ついに新店舗オープン!『かつや』元社長・臼井健一郎さんが考える「今、求められる飲食店」<前編>

とんかつ・カツ丼専門店『かつや』で知られるアークランドサービスホールディングス株式会社を躍進させた臼井健一郎さんは、2021年に同社の社長を退任後、現在は飲食事業やコンサルティングなどを担う株式会社U.RAKATAを運営しています。

2022年8月26日、臼井さんは独立後、初となる直営飲食店「BOUILLON Hongo3(ブイヨン本郷3)」をオープンさせました。「フレンチの大衆食堂」をコンセプトに、これまであるようでなかった新業態です。

開店までの経緯を含め、コンセプトの設計方法から外観・内観の考え方、さらに「お金をかけるべき場所」まで、飲食事業のプロフェッショナルである臼井さんに話を聞きました。

グループ売上1,000億円を見据えるまでに成長させた臼井さんは、なぜ社長を退任したのか? 大反響の独立ストーリーはこちらから。 

「一点突破型」の飲食店は、今の世の中にフィットしない?

──U.RAKATAでは、現在どのようなプロジェクトが進行していますか?

臼井さん:ずっと構想していた飲食店について、2022年8月26日にオープンできる運びとなりました。独立直後から受託している飲食事業のコンサルティングと並行して物件探しをしてきましたが、なかなかうまくまとまりませんでした。ようやく本郷三丁目(東京都文京区)に物件が決まってからは施工も順調に進んでおり、ほっとしています。

──コンサルティング事業の進捗はいかがですか?

臼井さん:2022年は7月半ばに、我々がプロデュースした極厚食パンのサンドイッチを提供する「ツクモサンドイッチ」がオープンしました。今後も中国料理の「南国酒家」が、東京駅で展開する新業態店舗のオープンを目指して進行中です。

また、元力士の方々が観光客向けに「相撲ショー」を開催したり、「相撲ショー」がない日はとんかつを売るという店を、元銭湯の跡地で計画しています。力士の方々は15歳前後で相撲部屋に入り、30歳前後で引退するため、その後のセカンドキャリアに悩む方が多い。その雇用を踏まえた飲食店をコンセプトから設計しています。

──飲食の新規事業におけるコンセプトとは、どのように考えていくべきものでしょうか。

臼井さん:まずはターゲットを考えることですね。何を提供するかよりも、「誰に」つくるかを最初に考えます。老若男女にセグメントを分け、例えば「女性・20代」であれば、この人たちが何を望んでいるのかを考えていくことが重要です。店舗の立地もターゲットに合わせて選定していきます。

立地が先に決まっているという場合、立地に合わせた客層を選定し、客層に合わせた業態を検討するという流れがスムーズです。ただし、コロナ禍という環境の変化に伴い、ターゲットやジャンルを絞り込むことが必要なのか、求められているかはよく考える必要があるでしょう。    

──コロナ禍を受け、飲食店の在るべき姿はどう変わっているのでしょうか?

臼井さん:これまでの飲食店は、「どうやって目立つか=一点突破型」という印象の店も多かったと思います。しかし、コロナ禍で外食の頻度が減少した中、とがったもので勝負することが果たして正しいのかを自問するようになりました。今、外食に求められているものは、本格的で安定した、安心感のある料理と清潔感。いわゆるQSC(Quality=品質、Service=サービス、Cleanliness=清潔さ)の重要性がますます問われていくのではないかと。原点回帰ですね。

直営店の運営はもちろん、数多くの飲食店のコンサルティングにも注力する臼井さん

今、外食に求められるのは「安心・安定・清潔感」

──直営店「BOUILLON(ブイヨン)Hongo3」のコンセプトを教えてください。

臼井さん:中華やイタリアンは高級店からカジュアル店まで幅が広く、かなり敷居が下がっていると思います。フレンチでもカジュアルな店はありますが、現地にあるような「大衆食堂」は日本でほとんど見かけません。また、多くの店舗がアルコール主体となっていて、日常的に使うという意味ではイメージしづらいと思います。

