数回行った寿司屋で「いつもの!」が通じるか試してみたら、お店側も有効活用していた話

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お店の常連さんのみが許された言葉、「いつものお願いします」

かっこいい。いつか言ってみたいと思っていた。

しかし、毎回同じものを頼んでいるお店が思い浮かばない。そもそも、こちらから常連と言っていいほどの関係性が持てているのか自信がない。

どうやったら、どれくらいお店に通ったら、「いつもの」と言えるようになるのだろうか。

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まだ4回しか行ったことがない少し高めの寿司屋で、思い切って「いつもの」と言い張ってみることに。すると、お店側も「いつもの」をうまく活用していることが判明した。

※取材は、新型コロナウイルス感染対策を講じた上で実施しました

数回しか行ったことのないカウンターの寿司屋で「いつもの」をオーダーすると、何が出てくるんだろう

常連、と言えるほど足しげく通っているお店に心当たりがない。近所のコンビニは頻繁に行くが、あれは自分で商品を選んでレジに持っていくシステムだから「いつもの」が使えない。

しかも、最近在宅で仕事をしているため、昔ほど外食をしなくなってしまった。でも「いつもの」と言ってみたい。

そこで、過去に取材で2回、プライベートで2回、合計4回だけ伺ったことのあるお寿司屋さんに思い切って行ってみることにした。毎回緊張してしまうような、見るからに本格的な雰囲気のお寿司屋さんである。

ただ、ここの大将、シャレが通じることは知っている。

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この記事を書いているライターの小堺と、東京・浅草にある「すし屋の野八」。5回目だけど毎回緊張がはしる。最初よりはだいぶ入りやすくはなったけども

過去の取材では毎回企画の内容が違っていたし、プライベートで来た時はいつも時間帯が異なっていたので、これまで同じものを頼んだことはない。

なので、いきなり「いつもの!」と言ったらさすがに大将は「いつものって……なんでしたっけ?」と最初は多少の動揺を見せたり、探り合いのラリーが始まると予想される。

が、それでも「いつもので!!」と言い張れば、大将ならなにかしら出してくれるだろうと踏んでいる。

ちなみに今回、撮影係としてデイリーポータルZ・編集の安藤さんがついて来てくれている。

安藤さんはこれまでこういったお店に縁がなかったそうで、「ジーパンで来ちゃったけど大丈夫かな」とやはり緊張していた。そういえば私もジーパンだ。

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待ち合わせ直前に職質された編集・安藤さんと一緒に行く

何も知らない大将に「いつもので」と言ってみた

今回、大将にはもちろん企画内容を伝えていない。何か食べ物を頼む、とだけ言ってある。

では……心を落ち着かせてから……いざ!

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「大将……いつもので!」


「ハイ!(瞬時)」

 

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え~!! 想定外の反応!

思わず笑ってしまうほどの早さで、大将は返事をしてくれた。これはかなりの自信があるようだ。

いったいなにが出てくるんだろう??

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きた~!!

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一粒寿司だ!

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ちっちゃいんです!

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そうか~これが私の「いつもの」か~。すぐに食べるのはもったいないから、鑑賞用に置いておこう。

自分でも知らなかった「いつもの」

大将には無茶ぶりをしてしまったが、結果的にめちゃくちゃうれしいものが出てきた。今回の企画意図をあらためて伝えて、なぜ一粒寿司を出したのかを聞く。

大将いわく「小堺さんが初めてうちに来たきっかけとなったお寿司だから」とのこと。そうだ、取材で最初に取り上げたのがこの一粒寿司だ。しっかり覚えてくれていてうれしい。

それに、この一粒寿司は大将が始めたもので、いろいろなメディアでも取り上げられているため「うちといえばコレ」という自信もあったのだろう。強みって大事だな!

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「あと、小堺さんといえば……」と私の一番大好きなイクラを出してくれた!やっほう!

