進化系レモンサワーで集客に成功「晩酌屋おじんじょ」店主・高丸聖次さんの常連客に愛される店づくり

おじんじょ

今までにないレモンサワーで新たなトレンドを生み出し、連日満席の人気店となった「晩酌屋おじんじょ」。今では「高丸電氣」「祐天寺Bob」と順調に店舗を増やし、地域に根差したお店づくりに注力するオーナーの高丸聖次さんに、常連客の心をつかむための工夫を伺いました。


一度ならず、何度も足を運んでくれる「おなじみ」のお客さんは、飲食店にとって心強い存在です。多くの常連客の心をつかむお店は、どのような工夫をしているのでしょうか。

今回、話を聞いた高丸聖次さんは、都内で居酒屋を3店舗運営する株式会社5way kitchenの代表取締役です。2014年に開業した「晩酌屋おじんじょ」は近年のレモンサワーブームの火付け役として注目を集め、約8坪で月商800万円を売り上げるほどの人気店に。2020年には2号店「高丸電氣」、2022年には3号店「祐天寺Bob(ボブ)」をオープンするなど、順調に店舗を増やしています。

「お客さんの満足度を上げ、もう一度行きたいと思われるよう常に考えている」という高丸さんが大切にしていることとは? お店づくりのポイントを伺いました。

東京に憧れ上京した青年が、飲食業の楽しさに目覚めるまで

――高丸さんは広島県三島市出身で、高校卒業を機に上京されたと伺いました。飲食業に就くまでは職を転々とされていたとか。

高丸聖次

高丸聖次さん(以下高丸さん):昔から東京に憧れがあって、工業高校を出た後は東京に本社がある工務店に就職を決めました。ただ、研修後に配属が静岡か兵庫になると聞き、「思っていたのと違う」と早々に退職。そこからはフリーターで、職種・業種を問わず社員やアルバイトとして働いていました。中でも飲食店勤務が多かったですね。高校時代の3年間、広島の居酒屋チェーンでアルバイトしていたこともあり、慣れていたんです。

20歳の頃、条件の良さに惹かれて株式会社楽コーポレーションが運営する「くいものや楽」にアルバイトとして入りました。ここで得た経験がとても大きく、飲食業の楽しさを知るきっかけになったんです。

――広島の頃にアルバイトしていた居酒屋とは違ったんでしょうか?

高丸さん:勤務初日は普通、先輩の動きを覚えたり、洗い物したりが一般的ですよね。だけど、先輩に言われたのが「そこのお客さん2人に声かけてきて」って。ナンパみたいですよね(笑)。

僕、本当はすごく人見知りなんです。広島の頃でも接客が苦手で、なかなかお客さんに声をかけられなかった。きっと「仕事だから」と必要以上に肩の力が入っていたのだと思います。このお店で、自分自身もっと楽しみながら働いていいんだと知りました。

また、当時は少なかったオープンキッチンを取り入れていたのも刺激的でした。お客さんとの距離が近く、目の前でリアクションが見られるので他のお店よりもコミュニケーションの密度が高くなります。自然に客席への目配りや声掛けができるようになり、また自分が工夫した行動に対して結果がすぐに返ってくることが楽しくて、やりがいを感じるようになりました。

高丸聖次

高丸さん:もともと僕は食いしん坊でお酒は何でも飲みますし、人見知りだけど人と話すのも好き。飲食業はその3つが交わる場所なので性に合っていたんでしょうね。その後、別の業種に就いた時期もありましたが、26歳で楽コーポレーションと業務提携をしていたフーズサプライサービス(現:株式会社ブラボー・ピープルズ)に正社員として入社しました。「汁べゑ」(楽コーポレーション)や「椿堂」(ブラボー・ピープルズ)などの居酒屋で8年現場主体の経験を積み、最後の2年は独立までの準備期間として、取締役としての立場から経営ノウハウを学ばせてもらいました。

フーズサプライサービスの社長は異業種から飲食業界に参入した方で、自身も居酒屋が大好きな人。経営者でありながらもお客としての視点を忘れず、柔軟な考えで店づくりに取り組んでいました。楽コーポレーションでの経験が僕の飲食の原点だとしたら、フーズサプライサービスでの経験は僕の基礎。どちらも今に生かされています。

