若者に人気の飲食店が多く集う三軒茶屋。その中心地にあるのが三軒茶屋銀座商店街「三茶しゃれなあど」です。年間を通じてイベントを多数実施し、今では週末になると商店街公式サイトへのアクセスが急増するほど。お客さんに何度も訪れてもらうための商店街の施策について伺いました
長年にわたり、その地域に住む人々の暮らしを支えてきた歴史ある商店街。連日テレビやメディアに取り上げられるような活気あふれる商店街は、どんな工夫で集客に取り組んでいるのでしょうか?今回の舞台は、三軒茶屋銀座商店街「三茶しゃれなあど」。若者に人気の飲食店が多く集う三軒茶屋の中心地にある商店街は、どのような施策を展開しているのか。理事長の飯島祥夫さんにお話を聞きました。
- 飯島祥夫さん
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1953年に三軒茶屋で創業した衣料品小売業(株)三恵の代表取締役社長。女性用下着を中心に展開し、2004年に2代目として家業を継いだのち、EC事業に進出し売上を伸長。現在の売上構成比の95%をECショップが占める。2014年より三軒茶屋銀座商店街振興組合理事長に就任。およそ15名の理事とともに商店街の活性化に務めるほか、2019年からは世田谷区商店街連合会の副会長も兼任している。
- メインストリート・茶沢通りに面する三軒茶屋銀座商店街「三茶しゃれなあど」
- 多様なイベント開催で活気のある街づくりを
- 各種SNSを活用し、商店街の取り組みを広める
- 「安心」「清潔」をテーマに、安心して来られる商店街を目指す
メインストリート・茶沢通りに面する三軒茶屋銀座商店街「三茶しゃれなあど」
――三軒茶屋駅周辺は大小合わせて10ほどの商店街が存在しますが、中でも、三軒茶屋駅から下北沢方面へ続く茶沢通りに位置するのが三軒茶屋銀座商店街「三茶しゃれなあど」です。現在の加盟店数や、業態の割合を教えてください。
飯島さん:「三軒茶屋」という地名の由来になったとされる茶屋のうちの一軒である田中屋さん(現在は陶器店「田中屋陶苑」)を始め、新規開業のお店など約160のお店や会社が加盟しています。業態は、「グルメ」「医療・健康」「ショッピング」「サービス」にカテゴリに分類され、割合はそれぞれおよそ4等分になります。
以前は物販や飲食店が多くを占めていましたが、少しずつ物販が減ってきている印象を受けますね。店主の高齢化や、後継ぎがいない方がご自身の店舗を閉めてテナントとして賃貸に出されているケースが多いように感じます。加盟店の中にはこうしたオーナーさんだけでなく医療や福祉サービスの事務所、インターネット通販のみで事業をされている方、個人事務所を開いている方なども増えており、商店街を構成する形が変わってきたと感じています。
――商店街全体で見て、チェーン店と個人店のバランスはいかがですか?
飯島さん:家賃が上がっている関係で、メイン通りはチェーン店が多いですね。新規開業する個人店さんは、一本入った路地など周りのエリアに出店するケースが多いと思います。
一方で、若い経営者の方が三軒茶屋エリアの中で何店舗も出す、いわゆるドミナント展開をされているところも多いですね。6~7年前に「三茶呑場マルコ」さんや「和音人」さんなどが出店されたごろから、そうした流れが出てきたように思います。
▼「三茶呑場マルコ」の店づくりについては、こちらの記事でも紹介しています
――商店街を訪れるお客さまはどのような層が多いでしょうか。平日、土日での割合が分かりましたら教えてください。
飯島さん:商圏データなどを見ると、三軒茶屋は渋谷や下北沢と並び、30代女性の居住が多いと言われているんですが、実際に商店街を歩いてみるとそんなこともないんですよ。住宅街に近い立地なので、子どもから高齢の方まで、それぞれの世代がまんべんなくいらっしゃいます。
この地域に住んでいる方だけでなく、通勤通学で三軒茶屋を利用されている方も多いので、平日でも人通りは多いですね。休日はイベントや歩行者天国を実施していますので、平日よりも来街者数は増えます。大きなイベントですと平日の3倍以上になることもありますね。
新規開業する飲食店の方でも、「1世代を狙うだけではなかなか売上が伸びない」というお話も聞きます。親、子、孫3世代のうち、少なくとも2世代分のニーズをつかんでいるお店の方が息長く続いているように見えますね。
――特に茶沢通り沿いは空き店舗がでるとすぐに次が決まってしまうほど人気があるエリアだと伺っていますが、三軒茶屋が活況となった理由はどんなことでしょうか?また、商店街の空き店舗の状況などはいかがでしょうか。
飯島さん:理由としては、都心にも近く、街としても成熟していて住みやすい。さらに、商店街はそもそもの人通りが多いので、お客さんからの目に留まりやすいことが挙げられると思います。
空き物件が出てもすぐに埋まってしまいますし、「どこか空いていませんか?」という問い合わせが振興組合だけでなく私個人のところにもきます。出店を希望される方は多いですね。
多様なイベント開催で活気のある街づくりを
――三軒茶屋銀座商店街の特徴のひとつに、多様なイベント開催が挙げられると思います。年間でどのくらいの数を、どのように運営されておられるのでしょうか。
飯島さん:商店街の主催としては大きいもので「体験型防災フェア」「三茶ラテンフェスティバル」「三茶ふれあいマルシェ」「サマーセール」「歳末売り出し」の計5つを実施しています。それ以外にも東急世田谷線や地方自治体との協力イベントを多数行っていますので、年間で見るとイベントをしていない月の方が少ないです。
――協力イベントというのは?
