「茶割」オーナー・多治見智高さんの「通いたくなる店」と店づくりのポイント

「茶割」オーナー・多治見智高さんの「通いたくなる店」と店作りのポイント

飲食店を経営する上で、足繁く通ってくれる“おなじみ”の存在はとても大切です。

しかし、"おなじみ" つまり常連客は一朝一夕で増えるわけではありません。

「初めてのお客さん」に、2回目、3回目……と足を運んでもらうためにはどんな工夫が必要なのでしょうか。料理、接客、雰囲気などさまざまな要素がありますが、どうすれば「通いたくなるお店」をつくれるのでしょうか。

今回は、お茶割り専門店というユニークな業態のお店「茶割」経営者でもあり、自身も数多くのお店に常連として通っている多治見智高さんにお話を伺いました。

インタビューは、多治見さんが手掛ける「茶割 目黒」にて行いました。

※取材は、新型コロナウイルス感染対策を講じた上で実施しました

多治見さんが「何度も通いたい」と思うお店

―― まずは多治見さんにとって「何度も通いたい」と思うお店についてお伺いします。事前にお伺いしていましたが、本当にたくさんのお店を挙げていただいて驚きました。何度も通ってしまうお店には、どんな特徴があるのでしょうか?

茶割オーナーの多治見智高さん

多治見さん:大きく2つが挙げられますね。1つは「そこでしか食べられないもの、飲めないものがある」こと。もう1つは「話したい店主がいる」ことです。もちろん、2つとも兼ね備えているお店も多くあります。

―― それぞれについて詳しく教えてください。

多治見さん:まず1つ目の「そこでしか食べられないもの、飲めないもの」があるお店は、例えば「上海小吃(シャンハイシャオツー)(東京・新宿)。もう14年ほど通っているお店ですね。今でこそ「ガチ中華」ブームがやってきましたが、ここは昔から本場の中国料理が楽しめます。「香菜拌干絲 (シャンツァイバンカンス)【豆腐の細切り】」というメニューも、以前は上海小吃でしか見たことがなくて、必ず注文していました。

「焼肉北京」(神奈川・平間)もすごいお店です。「注文は最初の1回だけ」とか、ローカルルールがたくさんあって最初は困惑するんですが、価格帯を考えるとありえないくらい良質な肉が食べられるので、つい通ってしまいます。

―― では、2つ目の「話したい店主がいる」のはどんなお店でしょうか。

多治見さん:「はるかなるカレー」(東京・銀座)は、テレビ番組『ザ・ノンフィクション』で特集もされた店主がいるお店です。すごい飲兵衛な女性店主で、お店の人というよりも友だちですね。店主がマイペースなので、カレー屋さんなのにカレーがなかなか出てこないとか、いろいろ変わったお店なのですが、そういうところも全部含めて愛おしい(笑)。

それから、ジャズバーの「ロックインディア」(東京・阿佐ヶ谷)。ジャズバーなのに「ロック」という時点でもうめちゃくちゃですが(笑)。とんでもないジャズオタクの店主と話したくて、通っています。

―― 「話したい店主」にもいろいろなタイプがいらっしゃいますね。

茶割オーナーの多治見智高さん

多治見さん:確かに、タイプはさまざまですね。「話したい店主」にも2種類あるんだと思います。こだわりが強くてオタクタイプの店主の話って、聞いていて面白いんですよ。何か刺激を受けたい時にそういう人の話を聞きたくなる。

逆に、話していて楽しいとか、落ち着くとか、そういうタイプの店主に会いたい時もあって、それは癒やされたい時なのかなと思います。刺激を得たいのか、癒やされたいのか、その時の気分で行くお店を選んでいますね。

―― 「そこでしか食べられないもの、飲めないものがある」「話したい店主がいる」お店に通いたくなるのは非常に納得感がありました。ただ、他のお店ではなかなかマネしにくいかもしれません。

多治見さん:そうですね、それはまさに茶割でも工夫しているポイントなので後ほど詳しくお話しますが……「2度目以降の来店で、お店の方が覚えてくれている!」と感じるのも、通いたくなる要素の1つといえそうです。

