2500円で3軒ハシゴする「こづかい万歳の妻」が語る、ひとり飲みにちょうどいいお店の条件

漫画『定額制夫の「こづかい万歳」 ~月額2万千円の金欠ライフ~』にしばしば登場する、作者・吉本浩二先生の妻。SNSで「ひとり飲み」の様子、そしてひとり飲み愛を積極的に発信し、作品ファンの間でも知られた存在です。今回はそんな吉本さんにひとり飲みの醍醐味を伺いました。


ドラマや雑誌の特集が頻繁に組まれるなど、にわかに人気が高まる「ひとり飲み」。ひとり飲み客に愛されるお店には、どのような特徴があるのでしょうか。

『モーニング』(講談社)で連載中の『定額制夫の「こづかい万歳」~月額2万千円の金欠ライフ~』は、こづかい制のなかでも充実した毎日を過ごす人々を描いた人気漫画です。この作品の中で、とりわけ人気の登場人物が“こづかい万歳の妻”。子育ての合間にひとり飲みを楽しむ様子を、Xのアカウント「こづかい万歳の妻」で発信しています。

チェーン店でのひとり飲みが「まったく飽きない」と語る吉本さんに、定番のひとり飲みプラン、ひとり飲みだからこそ得られる醍醐味について伺いました。

こづかい万歳の妻/吉本さん

週刊モーニング 『定額制夫のこづかい万歳』に登場する妻。「日高屋」と酒全般が好きで、家ではストロングの水割りをよく飲む。あだ名はアクション、大五郎。月曜日は休肝日。推しは風柱・不死川実弥。
X:@kodukai7000

「子育ての息抜き」にはじめたチェーン店でのひとり飲み

――漫画『定額制夫の「こづかい万歳」~月額2万千円の金欠ライフ~』では、吉本さんがひとり飲みを楽しまれている様子がよく登場します。そもそも、なぜひとり飲みをされるようになったのでしょう?

吉本さん:10年ほど前、子育てに追われて余裕のない毎日を送っていた頃、夫(吉本浩二先生)が「少し気分転換してきなよ」と1、2時間、一人の時間をくれたことがきっかけですね。

――お酒は昔からよく飲まれていたんですか?

吉本さん:昔からお酒は好きで、友人や同僚とよく飲みに行っていました。

若い頃は、渋い老舗の酒場にも憧れがあり、いろいろなお店に足を運びましたね。ただ、「こういう世界があるのか」という発見はあったんですが、背伸びしていたのか、楽しみきれないところもあって……。

だんだんと誰もが入りやすいお店の方が居心地は良いなと思うようになり、最近はもっぱらチェーン店ばかりで飲んでいます。

――どんなチェーン店でひとり飲みをされているんですか?

吉本さん:チェーン店といっても、居酒屋ではなく食事メニューがメインのお店に行くことが多いですね。

「日高屋」、「サイゼリヤ」、「ぎょうざの満洲」を中心に、最近は蕎麦屋の「ゆで太郎」にも行くようになりました。昼から行けるお店にサイドメニューやアルコールが置いてある、という構図が好きなんです。

最近は、家族で訪れたお店に「ちょい飲みセット」などを見つけると、「これはひとり飲みにもよさそうだ!」と、その後、一人で行ってみることもあって。それで「ゆで太郎」でひとり飲みをやってみたら、「これはいいぞ!」となりました。

――ゆで太郎に「飲む店」というイメージがないので、とても新鮮です! いつもどんなオーダーをするんですか?

吉本さん:揚げたての天ぷらに蕎麦つゆをかけた「天抜き」(200円)*1がお気に入りです。

それにわかめ(150円)、高菜(100円)、鬼おろし(120円)などのトッピングを1つ追加して、つまみにしています。コロッケ(100円)や白身フライ(150円)を頼むこともありますね。缶ビールが240円なので、うまく組み合わせれば600円程度で満足できるんです。

ゆで太郎は、「もつ次郎」の料理を頼める店舗もあって“ハシゴ飲み”ができるのも魅力ですね。もつ次郎には、メインを「もつ煮 or もつ炒め」から選んで、副菜(冷奴、漬け物)とお酒(缶ビール、缶レモンサワー、缶ハイボールから1本)をセットにできる「もつ呑みセット」(780円)があって。このセットもなかなか侮れないんですよね。

