堀川りょう「正直、酒は嫌いだった」。ベジータ声優が"ひとり飲み"の面白さに覚醒したワケ

『ドラゴンボール』のベジータ役、『名探偵コナン』の服部平次役などで知られる声優・堀川りょうさんは、声優界きっての酒飲み。そんな堀川さんに今回「ひとり飲み」の魅力を教えてもらいました。


ドラマや雑誌で特集が組まれるなど、人気が高まる「ひとり飲み」。ひとり飲み客に愛されるお店には、どのような特徴があるのでしょうか。声優界きっての酒飲みとして知られる堀川りょうさんは、声優仲間と飲むほか、日々ひとりでもお酒を楽しんでいます。「醍醐味は一期一会」と語る堀川さんに、ひとり飲みだからこそ味わえる楽しさについて伺いました。

堀川りょうさん

堀川りょうさん

1958年2月1日大阪府生まれ。声優。幼少期より子役として映画、TVドラマに出演。20代半ばにアニメのオーディションに合格し、アニメ『夢戦士ウイングマン』の主人公、広野健太の声を担当したことをきっかけに、声優として知られるようになった。その後、『ドラゴンボールZ』(ベジータ役)、『聖闘士星矢』(アンドロメダ瞬役)、『名探偵コナン』(服部平次役)など、人気アニメの重要なキャラクターを次々と担当。また、ゲームやラジオ、Vシネマへの出演、さらに歌手活動など、マルチな才能を活かし多分野で活躍している。2023年には、芸能デビュー60周年記念として、1st Single『BELOVED BLUE』を発売。そして今年、声優デビュー40周年記念として、自伝本『貴様ら!』を出版。Xで人気を博す「貴様ら!」と呼びかける投稿を厳選した名言集も掲載。初回限定版特典【本書英文朗読が聞けるQRカード】付き。

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「酒は嫌いだった」声優界きっての酒飲みが“誕生”した日

ーー20代前半ぐらいまでは、あまりお酒を飲まなかったとお聞きしました。

堀川りょうさん(以下、堀川さん):そうなんです。打ち上げなど、お酒の場には参加していましたが、正直言って好きじゃなかったんですよね。勧められたビールを飲んでも「何がうまいんだろう」と思っていましたし、酒癖が悪くて説教しだすような人を見て「ああはなりたくないな」と。

お酒を好きになったのは、本当に突然のことで。当時所属していた事務所の野球大会の帰りに、不意に「ちょっとビールでも飲もうか」と居酒屋に入ったんです。それが自分の意思でお酒を飲んだ初めての体験ですね。

ーーどんなお店だったんですか?

堀川さん:チェーン店ではなく、ご夫婦でやっている、カウンターだけのあたたかい雰囲気のあるお店でした。有線から八代亜紀さんの『舟唄』なんかが流れていて、「俺のこれからの人生どうなるんだろう」なんて、妙に悦に入ってしまって。

ものすごく暑い日だったので、ビールと枝豆と冷奴を頼んで、ビールをぐいっと飲んだ瞬間「こんなにうまいものだったのか……」と衝撃を受けましたね。それからは坂を転げ落ちるように、日本酒、ワイン、バーボンウイスキー……と、あらゆるお酒を飲むようになりました。

ーーその体験が、声優界きっての酒飲み・堀川りょうの始まりだったんですね。なぜその時、ひとりで飲みたいと思ったのでしょうか?

堀川さん:きっといろんなストレスがあったんでしょうね。当時、アニメのアフレコ経験がほとんどなく、毎回「自分にできるんだろうか?」と思いながら録音スタジオに入っていたんですけど、案の定全く周りについていけなくて。

「もう降板するしかないのかもしれない」と本気で思うほど、何もできなかった。そんな緊張感の中にいたから、「酒でも飲むか」となったのかもしれません。あの時もし降板していたら、今の僕はありませんから、お酒との出合いに感謝していますよ。

店の“声”が聞こえる。堀川流「ひとり飲みにピッタリなお店」の見つけ方

ーー今ではすっかりお酒好きとして、ひとり飲みも日常の一部だとか。 

堀川さん:ええ。お酒の楽しさに気づいた原点がひとり飲みだったので、僕にとって(ひとり飲みは)あまり特別なものではないんですよね。

仕事柄、外食が多いので、「ごはんを食べる=お酒を飲む」という感覚で、毎日のように何かしらのお酒は飲んでいますね。夕方になると、「今日は何を飲もうか?」「何を食べようか?」とそわそわし始めます(笑)。

――(時計を見ながら)もう17時なので、そろそろ、そわそわする時間ですね(笑)。ひとり飲みでは、どんなお店に行かれるんですか?