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私の「いつもの」、いただきまーす!

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破顔!

最高過ぎる。

このあと目をつむりうっとりしたあと、またニヤけた。これも、過去にイクラ好きをアピールしていたのを大将が覚えてくれていたから出してもらえたのだった。

隣で撮影しながらうらやましがってる安藤さん。なんか申し訳ないので、安藤さんにも「いつもの」を出してもらうことにした。安藤さんと大将は完全に初対面なのだけれども。

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そして安藤さんにきた「いつもの」。

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一粒寿司よりもさらに小さい「ゴマ粒寿司」。私もこんなサイズあるの知らなかった! シャリを1/4くらいにして作っているらしい。

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「これが俺のいつものか……」

ちっちゃ過ぎて笑うが、贅沢ともいえる。普通のお寿司を握るよりだんぜん時間がかかるから。

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「すごい、こんなに小さいのにちゃんと『味』がする!!するけど……」と笑いだす安藤さん

私のイクラのキラキラを見た後だったのでショックは大きかったようだが、このゴマ粒寿司に込められた大将とタコの魂を感じたそうだ。

それでも、「小堺さんずるいなあ」というので、大将がもうひとつ安藤さんに出してくれた。

今度はちゃんとした大きさだ。

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40g級の立派なクルマエビ! しかも殻付き。これは「むかない安藤」の出番である。

実は安藤さん、もう長年「むかない安藤」として、食べ物の皮や袋をむかずになんでも食べるという活動をしている。なぜかファンが多い。YouTubeにも動画をアップしている。

なんと、その活動を知っていた大将が、機転をきかせて海老を殻付きのまま出してきたのだ。

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寿司屋で「むかない安藤」を見ることになるとは!

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「小堺さん、うまいです!」それはよかったです

聞くと、実際に殻付きで食べるお客もいるそうだ。浅草には食に強いこだわりを持っている人が多いとのこと。おもしろいなあ。

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私には殻なしの海老。大好物!

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ううううんまー! 大きいから長いこと幸せ。固くないし!

隣でボリボリと音をたてながら殻を咀嚼する安藤さんが、うらやましそうに(恨めし気に?)「小堺さん、殻ついているのもおいしいんですよ」という。でも「へー、よかったですね」である。私はこの殻なし海老で十分幸せなので、大丈夫ですと返事をした。好みは人それぞれなのだ。

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「小堺さんはいつものがあっていいなあ」という安藤さんが、大将にお願いして握ってもらった好物の赤貝。ブリブリだ!

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昇天しちゃいそうなくらいおいしそうにしてる安藤さん「大将、次来たとき僕の『いつもの』はこれでお願いします」

安藤さん、「いつもの」ができて良かったね。

お店の人は「いつもの」という注文をどう思っているんだろう?

さて、ここからは真面目に、大将に「いつもの」についての考えを聞こう。

ちなみに今回取材させていただいたお店・野八さんは、2022年4月で50周年を迎えるそうだ。このコロナ禍では集まれないが、40周年の時は近くのホテルで400人を呼んでの大規模パーティーを開いたそうで、なんと招待をした全員が参加したそう。皆から愛されているお店である。

そんな野八さんには毎日たくさんの常連さんが来るわけだけど、「いつもの」はどんな感じで使われるのだろう?

いつも同じものを頼む人には、こちらから「いつものですか?」って聞いちゃう方が多いですね。そうすると、「いや、今日はこっちにします」みたいなやりとりができるので。

そうなんですね! 客側が「いつもの」って緊張しながら言うより、お店の方から言ってもらえると覚えてもらってるのが伝わってうれしいし、次回から「今日はいつもので」って自然に言えますね!

あと、料理だけじゃなくて「いつもの席あきましたよ」と言うと喜んでもらえたりします。

席まで覚えちゃうのすごい!