こういう「ちょい飲みセット」があるお店は、ひとり客を受け入れるというスタンスが分かりやすいので、ひとり飲みのお店として選んでも外さないと思っています。

ゆで太郎のクーポン券。クーポン券や各種割引券を活用して節約しながらもひとり飲みを楽しんでいる。有効期限内にリピートすることも多いそう

ゆで太郎のクーポン券。クーポン券や各種割引券を活用して節約しながらもひとり飲みを楽しんでいる。有効期限内にリピートすることも多いそう

予算2500円で3軒ハシゴ、お酒は「4杯まで」

――ひとり飲みをする際の「決まりごと」や「こだわり」はありますか?

吉本さん:お酒は4杯までと決めていて。あとは、2軒から3軒のお店をハシゴすることが多いです。だいたい1軒目で1杯、2軒目で1杯、3軒目で2杯という配分になります。おつまみはその時頼んだお酒に合わせて決めていますね。

最近よくやっているプランだと、まず1軒目の日高屋で生ビール(390円)と「キムチ」(220円)、「ザーサイ」(210円)、「冷奴」(200円)などの軽いおつまみを1、2品。

次はサイゼリヤに移動して、「赤ワイン デカンタ 250ml」(200円)と「柔らか青豆の温サラダ」(200円)か「羊の串焼き(アロスティーニ)」(400円)を頼みます。

最後は、駅の反対側にある日高屋で「レモンサワー」(330円)か「ハイボール」(340円)か「ドラゴンハイボール」(330円)あたりを2杯と「餃子」(300円)。私はひとり飲みも家での晩酌も炭水化物を入れたらおしまい、と決めているので、最後に「中華そば」(420円)も食べて帰ります。

1軒目と2軒目のお会計は、それぞれワンコイン程度で収まるので、3軒目の日高屋で少し贅沢しても、1日2,500円ほどで楽しめます。

――2,500円に収まるとは思えないほど充実した内容ですね! 「4杯までしか飲まない」というのは、どのようにして決めたんですか?

吉本さん:長年の経験ですね(笑)。何人かで飲むともう少したくさん飲めるんですけど、ひとり飲みだと途中でチェイサーを挟まず、ガブガブ飲んじゃうので。ちょうどよく、ほろ酔い気分で家に帰れるのが4杯なんです。切り上げる時間も、翌日に影響がないように21時くらいまでと決めています。

そして、帰り道で夫が好きなアイスをコンビニで買うのが定番で(笑)。帰ってから、そのアイスを食べる夫と会話できるくらいの酔い加減を目指しています。

――ほろ酔いの吉本さんと先生が楽しく会話されている様子が想像できます。そういえば、吉本さんは酔っぱらうとどうなるんですか?

吉本さん:楽しくなっちゃいますね。他人に絡んだりはしないとは思うんですけど、少しのことでも感動するようになって……。店内BGMで中島みゆきの曲が流れてきてグッときたり、飲みながら読んでいる漫画に感動して泣いてしまったり……(笑)。

ベロベロに酔って失敗した、みたいなことはあまりないのですが、帰り道に寄ったコンビニで、夫や子どもたちに高いアイスを買っちゃったみたいな失敗はときどきありますね(笑)。

―― 失敗の内容がかわいい!(笑) いつも決まったお店に行かれているようですが、新規のお店に飛び込んでみることもあるんでしょうか。

吉本さん:保守的なので、新規のお店に飛び込むことはほとんどないです(笑)。慣れているお店をまわるので、SNSでお店を調べるようなこともあまりなくて。

ただ、チェーン店の新しい取り組みには、ひかれるものがあります。例えば、「吉野家」の「吉呑み」*2や「オリジン弁当」の会社(オリジン東秀)が運営する中華食堂「中華東秀」は実際に体験しましたし、「日高屋」が手がける台湾屋台をイメージした飲み屋「屋台料理 台湾中華 台南」も気になっています。

――先ほど「お店を調べない」とおっしゃっていましたが、チェーン店の最新動向にはとても詳しいですね。でも、毎回同じお店をまわるばかりだと飽きないですか? 