「晩酌屋おじんじょ」のアイデアはこうして生まれた

――独立後の2014年に開業された「晩酌屋おじんじょ」(以下、おじんじょ)は、昔のレトロな雰囲気がありつつ、今どきのモダンな要素も取り込んだ酒場という意味で“ネオ大衆居酒屋”“ネオ酒場”とも称されています。こうしたアイデアはどのように出てきたんでしょうか。

おじんじょ

おじんじょ (画像提供:株式会社5way kitchen)

高丸さん:先ほどお話しした、楽コーポレーションとフーズサプライサービスの柔軟なお店づくりから得たことが大きいです。僕は飲食店の中でも居酒屋が好きで、毎日でも通いたくなるような普段使いができるお店を作ろうと思いました。ただ、昔ながらの大衆酒場ってちょっと古めかしくて、特に女性だと入口を開けるのにも勇気がいるじゃないですか。恵比寿という土地柄も考慮し、そこを変えようと考えました。店前は和食店のようなモダンなテイストにし、通いやすいリーズナブルな価格帯に。女性ひとりでも居心地よく過ごせるお店を目指しました。

――なぜ女性の来店を重視したのでしょうか?

これは僕の持論ですが、男性は好きなお店を見つけたらずっと同じお店に通う傾向が高いなと。さらに、好き過ぎると人に教えない。人気が出て混みすぎたり、自分が行けなくなったりするのは嫌だと考える人もたくさんいると思います。

一方で女性はトレンドにも敏感ですし、好き嫌いがはっきりしている。好きになったお店には友人や家族、恋人を連れて来てくれる方が多いんです。今はSNSの影響も大きいですが、やはり大切にしたいのはクチコミの力。一度来てくれたお客さんが新規の方を連れて来たくなる魅力的なお店にできれば、必然的に認知度が上がるのではと考えました。

――なるほど。内装についてはどういった点を意識されましたか。

おじんじょ店内

おじんじょ店内(画像提供:株式会社5way kitchen)

高丸さん:内装は長らくフーズサプライサービスの店舗を手掛けてこられたスタジオムーンという会社に依頼して、担当は当時在籍されていた花岡美穂子さんにお願いしました。こちらからの要望としてお伝えしたのは「20席以上取って欲しいこと」と、「女性が入りやすい店にしてほしいこと」。彼らは飲食店の内装を作るプロなので、僕の作りたいお店のイメージやターゲット層をしっかり共有して進めていきました。清潔感かつ高級感のあるつくりに、外からでもお店の様子が伺える全面ガラス張りの窓はそれらを意識した結果です。

――「おじんじょ」を始め、高丸さんが手掛けるお店と言えばやはり、バラエティー豊かな「進化系レモンサワー」も有名です。そもそもどうしてレモンサワーに着目したんでしょうか?

高丸さん:僕は、厨房にこもって何か作り上げるより、外でいろいろ吸収し、インスピレーションを得る方が好きだし得意なんです。独立の前後には、何十年も長く営業されている東京の居酒屋を1年半ほどかけて飲み歩きました。お店が続いている理由を考えると「どのお店も普遍的な名物メニューがあるな」と気づいたんです。そこで「おじんじょ」も3つの名物を作ろうと。この名物への考えは、のちに開業する「高丸電氣」「祐天寺Bob」にも共通します。

2つはすぐ決まったんですよ。ストーリー性のあるメニューの方がお客さんの印象に残るのではと考え、ひとつは僕の出身地である広島県のブランド鶏「みはら神明鶏」を使った肉汁焼きに。二つ目は僕が心底惚れ込んでいる鹿児島・甑島(こしきしま)の芋焼酎「六代目百合」。三つ目をレモンサワーに決めたのは、コンビニでよく買っていたキリン「氷結」がきっかけでした。

以前から、前の店の先輩の教えで「世の中のニーズを知るにはデパ地下とコンビニの人気商品をベンチマークしろ」と言われてきたんです。当時は飲料メーカー各社から缶チューハイのレモンサワーが出始めていた頃。実際、どの居酒屋にも必ずレモンサワーがあります。でも炭酸が抜けていたり、レモンに特有の匂いがあったり、こだわりを持って作っているお店はほとんどありませんでした。こだわりのレモンサワーをお店で出せれば、他店と差別化ができると考えたんです。

