
お笑い芸人の兵動大樹さんに、ひとり飲みにまつわるエピソードや極意をお伺いしました。
ドラマや雑誌で特集が組まれるなど、人気が高まる「ひとり飲み」。ひとり飲みの客に愛されるお店には、どのような特徴があるのでしょうか。
今回登場いただくのは、自身のYouTubeチャンネルで配信中の「ひとり呑み(げちゃのみ)」シリーズが人気を博し、「酒好き芸人」としても知られる兵動大樹さん
酒場に通うモチベーションは「知らないお店に行くのってめちゃくちゃワクワクするから」。そんな兵動さんに、ひとり飲みだからこそ味わえる醍醐味について伺いました。

- 兵動大樹さん
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1970年7月24日生まれ、大阪府大阪市出身。O型。1990年に矢野勝也と共にお笑いコンビ『矢野・兵動』を結成。コンビとして『NHK上方漫才コンテスト』優秀賞、『ABCお笑い新人グランプリ』優秀新人賞など、多数の賞を受賞している。またフジテレビ系バラエティ『人志松本のすべらない話』に出演し、MVS(MVP)を数回獲得するなど、個人としても活躍。
「4000円の壁」と端っこの特等席。兵動流ひとり飲みの作法
――お酒は昔からお好きだったんですか?
兵動さん(以下、兵動):20代の頃から飲んでいました。ただ、昔は若さゆえ加減が分からず、お酒で失敗することもしばしばでした。
だから、当時は自分がお酒を楽しめるタイプだとは思っていませんでしたね。
――以前は、誰かと外で飲むことが多かったのですか?
兵動:そうですね。仲間と飲みに行くことが多くて、ひとりで入るのは酒場より定食屋。そこでお酒を飲むことはほとんどありませんでした。
それが、コロナ禍が落ち着いて、外でお酒が飲めるようになってからは自然と「やっぱりお店でおいしいものを食べながら飲みたい」と思うようになりました。今では、Googleマップでお店を検索するのが趣味になったほどです。
――兵動さんのYouTubeチャンネルを拝見していると、ひとり飲みを心から楽しまれている様子が伝わってきます。動画内では見たことがありませんが、ひとりで飲んでいて酔っ払ってしまうこともよくあるんですか?
兵動:ひとりで飲んでいて、ベロベロに酔うことはないですね。セコい話ですけど、計算しながら飲んでるんです(笑)。「ハイボールが650円で、つまみが800円やから……」みたいに。後輩と飲むときは気にしませんが、「ひとり飲みの時、4000円は超えたくないな」という自分の中のラインがあるので。
――4000円、リアルな数字ですね(笑)。そのほか、ひとりで飲む時に意識していることや、マイルールはありますか?
兵動:基本的に、お店の端っこの席に座ります。店内を見渡せる感じが好きなんです。焼き鳥屋さんなら、焼き場が見えるカウンターの端が特等席。お店の方の手際を眺めて「それ、なんですか?」なんて聞きながら飲むのが楽しいですね。
自分はお酒や料理に詳しい方ではないので、お店の方によくアドバイスを求めます。「何かおすすめはありますか? 3品くらいで」という感じで。
――お店の方とのコミュニケーションも楽しんでいらっしゃるんですね。
兵動:そうですね。そんな質問に対しても笑顔で、かつ適度な距離感でアドバイスをもらえると、すごく居心地がいい。そこで、「お一人のお客さんはハーフサイズにもできますよ」「1本から注文できますよ」なんて言ってもらえると、もう最高ですよね。せっかく来たからにはいろんな種類を食べたいでしょう。
――絶妙な距離感、そしておひとり様向けメニューを勧めてくれる優しさにグッとくるところ、分かります。
兵動:「飲ませてもらってる、飲んでもらってる」という、お互いを尊重する馴れ合わない関係が理想なんです。逆に、常連さんだけで固まっていて、僕がガラッと扉を開けた瞬間に全員がこっちを振り向く、みたいな(笑)、そういうお店はちょっと入りづらいんですよね。お店を覗いてその雰囲気を感じたら、入らないようにしていて。
……まあ、芸人としては入らなあかんのですけどね。
――芸人としては、ですか?
兵動:常連さん皆がこっちを向くようなアウェイな状況の方が、「おもろいエピソードが生まれるんちゃうか?」と考えてしまうのが芸人の性(さが)。でも、プライベートのひとり飲みでは、そういう仕事モードにはなりたくないじゃないですか。静かなお店とまでは言いませんが、やっぱり気を遣わずにリラックスして飲めるお店が一番です。
「これ何やねん?」を大切に。人間観察の達人に聞く、メニューの“観察方法”
――それでも、好奇心旺盛な兵動さんのことだから、初めてのお店に入るとやっぱりワクワクするんじゃないですか?
兵動:そうですね。昔は同じ店に通うタイプでしたが、YouTubeでひとり飲みの番組を始めてから、知らないお店に行くワクワク感を知ってしまって。
初めてのお店でメニューとにらめっこしながら注文して、「これ、めっちゃうまいやん!」という一品に出合えた瞬間の喜びは格別ですよね。
――実際、「これ、めっちゃうまいやん!」と感動した一品を教えてもらってもいいですか?