吉本さん:まったく飽きないんですよね(笑)。チェーン店も店舗によって雰囲気が違いますし、料理の味すら若干違うと感じる場合もあるので。

それに、私としてはお酒が飲めて居心地が良ければ、本当になんでも良いんですよね。いろいろな料理を食べるより気持ちよくお酒を飲むことに重きを置いているので、おつまみが毎回同じでも全然気にならないです。日高屋に1日2回も行くくらいですから

――こういうお店だと、また行きたくなるというポイントはありますか?

吉本さん:スタッフさん同士の仲が良いお店は雰囲気も良くて、安心感がありますね。

スタッフさんがプライベートで飲みに来ている様子を見ると、「うまく営業がまわっているんだろうなぁ」と安心します。シフトが調整できていなくて、店長が疲れている様子だと心配になっちゃいますしね。

あと同じチェーン店でも、自然と行く回数が増えるお店はあって。

例えば、日高屋だと店員さんが違えば接客の雰囲気も違いますし、他店と同じメニューなのに「ものすごくおいしい」と感じるお店もあるんです。おそらく、調理場にすごい腕利きの人がいるんでしょうね。

お酒に重きを置いてはいるのですが、どうせ同じ金額を出すなら、多少なりとも雰囲気のいいお店で、クオリティーの高い料理を食べたいじゃないですか。

――今日は東京の神田にある「良心的な店 あさひ」でお話を伺っていますが、ここは以前通われていたお店だとか。

吉本さん:はい、15年ほど前に神田で会社員をしていた頃、仕事帰りに偶然入ったのがきっかけで。店名に「良心的」とありますが、お酒も料理も本当に良心的な価格で驚いたのを覚えています。ふらっと立ち寄りやすく、店主の方のあっさりした距離感もちょうど良くて、職場が変わって神田から離れるまでよく通っていました。

当時よく頼んでいたという「もやし炒め」(200円)と「マカロニサラダ」(250円)。mixiにある「良心的な店 あさひ」のコミュニティーで管理人をするくらい熱心に通っていたそう

当時よく頼んでいたという「もやし炒め」(200円)と「マカロニサラダ」(250円)。mixiにある「良心的な店 あさひ」のコミュニティーで管理人をするくらい熱心に通っていたそう

「あさひ」はある意味、自分の外飲み体験の原点となったお店かもしれません。当時は、同僚や友人と来ることが多かったですが、これだけひとり飲みにハマるのであれば、ひとりでも来ていたらよかったなと(笑)。2025年の春で居酒屋としての営業を終える*3と聞いていたので、最後に来れてよかったです。

「こづかい万歳」で描かれる酒場は酔っ払いの心象風景

――Xでご自宅での晩酌や飲食店でのひとり飲みの様子を発信されていますが、どんな理由から発信されるようになったのでしょうか?

吉本さん:夫の漫画『定額制夫の「こづかい万歳」 ~月額2万千円の金欠ライフ~』の制作や宣伝としてプラスになれば、というのが一番大きいですね。

作中で私がお酒を飲んでいる様子がよく描かれていて、ありがたいことにお酒好きの読者の方からそのシーンに好意的な言葉をいただいたんです。

その反響をきっかけに、「節約しながらお酒や食事を楽しんでいる様子を“妻”自身が発信したら面白いんじゃないか」ということでXをはじめました。

お酒を飲む方からは「気持ちがわかる!」という声をいただきますし、普段の食事のメニューをポストするとお酒を飲まない方からも「真似してみたい!」というような言葉をいただいています。

――節約しながらも楽しんでいる様子が伝わってきますよね。お酒にまつわるシーンで、吉本先生に何かアドバイスをされているんですか?

