白い皿が変色!温かみのないフードフォトに

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撮影環境/光:室内照明 ズーム倍率:未設定 レフ板:なし

室内照明をつけ、ズーム機能を一切使わずに撮影しました。オート機能により全体的に青みが出てしまい冷たい印象に……。天井の室内照明から光が注ぐため、撮影者の影もお皿に落ちています。

After]ツヤ感を出すため、斜め逆光で撮影

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撮影環境/光:撮影用ライト(斜め逆光) ズーム倍率:「2.5」 レフ板:あり

乳白色の皿の色がしっかりと表現されているうえ、卵やケチャップのツヤ感も出ています。ズーム倍率は2.5倍の固定のまま、カメラを少し近づけて皿が構図から切れるくらいクローズアップして撮ることで、存在感のある写真になりました。

FOOD PHOTO2:和定食

Before]長方形のお盆が台形に⁉︎

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撮影環境/光:室内照明 ズーム倍率:「1」 レフ板:なし

ズーム倍率「2.5」にしていないため、広角の状態で撮影。お盆に極端な遠近感がつき奥が小さくなり、さらにアングルも悪く、メイン料理である魚がみそ汁に隠れてしまいました。小鉢のきんぴらも暗くてよく見えません‥‥‥。

After1]それぞれの料理に焦点を当てる

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撮影環境/光:撮影用ライト(サイド光) ズーム倍率:「2.5」 レフ板:あり

光の向きをサイド光にして撮影。汁物の表面は反射せず、ご飯や魚も立体感がある写真に仕上がりました。また、ズーム倍率を「2.5」にすることで、お盆の奥が小さく見える遠近感も軽減されています。

手前に背の高いお椀が配置される定食などは、Before写真のように、メイン料理が見えなくなってしまうことがあります。メイン料理がしっかりと見えること、その他の料理も皿や器のサイズ感が実際のものと違わないかなど、写真を見る人にしっかり情報が伝わるように、カメラアングルを調整しながら撮ることが大切です。

After2]真上から撮影すると、料理が一目瞭然

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撮影環境/光:撮影用ライト(サイド光) ズーム倍率:「2.5」 レフ板:あり

真上から撮った写真です。魚のサイズ感がよく分かります。

お椀や汁物の器の深さを考慮して、光が入るようにライトの高さを少し上げて撮影しました。ズーム倍率は「2.5」のままで撮るため、必要に応じて椅子や台などに乗り、被写体までの距離を調節しながら撮るのがポイントです。

After3]メインを手前に配置してもOK

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撮影環境/光:撮影用ライト(サイド光) ズーム倍率:「2.5」 レフ板:あり

和食の場合、配膳のルールがありメイン料理は後ろに置きますが、よりおいしく見せたい、強調したければ手前に配置してもいいでしょう。奥に背の低い魚を置くと、せっかくのメイン料理が暗くなりがちです。メニュー表に掲載する写真と配膳は別と考えるのも一つの手法です。

After4]お盆を使わず、料理をクローズアップ

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撮影環境/光:撮影用ライト(斜め逆光) ズーム倍率:「2.5」 レフ板:あり

お盆を使わずに、メイン料理をクローズアップさせて撮影すると、まさしく今、料理が提供されてきたような臨場感のある写真に仕上がります。お皿や器は少し斜めに配置するのがポイント。また、斜め逆光で撮ることで、魚のたれの持つ照りやボリューム感が演出できました。

FOOD PHOTO 3:パン

Before]真ん中に置いたつもりが、撮影したら奥に見える!

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撮影環境/光:室内照明+自然光 ズーム倍率:「1」 レフ板:なし

室内照明と自然光が混ざり合い、お皿もパンも色味が実際のものと異なるように見えます。ズーム機能を使わずに広角で撮影したため、遠近感の強調された間延びした仕上がりになってしまいました。

After]パンはアップ気味に。サイド光で質感を

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撮影環境/光:撮影用ライト(サイド光) ズーム倍率:「2.5」 レフ板:なし

パンや焼き菓子のようにツヤ感が不要な食材は、サイド光で撮影しみてください。焦げ目があるパンの場合は、レフ板を使わずに影を色濃くさせて焦げ目を強調してもいいでしょう。テーブルや背景を白系に統一することで、フランスパンの持つ茶色くこんがりとした焼き色がさらに際立ちます。

After – Exception]雰囲気のあるシックな演出もおすすめ

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撮影環境/光:撮影用ライト(サイド光) ズーム倍率:「2.5」 レフ板:なし

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取材時は、露出「-1.3」で撮影し、色補正でやや温かみある色味に調整しました

