ローカルdeチェーン/「JTRRD」行列の秘密はあくなき向上心!

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オフィスが林立する大阪・天満橋の一角に、行列の絶えないお店「JTRRD(ジェイティード)」があります。人々の目当ては、まるでアート作品のようなスムージー。

盛り付けが“映える”とSNSを中心に話題となり、現在は関西を中心に8店舗(フランチャイズ店含む)を展開しています。どのような出店戦略があるのか、なぜリピート客が絶えないのか、オーナーの浦本学さんとフードアートプロデューサーの田村智美さんに話を伺いました。

最初はショップ兼コーヒー店だった⁉︎ 「JTRRD」誕生秘話

オーナーの浦本さんは、実は天満橋のお店近くで治療院を営む柔道整復師です。

「スポーツトレーナーを経て柔道整復師の資格を取得し、2012年に整骨院を開院しました。資格を取るきっかけになったのが、テコンドーの元オリンピックメダリストの岡本依子さんとの出会いです。トレーナーとして、北京オリンピックの直前合宿をしていた韓国へ帯同したときに、怪我に関する知識が不足していると実感し、国家資格である柔道整復師の資格取得を決意しました」

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株式会社JTRRD cafe 代表取締役 浦本学さん。「スポーツドリーム」院長としても活躍

「たくさんのアスリートを治療しながら『オリンピック金メダリストの治療やケアができる自分になる』ことを目標にしていましたが、嬉しいことにその夢を叶えることができたんです。日本の国技、柔道でオリンピック3連覇を果たした金メダリストの野村忠宏さんです。野村さんが現役を引退する前の約3年間、治療やケアなどに関してサポートさせていただきました。野村さんの競技に向き合う姿勢はすごくストイックで、自分自身も全力で日々、野村さんに向き合い取り組んでいました。

野村さんの引退と同時に、それまで張りつめていた心の糸がプツリと切れてしまって……。そんな時に治療院の近くのカフェが退去するという告知を見つけて。その跡地でコーヒー店をやってみたいと思い、すぐにビルのオーナーに電話しました」

「自分もコーヒーが好きで、患者さんが立ち寄れるコーヒー店をつくりたい」と思い立った浦本さんが、店舗運営を担うスタッフとして声を掛けたのが田村さんでした。

「田村は芸術系の大学で学び、当時、ハンドメイドのバッグを友人などに販売していました。良い意味ですごく独特の世界観があって(笑)。田村の作品を販売するショップとコーヒー店を併設したお店をお願いすることにしました」

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田村智美さん。母親がフラワーアレンジメントに従事し、幼少の頃から芸術を親しむ環境だったそう。店名「JTRRD」は、田村さんの愛犬5匹の頭文字に由来する

2016年の終わり頃に告知を見つけ、2017年2月には「JTRRD」をオープン。しかし、アートスムージーは当初のメニューにはありませんでした。

目指すは「女性にも喜ばれる店」。五感に響くアートスムージーで人気爆発

ショップ兼コーヒー店として始まった「JTRRD」ですが、田村さんが目指す方向性とはほど遠い状況だったと振り返ります。

「オフィス街という土地柄もあり、オープン当初は中高年の男性のお客さまが中心で、コーヒーが目当ての方ばかりでした。私の作品は女性がターゲットだったので、お店のコンセプトとターゲットでミスマッチが起こっていましたね。そこで、なんとか女性客を呼び込みたいと思い、考えたメニューがスムージーでした」

フルーツにヨーグルト、さらに美容に関心の高い女性の間で話題になっていたスーパーフード(チアシード)を組み合わせたスムージーは、田村さん独自の感性が光るものでした。

「美と健康、そして“色”をテーマに考案しました。街の景色を見たり、洋服選びをするときって色を意識するし、色彩を楽しんだりしますよね。食べ物でも色を意識すると、きっと面白いと思ったんです。

