レトロ家具の引き取り・販売業「村田商會」が見据える「純喫茶」経営の行く末

f:id:onaji_me:20220415150827j:plain

閉店する喫茶店のレトロな家具を引き取って販売する「村田商會」の村田龍一さん。2015年に始めた通販サイトで地道にファンを増やし、2018年には著書『喫茶店の椅子とテーブル 〜村田商會がつないだこと〜』(実業之日本社)を刊行、同年末には東京・西荻窪に喫茶店をオープンしました。

実店舗を経営しながら販売を続けたところ、見えてきた境地とは。営業を終える店の思いを、お客さんや家具の引き取り手につないでいく村田さんに、仕事の楽しさや今後の展望をお聞きしました。

跡形もなく消えてしまう純喫茶が惜しくて

――学生時代から純喫茶がお好きで、お店巡りをされていたそうですね。

村田さん:大学生だった20歳くらいから通い始め、かれこれ20年近く経ちました。中野にあった「クラシック」という店に連れて行ってもらったことがきっかけで、純喫茶の魅力に目覚めまして。レトロを通り越して、異世界に迷い込んだような店内の雰囲気に圧倒されたんですよね。

――喫茶店に置いてあった家具や雑貨も、自然と目に付くように?

村田さん:そうですね。一般的なダイニングチェアやテーブルよりも腰が低く、座って読書するのに落ち着く設計になっているのがいいな、と感じるようになったんです。

――現在のお仕事でもある、喫茶店の椅子とテーブルを初めて引き取ったのも純喫茶巡りをされている時期だったとか。

村田さん:店巡りも5〜6年目のタイミングでした。足繁く通おうと思っていた喫茶店が営業を終えてしまうと知って、ショックを受けました。思わず「椅子とテーブル、僕に譲っていただけませんか」という言葉が口を突いて出るほど。好きなものが、跡形もなく消えてしまうのが惜しく感じられました。自分の家に1セットでもあったら、店にいるような気持ちになれるかな、と。

f:id:onaji_me:20220415150831j:plain

村田さんが初めて引き取ったのは、今は無き蒲田の喫茶店にあった革張りの椅子に、「9」とナンバリングされているテーブル。「使い込まれて味わい深く、中古市場を見ても買うことのできないデザイン性が魅力」と現在も自宅で使っている

――喫茶店にある家具の魅力に気付いたのが村田さん第一の功績だとしたら、第二の功績は「事業」に発展させたことだと思っています。著書によれば、ご自身が引き取って販売するアイデアはずっと頭の中にあったそうですが、2015年夏のタイミングで実行に移したのはどうしてですか?

村田さん:11年勤めたアパレルのリユース業界を辞めて、次は「自分の好きなことを形にしたい」と考えるようになりました。余暇に喫茶店巡りを続ける中で、古いお店の閉店が続いたんです。マスターに話を聞くと、皆さん「椅子やテーブルの類は捨ててしまうことがほとんど」とおっしゃる。そうであれば「僕が欲しい」と思う気持ちはあったのですが、すべてを自分が引き取って使うわけにもいかず……。

――ジレンマですね。

村田さん:一方で、SNSを見ていると僕のように喫茶店が好きで巡っている方が多いことに気付きました。僕にとっては「懐かしく思い出すもの」なんですが、特に若い世代は、純喫茶に「目新しさ」を感じているんですよね。このギャップを新鮮に感じつつ、「喫茶店の椅子やテーブル、欲しい方がいるだろうな」とずっと思っていました。裾野が広がっているといいますか、受け入れてくださる層が増えている。

――確かに!その後、Z世代を中心に昭和レトロブームが起こっています。村田さん、先見の明がありますね。

村田さん:いやいや(苦笑)。それに前職の経験をもとにリサイクルショップを見ると、一度使われた中古品が再流通する機会はそれほど多くないことが分かってきました。この市場に「純喫茶の雰囲気を残したい」という思いを掛け合わせたらビジネスとして成立するかもしれない。そう考えて動き始めたタイミングが、2015年夏でした。

売り切れ品も、アーカイブとして懐かしく眺めてもらえたら

――立ち上げた当初は、インターネットを使った通販のみでしたよね。

村田さん:いきなり実店舗を構える資金がなかったんです。実家の近所に小さな倉庫を借りて、仕入れ・商品化(リメイク)・写真撮影・サイト掲載・発送を全て一人で行っていました。

――仕入れについて教えてください。閉店する情報はどこから手に入れていらっしゃるんですか?