堀川さん:行く店はだいたい決まっていて、東京・新宿にある和食割烹「味彩坊」、それから「イタリアン酒場とみゑ」、「It's」というバーのいずれかですね。新規開拓は勇気がいるし、当たり外れもあるので、あまりしません。3軒の中から、食べたいものはなんだろう、「今日の自分はどんな口になっているだろう」と考えて、その日の気分で決めています。

やはり、お酒を飲むきっかけになった店がこぢんまりとした個人店だったので、今もあたたかみのある個人経営のお店が好きですね。

ーーそこではどんなお酒やおつまみをオーダーするんですか?

堀川さん:和食なら、まずビールを一杯、その後に芋焼酎をいただきます。焼酎は黒霧島や赤霧島、最近は「からり芋」という銘柄にハマっていますね。丸みがあって、まろやかな味わいがいいんです。料理は季節のおすすめを頼むことが多くて、旬野菜の天ぷらや、白子焼き、お刺身。あん肝ポン酢のような酢の物も大好きです。

イタリアンならワインを飲みますが、テイスティングは苦手なのでお店の方にお任せです。ワインに合わせてチーズや生ハムをつまみつつ、お腹が空いていればパスタをハーフサイズで作ってもらったりします。

ーー通われているお店に行くようになったきっかけはなんだったんですか?

堀川さん:「イタリアン酒場とみゑ」は、看板を見て「イタリアンなのに、なんで『とみゑ』なんだよ」と面白く思い、入ってみたらとっても雰囲気がよくて。すっかり常連になってしまいました(笑)。

他のお店も似たようなもので、店の前を通りかかった時の直感で入ったのがきっかけです。

ーー直感、ですか?

堀川さん:お店の前を通ると、ときどきふと訴えかけてくるものがあるんですよ。「入れ、入れ」「うちにおいで」って呼ばれているような感覚で(笑)。

なんというか、「雰囲気がよい」お店かどうかを直感的に判断しているのかもしれません。

ほのかに光が灯っているような雰囲気で、店内をちょっとのぞいてみて、お客さんやスタッフさんが楽しそうに談笑しているとか、内観からあたたかい雰囲気を感じられると「ここはよさそうだ」と判断します。逆になんとなく、どんよりしていて、暗い雰囲気のお店にはまず行かないですね。

あと、当然ですが、清潔感も大切です。カウンターの中をちらっと覗くと、しっかり整理整頓されていたり、洗い場もきっちりきれいにしていたりする店は、安心しますよね。

ーー「声が聞こえてくる」という感覚は声優さんならではで面白いです! 確かに、あたたかい雰囲気や清潔感があるお店だと安心できますよね。

堀川さん:そうですね。そうやって選んだお店にはいつまでもいたくなってしまいます。時間の経過を忘れて、つい長尻になっちゃうんですよ。お店のあたたかい空気感の中に埋没していたい気持ちになりますね。そして一軒で満足するので、何軒もはしごすることはあまりありません。 

ひとり飲み向きのお店には「つかず離れずのちょうどいい接客」がある

ーー堀川さんにとって、「ひとり飲みしやすいお店」の条件とは何でしょうか?

堀川さん:正直、味がひどいお店は滅多にありませんから、やはり「人」が大事になってくると思います。お店全体のあたたかい雰囲気をつくっているのは、お店の方ですからね。

お店の方にもあたたかい雰囲気があって、つかず離れずのちょうどいい接客をしてくれること。お互いに気持ちよく、楽しく飲めるための最低限の気遣いが大切です。

ーーその「ちょうどいい接客」とは、どのようなものでしょうか?

堀川さん:全く構われないのも嫌だけど、かと言ってあんまり構われすぎても重荷になってしまう。なので、「ほどほど」のコミュニケーションが心地いいですね。会話が途切れ、ふと静かになる瞬間が訪れても、その沈黙すら気まずくなく、むしろ心地よく感じられる。そんなお店が理想ですね。

ーーお店の方との距離感が大切なんですね。ひとり飲みの時は、他のお客さんともお話しすることもありますか?

