
奈良県奈良市のならまち(奈良市の中心市街地の南東部エリア)に店を構える麻婆豆腐ラーメン専門店「すするか、すすらんか。(旧店名:jinniyah/奈KAMA)」がオープンしたのは、2020年10月。開業したのは、当時、近畿大学に在学中だった西 奈槻(にしなつき)さんです。
なぜ在学中、さらにコロナ禍の最中であった当時に開業を決意したのでしょうか?開業後、在学中にZ世代向けのリサーチ&プランニングを手掛けるコンサルファームも起業したという西さんを突き動かした思いは何だったのか。Z世代経営者が誕生した経緯から若者の価値観をとらえたマーケティング、描く未来の展望まで、話を伺いました。
コロナ禍で焦燥感に駆られ“ノリ”でラーメン屋を開業
2020年10月、麻婆豆腐ラーメン専門店「すするか、すすらんか。(旧店名:jinniyah/奈KAMA)ならまち本店」がオープンしたとき、西さんは大学2年生でした。
高校時代に打ち込んだバンド活動の経験から、「人の心を動かす何かをしたい」という思いが強く、その思いを形にするために「人脈づくりが大切だ」と考えていたという西さん。大学入学後から自分でサークルを立ち上げたり、さまざまな場やグループに顔を出してコミュニティーづくりに勤しんだりと、さまざまな活動を行ってきました。
しかし、突然訪れたコロナ禍によって生活は一変します。大学が休校・リモート授業に移行し、なかなか思うように活動ができず苦悶する日々が続きました。
「ずっとバンド活動やサークル活動を精力的に行ってきましたが、コロナ禍によってほんまに何もすることがなくなった。毎日会っていた友だちに会えなくなったことが大きなフラストレーションになりました。でも、僕はこれまで動き続けてきたから止まることができない。『なんかやらなあかん』と思い、行動を起こしたんです」

そこで始めたのが、SNSのプロフィールを見て「経営者」と記載しているアカウントに、面会希望のDMを片っ端から送るということ。
「今後、自分が何をするべきか、とにかくいろいろな人に会ってヒントをもらいたいと思ったんです。そこで、コロナ禍でも止まらずに動き続けているのは誰か、と考えたとき、真っ先に浮かんだのが『経営者』でした」
とにかくDMを送り、返信があれば会う。そうして関係性を深めていく。繰り返していくうち、3人目に出会ったのが、現在「すするか、すすらんか。ならまち本店」が入る建物の大家さんでした。
「その方が『飲食店をやってみるか?』と声を掛けてくれて、もともと日本料理店だった場所を貸してくれることになったんです。しかも、『家賃は一年間無料でいい』と言っていただいたので、その場で『やろう』と決めました。その後、大学で一番仲の良かった友人の奥野(現・取締役/奥野亮太郎さん)に『一緒に店をやろうや』って声を掛けたんです」

「人の心を動かすような面白いことをしたい」という思いから、手探りで行動してたどり着いた飲食店の開業。西さんは「まさか自分が飲食店を始めるとは、全く考えていなかった」と振り返ります。
「当時はもう全部が勢いとノリでしたね。麻婆豆腐ラーメンのお店にしたのも、奥野の得意料理が麻婆豆腐であるのと、僕らが普段ラーメンばっかり食べていたんで、『麻婆豆腐とラーメンを合わせて麻婆豆腐ラーメンでええやん』という思い付きがきっかけでした。おいしい麻婆豆腐だし、僕らが良いと思ったことでお客さんもきっと喜んでくれると思いました」

人が集まるまで発信し続ける
持ち前の行動力と野心で順調に開業まで進めた西さんですが、飲食店経営は甘い物ではありませんでした。
「オープンしてから半年間は、集客に本当に苦労しました。そもそも店を開けば自然に人が集まるものだと、勘違いしていたんですよね(笑)。実際には、一日に一人か二人しか来ない日もありました。結局、本店の経営が軌道に乗ったのはオープンから2年半くらい経ってからです」
認知拡大や集客のためにできることを考え、とにかくさまざまな対策を打ち続けたといいます。特にZ世代に響くようSNSでの動画の配信に力を入れたところ、店が満席になる日も徐々に増えていきました。
「ビラ配りをはじめ、Instagram・TikTok・Xなど、自分たちでできることは全て行い、結果を検証してPDCAを回し続けました。よく『集客のために何をすればいいのか分からない』という悩みを耳にしますが、いまの時代、『店舗集客』ってネットで調べたら、なんぼでもやり方が出てくるじゃないですか。でも何が一番効果的かはやってみないと分からない。だからこそ、やり続けて試行錯誤することが重要で、僕の感覚でいえば、お客が集まるまでやれば、結果的に集まってくるんですよ」

