伝統の味を守りながら、チャレンジを続ける。京都・梅園店主の「常連客を生み出す工夫」

梅園店主・西川葵さん

京都で90年以上にわたって親しまれている老舗「甘党茶屋 梅園」の3代目店主・西川葵さんに、常連客に長く愛されるための工夫について伺いました。


一度ならず、何度も足を運んでくれる「おなじみ」のお客さんは、飲食店にとって心強い存在です。多くの常連客の心をつかむお店は、どのような工夫をしているのでしょうか。

「甘党茶屋 梅園」は京都・河原町で1927年に創業して以来、多くの人に親しまれる甘味処。現在は箸で食べる抹茶ホットケーキが名物の「うめぞの CAFE&GALLERY」、洋菓子のような見た目の「かざり羹」をメインとする「うめぞの茶房」など、コンセプトの異なる6店舗を展開するほか、百貨店などでの催事にも意欲的に出店し、ファンの裾野を広げています。

今回は、梅園3代目店主の西川葵さんにインタビュー。歴史あるお店を受け継ぎ、変わらず守り続けていること、変えてきたことなど、常連客を離さないための工夫についてお話を伺いました。

小さい頃からお店を継ぎたかったけれど、当初両親からは反対された

――「梅園」といえば、京都で90年以上続く甘味処。俵型のみたらし団子やあんみつなどで知られています。西川さんは小さい頃から両親の仕事ぶりを間近に見て、和菓子に親しんでいたそうですね。

西川葵さん(以下、西川さん):はい。実は幼稚園まで、梅園の工場の上に住んでいたんです。みたらし団子やわらび餅をつくる様子を、いつもガラス越しに見ていました。

その影響で、子どもの頃から工場の材料を使わせてもらって、いろんなお菓子をつくるようになりました。和菓子が中心でしたが、たまに抹茶チョコレートのような洋菓子の要素を取り入れたり、自分なりにアレンジをしていました。

――西川さんがお店を継ごうと思ったのはいつ頃だったのでしょうか。

西川さん:いつからかはっきり覚えていないくらい、子どもの頃からお店を継ぐのは当然だと思っていました。両親の仕事が終わるのを待つ間、本屋さんで料理の専門書を読んで「こんなお菓子をつくれるようになったら、お店にとってプラスになるんじゃないか」と空想していましたね。

ところが、進学を考えるタイミングで両親から「継がせるつもりはない」と言われたんです。両親はまさか私が継ぐ気でいるとは思っていなかったようで、お互いにびっくりしていました(笑)。

西川葵さん

――小さい頃からお店を継ぐ前提でいろんなことを考えていたのに、両親はそのつもりはなかったんですね。

西川さん:特に母からは「本当に大変だよ」と繰り返し説得されました。でも、私は小学生の頃から夢を膨らませていたし、自分に向いていると楽観的に考えていました。

その後、お店のことをもっと学ぼうと大学生の頃から梅園でアルバイトを始めたのですが、その時には反対されませんでした。でも、店主の娘として特別扱いされるのは嫌だったので、娘であることは4年間隠していたんです。私のことを小さい頃から知っている社員もいたのですが、ずっと黙っていてくれました。

――社員の方も、西川さんの思いを汲み取ったのですね。店主になるまでのいきさつも教えてください。

西川さん:大学を卒業してからは、社員として梅園に入り「甘党茶屋 梅園 河原町店(以下、河原町店)」「甘党茶屋 梅園 清水店(以下、清水店)」の2店舗と、工場を行き来しました。その中で、若いスタッフから「実はおぜんざいを食べたことがない」ということを聞き、あんこの魅力をもっと伝えたいと思うようになりました。

2010年には私のアイデアで「うめぞの CAFE&GALLERY」を立ち上げました。その頃から催事出店の機会が徐々に増えてきたのですが、両親はパソコンや携帯電話を持っておらず、必然的に私が百貨店と連絡をするようになったんです。その結果、私が継ぐことで、こうした新しいチャレンジもしやすくなりそうだという話になり、店主を引き継ぐことになりました。

継ぐにあたっては、商品づくりはもちろん、今までお店のことで気になっていた部分の改善も図っていこうと考えました。従業員の働く環境についてもそうです。梅園のお菓子づくりは体力のいる仕事なので、従業員から「長く続けづらい仕事なので、将来を考えにくい」という不安の声が挙がっていました。また、毎日同じ顔触れが集まるせいか、ちょっと煮詰まった雰囲気になることもあって。

「せっかくたくさんの人に喜んでもらえる仕事なのに、これではお店自体を長く続けられない」と感じていたんです。なので、まずは店舗を拡大して人数を増やし、従業員1人にかかる負担が少なくなるような会社規模にするべきだと考えました。ある程度の人数になれば休みも取りやすくなりますし、何かあったときに助け合う体制もつくりやすいはずだと。そういう視点で、お店の今後について考えるようになりましたね。