そんなハードルを下げ、食を通じて日常を豊かにできるような店にしたいという思いから、フレンチの「BOUILLON=大衆食堂」をつくることに決めました。フランスでは、ブイヨンと呼ばれる大衆食堂の業態が100年以上前から存在しています。

安心・安定・清潔感は大前提ですが、加えてBOUILLONの場合は「日常使い」が中心だと考えて、サラリーマンや学生といったターゲットを絞らず、さらに料理自体もニッチな分野に絞っていません。ある意味で“ぼんやり”としているように感じられるかもしれませんが、この“ぼんやり”こそ、現在に求められている要素だと考えています。より多くの皆さんの日常に寄り添いたいです。

臨場感あるキッチンにしたいと、カウンターには食材を並べられるショーケースを設置。「調理する音や匂いが店内に充満して、みんながワイワイガヤガヤしてくれたら」と臼井さん

オープンを目の前に、提供予定のメニューの確認に余念がない

──飲食事業のプロフェッショナルである臼井さんが、ゼロから挑戦する店舗ですね。それぞれのポイントについて、こだわりを教えてください。

臼井さん:具体的にはこのようなものです。

【立地】どのターゲットに響くのかを見極められる場所

本郷三丁目という地域は住宅地でありながら、大学やオフィスも点在していることから、幅広い層が行き交う街です。「日常使い」を目指すという前提に立つと、オフィスワーカーにとって職場付近は日常であり、学生にとっては学校周辺が日常といえます。

多様な客層が見込めるということは、1号店として「どのようなお客さまのニーズに応えていけるか」を調査するに当たって非常に適した場所だと考えています。また、U.RAKATAのオフィスからそれほど遠くなく、管理しやすい場所である点もポイントです。

【外観】明るい壁色と照明効果で入りやすさを醸成

来店を促すために最もこだわったのが照明です。店内はベージュを基調とした明るい色の壁ですが、夜は大きな窓から店内のオレンジ色の灯りが見え、外観は白く照らされています。外を歩いている方に少しでも店の雰囲気を感じ取っていただきたいという思いがあります。

当初はヨーロッパをイメージしたゴシックなデザインにしようかとも考えましたが、高級感が出ることで敷居が高くなり、日本人にとっては入りづらさを感じてしまうと思い、すっきりとしたカフェ風のイメージに近づけました。

カジュアルな雰囲気の店内。窓が大きく開放感があり、道行く人からも店内が見渡せる

【内装】店を印象づける“シンボル”は1カ所のみ

お客さまが手に触れる部分には本物を使いたいと考え、カウンターの木材やテーブル・椅子などは質感を重視しました。また、店内の色味はナチュラルな統一感を持たせつつ、入口からすぐ目に留まる場所にグリーンの色壁を配しました。

象徴的なポイントとして、記憶に残るよう意識したのはこの1カ所のみ。主役はお客さまですから、店内が主張しすぎることなく、食事を楽しむことに集中していただけるような空間にこだわっています。

グリーンの色壁とポスターがお店の雰囲気を印象付ける

鮎のコンフィや国産骨付き鶏もも肉のコンフィなど、リーズナブルながらどれもこれも本格的な味わい。ボリュームもあって、おなかいっぱいになること間違いなし!

前編はここまで。下記、後編は開店にかかった費用やメニューづくりのヒミツ、求人に関してなど、飲食事業者にとって気になる情報を聞き出しました。

取材先紹介

株式会社U.RAKATA
フランス大衆食堂 BOUILLON Hongo3
取材・文前田実穂

編集ライター、メディアディレクター。原宿カルチャーから社会インフラまで、そしてローティーンからシニアまでとジャンル・世代問わず幅広く経験。飲食と接客が好きすぎて、下北沢でバルの開業・運営実績を持つ(約6年)。実はITOベンチャーのCRM職出身という異色の経歴も。

写真野口岳彦
企画編集株式会社 都恋堂