ついに新店舗オープン!『かつや』元社長・臼井健一郎さんが考える「今、求められる飲食店」<後編>

とんかつ・カツ丼専門店『かつや』で知られるアークランドサービスホールディングス株式会社を躍進させた臼井健一郎さんは、2021年に同社の社長を退任後、現在は飲食事業やコンサルティングなどを担う株式会社U.RAKATAを運営しています。

2022年8月26日、臼井さんは独立後、初となる直営飲食店「BOUILLON Hongo3(ブイヨン本郷3)」をオープンさせました。

前編では開店までの経緯を含め、コンセプトの設計方法から外観・内観の考え方を紹介しましたが、後編ではメニューへの工夫やお金をかけるべき場所などについて話を聞きました。

前編はこちらから 。

飲食店は、個人店だからこその戦い方がある!

──BOUILLONの料理やメニュー構成などの工夫も教えてください。

臼井さん:ご説明しますね。

【料理】価格・ボリュームで敷居を下げても本格フレンチを追求

他店との差別化もありますが、家庭では調理に手間がかかる魚料理を充実させています。しっかりとした調理法で手作りにこだわり、本格的な味を追求していますが、料理自体は「素朴」です。派手になると、そのぶん敷居が高くなってしまうからです。メニュー開発段階では、何度も「もっと大衆感!」という指示を出しました(笑)。

彩り豊かで食欲がそそられる料理の数々

「Tシャツやジーンズで来られるような気軽さを目指しながらも、料理への期待値が下がってしまうことは避けたい。バランスを考えながらボリューム感や価格にも配慮し、期待に応える本格料理を提供します」と、シェフの庄田健治さん

【ドリンク】ワインは産地にこだわらず価格と価値を考えてセレクト

ワインはフランス産だけに絞らず、味とコストパフォーマンスを考えてセレクトしました。料理に合わせて試飲してみた結果、ニュアンスが似ていれば価格で選択するといった具合です。

グラスワインは500円〜、ボトルは1,800円〜とリーズナブルな設定。フランスのワインにとらわれることなく、スタッフが「おいしい!」と感じたものをラインアップ

【メニュー構成】お財布を気にせずシェアしやすい品ぞろえ

ランチは、ランチプレートを990円~。ディナーはアラカルトを中心にして、前菜のラインアップを450円~、メインは2,000円~。アルコール次第ですが、客単価は4,000円前後を想定しています。一般的な居酒屋さんに行くのと同じくらいの価格で、あまりお財布を気にせずに使いやすい店を目指しました。

背景には、何人かでテーブルを囲み、取り皿を持ってわいわいシェアしていただきたいという狙いがあります。アラカルトは魚だけでなく鶏・豚・牛など肉のメイン料理も選べるよう、ある程度メニューに幅を持たせることも意識しました。また、物足りなさを感じることなくおなかいっぱいで帰っていただきたいと考えています。

【求人】手作りや工夫することをいとわない「料理好き」のスタッフを採用

お客さまの年齢層を考慮し、落ち着いた雰囲気の人材を求めていました。求人媒体だけでなく工事中の店頭で掲示した募集告知からもご応募いただきました。結果的には「料理が好きな人」を採用できました。原価高騰を乗り切る話にも重なりますが、料理好きな人は自分で作って表現をしたいし、新しい手法を覚えたいもの。だからこそ、手作りしながら工夫して進めることができています。

臼井さん


<重要!>
個人店の戦い方は、原価高騰を「手作り」で乗り切ること

仕入れる商品自体が高騰している現在、原価を下げたくても具体的な方法は存在しません。結果的にできることは、加工品を仕入れて工数を減らすことよりも、原材料から手作りして価格を抑えることしかないんです。ソースを仕入れるのではなく、手間暇かけて原材料から作る。もちろん調理の人件費はかかりますが、個人店だからこそできる戦い方です。

 

臼井さんは「手作りだからといって、労働時間が長くなりすぎてもいけません。その点はしっかりと考えたいですね」と話す

SNSでおいしさを確実に伝えるための「色温度」を意識

──ちなみに……BOUILLONの立ち上げにかかった費用について教えてもらえたりしますか?