飯島さん:東急世田谷線のコラボイベントは主に2つですね。駅前や商店街を清掃する「世田谷線クリーン大作戦」、商店街でのお買い物を楽しんでいただく「世田谷線つまみぐいウォーキング」など、沿線にある10の商店街が一斉に実施します。
地方自治体とのコラボは各地域からお声がけをいただいて、これまでに北海道や長崎、山口のフェアを三軒茶屋銀座商店街で実施しました。
2024年8月には初めて山形県西川町とのコラボイベントも行ったんですよ。この地の出身である「和音人」社長・狩野さんからの発案で、この時は三軒茶屋ふれあい広場でオープンクラフトビアガーデンを開きました。地元の「月山ビール」が飲める機会をつくったり、西川町にゆかりがある飲食店が出店したりと、地域の魅力を身近に感じていただけるイベントになっています。
その他にも、飲食店さんや子育て支援団体さんなどから「こうしたイベントをやりたい」とのお声がけもありますので、商店街としてお手伝いをすることもあります。
イベント会場にもなる「三軒茶屋ふれあい広場」は、世田谷区の防災公園です。非常用電源や炊事設備などを備えていて、災害時の一時避難場所にも指定されています。
――休日前には、商店街の公式サイトへのアクセス数が一気に上がるそうですね。
飯島さん:そうですね。「よくイベントを行っている商店街」と認知が広がってきたのか、イベントを実施する祝前日や週末にはアクセスが急増します。公式ページでは、イベントの詳細をまとめたページをイベントごとに制作していますね。「今月はどんなイベントをやっているんだろう」と期待を持って見に来てくださる方も多いので、情報をできるだけ分かりやすく届けたいと考えています。
また、三軒茶屋銀座商店街ではもともと、日曜と祝日の13時から17時までは茶沢通りで歩行者天国を実施しており、ゆったりと歩きながら商店街散策を楽しめるようになっています。
2年程前、広報部がGoogleのサービスのひとつ「Google Search Console(グーグルサーチコンソール)」を使って調べたところ、歩行者天国の実施日時を調べるために公式サイトを見に来る方が多いことに気づきました。
そこで、公式サイトのトップページに「今月の歩行者天国カレンダー」のページを掲載し、すぐにチェックできるように変更しています。
また、毎月検索キーワードの上位を調べて、それぞれのキーワードを入れたイベント紹介ブログを書いたり、ハッシュタグを入れたりなど、どのような経路で公式サイトに来てくださったのかを情報分析できるようにしていますね。
――本格的ですね……!
飯島さん:7人いる広報部メンバーのひとりが長年ネットショップを運営しているので、そのノウハウを生かしてくれているのが大きいですね。また、顧問として中小企業診断士の方が見てくださっているのも心強いです。
――役員のみなさんは本業がある中で、イベントの開催やサイト運営などをされていくのは大変なことはないですか?
