飲食店激戦区の東京・三軒茶屋で「三茶呑場マルコ」を含め4店舗を展開、2022年には下北沢にも進出した株式会社2TAPS(ツータップス)。どのお店も盛況で、高い売上を誇ります。新規で立ち上げたお店を人気店にするための秘訣や考え方などについて、代表取締役の河内亮さんに話を伺いました。
一度ならず、何度も足を運んでくれる「おなじみ」のお客さんは、飲食店にとって心強い存在です。多くの常連客の心をつかむお店は、どのような工夫をしているのでしょうか。
三軒茶屋の人気店「三茶呑場マルコ」は2014年開業。その後も「ニューマルコ」「コマル」「食堂かど。」と、いわゆる「マルコ系列」のお店4店舗を三軒茶屋で展開し、いずれも坪月商70万円超えという人気店へと成長させています。さらに2022年には下北沢へ進出し、新商業施設「下北沢ミカン」内に「下北六角」をオープン。こちらもオープンから2カ月で坪月商65万と人気を博しています。
河内さんはアパレル業界出身。「接客が好き」という気持ちは飲食店を経営する今でも変わらず、店頭でのコミュニケーションだけでなく、SNSを活用した施策を行うなど、ホスピタリティーやサービスにはノウハウとこだわりを持っています。常連客をつくる接客のコツやお店づくりのポイントを深堀りしました。
- 河内亮さん
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三軒茶屋の人気店「三茶呑場マルコ」を含め5店舗を運営している株式会社2TAPSの代表取締役。もともとアパレル業界出身で、接客が好き。
- アパレル業界からの転身と5店舗展開に至るまで
- 「アイコンメニュー」による集客と提供のこだわり、SNSの活用法
- ホスピタリティーとは「お客さんの様子に気づくこと」と「提案すること」
- 人、料理、空間。店内に行き渡る常連さんづくりのためのまなざし
アパレル業界からの転身と5店舗展開に至るまで
──もともとアパレル業界出身とのことですが、飲食店に転身したきっかけは何だったのでしょうか。
河内亮さん(以下、河内さん):服飾の専門学校を卒業してから株式会社BEAMSに入社して、その後もメーカー、ブランドの会社に勤務していました。もともと接客が好きで、仕事自体は楽しかったのですが、管理職になって現場を離れることになり、自分の中で接客の現場に戻りたい気持ちが強くなっていました。
そんな時、お客さんとして訪れた居酒屋さんで、すごく楽しそうに働く店員さんの姿が目に入りました。お客さんにも喜ばれて、素晴らしい仕事だなと。その居酒屋は、株式会社楽コーポレーションという会社が経営するお店だったのですが、料理人として修行した後に、その系列の会社に転職することを決意しました。
料理はもともと好きでした。親が忙しかったこともあり、幼い頃から自分で料理を作っていたんです。しかし、修業を始めて実際にお店で作る側になってみると、「商品として人に食べさせるものを作る」というのは、本当に気を使う仕事だと身に染みて感じました。1つの料理を作るのにもいろいろな手順があって、器、提供の仕方、全てのバランスが整っていないとお客さんに響かないんです。
──1店舗目をオープンしたときについて、覚えていることはありますか。
河内さん:オープンしてから3カ月ぐらいは、ずっと友人や知人で席が埋まっている状況でした。その後、客足が途切れそうになった時に助けてくれたのが、近隣に住む方々です。そのとき来てくれたお客さんが「あそこのお店、いつも混んでいて人気だよね」「こないだやっと行けたよ、なかなかいいお店だったよ」と口コミでどんどん広めてくれました。おかげでお店は繁盛し、それから1~2年間隔で2店舗、3店舗と出店しながら今に至ります。
新店をオープンしたきっかけも、お店が小さいので、せっかく来てくれたお客さんの入店をお断りすることが増えてきたからという背景がありますね。
──飲食店の経営者としては破竹の快進撃を遂げているように見えますが、それぞれのお店のコンセプトはどのように考えましたか。
河内さん:居酒屋がベースというのは基本的に変わりません。自分たち主導というより「お客さんやスタッフと一緒につくってきた」という感覚ですね。
新しくお店をオープンする前には、よく来てくれているお客さんに「お店に求めていることは何か」「改善してほしいところはどこか」をヒアリングして、お店の運営に反映するようにしました。同じように、スタッフにも「どんなメニューが好評か」「最近はどんなお客さんが増えていたか」など、気づいた点を共有してもらうようにしました。
こうして、お客さんとスタッフから出てきた意見を組み合わせながら出店してきた結果、お店に常連さんがついて、5店舗目まで広がったんだと思っています。