お店から「いつもの」と言ってもらえるのは、確かにうれしい。だけど、そもそもお店の人と「いつもの」が使える関係性になるには、どれくらい通うといいんだろうか?

「いつもの」が言える関係性になるには、つまり常連と認められるには、どれくらい通えばいいとかの目安ってあるんでしょうか。

それはお客さん次第です。1〜2回で常連だと思ってもいいんじゃないかな。例えば、お客さんの中に、10年ぶりに5回目の来店という人がいるけど、その人は遠方に住んでいて「浅草に来たならここ」と言ってくれる。そういうのはもう、常連ですよね。

確かに。そう言われると、回数じゃないですね。「ここ、すごく気に入った! この先何度も行こう」と思える店が常連なんだ。これまで何度行ったか、も関係はしてくるだろうけど、これから何度も通いたいか、なんだ!

そういえばうちの常連さんで正月から23日連続で来てくれちゃうような人もいましたよ(笑)。会社の用事で記録はストップしたけどね。

浅草は面白い人が多いですね(笑)。

それにね、うちからすると、初めての人だろうが、常連さんだろうが接客は変わらないです。常連さんだから優遇するわけじゃない。また来てくれたというのは、確かに気持ち良いですけどね。お店としてはそれはすごくうれしい。

そっかあ……! 特にかしこまった場所だと、勝手に「常連さんの方がお客として上」って思ってしまっていたけど、お店からしたらどちらも大事なお客さんですもんね。

でも、心で自分は常連だと思っていても、客側から「いつもの」と言うのはやっぱりハードル高いように感じる。

そういうときは「いつもの〇〇ください」って言えばいいんですよ。それで徐々に〇〇部分を取る。

それだ! 長年の悩みが一瞬で解決した!

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「いつもの日本酒で」と頼んでみたら賀茂鶴というお酒を出してくれた。おいしいので次は「いつもの賀茂鶴ください」と言ってみよう。そしてその次は「いつもの」へ。徐々にステップアップしていこう

めちゃくちゃスッキリしました。さすが大将。では……私はまだまだ食べられるので、「いつもの『大将のおすすめコース』ください」(大将の予想当てゲーム再開)。

ハイ!(瞬時)

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そしてやってきたのは、あん肝と奈良漬巻き、ちょっぴり辛いヅケまぐろ、甘いイカ(塩でいただく)、煮穴子、白エビ、ほたて。常に研究し続けている大将ならではのラインアップ! 大将いわく「お店の歴史が浅いからこそチャレンジできる」のだそう。50年でも歴史が浅いんだ……!

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最後の〆は、取っておいた一粒寿司。ほんと、ちゃんと一粒ずつ味がする!

「いつもの」は、お客さんもお店の人も、お互いに言われるとうれしいもの

大将と話していたら、「いつもの」という言葉には、お客さんとお店の人の間で信頼関係が構築できたという証だけではなく、これから良い関係性を構築しようという前向きな思いも感じられることに気づけた。

お店側からの「いつものですか?」も、お客側からの「いつもの〇〇で」も、お互い、直接的ではないのだけど伝わっているものがある。それは「あなたに関心をもっていますよ」ということだろう。そう分かったからには、私は今後たくさん「いつもので」を使っていこうと思う。

でも、野暮に見えちゃう人もいるので気をつけてくださいね! 例えば、偉い身分なのか、一緒に連れてきた人たちにアピールするような「いつもの」は野暮ったくてお店の雰囲気が悪い方に変わっちゃう。

分かりました! あくまで自分とお店の関係性をよくするために使っていきますね。粋にいきます!

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今後は堂々と「いつもの」と言わせていただきます!

【取材先紹介】


すし屋の野八
東京都台東区雷門1-3-7
電話:03-3841-3841
Web:https://www.edo.net/no8/index.html
ブログ:https://ameblo.jp/sushiyano-nohachi/

取材・文・撮影:小堺丸子/デイリーポータルZ
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編集:はてな編集部