村田さん:村田商會を始めた当初、実はSNSで少々話題になりまして。拡散されて届いた閉店情報をもとにお店を訪れて、オーナーや店主に話をしにいくことが多かったです。現在では、閉店してしまうお店側からご依頼いただくことが増えました。「あの店もうすぐ無くなっちゃうんだって、寂しいね」みたいなツイートを見かけたと思ったら、閉店されるマスターご本人から電話がかかってくることもありました。

――それだけ村田商會の取り組みが広がっているんですね。

村田さん:常連の方との会話やお店同士の情報交換で、村田商會をご紹介してくださるケースもあります。いずれも「村田という人が家具や雑貨を引き取っているから連絡してみたら?」とマスターに耳打ちしてくださる。僕と直接知り合いでない方にも届いているようで、ありがたいことです。

――仕入れ値についても教えてください。もともと廃棄を予定されていたものなので、無料で引き取ることもできると思います。その場合ありがたく頂戴するのでしょうか、それともいくらかでもお支払いされるのですか?

村田さん:廃棄前提とはいえ、お店にあったものを引き取って販売するからこそ、こちらもビジネスが成立します。なので、ある程度の金額はお支払いしたいと考えているのですが……たまに受け取っていただけないことも。そういう時は菓子折りをお渡ししています(苦笑)。

――義理堅い!売り値もかなり良心的ですし。

村田さん:こういった品は中古市場に出回っていないので、お店と直接交渉すれば手頃な値段で引き取ることができます。比較的お買い求めになりやすい価格設定なのは、これが大きな理由かもしれません。

f:id:onaji_me:20220415150834j:plain

背もたれと座面が赤い椅子(手前)は4,000円(税込)。ダメージが大きい品は、村田さんが修理やリメイクを手掛けて販売することもあるという

――村田商會のサイトに掲載されている商品は、もともとあった店の名前でカテゴライズされていますね。

村田さん:「この店に置いてあったものだから買いたい」と感じてくださる方が一定数いらっしゃいます。閉店を悲しむ方の気持ちが行き着く先として村田商會があればいいと思って、このサイト設計にしました。実際、いろいろ検索した結果、うちのECサイトにたどり着いて、出品されていた家具をご自宅に迎えてくださった方が何名もいらっしゃいます。

f:id:onaji_me:20220415150837p:plain

――売れてしまった商品をサイト内に残しておくことにはどんな意味がありますか?

村田さん:うちは一品限りのアイテムが多く、再販される機会は滅多にありません。でも、サイト内にアーカイブとして残しておけば、誰かの記憶に働きかけることがあるかもしれない。お店を畳んだマスターや通っていたお客さんに「あの店にこんなカトラリーあったな」など、懐かしく眺めてもらえたらうれしいです。

f:id:onaji_me:20220415150841p:plain

通販サイトの常連に実店舗オープンを助けてもらって

――その後、2018年12月に西荻窪で実店舗として喫茶店「村田商會」を構えました。経緯を教えてください。

村田さん:ここにもともとあった「喫茶ポット」に、何度か足を運んだことがあったんです。親しみを覚えていた店が閉店してしまうと聞いて、マスターを訪ねたところ「壊してしまう」というお話で。家具の引き取り・販売も考えたのですが、お店の造りや規模を考えたところ「僕が居抜きで入って残せないだろうか」「喫茶店を営業しながら、今まで取り組んできた純喫茶家具の販売も続けられるのではないか」と考えるようになりました。

f:id:onaji_me:20220415150848j:plain

窓辺の椅子とテーブルにカウンターチェアなど、2018年8月に閉店した「喫茶ポット」の面影を色濃く残す店内。村田さんは店舗オープンと経営に対する気持ちを「カウンターの内側に立つことで新しい純喫茶のカタチを見出してみたい」と語る

――店舗を構えて良かった点は?