例えば、「コマル」は、四角いカウンターではなく円形のカウンターを取り入れています。最初から他のお客さんと1つの机を共有している状態なので、「お客さん同士が自然とつながっていくだろうな」という気持ちがありました。思い描いていた通り、隣同士に座っているお客さんたちが会話を弾ませている光景も見られましたね。
それで、お客さん同士が顔なじみになると、結果としてお店の常連さんにもなってくれる。あとは客層に合わせて、それぞれのお店でパーソナルスペースをつくったり、イスや内装を変えています。もちろん、メニューも客層に合わせて差別化を図っていますね。
「アイコンメニュー」による集客と提供のこだわり、SNSの活用法
──河内さんのお店では、それぞれのお店ごとに主役になるような「アイコンメニュー」を決めておくそうですね。このアイコンメニューについて詳しく教えてください。
河内さん:もともと、それぞれのお店のカラーになるようなメニューが必要だと考えていました。そういうメニューは原価が高くなってしまうことも多いのですが、だんだん口コミにつながって、最終的にはプラスになる。それを、1店舗目を運営していたときに体感したんです。
それぞれのお店のアイコンメニューは、僕が米どころの新潟県出身ということもあって、比較的ご飯ものが多いですね。絶対にご飯ものと決めているわけではないのですが、その日の「締め」として明確にオーダーするタイミングがあることもプラスになっています。
居酒屋業態だと、前菜・メイン・締めというふうに、コース料理のような食事の流れを想定して注文するお客さんがあまり多くないんです。なので、代わりにこちらが食べてほしいものを提案して、お客さんにストーリーをつくってあげて、締めまで完結させてあげる。それがサービスだと思っています。
スタッフにも、お客さんをどうやってアイコンメニューまで誘導していくか、目安となる客単価はどれくらいかをしっかり話しています。お店にとって意識していることをスタッフにも共有しておくことで、お客さんに「SNSでこれを見た」とはじめにアイコンメニューを提示されても、「それならこれとこれを食べてもらって、最後にこれ(アイコンメニュー)で締めるのはどうですか」という具合に、お店がイメージしている締めまでの流れを説明できますしね。
お客さんから頼まれるものだけを提供するミッションは、作業的でどこかつまらないですよね。サービスマンとしては、自分たちの意図するものを食べてもらって、お客さんが喜んで帰ってくれるのがベストだと思っています。
──InstagramなどのSNSも積極的に活用されています。「いいね」が多い投稿の傾向などはありますか。
河内さん:やはり、人がメインの写真よりも、直感的においしそう・食べたいと思える料理の写真の方が圧倒的に「いいね」数が多いですね。また、味が想像しにくいのか、調理する前の食材の写真もいまいち「いいね」数が伸びません。ちなみに、一番反応が悪いのはドリンクの写真です。おそらく料理の写真よりもビジュアル的なインパクトに欠けるのと、飲みものだと食欲にダイレクトに結びつかないからだと思います。
──SNS経由での集客効果はいかがでしょうか。
河内さん:あくまでうちに限った場合ですが、新規の客数だけで見ると、グルメサイトでやっている取り組みの半分ぐらいの集客力です。短期的に集客数を見た場合は、やはり食べログ経由からのお客さんがかなり多いです。
新規のお客さんには、情報が網羅されているホームページやグルメサイトの方が効果的ですね。一方でSNSは、常連さんやお店のファンになってくれたお客さんに対して効果があると思います。
ホスピタリティーとは「お客さんの様子に気づくこと」と「提案すること」
──河内さんなりの、接客のこだわりについて教えてください。
河内さん:「すみません、注文いいですか」とお客さんに言わせない接客を心がけています。これは、以前働いていた、株式会社楽コーポレーションの系列会社で学んだことですね。
運営していたお店の規模は、大きくても20坪ぐらいまでで、かつオープンキッチンスタイルのお店ばかり。そうしないと「お客さんの顔が見えないから」という考えでした。お客さんの顔がいつも見えるような店内レイアウトにしておくことで、いいサービスが行き渡るという思想ですね。
独立してからも、駅前ではなく路地裏にあるお店ばかりつくってきました。お客さんが行きにくい立地にあるということは、そのお店を選んでわざわざ来てくれているわけです。それなのに、お客さんのことをよく見もせずに「座って、食べてもらって、終わり」ではもったいない、という個人的な気持ちが念頭にあります。
お客さんがお店に対してアクションを起こす瞬間というのは、ある程度決まっているんです。具体的には、おしぼりが汚れてしまっているときやドリンクがあとひと口で空になるときなどですね。グラスの氷の音など、ちょっとしたサインにお客さんより先に気づく視野を持っていれば、お客さんに「注文いいですか」とは言われない。そういう基本的なことを心がけています。