「新しい梅園」のアイデアで、ファンの層を広げていく

――「うめぞの CAFE&GALLERY」は、西川さんが「梅園で新しいことをする」ための出発点に見えます。具体的にどんな狙いがあったのでしょうか。

西川さん:私の学生時代はカフェブームで、タルトやケーキなどの洋菓子がもてはやされていました。友人たちがカフェに行く様子を見て、梅園がその選択肢に入らないことを寂しく思っていたんです。

でも、よく考えたら、流行りのカフェも梅園も「日常のおやつを提供する場所」という点では同じなんじゃないかなと。カフェのようにおしゃれでカジュアルな雰囲気で、若い人に喜んでもらえるお店をつくりたいとずっと考えていたんです。

学生の頃から店舗用の物件探しを趣味にしていて、条件のいい建物を見つけたタイミングで「うめぞの CAFE&GALLERY」のオープンを決めました。昔ながらの甘党茶屋である河原町店と雰囲気がまったく違うので、最初は「梅園さんがなんで?」と言われたこともあります。でも看板メニューの抹茶ホットケーキが完成してからは、ありがたいことに好意的な反応が多くなりました。

抹茶ホットケーキ

「抹茶ホットケーキ」(写真提供:梅園)

――2016年に西陣エリアでオープンした「うめぞの茶房」は、和菓子に洋菓子のあしらいを取り入れた「かざり羹」が評判ですね。

西川さん:「うめぞの CAFE&GALLERY」はカジュアルで若い層をメインターゲットにしていましたが、そこからもう少し上の世代、30~40代の食への関心が高い方のための店をつくりたいと考えました。

カジュアルなイメージが固定化されてしまうと、新しくつくる商品に高級感を持たせることが難しくなります。例えば、高価なバターを使った焼き菓子などの商品を販売したとしても価格に納得してもらえるように、イメージの幅を広げる必要がありました。そのための布石が「かざり羹」であり、「うめぞの茶房」だったんです。

かざり羹

「かざり羹」(写真提供:梅園)

――このまま独創的な和菓子を提案し続けるのかと思いきや、2017年にオープンされた「甘党茶屋 梅園 三条寺町店(以下、三条寺町店)」は、創業店の河原町店に近いメニュー構成ですね。

西川さん:三条寺町店は本当に物件ありきでした。京都の中心街であるという立地条件や、レトロな雰囲気の内装から考えると、新たなメニューを考えて新業態をつくるより、従来の甘党茶屋として運営した方が喜ばれるだろうと考えました。

甘党茶屋 梅園 三条寺町店

今回の取材場所となった三条寺町店

三条寺町店の店内

三条寺町店の店内

――2019年、ジェイアール京都伊勢丹内にオープンした「梅園 oyatsu」は、日持ちする焼菓子が中心です。

西川さん:以前から、売り上げを維持していくためには単なる店舗拡大だけではなく、日持ちする商品を考えたり、販売の際に比較的人手がかからないお店をつくることも必要だと思っていました。百貨店などで日持ち商品を販売することは、一つの目標だったんです。

「梅園 oyatsu」の出店は、ジェイアール京都伊勢丹の地下食料品売り場が増床するタイミングで声をかけていただきました。これはぜひやりたいと思い、出店に合わせて京都市内に工場を新設したんです。

看板メニューとして、クッキー生地にみたらし団子のタレをはさんだ「みたらしバターサンド」や、焼菓子にさまざまな味のあんこをサンドした「あんがさね」といった、和菓子に洋のテイストを取り入れたお菓子を用意しています。

みたらしバターサンド
あんがさね
左「みたらしバターサンド」、右「あんがさね」(写真提供:梅園)

愛され続ける理由は、「変わらない」部分があるからこそ

――コンセプトの異なる新しいお店をコンスタントに立ち上げる一方で、両親から受け継いだ河原町店と清水店も営業を続けています。この2店舗に関しては、何か変えたことはあるのでしょうか?

西川さん:梅園の社員になって間もない頃に「新しいメニューがないのはつまらない」と思い、河原町店で新メニューを出してみたことがありました。「オレンジショコラ氷」「彩り豆のミルク氷」「八角ぜんざい」なんていう、当時としてはちょっと尖ったものも考えてみたんです。しかし、これらは若いスタッフには評判だったんですが、お客さんにはまったく売れなくて。

そうして「昔からある店舗のお客さんが求めているのは、こういう新しいメニューじゃない」と分かってからは、河原町店と清水店ではほとんど何も変えていません。みたらし団子の味や形もずっと変えずに続けています。この味を目当てに、両親の代からずっと通ってくださるお客さんもいるんですよ。

