
料理やドリンクが“どんぶらこ〜どんぶらこ〜”と流れてくる——。そんなユニークな提供方法で訪れる人を楽しませる「リバーカウンター」。「リバー」という名の通り、水力で料理を運ぶシステムのことで、店内のカウンターに流れる「川」の上を、料理やドリンクが流れていきます。
昭和に生まれ、一時期はさまざまな店で採用されていたというリバーカウンターですが、現在では希少な存在に。しかし、見た目のユニークさや、「古くて新しい」レトロな雰囲気に引かれて、いま再び若い世代から注目を集めています。リバーカウンターとはどんな仕組みなのか?人気の秘密は?リバーカウンターを導入している静岡県沼津市の「甘味処どんぐり」と、神奈川県湯河原町の「流甘味 むろさだ」を訪問し、その魅力に迫ります。
ハイテクなのか、ローテクなのか。レトロな世界観が人気の「甘味処どんぐり」
リバーカウンターを体験できる希少なお店の一つが、静岡県沼津市のJR沼津駅から徒歩5分の場所にある「甘味処どんぐり(以下、どんぐり)」。
外観は古き良き喫茶店、といった佇まいですが、中に入ってみるとびっくり。奥行きのあるスペースにU字型のカウンターが設置され、その中央には水が流れています。


そして、カウンターの奥から流れてくるおけの上には、ジュースとあんみつが!

この店では注文から配膳、食器の返却まですべてセルフサービス。券売機で買ったチケットを空のおけに入れてしばらく待つと、このようにおけに乗ってフードやドリンクが運ばれてきます。食べ終わったら、再び流れてきた空のおけに食器を入れればOK。自動で調理場まで運ばれていきます。
もはやハイテクなのかローテクなのかわかりませんが、水で運ばれてくるという非日常な体験が楽しい!

リバーカウンターと並んで目を引くのが、店内に設置されたジュークボックス。主に70年代歌謡を中心としたラインアップの中から好きな曲を選択すると、隣の人の声が聞こえなくなるほどのすさまじい大音量で音楽が流れてきます。

そのほか、店内のショーケースに古いゲーム機が陳列されていたり、レコードのジャケットが壁に飾られていたりと、昭和のレトロな雰囲気が店中に充満しています。しかし、入店してくるお客は昭和世代だけでなく若者たちもちらほら。時代を超えて引きつける何かがありそう……!
「リバーカウンター」は人件費と食品ロスを抑えながら、集客もかなうシステム
「もともと、うちは魚屋だったんですよ」
そう話すのは「どんぐり」店主の斉藤重昭(しげあき)さん。ご両親の代まで魚屋を営んでいましたが、父親に頼み込んで1976年、喫茶店に業態をチェンジ。リバーカウンターは喫茶店の開店当時から取り入れ、現在に至るまで半世紀近く現役で稼働しています。


「リバーカウンターの導入を考え始めたきっかけはね、当時リバーカウンターを設置しているお店が静岡県内にもあって、いとこが教えてくれたんですよ。面白くて万人受けするんじゃないかと思って導入を検討していたところ、埼玉で甘味処を営んでいる田むらさんが特許を取得していることが分かって。そこで、導入の許可をもらいに田むらさんに行ったんです。実際の施工も田むらさんにしてもらい、料理の作り方や飲食店のノウハウも教わりました」
斉藤さんが話す「田むら」とは、現在も埼玉県の大宮市で営業をしている甘味処「田むら」のこと。実は、リバーカウンターを発明・導入したのはこの「田むら」なのです。しかし、お店の移転リニューアルによって、現在、田むらではリバーカウンターが稼働されることなく姿を消してしまったそう。
斉藤さんがリバーカウンターに可能性を感じたのは、その「エンタメ性」だけが理由ではありません。セルフサービス形式のため人件費が抑えられるうえ、回転寿司のように常に料理を流す必要がないため、食品ロスも少なくて済むこと。実際に導入してみると、リバーカウンター自体の運用コストが比較的低いことも分かり、モーターの交換も約50年間でわずか3回しか行っていないといいます。
オープン後の1年はあまり反響がなかったそうですが、2年目から徐々に口コミでお客が増え、気がつけば人気店に。斉藤さんによると、かつてリバーカウンターの店は数少ないながら全国にいくつかあったようですが、現存するリバーカウンターはほぼなく「いままでテレビの取材は100回くらい受けたよ(笑)」と斉藤さんは豪語します。
20年以上通い続ける常連から、Z世代、海外客まで幅広い層を魅了
近年では、SNSを見たレトロ好きの若い世代のお客も殺到。休日や長期休みの期間には、行列ができるほどの人気ぶりとなっています。海外客も最近では増えているとか。
「特別に何かをしているわけではないけれど、若い人たちが来てくれるのはやっぱりうれしいね。懐かしくて、どこか新しい、そんな感覚が若者に受けているのではないかと思います」

それでは新規のお客ばかりなのかというと、テキパキとお気に入りのメニューを注文したり、古いジュークボックスを迷うことなく操作したりする常連とおぼしき人もちらほら。20年近く通っているというお客は、「食べ物が自分の口に合っているし、マスターの人柄も好きです。優しくて、笑顔があって」と長年通い続ける理由を教えてくれました。特に大宮の田むらから引き継いだメニュー「きしめん」は、周辺の店ではなかなか食べられないそうで、常連からも人気のあるメニューなんだとか。
「一度来たら、みんな何度も足を運んでくれる」と胸を張る斉藤さんに、常連を増やすための工夫を尋ねると、「セルフサービスの店なので、接客面でも特別なことはしていない」と、なんともあっさり。さらには、メニューもお店の業態もオープン当時から変わらぬままというから驚きます。
リバーカウンター、ジュークボックス、きしめんなどのここにしかない強みを生かし、何よりも店を「変えない」ことが、常連に安心感を与え、長く通い続けてもらうことにつながっているのかもしれません。
「俺も今月で77になるから。続けるとしたらあと5〜6年かな。もっとやってくれって言われるんだけどね。だからすぐにはやめられない。このお店なくなったら、お客さん泣くんじゃないかな(笑)」