村田さん:リアルな場でお客さんと触れ合えることが、いま一番楽しいです。村田商會のサイトやSNSをご存知ない、近隣にお住まいの方がふらっと立ち寄って常連になってくださることがずいぶんと増えました。

――家具の状態やデザインを、お客さんが直接確認できるんですね。ショールーム的な要素を兼ね備えていて。

村田さん:自由に触れていただき、お気に召したらその場でご購入いただけます。中には椅子やテーブルを担いで帰宅される方もいらっしゃるんですよ(笑)。実は、新型コロナウイルスが猛威を振るう前まで、通販サイトでは僕が直接お届けに上がるケースが多かったんですけどね。

――店舗には買い求めやすい食器やカトラリーも数多く並んでいます。

村田さん:細かい商品を置くようになったのも、店舗を構えてからです。通販サイトで家具をよくご購入いただいたお客さんが店を訪れて、お茶を楽しみながら雑貨をご覧いただくこともあります。

f:id:onaji_me:20220415150852j:plain

POPの説明書きで、今は無き店のストーリーを感じ取ることができる

――通販サイトのお客さんと、店舗でも交流されているのでしょうか?

村田さん:著書の利用者インタビューにご登場いただいたお客さんは、店にもよく足を運んでくださっています。通販サイトでも初期の頃から椅子2脚・テーブル・ソファをお買い求めいただいていて。本が出版される頃、実店舗を出すかどうか迷っていたんですが、西荻窪の街に詳しいということで相談に乗っていただきました。

――村田商會のブレーンが通販サイトの常連だったとは!

村田さん:西荻窪にはどんな方が多く住んでいるのか、どんな業態なら住人の皆さんに受け入れてもらいやすいか。僕が漠然とお聞きしたことに対して丁寧に答えていただき、非常に参考になりました。その後、店舗では雑貨をよくご購入いただいています。

――店舗をやっていることでつながりやコミュニケーションが生まれ、純喫茶家具の販売に広がりが生まれたような事例は他にありますか?

村田さん:お客さんとしていらしていた近所のおじいさんが「実は昔、喫茶店やってたんだ」とおっしゃって、当時使っていた食器やカトラリーを「引き取ってよ」とご依頼いただいたことがありました。近所のご自宅にお邪魔して、そのまま仕入れさせてもらって。

f:id:onaji_me:20220415150856j:plain

所狭しと並ぶカトラリー。世界的な洋食器ブランド「ノリタケ」の未使用ティースプーンが1本400円(税込)であり思わず手が伸びた

――もともと、その家具が置いてあった店の常連が、当時の面影を求めて新しい店に「移った」ようなケースはあるのでしょうか?

村田さん:両者の距離が離れていることも多く、新しいお店の常連になった話までは聞きませんね。ただ、僕が「先月営業を終えたこの店の家具が、引き取られた店でこんな風に再活用されています」といった内容は通販サイトやSNSでお知らせしています。それをご覧になって、引き取り手のお店に足を運んでくださった方はいらっしゃいますね。村田商會の実店舗にもショップカードを置いて告知したり。

――村田さんがハブになって両者をつなぎ、新しい店ににぎわいが生まれているんですね。

村田さん:例えば、江古田にあった「歩歩(ぶぶ)」という喫茶店の椅子とテーブルが、静岡の「アレイレストラン」で使われることになりました。

f:id:onaji_me:20220415165918j:plain

静岡「アレイレストラン」で人気のある窓側の席で息を吹き返した江古田「歩歩」の椅子とテーブル。テーブルの天板と椅子のフレームはいずれも木製で統一感を演出している

 

――著書にもある、村田商會最初の商品ですね!

村田さん:そうなんです!著書の出版イベントに歩歩のママさんとアレイレストランのご主人にお越しいただき、話してもらった時は……ビフォーアフターの店主がそろって感動してしまいました。

――村田商會の客層を教えてください。

村田さん:年齢層は1981年生まれの僕と同世代、もしくは少し年下くらいが中心ですね。女性のお客さんが6:4か7:3くらいの割合で多いでしょうか。半分はご自宅で純喫茶家具を活用されている個人のお客さん、もう半分はお店をやっている……あるいはこれから始める経営者、という比率かな。

――通販サイトと実店舗で客層に特徴はありますか?