祐天寺Bobの「ラム・ミントレモン酎」

祐天寺Bobの「ラム・ミントレモン酎」

高丸さん:故郷の広島でツテを辿り、広島県尾道市にある瀬戸田町の農家さんから減農薬のレモンを直接仕入れることができたので、シンプルな「いつものレモン酎」を始め、モヒートからヒントを得た「ラム・ミントレモン酎」など6種類のバリエーションを考えました。最初から当たると予想して作ったわけではありませんでしたが、世のレモンサワー人気の良い波に乗れたのではないかと思います。

祐天寺Bobメニュー

――居酒屋定番の「ポテトサラダ」をカレー風味にして、たくあんをトッピングした一品も斬新ですよね。こうした王道かつ新規性のあるメニューはどのように開発されたのでしょうか。

高丸さん:これも先ほどの居酒屋めぐりで得たアイデアです。長年愛されているお店を支えているのは、「煮込み」や「ポテサラ」といった、ずっと変わらない一品料理。「おじんじょ」でも王道メニューに自分らしさをプラスする逸品を作りたいと考えました。ゼロベースからアイデアを編み出すのではなく、1を100に広げていけば、懐かしさと新しさの両方の要素を持つメニューが生まれます。他のお店で良いなと思ったものは、うちのお店らしく変えて取り入れていきました。

「ネギどっさりチーズとんぺい焼き」

祐天寺Bobで人気の「ネギどっさりチーズとんぺい焼き」

あっ、でも「向こう三軒両隣のお店のマネはしない」など自分なりのルールは決めていますよ。どうしてもやりたいと思った時は、先方に許可を取ります。

――「おじんじょ」を始め、高丸さんが運営するお店には飲食店の経営者など同業の視察来店も多いそうですね。

高丸さん:ありがたいですよね。うちとしてはそれで売上につながっている部分も大きいので。うちのお店でいいなと思ったところがあれば取り入れてもらっても全然構いません。節操を持ってやっていただければ(笑)。飲食業界は昔からその繰り返しで切磋琢磨してきましたし、ひいては外食産業の盛り上がりにもつながるのではと思っています。

大衆居酒屋ならではのコミュニケーション術

――2店舗目の「高丸電氣」、3店舗目の「祐天寺Bob」は、どちらも「おじんじょ」とは異なるテイストですよね。この2つのお店はどのような発想で出店されたのでしょうか。

高丸電氣

高丸電氣(画像提供:株式会社5way kitchen)

高丸さん:「高丸電氣」に着手したのはコロナ禍前、東京オリンピックに向けて盛り上がっていた時期で。渋谷近隣の在住、在勤の方が日常使いできるお店であり、なおかつインバウンド需要に向けて世界中の人が楽しめるようなお店にしたいと思い作りました。ドリンクケースから自分で取り出す仕組みや厨房と客席の境目をつくらない設計は、昔よく遊びに行っていたクラブから発想を得たものです。

2022年4月にオープンした「祐天寺Bob」は一転、居酒屋の原点に立ち返ろうと。「温故知新」をテーマに、僕が考える居酒屋の魅力を盛り込んでいます。

長テーブル

「祐天寺Bob」店奥にある、2,100mm×600mmの長テーブル

店奥にある一枚板のテーブルは、以前働いていたフーズサプライサービス店舗の閉店時に引き取って来たもの。向かい合って座ると、距離感が心地いい幅に仕立てられていて、改めてスタジオムーンさんは寸法のプロでもあると実感しました。

――確かに、向かい合って座っても圧迫感がなく、居心地がとてもいいですね……!それにしても、3店舗とも雰囲気が違うんですね。 

高丸さん:それぞれテイストもコンセプトも違いますが、会社として「息の長い店」「その地域の名店に」「老若男女が混在する店」「記憶に残る店」の4つを共通目標として掲げています。そのためには瞬間的に繁盛するお店ではなく、安定的に地域になじむお店にしていこうと。

――具体的に、地域になじむための工夫ってどんなことをされていますか?