吉本さん:夫はお酒をほとんど飲まないので、お酒にまつわるシーンを描く際は私にアドバイスを求めてくれます。例えば、「ここで注文するつまみは、どんなものがいいか?」など。

その時はおつまみの種類に加えて、「おいしそうに見えるから、お酒のグラスは必ず結露を表現したほうがいい」というようなことを話しましたね。

あと、私は何をどこで飲んで、何をしていたのか——お酒と場所と思い出がリンクして記憶に残っているんです(笑)。この記憶力を生かし、お酒を楽しんでいた時に見た光景をできる限り伝え、漫画にしてもらっています。

『定額制夫の「こづかい万歳」 ~月額2万千円の金欠ライフ』の中でもひとり飲みを楽しんでいる吉本さん(中央上側の席に座っているのが吉本さん)。©️吉本浩二/講談社

『定額制夫の「こづかい万歳」 ~月額2万千円の金欠ライフ』の中でもひとり飲みを楽しんでいる吉本さん(中央上側の席に座っているのが吉本さん)。©️吉本浩二/講談社

――だから店内を俯瞰したカットもリアルなんですね。みんなが楽しそうに食べている隅っこで飲んでいる感じとか。

吉本さん:ほろ酔いで楽しくなっている私が見ている世界なので、みんな楽しそうでキラキラしていると思います(笑)。実際は楽しんでいる人ばかりではないかもしれませんが。

ひとり飲みは、「孤独感と開放感のバランス」が大事

――大人数で飲むのとは違う、ひとり飲みだからこその楽しさはどんなところにあると思いますか?

吉本さん:やっぱり自由で開放的に飲めるところですね。状況としては家で飲むのと大して変わらないんですけど、家とは全然違う開放感が得られる。

子どもたちが寝た後に家で一人で飲んでも、そこまで開放感はありません。でも、家ではない場所にいると自由を感じますし、そこでお酒を飲むと気持ちが少し高揚して楽しくなる。やっぱり家での晩酌とは全然違うんです。

ひとり飲みって自由で楽しいし、開放的ですけど、同時に一人でいるからこその孤独感もちゃんとあって。その孤独感と開放感のバランスはひとり飲みの醍醐味でもありますし、逆にその孤独を知っているから、誰かと飲むのもやっぱり楽しいなと思える。それがいいんですよね。

――もし吉本さんが理想のひとり飲みができるお店を作るとしたら、どんなお店にしたいですか?

吉本さん:ひとり飲みを干渉されない空間にはしたいですが、誰とも喋らず、やり取りせず、自分だけで完結しちゃうのは少し寂しい。なので、注文はタブレットを打ち込んでオーダーするのではなく、店員さんに直接お願いしたいです。

私は「今日は楽しませていただきます。よろしくお願いします」という気持ちが届くように、店員さんの顔を直接見て注文したいんです。もしかすると同じような考えのお客さんもいらっしゃるかなと。

でも、精算時はおそらく酔っ払っているので、機械精算がいいですね(笑)。

とにかく、最初の注文だけは店員さんが直接取るという点はこだわりたいところですね。

――ひとり飲み経験者ならではのリアルなこだわりですね。最後に、お子さんが生まれてからひとり飲みを楽しむようになった吉本さんが、ひとり飲みをしていなかった頃の自分へ、ひとり飲みの魅力を伝えるとしたらどんな言葉を贈りますか?

吉本さん:「ワイワイと何人かでお酒を飲みたい!」と思っていた頃の自分は、きっと聞いてくれないと思うんですけど(笑)。週に何度も飲み会に行って、バイト代を飲み会代に費やしていたので。

それはそれで楽しいけど、きっと飲み会に疲れていたときもあったと思うんですよね。

外で飲む特別感はありながらも、ちょっと一息つける。そういうひとり飲みの時間があっても良いかもしれないよ、と教えてあげたいですね。

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【取材先】
良心的な店 あさひ
住所:東京都千代田区神田須田町1-12-6

取材・文:花沢亜衣
写真:小野奈那子
編集:はてな編集部


※各店の料理名や価格は2025年4月時点の情報です。詳細は各店の公式サイトや公式SNSなどをご参照ください

*1:「ゆで太郎」は株式会社ゆで太郎システムと信越食品株式会社が、それぞれ店舗を運営しており、「天抜き」は株式会社ゆで太郎システムが運営している「もつ次郎」併設店で提供している

*2:吉野家の一部店舗で提供している居酒屋メニューとお酒を楽しめるサービス

*3:5月に「動物カフェ」へ業態変更