兵動:名古屋にある「お晩菜 のびのびた」というお店で出合った「牛すじ肉じゃが」。具材に味がしっかり染みていて、「うーまっ! なんやこれ!」と思わず声が出ました。この「うーまっ!」という感動が、新規開拓の醍醐味です。
ちなみに、この肉じゃがは、また食べたいと思って再訪したらメニューから消えていて(笑)。「あの肉じゃがを食べに来たんです!」とお店の方に直談判したら、復活させてくれたんです。
――直談判とはすごいですね! それで復活させてくれるお店の人の懐の深さも素敵。
兵動:それほど感動した一品でした。だから初めてのお店では、メニューは袋とじのグラビア並みに、ワクワクしながらじっくり見ていますよ(笑)。
「山芋ビシャビシャ揚げ」みたいな、名前を見ただけでは味や見た目が想像できない謎の一品があると、「これ何やねん?」みたいな。でっかい字で書いてあったら「自信がある料理なんかな?」とか、小さい字で隙間に書かれた「エリンギ焼き」は「もしかして書き忘れてたんか?」とか(笑)。勝手に想像を膨らませて楽しんでいます。
メニューって、お店の顔。たとえ汚い字であっても手書きのメニューが好きですね。きれいに印刷された、どこにでもあるようなメニューだとそこまでワクワクしない。店主さんの個性がメニューから感じられると、それだけでお酒が飲めます。
――でも、そういう良いお店を探すのって結構大変じゃないですか?
兵動:Googleマップを見るのがもはや趣味になっているので、全く苦ではないです。料理はもちろん、お店の外観や内観の写真から「どんな席になってるんやろ」「どんな料理があるんやろ」と想像をめぐらせる。そうやって調べている時間もまた、最高に楽しいですね。
――料理のお写真を見る際に重視しているポイントなどはありますか?
兵動:お店が撮ったきれいな写真より、お客さんが撮った“ありのまま”の写真に惹かれます。お店提供の写真だと、たまに実物とギャップがあることもありますから。
何より、多少画像が粗くても「うまそうやな!」と感じられるかどうかが重要。「一品でもええからこれを食べてみたい」と思える料理を見つければ、欠かさずピンを立てます。
あとは「これ、なんや?」と思わせるような、絵力のある写真ですね。今風に言えば「映え」なのかもしれませんが、僕が求めるのは少しニュアンスが違う「おっさん映え」。これがあると最高です。
――おっさん映え……ですか?
兵動:そう。ちょっと無骨でインパクトがあって、なおかつ昭和の香りが漂ってくるような写真です。見ているだけで、過去に食べたことのある似た料理の味が、ふっとよみがえってくるような。
写真だけでなく、お店の佇まいそのものにも「味」がにじみ出ていることってあるじゃないですか。新しいお店には出せない、あの空気感。ひとり飲みとなると、ついついそんなニュアンスを求めてしまいますね。
「楽しんでるかな」「食べてるかな」と他人に気を遣わなくていい、ひとり飲みの気楽さ
――ライブなどで地方へ行かれる機会も多いかと思いますが、地方にも「ここへ行きたい!」とピンを立てているお店があるんでしょうか?
兵動:もちろん。特に名古屋は毎週仕事で行くので、Googleマップのピンの数がすごいことになっています。
あとは富山! 以前、ライブで行ったときに、ふらっと入ったお店が本当においしくて。富山は海の幸が抜群なんです。大げさじゃなく、あのお店に行きたいがために、毎年富山でライブをやっているようなものです。そういや博多にも、ゴマサバが絶品の大好きなお店があったなぁ……。
――全国に「行きつけ」ならぬ「また行きたい店」があるんですね。
兵動: そうなったら最高だな、という思いもあって全国ツアーを続けています。それに、地方の酒場で飲んでいると、僕の大阪弁を聞いて「どちらから?」「観光ならここがいいよ」「もうすぐお祭りがあるよ」なんて、地元の人しか知らない情報を教えてくれる方も多いんです。
――人の出会いもまた、ひとり飲みの醍醐味かもしれませんね。
兵動: そうなんです。普通に暮らしていたら絶対に出会わないような人と、偶然隣り合わせになって話ができる。一度きりの関係かもしれないけれど、その人の人生の話を聞かせてもらうのは、まるで面白い映画を無料で見せてもらっているようで、本当に楽しい。
仲間と賑やかに飲むのももちろん楽しいですが、どこかで「みんな楽しんでるかな」「ちゃんと食べてるかな」と気を遣っている自分もいる。でも、ひとりなら本を読んでもいいし、イヤホンをつけて動画を見てもいい。気の向くままに、帰りに銭湯に寄ったっていい。この自由さが、たまらないですね。
――では最後に、ひとり飲みの醍醐味を知る兵動さんが、もし理想の「ひとり飲みのお店」をつくるとしたら?
兵動: お客さんひとりと店主ひとりの、一対一で向き合うようなお店をやってみたいですね。僕が店に立つなら手の込んだ料理は出せないので、キャンプ飯レベルのつまみを用意して。お一人様、2時間制。夏場は阪神戦のナイター中継を流してね。
ふらっと来て、飲んで、帰る。そんなお客さんが入れ替わり立ち替わり来てくれたら最高ですね。本当に、30分や1時間でサッと飲んでバーっと出て行ってくれるような、そんな酒場をやってみたいです。

あの人の好きなお店
取材・文:花沢亜衣
撮影:小野奈那子
編集:はてな編集部