高丸さん:一番大切にしているのはお客さんとのコミュニケーションです。今、僕自身は現場から一歩引いて若いスタッフに任せていますが、見た目の清潔感を大切にすること、お客さんと積極的に会話をすることを心がけるように伝えています。例えば「おかわりいかがですか」「お熱いのでお気を付けください」など提供の際に必ず何か一言添えたり、スタッフの顔と名前を憶えてもらうために名刺をお渡ししたり。

お客さんがお帰りの際はお店の階段下までお見送りに行きます。忙しい時は「また来てくださいね」と一言、二言しか交わせない時もありますが、お客さんを大事に思っている気持ちが少しでも伝わるのではと考えています。それにうちのお店は居酒屋なので、活気も大きな要素。“こだま”というスタッフ同士の声の掛け合いも、場づくりの一環として欠かさないようにしていますね。

――「おじんじょ」は開業から7年経ち、今では予約が取れないことも多いとか。新規の方と常連さん、割合としてはいかがでしょうか。

高丸さん:ありがたいことに認知度が上がり、恵比寿の街になじんだ手応えを感じています。割合としては近隣以外の方も多く来ていただけるようになったので、新規の方が7割、常連さんが3割程度。常連さんは足しげく通ってくださる方が多く、初めての方をよく連れて来てくださいますね。

――「おじんじょ」が地域になじんだと感じた手応えって、例えばどんな瞬間で得られましたか?

高丸さん:そうですね……。開業2年目、お店が2回転するようになった頃でしょうか。お客さんが新しいお客さんを連れて来てくださることが増えて、割合が半々になりとてもいいバランスになってきたんです。また、常連さんに甘えられるようになってきたことも大きいですね。

――常連さんに甘える、とは?

高丸さん:例えば、満席の状態で新規の方が来店すると、それを察した常連さんが「ここ空けるからどうぞ」と言ってくれるようになりました。逆に、食べ終わってゆったりしているタイミングであればスタッフから「ごめんなさい、今日はちょっと空けてくれますか」と言える。もちろん、常連さんを大事にすることが大前提ではありますが、お客さんが常連さんだけになってしまうと身内感が出て、新規の方が入りにくい空気になってしまいます。気を遣い過ぎず、そうした関係性が築けるようになった時に手応えを感じましたね。

――なるほど…。お客さんとスタッフさんが良好な関係性をつくることが常連客を生み、新規のお客さん獲得にもつながっているんですね。最後に、人気店をつくり上げてきた高丸さんが思う「常連客を生むお店づくり」への心構えがあればお聞きしたいです。

高丸さん:言葉にするのは難しいですが……。僕は昔から「お客さんにまた来てもらうために、今日何をすればいいか」をずっと考えて行動してきました。「1回行けばいい」ではなく「もう1回行きたい」って思ってもらうためには、今日の満足度を上げることが絶対条件。ただ、お客さんによってニーズが違うので一概には言えません。僕も試行錯誤の繰り返しですが、着実に積み上げていくことで20年、30年続くような愛されるお店づくりにつながるのではと考えています。

 

【お話を伺った人】

高丸聖次さん

恵比寿「晩酌屋おじんじょ」、渋谷「高丸電氣」、「祐天寺Bob」と3つの居酒屋を運営する株式会社5way kitchen代表取締役。広島県三原市出身、工業高校を卒業後に上京し、アルバイトとして入社した楽コーポレーションで飲食業の楽しさを知る。のちにフーズサプライサービス株式会社で計10年経験を積み2014年に独立、開業した「晩酌屋おじんじょ」は月商800万円超の人気店へと成長させている。
・晩酌屋おじんじょ Instagram:@banshakuyaojinjo
・高丸電氣 Instagram:@takamaru_denki
・祐天寺Bob Instagram:@bob_yutenji

【取材先】

祐天寺Bob

住所:東京都目黒区祐天寺2-12-21 香村ビル 2F
電話:080-5212-9787

取材・文/田窪 綾
調理師免許を持つフリーライター。惣菜店やレストランで8年ほど勤務経験あり。食分野を中心に、Webや雑誌で取材やインタビュー記事作成、レシピ提案などを行っている。

撮影:佐坂和也

編集:はてな編集部

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