みたらし団子は両親が全身全霊をかけて守ってきた味であると同時に、梅園を成長させてくれた味だと思っています。この味を、この価格で、この場所で売り続けるために会社をどんな方向に走らせていくか。そこは見失わずに大事にしたいところですね。

「梅園」のみたらし団子

「梅園」のみたらし団子

――最近はこの2店舗にも、若いお客さんが増えているように思います。

西川さん:時代と共にあんこのお菓子の良さが見直されて、河原町店や清水店にも以前より若い方が来てくださるようになりました。中には、梅園の6店舗全てに通っているという方もいらっしゃいます。

――梅園のような老舗の場合、これまでと違うことをすると常連客が離れるきっかけにもなり得たかと思います。コンセプトの異なる6店舗を全て好きでいてもらう秘訣(ひけつ)は何だと思いますか?

西川さん:新しいお菓子や今までのイメージとは違うお店をつくっても、常連客の方からは不思議と前向きな反応が多かったです。新しいことはあくまでプラスアルファと捉えて、既存のお店を減らしたり変えたりせずにいたのが良かったのかもしれません。

新しい挑戦ができるのは、河原町店や清水店が変わらずそこにあって、ずっとお店を好きでいてくださるお客さんがいてこそだと思うんです。

西川葵さん

コロナ禍をきっかけにオンラインショップをスタートした際は、熱心な応援のメッセージをたくさんいただきました。何度も利用してそのたびに温かいエールを送ってくださった方もいて、感激しましたね。メッセージを印刷して工場の壁に貼り、スタッフみんなで読んでいました。

一方で売り上げは激減し、お店をいくつか畳んで事業規模を縮小することも考えました。でも、私は一度始めたことは長く続けたいタイプ。コストが削減できるとしても、従業員を減らしたり、せっかくお店を好きでいてくださるお客さんを失いたくはありませんでした。ギリギリまで悩みましたが、結果としてどの店もやめることなく、次の一歩に進む道筋がようやく見えてきました。

「日常のおやつ」として、必要とされ続けたい

――お話を伺って、これまでの常連さんやお店の歴史を大切にしつつ、新しいことに挑戦し続ける姿勢が、ファンが増え続けている理由だと思いました。最後に、梅園の今後の展望について教えてください。

西川さん:現在は、工場の移設に向けて準備を進めています。コロナ禍をきっかけに、地元のスーパーでみたらし団子などのお菓子を販売してもらえるようになりました。ただ、みたらし団子はお店に納品した後は当日中に売り切ってもらわなくてはならず、たくさん売るのは難しい商品です。かといって、百貨店で販売している商品は日持ちしますが、スーパーで売るには価格が高めです。

なので、日常的に買える価格で梅園の味を気軽に楽しんでもらえるような、日持ちするお菓子を新たにつくれたらいいなと考えています。

急ごしらえでオープンしたオンラインショップも、これからもっと使いやすい形に整えて強化していく予定です。そのためには、従来の工場では少し手狭になってきたんです。コロナ関連の補助金を申請できることもあり、このタイミングで生産体制を整えて、さらにもう一歩、新しい梅園を目指せたらと思っています。

――それは楽しみですね! 「日常のおやつ」として、より身近な存在になりそうです。

西川さん:ぜひそうありたいですね。お店で食べられる日常のおやつからスタートし、百貨店での販売を経て、日持ちがする日常のおやつを提供する体制ができてきました。

最近は、梅園以外の飲食店にお菓子を置いてもらう機会も増えました。他のお店の方から「何かいいものはない?」と頼られたときに、柔軟に応えられるようにしたいですね。

梅園は5年後の2027年に100周年を迎えます。これからも「日常のおやつ」づくりを、ずっとずっと続けていこうと思います。

【お話を伺った人】

西川葵さん

西川葵さん

1927年に創業した京都の老舗甘味処「甘党茶屋 梅園」3代目店主。2代目を担っていた両親の影響で幼い頃からあんこを使ったお菓子づくりの魅力に目覚め、「梅園」を継ぐことを意識するように。学生時代のアルバイトを経て卒業後に社員として梅園に入社し、2010年に自らのアイデアでカフェのスタイルをコンセプトにした店舗「うめぞの CAFE&GALLERY」を立ち上げた。その後3代目を引き継ぎ、現在は「甘党茶屋 梅園 三条寺町店」「うめぞの茶房」など、京都市内に全6店を構えている。


公式サイト:甘党茶屋 京 梅園
Instagram:梅園 (@umezono_kyoto)

取材・文/油井やすこ
京都郊外在住のフリーライター。奈良のフリーペーパーの編集・ライターを経て、2013年ごろよりフリーになり、紙・WEBの種別を問わず取材・執筆活動を行う。関西圏の街ネタやグルメ情報のほか、ローカルで活躍する人物インタビューも手がける。

撮影/浜田智則

編集:はてな編集部

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