現在はアレルギーの兼ね合いで材料を明記したメニュー表になっていますが、最初の頃は色彩だけを楽しんでもらいたくて、赤・紫・ピンク・オレンジ・黄色・緑の6 色とグラスのサイズしかメニューに載せていませんでした」

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メニュー追加時は、現在のような完成されたデザインとは異なり、田村さんがその場で創作していた

着色料を一切使わず、素材そのものの色で鮮やかな色合いを再現。さらに、表面に絵を描くことで、色というテーマはさらにアートへと進化していきます。

「メニューに追加したばかりの頃は、今のようにスムージーの表面にアートは施していませんでした。ただ、コーヒーを提供していたので、ラテアートとして表面に絵を描くタイプのものを常連のお客さまにお出ししていたのです。ある時、“これはスムージーでもできる!”とひらめいたんです」

田村さんの狙いどおり、アートスムージーは多くの女性客を魅了しました。その評判はInstagramを中心に広がり、大手メディアにも次々と取り上げられるようになり、オープン3カ月目にして大行列店の仲間入りを果たしました。

「女性客が増えたのは嬉しかったのですが、スムージーの知名度が上がりすぎてハンドメイド作品が全然売れなくなってしまいました(笑)。途切れない行列を見て、これまでのハンドメイドと同じく、スムージーも自分の作品だと気持ちを切り替えました」

週末には1時間以上待ちの長い列ができます。オープンから数年を経た現在は、オペレーションにも工夫を重ね、待ち時間にオーダーを受け、席に着くと同時にスムージーを提供するなどの配慮がなされています。

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店外でも積極的に声を掛けるなど、おもてなしの接客が垣間見られた

「接客や店の雰囲気づくりも大切にしています。長い時間並んでお店に来てくださるお客さまに、最初から最後まで楽しい気持ちで過ごしていただきたいですね。それが『また来たい』という動機づけにもつながると思っています」

あえてローカルチェーン。フランチャイズ展開で得た気付き

浦本さんは、本店が軌道に乗ったことを機に、オープン翌年の2018年からフランチャイズ展開することを決断しました。すると、国内はもちろん海外からも希望者が殺到しました。

「ヒット商品を生み出せる機会ってそんなにないと思うんです。アートスムージーは明らかな大ヒットでした。機を逃さず、攻めの姿勢で進まなければと思いました」

また、同年には直営の洋菓子専門店もオープンし、大阪市内の繁華街や百貨店への出店も果たします。

「飲食店は浮き沈みの激しいビジネスです。アートスムージーだけではなく、他の柱となる業態も必要だと考えました。洋菓子店ではパティシエの児島を迎えたことで、カフェメニューの技術的な相談もできるようになったのは大きかったですね」

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「フランチャイズへの挑戦は得るものが大きかった」と語る浦本さん

現在は関西、福岡、ハワイと展開していますが、意外にも関東方面への出店はなし。そこにはJTRRDならではの事情があるようです。

「首都圏からもオファーがあったのですが、コスト面が折り合いませんでした。スタッフは3カ月以上、スムージーづくりなどの研修を受けてもらう必要があります。研修中にかかるコストや滞在費は、出店される方にとってリスクの伴う初期投資です。この条件をクリアしたオーナーだけが、今も営業を続けてくれています」

折り合いがつかず、短期間でクローズとなったフランチャイズ店舗もあったといいます。

「フランチャイズは全てをきちんとマニュアル化するイメージがありますが、私自身はそこまで画一的にしなくていいのではないかと思っていました。ただ、いざスタートしてみると店づくりや運営面で、こちらの意図しない進め方をされることもありましたね。ロゴの扱い方とか接客の仕方とか、今思うと『こうしておけば良かった』と思うことは多々あります。

飲食業の難しさも実感しましたが、それは悪いことではありません。スポーツもビジネスも、実際にやってみて初めて分かることが多く、フランチャイズに挑戦したことで、ノウハウも蓄積できました」

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表面の絵は全てスムージーで描かれ、フルーツの配置や角度、全体の構図も計算しつくされている。習得が早い人でも半年はかかるという研修を乗り越え、テストに合格したスタッフだけがお客に提供できる

現在は新規募集に区切りをつけ、ローカルチェーンとして目の届く範囲で各店のブラッシュアップを図っています。

「大阪市内の直営店には毎日足を運び、各店舗スタッフと顔を合わせるようにしています。フランチャイズ店で扱う商品の受発注を受け付けるのも私の仕事です。数字を見るだけではコミュニケーションが疎かになってしまうので、経営者として、現場の声に耳を傾ける機会はできるだけ増やしたいと考えています」

底知れぬチャレンジ精神で道を切り拓く!