例えば、「ランチハウス」(東京・江古田)というお店にも20年近く通っています。いたって普通の学生街の洋定食店なのですが、ご夫婦がお二人で経営していて、とても心地よいお店なんです。今は年に1~2回通うくらいですが、ずっと覚えてくださっていますね。

最近だと、昨年見つけた「ケララキッチン」(神奈川・新丸子)もですね。ここのビリヤニが本当にすごくて何度も通っているのですが、2回目以降の来店で覚えてくださって、とても良くしてもらっています。

もちろん、味もすばらしいのですが、それだけでなく「2度目以降の来店時に覚えてくれている」ことが大きいですね。これは属人性に頼れない企業運営の飲食店であっても十分に施策として落とし込むことが可能な要素だと思います。

伝票に書くからと名前を聞かれて、次回行ったときに「あ、多治見さん!」と声かけてくれるお店もけっこうあって、それはやっぱり2回目以降のお客さんを意識しているのかなと。覚えてもらえていると悪い気はしないですよね。

「茶割」では、一貫してターゲットに合わせたお店づくりをしている

―― 多治見さんがお客さんとして通いたくなるお店について伺ってきましたが、ここからは、多治見さんの経営する「茶割」について教えてください。まず、茶割はお茶割り専門店というユニークなコンセプトですよね。まさに「そこでしか食べられないもの、飲めないものがある」お店だと思いました。

多治見さん:お茶割りという飲み物をハイボールやレモンサワーのようなメジャーな飲み物にすることを目標にしています。茶割でお茶割りを好きになってくださったお客さまも多く、他のお店でも飲むようになったという方もいます。お茶割りを“ネクストハイボール”にするべく、発信を続けています。

茶割オーナーの多治見智高さん

―― 茶割のお客さんはどんな層が多いのでしょう。

多治見さん:開店当初から、これまで大衆酒場に入りにくかった人たち、具体的にいうと若い女性をターゲット層として想定していました。実際に茶割目黒のお客さまは8割近くが20~30代の女性です。

―― まさに想定通りですね。なぜ、そんなにうまく狙いがハマったのでしょうか。

多治見さん:きちんとターゲット層に響くようなお店づくりをしているからだと思います。誰に何をどう届けるか? という話で、新しくお店を出すときは必ず「誰に来てほしいのか?」を考えてペルソナ*1をつくります。すると、内装にせよメニューにせよ、判断の基準ができてくるんですよ。

例えば、コの字カウンター自体は昔ながらの酒場にもありますが、茶割目黒ではよりスタイリッシュな見た目にしています。この方が、ターゲットの若い女性が抵抗なく座れるから。

カウンター以外の内装にもかなり力を入れていて、受賞歴も多数ある敏腕建築家にデザインしていただきました。この価格帯の飲食店をつくるのに、このクラスのデザイナーにお願いすることは稀だと思います。

茶割目黒の内装

ハード面だけでなく、ソフト面でもターゲットを考えて工夫していますね。例えば、お店のInstagramでは開店当初から、女性モデルがお茶割りを飲んでいる写真を「#ochawariportrait」として掲載し続けています。投稿を見た方に、「茶割は若い女性がお茶割りを飲むお店なんだな」と思ってもらいたいからです。

―― 茶割のInstagramを拝見したのですが、写真のクオリティーが非常に高いですよね。

多治見さん:そうですね。それもターゲットに合わせています。口コミサイトよりもSNSに注力した方がいいだろうと判断して、プロのフォトグラファーさんに写真をお願いしていました。

お店から発信する情報以外にもいろいろ工夫はありまして。若い世代はSNSを使って情報を発信・共有しているので、それを前提に写真映えするグラスを作ったり、お客さまの投稿に「いいね」やコメントをしたり、お店のストーリーでシェアしたり……。来店のきっかけは実際、Instagramが多いですね。