飯島さん:時間も手間もかかりますし、正直大変ではあります。 ただ、商店街の歴史を振り返ってみると、我々の諸先輩方がすごくパワフルで、昔からさまざまなイベント開催に取り組んでいるんです。「賑わいのある商店街にしたい」という想いが長年にわたり脈々とつながっているように感じますね。
実際に、三軒茶屋が賑わうことで自分たちのお店にもお客さまを呼べますし、街としての価値も高まります。「お客さまにいかに楽しんでいただくか」を大切に、自分たちも楽しんで取り組んでいます。
各種SNSを活用し、商店街の取り組みを広める
――現在、集客としてどのような取り組みをされていますか? 新たにお客さんを呼ぶ工夫などがあれば教えてください。
飯島さん:三軒茶屋銀座商店街としては、2つのテーマを持っています。1つ目は三軒茶屋の街にたくさんの人を呼び、喜んでいただきたいこと。2つ目は地域コミュニティーの担い手として、安心・安全・清潔・便利になるよう積極的に活動していくことですね。
1つ目は、先ほどもお話したように多様なイベントを実施することで集客につなげています。周知の方法としてはチラシを印刷して各店や施設などに置いていただくことはもちろん、商店街の公式サイトでは最新情報の発信に取り組んでいます。その他、情報拡散ツールとして各種SNSの活用も始めています。
――SNSは具体的にどのような活用をされていますか?
飯島さん:主にFacebook、Instagram、Xを活用し、イベントやフェア開催など最新情報を発信しています。Xでは三軒茶屋銀座商店街の公式アカウントだけでなくマスコットキャラクターの「三茶わん」のアカウントもありますので、お互いにリプライをしたり、役員個人やお店のアカウントでリポストしたりと露出面積を広げて、全方位で見ていただけるようにしています。
コロナ禍からは広報部によるYouTube配信も始めました。ここではイベントの様子を流したり、ここだけの裏話を載せたりしていますね。
――2023年の年末からはLINE公式アカウントも開設したと伺いました。こちらはどのように使われていますか?
飯島さん:現在の友だち数は600人程度で、「LINE VOOM」にショート動画を投稿しているほか、デジタルスタンプラリーで活用しています。例えば、2024年5月に開催した防災フェアの際には会場内にQRコードを貼り、LINE公式アカウントに誘導します。いくつかのクイズに答えてもらったら、プレゼントを差し上げる試みです。
「安心」「清潔」をテーマに、安心して来られる商店街を目指す
――来街を一度きりにせず、何度も足を運んでもらうためにどのような工夫をされていますか? お店と協力していることがありましたら教えてください。
飯島さん:先ほど挙げたテーマの2つ目である「地域コミュニティーの担い手として、安心・安全・清潔・便利になるよう積極的に活動していく」ことが再来街につながるポイントではないかと思い、清掃に注力しています。
きっかけはコロナ禍のロックダウンでした。あの時期は国からの要請で密閉・密集・密接という三密を回避する流れがありましたよね。以前から日々の清掃はプロの業者さんにお願いしていますが、歩道で外飲みをする人が増え、商店街の通りにもお酒の空き缶やごみなどが多く捨てられるようになってしまったんです。
そこで有志を募り、月に数回ごみ拾いをする機会をつくりました。歩行者天国の時間帯にリアカーでごみを拾いながら、茶沢通りを歩くんです。これは、現在でも月1度のペースで続けています。
――あえて歩行者天国のタイミングに行うことでごみ放置の抑制にもなりますし、「商店街として目を光らせていますよ」というお客さまへのアピールにもなりそうですね。最後に今後取り組んでいきたいこと、力を入れていきたいことがあれば教えてください。
飯島さん:先ほどLINE公式アカウントについてお話しましたが、今後はもっと充実させていきたいと考えています。現在決まっていることとしては、9月1日から実施する「ガラポン抽選会」です。インターネット上でポイントを貯めていただいて、商店街で使用できる商品券に引き換えできるようにします。ネットとリアルの融合のような形ですね。
また、東急世田谷線を乗り降りして楽しむお買い物ラリーなど、新しいイベント事業もいくつか計画しています。従来のイベントのように、広場で人員を投じて大々的に、というような大掛かりなイベントでなくてもよいかもしれません。皆さんに楽しんでいただいて、商店街のお店の魅力を知っていただけるような、そういった仕掛けも積極的に考えていきたいなと思っています。
気になるあの場所、あのお店の集客成功事例
【取材先】
三軒茶屋銀座商店街「三茶しゃれなあど」
住所:東京都世田谷区太子堂2-17-10(振興組合)
Web:公式三軒茶屋銀座商店街「三茶しゃれなあど」オフィシャルサイト
Instagram:三軒茶屋銀座商店街振興組合公式Instagram
Facebook:三茶しゃれなあど~三軒茶屋銀座商店街振興組合~
YouTube:三軒茶屋銀座商店街 (振) 公式動画
LINE公式アカウント:三軒茶屋銀座商店街LINE公式アカウント
取材・文/田窪 綾
調理師免許を持つフリーライター。惣菜店やレストランで8年ほど勤務経験あり。食分野を中心に、Webや雑誌で取材やインタビュー記事作成、レシピ提案などを行っている。
編集:はてな編集部