とはいえ、「それだけのリスクを取れたのも、背負うものが少ない学生という身分だからできたこと」とも振り返る西さん。資金も信頼も少ない学生という立場を「不利」とは考えずに発想の転換をします。
その取り組みの一つが、自らが通う近畿大学の構内に2021年10月にオープンした「KINDAI Ramen Venture 近大をすすらんか。」です。大学に「何かやらせてもらえないか」と相談したことをきっかけに、オープンにこぎ着けました。学内店で学生がお客のため、当初から経営は好調。学内店での口コミと、SNSなどでの発信を続けた結果、本店も徐々に売り上げが伸びて軌道に乗り、2024年の早春には3号店目となる心斎橋店もオープンさせました。
Z世代と向き合うために重要なのは、価値観の背景を理解すること
2022年4月、それまで個人事業主としてラーメン店を経営していた西さんは、「株式会社やるかやらんか」を設立。きっかけは、経営を通じて実践していたZ世代向けのSNSマーケティングの手腕が評価され、さまざまな経営者から相談を受けるようになったことです。
「Z世代の思考や価値観を理解しづらいと考える30代以上の方が一定数いるように思います。しかし本質的には、他の世代と思考も価値観も大きな違いはありません。Z世代と向き合う上で大切なのは、なぜ彼らが特有の価値観を持つようになったのか、その背景を理解することです。例えば、Z世代が他世代と異なる主な点として、情報の探し方、特に信頼している情報源が挙げられます。Z世代はTikTokをはじめとするSNSでのショート動画を信頼している人が多い。小さい頃からショート動画に触れてきたことで、タイムパフォーマンスを重要視する価値観が形成されているんです」
SNSのプラットフォームに着目するという点を踏まえた上で、具体的に西さんらがZ世代の集客のために実践しているのが、SNS上に話題を創出し続けるという取り組みです。
「僕らの世代はInstagramやTikTokなどのSNSでお店を知り、その後Google Mapでお店の情報を確認する人が多いように思います。そのため、大事なのはそうしたSNSに僕らの店の情報がどれだけ露出しているかということになります」
さらに情報を効果的に拡散するため、西さんは「UGC(User Generated Content)」を積極的に活用しています。UGCとは、SNS投稿や口コミサイトのレビューなど、企業ではなく一般ユーザーが自分でネットに投稿するコンテンツのこと。「すするか、すすらんか。」では、定期的に特色ある限定商品をリリースし、影響力のあるユーザーを招待しています。ユーザーに情報を拡散してもらうことで、口コミが連鎖的に広がり、SNS空間に自分たちの話題が絶え間なく流れるようになります。
目標は35歳までに奈良にテーマパークを開業
西さんは「おいしいラーメンを作ることが僕の幸せじゃない」とも語ります。その言葉の通り、「やるかやらんか」では、マーケティング事業をはじめ、最近では企業とインターン生のマッチングを図る人材紹介事業など、事業の多角化を進めています。西さんが最終的に目指す場所はどこなのか。その答えは、同社の掲げる「日本の若者に”選択肢”を示す。」というビジョンに隠されていました。

「ラーメン店を始め、アルバイトの学生たちと接するうちに、人生に愚痴をこぼす若者が多いと感じました。話を聞くと、最初から『自分はこれでいい』と可能性を閉ざしてしまっている。人生に選択肢があることを知らないんです。僕は、自分で人生を選べることが幸福度を高めると信じています。だからこそ、若者には『選択肢はたくさんある』と伝えたい。そのためにも、まずは自分たちが挑戦して、選択肢を示す。さまざまな事業に挑んでいるのも、そういった理由があるからです」
そんな西さん自身が掲げる大きな目標が、出身地であり、創業地でもある奈良に選択肢を作るということ。より具体的には、35歳で奈良にテーマパークを建設することを目指しているそうです。

「奈良には歴史や自然など素晴らしい資源がありますが、それをうまく生かせていないと感じています。今後は、ドーナツ屋、中華バル、定食店、宿泊施設、サウナ、商業施設など、さまざまなブランドを展開し、最終的には奈良の顔、日本の顔となるテーマパークを作ることが僕の目標です。奈良に人を呼び込み、老若男女関係なく何千人もの雇用を生み出し、地方の経済圏をつくりたいと思っています。また、地方で活躍する起業家はまだ少ないので、自分がそのロールモデルとなり、地方を拠点に活躍する起業家を増やしていきたいです」
「やるかやらんか」の社名は、西さんの日頃の口癖から取られているそう。考えてから動くのではなく、動いてから考える。リスクを考えて身動きの取りづらい今の時代、この「衝動」こそが、道を開くためのヒントなのかもしれません。
取材先紹介
- すするか、すすらんか。心斎橋店
-
住所:大阪府大阪市中央区東心斎橋1-15-22 第一KSビル B1F
HP

- 取材・文小野和哉
-
1985年、千葉県生まれ。フリーランスのライター/編集者。盆踊りやお祭りなどの郷土芸能が大好きで、全国各地をフィールドワークして飛び回っている。有名観光スポットよりも、地域の味わい深いお店や銭湯にひかれて入ってしまうタイプ。
- 写真新谷敏司
- 企画編集株式会社都恋堂