村田さん:お店をやっている方とは、通販サイトで商談が進むケースが圧倒的に多いですね。西荻窪にご来店いただくというより、倉庫にある商品を配送するパターンがほとんどです。店舗にいらっしゃるのは、やっぱりご近所に住む方。喫茶メニューを楽しみながら、こまごまとした雑貨を眺めていらっしゃいます。

店を畳む人と新しく始める人の架け橋に

――今後、村田さんが挑戦したいことを教えてください。

村田さん:4年目を迎える喫茶店の経営を、引き続きがんばっていきたいです。飲食業を経験したことがなかったので苦労しましたが、やっとお店を一人で回せる力が付いて軌道に乗ってきました。

f:id:onaji_me:20220415150904j:plain

村田商會の前にあった「喫茶ポット」のトレードマークだったポット。「喫茶ポットのポイントカラーが赤だったこともあって、ぴったり」「売らずにインテリアとして飾らせてもらっています」と村田さん

――販売業との両立は?

村田さん:家具の引き取りは人手がいるので、新しく手伝ってもらうスタッフを雇うことも視野に入れています。今は妻と二人で両立しているのですが、喫茶店をやりながらだと引き取りのご依頼全てに対応するのは難しいんです。

――取り扱う商材を増やしたりも?

村田さん:考えています。新しい方が店舗を引き継いで、居抜きで再オープンできるような仕組みがつくれないかな、と思っているんです。実店舗を始めて分かってきたんですが、自分の店を持ちたい若い世代って潜在的にいらっしゃるみたいで。

――物件を決めて、一から家具や小物を手配するとお金と時間がかかってしまいますよね。

村田さん:そうなんです。準備資金が少なくても志の高い方が参入しやすいように、ハードルを低くしたい。そういう方にお店を引き継いで、すでにある雰囲気を生かしながら自分らしく仕事をしてもらう機会が増えたらいいのに、と考えるようになりました。実はSNSで閉店してしまう店舗のマスターと、新しく店を始めたい方のバトンタッチをお手伝いしたことがありまして……。

――村田さん、めちゃくちゃ仕事早い!

村田さん:新御茶ノ水の「茶居夢」という喫茶店が閉店するにあたって、家具の引き取り依頼があったんです。話を進めるうちに、自然と「お店をこのまま誰かに引き継ぎませんか?」と提案している自分がいました(笑)。

――引き取り手はどんな方だったんですか?

村田さん:既にジャズ喫茶「Donato」を経営している方に引き継ぎました。村田商會の通販サイトやSNSで募集したところ、ご連絡いただいた方です。実は「Donato」のマスターって、小伝馬町にあった「コット」の家具一式を引き取って開店した高井戸「喫茶マカボイ」の常連なんですよ。

――村田さんがつないだ縁でオープンした店の常連が、新しいお客さんに!素晴らしいですね。家具や雑貨のように、将来的にお店ごと買い取って販売するようなことも考えていらっしゃるのですか?

村田さん:今回はバトンタッチのみでしたが、今後はそういったことも考えたいですね。いったん僕がお借りして次の使い道を考えたり、引き継げる人を探したり。見ず知らずの方にお店を引き継ぐのはさまざまなハードルがありますが、一方で「店を失くしたくない」と惜しむあらゆる方々の期待に応えることでもあります。僕がそこをうまくバトンタッチして、純喫茶を残すお手伝いができればと思っています。

f:id:onaji_me:20220415150908j:plain

――今後も村田商會から目が離せませんね!ありがとうございました。

取材者プロフィール

村田龍一さん

1981年、東京生まれ。学生の頃より純喫茶の魅力に目覚め、店を巡るように。大学卒業後も会社員として働きながら日本各地を1,000店以上回り、47都道府県全てに足を運んだ。訪れた店のマッチを400個以上所有しており、東京・大阪で展示会を開催したことも。2015年8月に11年勤めた会社を退職。同年12月、閉店した喫茶店の家具を引き取って販売するECサイト「村田商會」を立ち上げる。2018年に著書『喫茶店の椅子とテーブル 〜村田商會がつないだこと〜』(実業之日本社)を刊行、同年末には西荻窪に実店舗の「村田商會」をオープン。現在も喫茶店の経営と純喫茶家具・雑貨の販売を両立させている。

取材・文岡山朋代

編集・ライター。『ぴあ』、朝日新聞社『好書好日』などで年間150本ほどインタビューや執筆を手がける。舞台好きで、下北沢・日比谷・渋谷・新宿・池袋といった劇場街グルメに目がない。観劇後はおいしい酒&つまみをキメたい一心で新型コロナウイルス収束を願う。

写真新谷敏司