また、あまり話しかけてほしくないと思っているようなタイプのお客さんにも、こまめに取り皿を変えてあげるなどの基本的なホスピタリティーを積み重ねていきます。接待で来ているグループも、幹事さんの先回りをするように接客すれば「あのお店、気持ちいいよ」と口コミで話を広めてくれて、どんどん次につながっていきます。
お客さんに声をかけるときも、「飲み物は大丈夫ですか」では良くないんです。それだと、お客さんはつい「大丈夫です」と答えてしまいます。「飲み物を変えましょうか」「違う焼酎、持って来ましょうか」「同じものでいいですか」など、何か次のものを提案するのがホスピタリティーであり、サービスだと思っています。なので、お客さんに声をかけるときは、ちょっと提案のニュアンスを込めたり、ほかの情報を与えたりするべきだと思います。
また、一人ひとりで飲むペースも違うので、お酒が強いか弱いかも接客していく中でヒアリングしています。うちは2時間の時間制なので、その間しっかり楽しんでもらうためにお客さんとコミュニケーションすることが大事だと思っています。
──「お客さんを待たせない」というオペレーションも心がけているそうですが、具体的にどのようなことに注意されていますか。
河内さん:ドリンク提供のスピード感は重視しています。小さいお店なので、お客さんのオーダーの内容がキッチンまで聞こえてくるんです。注文内容が聞こえたら、すぐにキッチンで作り始めるというのを当たり前にやってきました。
料理についても、お客さんの食べるスピードをしっかり見ながら厨房の中のスタッフが連携を取って、お客さんが気持ち良く感じるペースで提供することを意識しています。また、お客さんが注文する前にこちらから食べてほしいものを提案しているので、それも「お客さんをお待たせしない」につながっているかもしれませんね。
──確かに「よく目配りされている」という印象があって、初めて来た人にとっても居心地が良いですね。オペレーション以外に、接客で常連になってもらうためのコツ、ポイントのようなものはありますか。
河内さん:お客さんとの(コミュニケーション面での)距離が近くなるほど常連さんになりやすいという点は確かにあるのですが、「あまり立ち入り過ぎない」のもひとつの接客のあり方なのかなと思っています。
あとは「いいフラストレーション」を何か少しお客さんに残しておくことですね。「そういえば、今日はあの限定メニューが売り切れで食べられなかった」など、お店にちょっとした心残りがあると、次の来店を楽しみにしてまた来たいと思ってもらえます。
人、料理、空間。店内に行き渡る常連さんづくりのためのまなざし
──常連さんになってもらうために、お店のスタッフにはどのようなことを伝えていますか。
河内さん:スタッフには、サービスや接客を通してお客さんの印象に残るような人間になりなさい、記憶に残る人間になりなさいという話をしています。
例えば、焼き鳥屋さんやお寿司屋さんなどは、ある意味でキラーコンテンツとなるメニューが決まっていますよね。そういう強いコンテンツがある業態の場合は、お店の名物を推すことを中心に考えるお店をつくればいい。でも、肝心の接客面がおざなりだと、お客さんには料理だけしか印象に残らないと思うんです。
なので、お店のスタッフである自分のことを覚えてもらって、自分に会いに来てもらえるようになれば、再来店してもらえるようになります。そうなればお客さんも喜んでくれるし、働きぶりを評価されて自分の給料も上がっていくし、お客さんがリピートしてくれるからお店の売上にもなるし、三方よしで回っていきます。
ちゃんと接客しているのに、スタッフの印象がお客さんの記憶に残らないのはもったいないと思うんです。ちょっとしたおすすめメニューの説明をするだけでもいいんです。要所要所でお客さんの印象に残るコミュニケーションをとることで、お客さんは常連さんになっていきます。そういう話を、いつもスタッフに伝えるようにしています。
──なるほど。では、メニューや料理の盛りつけはいかがでしょうか。河内さんのお店では「サプライズを加える」ことを意識されているとお聞きしましたが。
河内さん:料理や盛りつけについては、「お客さんの想像を少しだけ超える」ことを意識しています。それがお客さんの記憶に残りやすいんです。例えば、タルタルソースをたっぷりあしらったカニクリームコロッケの上に蟹のほぐし身を高くのせてリッチ感を演出してみる。ただし、度が過ぎると奇をてらったと思われてしまうので、やり過ぎないようにも注意しています。
また、他の和食や洋食のお店を見てみると、お皿も料理もしっかりしていて、その両方の魅力で成立していると感じることが多かった。けれども居酒屋に行くと、料理はおいしいけれど、お皿が残念……というパターンがよくあったんです。そうしたアンバランスさをなんとか払拭したいという思いがあって、うちでは器にも気を使うようにしています。それも結果として、お客さんのサプライズにつながっているかもしれません。