パンや焼き菓子などにおすすめの撮影テクニックです。シックな雰囲気の写真を撮るときは、下地やお皿を濃い色味のテーブルクロスやお皿(光沢があるものよりマットな質感がベター)を用意します。光の向きはサイド光にして露出を下げ、レフ板はあえて使いません。

テーブルクロスやランチョンマットなどは少しラフにセットし、その上にお皿を配置するとプロが撮影したような写真に仕上がります。

FOOD PHOTO 4:ドリンク

Before]映えず、フルーツの華やかさも炭酸のシュワシュワ感も×

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撮影環境/光:室内照明 ズーム倍率:「1」 レフ板:なし

室内照明で撮ったため、フルーツソーダならではの気泡(シュワシュワ感)と、フルーツのみずみずしさが皆無な写真に……。グラスの高さがあるため広角で引き気味で撮ったところ、見せたくない背景がしっかりと写り込んでしまいました。

After1]透けるドリンクは、逆光で透明感を出そう!

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撮影環境/光:撮影用ライト(斜め逆光) ズーム倍率:「2.5」 レフ板:あり

フルーツソーダのように、背の高い透明グラスを使うドリンクは、光の向きは基本、斜め逆光が◎。そうすることで透明感のほか、気泡やフルーツの色味を際立たせることができます。透明感ではなく、上部の液面をはっきり見せるときは、反射しすぎないサイド光で撮ってみましょう。

今回は、よりみずみずしさを演出するため、撮影時の露出は明るめにしました。そして撮影後、保存した写真を色調補正にて、彩度を少し上げて仕上げています。また、グラスを構図のど真ん中に置いて撮ると、証明写真のような見え方になってしまうので、左右どちらかに寄せて撮影するだけでも上級者っぽく見えます。

After2]背景込みで撮るなら、サイド光でもOK

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撮影環境/光:撮影用ライト(サイド光) ズーム倍率:「2.5」 レフ板:あり

撮影用に背景を用意したり、お店の壁を使ったりする場合は、光の向きはサイド光が適しています。レフ板を被写体に近づけてみると、よりみずみずしい仕上がりになります。

撮影用の背景や板が無いときは、布や模造紙などを利用してもOK。ドリンクのイメージに合う色を準備し、撮影にトライしみてください。

LESSON COMPLETEメニュー表で仕上がりを比較してみよう

取材スタッフが簡易でメニュー表を作成してみました。レクチャー前と後の写真では、メニュー表の印象が変わって見えませんか?もしメニュー表がSNSやHPにアップされていたら、あなたはどちらのお店に行ってみようと思いますか?

写真の出来映えやちょっとしたデザインの違いで、お店の印象を左右するといっても過言ではないかもしれません。

レクチャー前の写真を入れたメニュー表

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レクチャー後の写真を入れたメニュー表

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【おわりに】おいしそうな写真はコツをつかめば簡単に撮れる

同じ料理でも、撮り方次第で印象はガラリと変わります。以下の点に気を付けて撮影することで、HPやSNSの反響が変わってくるかもしれません。

  • 室内照明は消す。無理な場合は撮影場所の真上の照明だけでも消灯!
  • 自然光が望めない店舗は、撮影用ライトを用意
  • ツヤ感を出したいときは「斜め逆光」、出したくないときは「サイド光」
  • スマホのズーム倍率は「2.5」の望遠。被写体との距離を調整するときは、ズーム機能ではなくカメラ(スマホ)本体で行う
  • 光の方向が決まってから被写体の見せ方を変える場合、自分は動かず、皿を動かす
  • より伝わる写真を目指すなら、道具(ライト、食器、テーブルクロス、壁紙など)にも気を配る

「お店の料理撮影はお客さまのために――。一品一品、愛情を持って撮ってください。撮り方のコツさえ分かれば、スマホ撮影初心者でも上手に撮れるので、ぜひ試してみてください!」(佐藤さん)

 

写真・監修者プロフィール/佐藤朗さん

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日本大学芸術学部卒業後、2003年に独立。広告、書籍、雑誌、web、などで撮影活動中。2011年に、フードフォト専門の写真教室「フェリカスピコ」を設立し、約7000人の受講者がいる。著書に「もっとおいしく撮れる!お料理写真10のコツ」(青春出版)、「おいしいかわいい料理写真の撮り方」(イカロス出版)がある。FUJIFILM Academy X講師。
http://www.felica-spico.com
https://ak-sato.myportfolio.com

取材・文/夏野久万
宝石店販売員や大手求人広告代理店の営業兼原稿執筆を経て、出版社や制作会社にてライター・コピーライターとして勤務。現在はフリーライターとして活動している。恋愛記事からビジネス系まで、幅広く対応。インタビュー・取材記事のほか、エッセイ、コラムなども執筆している。