子どもの頃の記憶を頼りに、コンビニからの業態変更で誕生した「流甘味 むろさだ」
大宮から始まったリバーカウンターの物語は、さらに次の世代へと引き継がれていきます。2023年、神奈川県足柄上郡湯河原町にリバーカウンターの新しい店「流甘味(りゅうかんみ) むろさだ(以下、むろさだ)」がオープン。リバーカウンターに憧れた店主の室伏美樹さんが、どんぐりの斉藤さんに教えを乞い、ほぼゼロから店を立ち上げました。

もともとこちらの場所には室伏さんの親族が経営するコンビニエンスストアがあり、室伏さんはそのお店を引き継いだ4代目オーナー。転機となったのはコロナ禍で、フランチャイズだった同店は本部の業績悪化で閉店することに。これからどうしよう……と途方に暮れていたところ、店の閉店が決まる数カ月前にたまたま訪れていた、どんぐりの記憶がよみがえってきました。

「大宮の田むらさんには、私が小さい頃、埼玉に住む祖母に何度も連れて行ってもらいました。いい思い出がたくさんあったので、娘もいつか連れて行ってあげたいとふと思って調べてみたら、田むらさんからリバーカウンターがなくなっていて……。それだけでなく、そもそも世の中にほとんどないことが分かったんです。唯一、湯河原からすぐ行ける場所にあったのが、どんぐりさんでした」
次の店をどうするかを考えたとき、室伏さんの頭に浮かんだのがリバーカウンターでした。一緒に商売を営んでいたお姉さんに相談すると、「できるんじゃない?」と心強いひと言。湯河原はさまざまな人が訪れる観光地であり、ユニークな店があればそれだけで街の魅力アップにもつながります。コロナ禍の業態転換支援の助成金も後押しになりました。
リバーカウンターを導入するにあたり、「田むら」の社長に連絡して相談したそうですが、リバーカウンターを製造する職人もおらず、図面も失われていて計画は難航。リバーカウンターを再現することは不可能に思えましたが、地元業者の助言や、実物が稼働するどんぐりを参考にして再現のめどが立ち、ついに開店に至りました。
「田むらさんがリバーカウンターというすてきなアイデアを形にしたのは50年以上も前のこと。それを、どんぐりさんはいち早く導入して、世代を問わず愛される店であり続けています。先輩方に学び、常に新しいアイデアを試しながら、長く愛される店にしていきたいと思いました」
子どもたちにワクワクを提供しながら、地元で支持される店を目指す
子どもの頃の体験をきっかけに、どんぐりに教わったリバーカウンターのノウハウなどを引き継いだむろさだですが、内装やレイアウトは、室伏さんならではのセンスを反映。リバーカウンターを中心に、緑をたくさん配置した明るい雰囲気に仕上がっています。



メニューは、田むらとどんぐりの“いいとこどり”をしながら、幅広い世代に楽しんでもらえるように、食事メニューを拡充したそう。

お店を開くと狙い通りの大反響。観光で立ち寄る人のほか、友だちと連れ立ってお茶を楽しむ地元のリピーターも多いそうです。人気メニューは「気まぐれパフェ」。注文すると、室伏さんの“気まぐれ”で内容がランダムに決まります。常連を飽きさせない工夫としてはじめたものですが、想像以上の大反響。何が出てくるか分からない「ガチャ」がはやっているのと関係しているのでは、と室伏さんは考えています。
店を営業する中で、室伏さんが何よりうれしかったのは、地元の小学生が「パフェといえば、むろさだだよね」と話してくれたこと。
「周辺にパフェのお店が少ないこともあると思いますが、そう感じてもらえるのはうれしいですね。私自身、リバーカウンターで流れて来るパフェにワクワクした子どもの頃の記憶が大人になってもずっと残っていました。だから娘にも体験してもらいたいと思ったし、自分でもお店をしてみたいと思ったんです。むらさだに来た子どもたちが、将来自分の子どもを連れて来てくれたらうれしいですね」

「リバーカウンター」には時代を越えて愛される、変わらぬ魅力がある
昭和の時代に誕生したリバーカウンターは、料理が水の上を流れてくるという非日常の演出で、多くの人を魅了してきました。現在ではその数は減少していますが、時を経たことで「レトロ」という新たな魅力が加わり、どんぐりのように若い世代の関心を再び集めて集客の重要なコンテンツとして機能しています。さらに、むろさだの室伏さんのように、子どもの頃にリバーカウンターで楽しい体験をした人が、その記憶をもとに新たにリバーカウンターを取り入れる事例まで生まれました。
こうして、リバーカウンターに魅せられた人の思いが、バトンをつないでいます。今回の取材では、そんなリバーカウンターの変わらぬ魅力と、そこから生まれる素敵なストーリーを感じることができました。
取材先紹介
- 甘味処どんぐり
-
住所:静岡県沼津市大手町5-8-22
HP
- 流甘味 むろさだ
-
住所:神奈川県足柄下郡湯河原町宮上469
HP
- 取材・文小野和哉
-
1985年、千葉県生まれ。フリーランスのライター/編集者。盆踊りやお祭りなどの郷土芸能が大好きで、全国各地をフィールドワークして飛び回っている。有名観光スポットよりも、地域の味わい深いお店や銭湯にひかれて入ってしまうタイプ。
- 写真新谷敏司
- 企画編集株式会社都恋堂