──マルコはお店の居心地がとてもいいと感じます。器もとても素敵ですが、お店の雰囲気やインテリアなどについてはどのようにお考えでしょうか。
河内さん:グレーやベージュなどの同色系で仕上げたりして、背景が視覚的に邪魔になったり、お客さんの視界がガチャガチャしないようにしています。余計な情報はなるべく減らして、食事や会話に集中してほしいんですよね。
──それ以外に、集客について気をつけているところはありますか? 例えば、Web予約などの施策はいかがでしょうか。
河内さん:ちょうど今、お店のLINE公式アカウントから予約ができる仕組みを検討しているところなんです。お客さんにとってお店の基本的な情報が必要な最初の予約のときはグルメサイトも役立ちますが、2回目以降の予約であればほかの導線から来ていただく形で問題ありません。
最初の予約についても、お店の情報が網羅されている自社サイトが用意されていればいいので、今後は従量課金がない自社サイトからの誘導を中心にできればいいかなと思っています。
──常連さんはLINEから予約してもらうなど、より直接的なコミュニケーションをとる機会が増えるということですね。ちなみにお店の常連さんにはどういうタイプの人が多いのでしょうか。
河内さん:男性も女性もいます。1人で来る男性は、自分だけの場所にしたいからか、いつも1人で来るタイプが多いです。女性ははじめ1人でも、次回以降は友人たちを連れてきてくれる人が多いですね。あと、男性はお酒を飲む量、食べる量が多いので客単価も高めになります。女性は比較的客単価が低めですが、そのぶん、来店回数が多くなる傾向があります。うちに関しては、女性の常連さんの割合が比較的高いかもしれません。
お客さんの年齢層については、新型コロナウイルス感染症が流行しはじめた前後で少し事情が違っています。自粛の傾向が強かった時期は社会人のお客さんが少なくなりましたが、大学生などの若いお客さんはそれほど減りませんでした。多分、これは飲食業界全体で起こったことだと思います。最近はコロナ禍も落ち着いてきて、社会人の常連さんが戻ってきた感じです。
ただ、小さい店に若い人や大学生たちで店内がいっぱいだと、年配の常連さんがお店に入りづらいんですね。それで、常連さんたちの意見をもとにして、お店を広げるような形で、隣にもうちょっとパーソナルスペースが大きい、ゆったりとしたスペースをつくったんです。お客さんやスタッフからフィードバックをもらいながらお店のコンセプトやスタイルを少しずつ変えていくことで、いろいろな客層に目配りができるのかなと考えています。
──最後に、今後お店の目指している方向や未来の話をお聞かせください。
河内さん:今年(2023年)の9月に虎ノ門に出店することが決まっています。虎ノ門は大規模なオフィス街で、三軒茶屋とはお客さんの属性もまったく違います。今の町場でやっているスタイルのままではなく、僕らも進化しながら、居酒屋として虎ノ門のようなオフィス街でどこまで通用するのか挑戦したいと考えています。
また、「食堂かど。」というお店では、お弁当と加工食品の物販の業態を併設しているので、今後進化させていければと考えています。具体的には、セントラルキッチンをつくって、そこで仕込みをして、ECで販売するような無人型のスキームですね。このスキームが構築できれば、今後の運営にも大きく貢献してくれると思っています。
ホスピタリティーを学ぶ
【お話を伺った人】
河内亮さん
株式会社2TAPS代表取締役。アパレルから地元新潟での修行と飲食店勤務を経て、「相方」の取締役・小柴さんとともに独立。「三茶呑場マルコ」を皮切りに、いわゆる「マルコ系列」のお店を三軒茶屋に次々と開店し、2022年には下北沢の商業施設内にも出店。現在は5店舗を展開している。アパレル時代から積み重ねてきた接客スキルを存分に活かし、どのお店も接客を大事にした店づくりで新規顧客が常連になる店に育てている。
【取材先】
三茶呑場マルコ
住所:東京都世田谷区太子堂2-22-9 中野ビル1F
電話:03-6413-8208
営業時間:
<月曜日~金曜日>17:00~24:00(L.O.23:00)
<土曜日>15:00~24:00(L.O.23:00)
<日曜日・祝日>15:00~23:00(L.O.22:00)
定休日:不定休
公式サイト: https://www.marco.tokyo/
Instagram:@sancha_marco
取材・文/スズキマサシ
埼玉県在住のフリーライター。フードコーディネーター3級、飲食店勤務の経験あり。食やフィットネスのほか薬機法関連など、Webを中心に記事作成を行っている。
撮影:平山訓生
編集:はてな編集部
編集協力:株式会社モジラフ