堀川さん:もちろん。話が盛り上がって、さらに酒が進んでしまうこともありますよ。ひとり飲みなら店の方やお客さんと話しますし、仲間と行けば仲間と盛り上がる。その時々で楽しんでいます。

二日酔いで生放送に遅刻……それでも譲れない「楽しく飲む」という信条

――仲間と飲むこともお好きということですが、お仕事の皆さんと飲みに行くこともありますか? 

堀川さん:『ドラゴンボール』や『名探偵コナン』は、夕方に収録が終わるので、コロナ前は予定の合うスタッフ、キャストで飲みに行っていました。僕はほぼ皆勤賞でした(笑)。

あえて口には出しませんが、皆で「いいものを作ろう」という気概を共有できる、そんな飲み会でしたね。収録中もアイコンタクトで意思疎通できるくらいだったので、もう家族のような関係性なんです。長寿番組になると、自然とそうなっていくものなんですよね。ただ、僕はつい飲み過ぎてしまうので、野沢雅子さんに「りょうくん、飲んでばっかりはダメ!食べなさい!」とよく怒られていました。

――悟空がベジータの体を心配してくれるとは(笑)。周りから心配されるほど飲まれていると、お酒での失敗も少なくないんじゃ……?

堀川さん:大きな失敗が3回ありまして……。3回とも遅刻です。普段、潰れたり、翌日に残ったりすることはあまりないのですが、どうも日本酒との相性が……。3回目ではついに生放送の番組を飛ばしてしまいました。いつもは来ないはずのマネージャーが、スタジオの前に仁王立ちしていて、僕が逃げようとしたら、「りょうさん、今度やったら干しますよ」って。その後、遅刻は絶対にしないと誓いましたね。

ーーそれでもお酒はやめられない、と(笑)。そんな堀川さんがお酒を飲むうえで大切にしているマイルールはありますか?

堀川さん:大勢でもひとりでも、楽しく飲むことです。いい気分で飲むために、「政治と宗教の話はしない、愚痴や人の悪口を言わない」というのを自分の信条として持っています。

お酒が回ってくると、「お前のそういうところがすごいんだよ」「俺にはできないよ」「なんでそういうことができちゃうんだ」って悪口ではなく、褒め始めるようです。だから周りからは、「褒め出したら酔っ払ってきている兆候だ」と言われています。

ただ、楽しく飲みたいので、最近は悪酔いしない程度の量で切り上げるように気をつけています。

酒場の出合いは「予測できない」。だから、ひとり飲みはやめられない

ーー堀川さんが思う、ひとり飲みならではの醍醐味は何だと思いますか?

堀川さん:その場所、そのタイミングでしか生まれない「一期一会」を楽しめること。これに尽きますね。もう二度と会わないかもしれない見ず知らずの人と過ごす、一度きりの時間というのがオツなんじゃないかな、と。もちろん行きつけの店には顔馴染みの常連さんもいますが、そのメンバーがその瞬間にそろうことは、なかなかないですから。

たまたま入ったお店で、誰かが誕生日を祝われていたりすると、僕はもう全力で乗っかりにいきます。そこにいる全員で同じ空気を味わうのもまた一期一会。そう思って、心から楽しむんです。

ーー素敵なお考えですね! では、お酒を飲まなかった頃と今とで、一番大きな変化はなんでしょうか?

堀川さん:昔はお酒の席での人の醜態を見て「自分はああはなるまい」と思っていましたが、あたたかいお店との出会いが、「酒の場は楽しいものなんだ」と教えてくれました。

結局は、すべて自分の捉え方次第なんですよ。楽しめないことをお店や他人のせいにするんじゃなく、自分がどう楽しむか。それが一番大切だから、店選びもメニュー選びも、自分の直感を大事にするんです。もちろん、自分だけ楽しむのではなく周囲への配慮も必要ですが。

「今日は何が食べたいかな?」と自分の心に問いかけ、直感で選んだ店で、その日その場所でしか会えない人たちとの会話を楽しむ。そこでどんな化学反応が起きるかはわからないけれど、その予測できない一期一会を楽しみ、味わうために、僕は酒場へ足を運びたくなるのかもしれません。

ーー最後に、理想の一人飲みのお店をもし作れるとしたら、どんなお店にしたいですか?

堀川さん:とんでもない! 飲食店をなめてはいけません。本当に難しい仕事ですから、僕に店なんかやらせたらダメ。きっと店のお酒を自分で全部飲んでしまって、1週間で潰しますよ(笑)。僕は生涯、客側で結構です。

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取材・文:花沢亜衣
編集:はてな編集部