臼井さん:それ、やっぱり気になりますよね(笑)。20坪の店舗ですが、トータル3,500万円くらいでしょうか。内訳としては、工事関係全般に2,500万、厨房機器300万、その他備品関係200万円ほど。これに、物件借用の敷金や仲介手数料などを含めて約500万円が初期費用です。料理の開発やメニューブックのデザインは内製しています。これまでに私がコンサルタントとして携わってきた和食ファストフードの店は、BOUILLON以上の費用がかかっています。

──臼井さんが考える、「お金の正しい使い方」は?

臼井さん:個人経営の場合、大手チェーン店が出せるような好立地への出店は、家賃が高すぎて難しいですよね。大手企業にどうやって勝つかというと、「チェーン店とは異なる内装がつくれるか」が重要です。例えば、次のような観点に基づいています。

お客さまが手を触れる場所にお金をかける

床・壁・天井にはお金をかけず、椅子・家具・テーブルにはお金をかけたほうが良いでしょう。お店の壁や床について記憶している人はあまりいません。店内で印象に残してほしい場所を決めたら、それ以外はそこまでお金をかける必要はありません。お金のかけ方に強弱を付けることを意識しています。

テーブルはアンティークショップで購入し、椅子は教会で使われるチャーチチェアを採用。カウンターも手触りの良い木材を使用
おいしさが伝わる写真のために照明は「色温度」を意識する

店の空気感を左右する照明は非常に重要ですが、今はほとんどの方が召し上がる前にスマホで写真を撮りますよね。良くも悪くも店の評判は写真から出ることが多いので、ものすごくおいしいものを、「ものすごくおいしそうな写真」として収めてもらうためにも、明るさや角度の調整だけでなく色温度(ケルビン)の調整ができる照明を考えることもおすすめします。

立地や環境、昼・夜に合わせて照明を調整したり、お客さま目線を追求して店をつくることが、個人店の戦い方だと考えています。

照明を調整するためのスイッチがズラリ。照明の明るさや色温度までこだわった理由は「お客さまがSNSで発信してくださる写真も、一種のプロモーションですから」と臼井さん

お客さまの喜び=自分たちの喜びだと感じられる店に

──独立後、直営店をオープンさせた感想を率直にお聞かせください。

臼井さん:物件が見つかってから約3カ月、限られた時間の中で苦労もありましたが、メニュー開発や接客など、これまで多くの経験を積んだプロが集まるU.RAKATAの強さを感じました。本当はもう少し期間があったほうがいいかもしれませんが、「大丈夫、俺たちは運がいいから」を合言葉にして頑張りましたね(笑)。

──今後の目標は……?

臼井さん:赤字にしないことはもちろんですが、まずはお客さまに喜んでいただける店にすることです。そんなお客さまの姿を、従業員も喜んでくれる店にしたいと思います。また、スタッフがいつか自分の店を持ちたいと考えたときにも、役に立てる環境であればうれしいです。運が良ければ2店舗目、本郷三丁目というエリアに興味が湧いてきたらこの地域でもう1業態、ということも視野に入れています。

U.RAKATAには写真・動画撮影の事業として「わんわんバースデーフォトサービス」がありますが、ゆくゆくはペットと一緒に来店していただける場所をつくりたいですね。例えば、1階がレストランで2階は写真撮影できるスタジオが一体となった空間です。

まずは1店舗をしっかりと磨き上げてから、次の展開を考えたいですね!

お店づくりの全貌を見せてくれたU.RAKATAの面々。「おなじみ」では今後もU.RAKATAの事業や新しい取り組みに密着していきます!

取材先紹介

株式会社U.RAKATA
フランス大衆食堂 BOUILLON Hongo3
取材・文前田実穂

編集ライター、メディアディレクター。原宿カルチャーから社会インフラまで、そしてローティーンからシニアまでとジャンル・世代問わず幅広く経験。飲食と接客が好きすぎて、下北沢でバルの開業・運営実績を持つ(約6年)。実はITOベンチャーのCRM職出身という異色の経歴も。

写真野口岳彦
企画編集株式会社 都恋堂