写真映えも抜群な「茶割」のお茶割りたち

写真映え抜群な「茶割」のお茶割り。10種類のお茶×10種類のお酒で100通りのお茶割りを提供している(写真は左から「炭酸紅茶×ブランデー」「青いさんぴん茶×泡盛」「ふくみどり×ジン」)

―― お店の内装、SNSでの発信……最初に定めたターゲットからブレず、全て一貫していますね。

多治見さん:それから注文方法も若い世代のお客さまに合わせています。テーブルに置いてあるQRコードからLINE公式アカウントを友だち追加してもらい、LINEのトーク画面でメニューを見ていただいて、注文する際はスタッフにお声がけいただくというスタイルです。

茶割目黒店では、テーブルに置いてあるQRコードを読み込むとLINEの「友だち登録」画面に遷移する

テーブルに置いてあるQRコードを読み込むとLINEの友だち追加画面に遷移する

―― LINEの画面を実際に見ているのですが……めちゃくちゃ使いこなしている印象を受けました。

多治見さん:コロナ禍ですから、前の人が触った紙のメニューを触るのは嫌だと感じるお客さまもいらっしゃるかなと思って導入しました。実際にLINEで何か配信しているわけではないのですが、こうしてつながりを持っていれば今後役立つかもしれないという狙いもあります。幸い、ブロック率も高くありません。

LINEのトーク画面でメニューを閲覧できる

LINEのトーク画面でメニューを閲覧できる

それと、年齢層や性別など実際に来店してくださったお客さまのデータが取得できるのは大きいですね。このデータと照らし合わせても、狙っていたターゲット層に来店してもらえていることが分かります。

―― POSレジなどでも客層の把握はできますが、より正確なデータが取れそうです。

多治見さん:LINEの仕組みを導入したことで、「LINEでメニューを閲覧するのに抵抗のない層」がお客さまになってくださっているんですよね。お客さまの層を絞り込む効果もあったなと。一種の「ふるい」として機能しているんです。

それから、この注文方法は来店頻度を把握するためのツールにもなっています。初来店の方には最初から説明する必要がありますが、2度目以降の方には「前に追加いただいたLINEから……」と、何度も来てくださる方には説明不要といった具合で、3段階くらいに接客方法を分けることができるんですよ。それぞれに対して、どういうコミュニケーションを取るか? を判断して対応することができます。

属人性に頼らず、コミュニケーションを発生させるための仕掛け

―― ひとつひとつの仕掛けの狙いが非常に明快ですね。茶割目黒の常連さんも、やはり若い女性層なのでしょうか?

多治見さん:ここまで話しておいて何ですが、そもそも「常連さん」の定義自体がかなり難しいと思います。数日に1回レベルでいらっしゃる方を指すのか、毎月1~2回いらっしゃる方も含めるのか。あるいは、店に関係なく元から友達で顔も名前も知っている人や、反対に店で知り合ったがプライベートでも遊びに行くようになった人も含めるのか。

毎晩来てくださるような方を指すとすれば、若い女性もゼロではないのですが、全体の来客に比べると年配の男性の割合が高まります。それはこの年代の方がお酒をよく飲むからだと思っています。対して、若い女性はそこまで日常的にはお酒を飲まない場合が多いので、「毎晩やってくる常連さん」としては定着しにくいです。

月に1~2回くらいの方々も常連さんに含めるとしたら、やはり全体のターゲットと同じく、若い女性層であると言って間違いありません。

―― なるほど。同じ「常連さん」でもグラデーションがありますよね。茶割のどんなところが、そういった常連さんを惹きつけているのでしょうか。

多治見さん:一つには店主やスタッフとの会話があると思います。コミュニケーションが生まれると、お客さまの記憶にも残りやすいと思いますし、何かの機会に「また行こうかな」と思い出してもらえるという。

―― 確かに、お店の人と仲良くなると、その人に会いに行くような感じでその後も通いたくなりそうです。まさに多治見さんの通いたくなるお店の要素だった「話したい店主(スタッフ)がいる」に合致しますね。