アートスムージーというヒット商品を生み出し、短期間で店舗を拡大した「JTRRD」。その偉大すぎるヒット商品により、思いもよらぬ悩みが出てきたと田村さんはいいます。

「アートスムージーの印象があまりにも強すぎて、他のヒット商品が生まれないことが課題でした。新メニューを打ち出しても、スムージーの前では霞んでしまうんです。コロナ禍の影響で休業したとき、時間に余裕ができて、今だからこそやりたいことに挑戦しようと、念願だったパフェをメニューに加えることにしたんです。美しいだけでは今まで同様、アートスムージーに負けてしまう——。そこで思いついたのがマシュマロ製のトッピング”きゅんベア”でした」

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パフェに自由にトッピングできる「きゅんベア」。写真はクリスマス限定デザイン

パフェの上にトッピングされたキュートなマシュマロ製のクマは、瞬く間にSNS上で拡散され、コロナ禍でも客足が戻り、アートスムージーに並ぶヒットメニューとなりました。

「長年ヒット商品を生み出したいと思っていたので、“勝った!”とガッツポーズでした(笑)。それまでのお客さまだけではなく、今まで当店を知らなかった方やお子さまにも喜んでいただけたのも嬉しかったです」

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大ヒットを飛ばしたからこその苦労を語る田村さん。苦しいときにあえて挑戦したことが客足の回復につながった。ハワイ店のマスコットベアと「きゅんベアも一緒に!」と田村さんワールドでワンショット!

一方、浦本さんは2021年夏にオンラインショップをオープン。サイト制作から商品開発、店舗運営までを一手に担っています。

オンラインショップでは、自宅で楽しめるスムージーを販売するほか、大手音楽イベントや有名アーティストとのコラボ商品が注目を集めています。

「情勢に左右されない店がほしいと思い、オンラインショップに着手しました。まずは『JTRRD』という存在を知ってもらいたい。そのために企業やアーティストとのコラボ商品は重要だと考えています。

コラボの実現にはこれまでに培った人とのつながりを生かしていますが、JTRRDに来てくださった多くのお客さまのおかげで、ビジネスパートナーとしての信頼が得られていると思っています」

オンラインショップでは、今後も季節に合わせたコラボ商品を随時展開する予定だそうです。その先に、さらにチャレンジしたいことがあると浦本さん。

「既存の店舗の売上を安定的に確保できたら、次はもっと大きな店舗を作りたいですね。カフェと洋菓子店を融合し、席数も増やしたい。今はそのための地盤固めの時期です」

JTRRDのあくなきチャレンジは今後もまだまだ続きそうです。

【取材先紹介】
JTRRD 本店
大阪市北区天満3-4-5 タツタビル1F
電話 06-6882-4835
http://jtrrd.com
https://jtrrdcafe.stores.jp/

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取材・文/油井やすこ
京都郊外在住のフリーライター。奈良のフリーペーパーの編集・ライターを経て、2013年ごろよりフリーになり、紙・WEBの種別を問わず取材・執筆活動を行う。関西圏の街ネタやグルメ情報のほか、ローカルで活躍する人物インタビューも手がける。
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https://twitter.com/aburaisan

撮影/サダマツヨシハル
京都生まれ・京都在住のフリーカメラマン。京都の四季景を撮り続けていますが、ブログは最近サボり気味。

京都ブログ『その先の京都へ…』http://d.hatena.ne.jp/narutakiso/