多治見さん:ただ、茶割の場合、難しいのは属人性に頼れないことなんです。弊社では店舗間の異動もありますし、辞めていくスタッフもいますからね。

茶割オーナーの多治見智高さん

―― 個性豊かなマスターが1人で経営しているバーのように、「あの人がいるから通う」とはできないということですね。巷の飲食店では、同じことに悩まれているところも多いかもしれません。

多治見さん:属人性に頼れないとはいっても、やはり常連になっていただくにはコミュニケーションが重要であることは事実です。スタッフの顔までは覚えていなくても、「あのお店であのメニューを食べたときに、店員さんから面白い話聞いたな」くらいのポジティブな印象を持ってもらえれば、他の誰かにオススメしてくれるかもしれないし、再来店につながるかもしれない。

ですから、属人性に頼らない形でコミュニケーションが生まれるような仕掛けをつくっています。いろいろありますが、具体的な例として2つ挙げると、1つ目は客席の形。2つ目はメニュー作りです。

―― 客席の形は、先ほど話に出たようにコの字カウンターですね。

多治見さん:コの字カウンターは古い大衆酒場にもよくありますが、端っこの席でもスタッフとの距離が遠くならないんですよね。物理的に距離が近くなるので、コミュニケーションも取りやすいんです。

―― 奥のテーブル席でもスタッフさんが近いし声をかけやすそうですね。スタッフさん側も、お客さんの要望を察知しやすそうです。

多治見さん:2つ目については、フックのあるメニュー作りを心がけています。茶割では100種類のお茶割りと100種類の唐揚げを提供しているのですが、中には「緑のアールグレイ」とか「エミューの唐揚げ」とか、他ではまず見ないようなメニューもあります。そうすると「これって何ですか?」という質問が自然と出てくる。その先の会話もある程度テンプレート化しておけますし、属人性に頼らない形でコミュニケーションを発生させることができます。

茶割目黒の「100種のお茶割り」メニュー

茶割目黒の「100種のお茶割り」メニュー(2022年1月時点)

あとは「2代目ポテトサラダ」みたいな、「2代目ってなんだよ!」「初代はどこだよ!」とか、思わずツッコみたくなるようなメニューとか(笑)。そういう“引っかかり”をあちこちに仕掛けてあるんです。

―― ここまでお話を伺ってきて、多治見さんご自身の「通いたくなるお店」の要素を、どうしたら属人性に頼らない形で自身のお店に落とし込めるか? を非常に細かく考えていらっしゃるのが伝わってきました。おしゃれな内装や、魅力的なメニューの裏には、こんなにたくさんの意図が隠れていたんですね。

多治見さん:もちろん、茶割に対して「入りにくい」「LINEでメニューを見るのは面倒くさい」と感じる方もいると思います。これは相性の問題で、そういう方はうちのお客さまとして狙うべき方ではないのかなと。大手チェーンのように、全ての属性の方をターゲットにしているお店とは真逆の発想ですね。

【お話を伺った人】

茶割オーナーの多治見智高さん

多治見智高さん

株式会社サンメレ代表取締役。1990年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学を卒業後、ミュージシャンとしてバイオリンを演奏していた飲食店を譲り受けたことから、飲食の世界に飛び込む。2016年、お酒をお茶で割ったお茶割りの専門店「茶割」をオープン。ハイボールやレモンサワーのように、お茶割りを日本発のワールド・スタンダードにすることを目指している。

Twitter:@tjmtmtk
Instagram:@tjmtmtk

【取材先紹介】
茶割 目黒
東京都目黒区下目黒1-3-28 サンウッド目黒 地下1階
Instagram:@chawari.meguro

茶割目黒

取材・文/山田井ユウキ(やまだいゆうき)

2001年からマルコ名義で趣味のテキストサイトを運営しているうちにいつのまにか書くことが仕事になっていた“テキサイライター”。好きなものはワインとカメラとBL。
Twitter:@cafewriter

撮影/関口佳代

編集:はてな編集部

 

*1:サービスや商品を使用する典型的な架空の顧客像