「昭和レトロ」なだけじゃない!復活した「ホテルニューアカオ」が時代を超えて愛される理由

1973年に、熱海で開業したホテルニューアカオ(以下、ニューアカオ)。断崖の上という唯一無二のロケーションとヨーロッパテイストの豪華絢爛な内装で人気を博しましたが、2021年に新型コロナウイルスや施設の老朽化などの影響により、一度営業を終了しました。

しかしニューアカオの復活を望む声は多く、2023年に「昭和レトロ」なニューアカオらしさを生かした形でリニューアルオープン。かつてのメイン客層であった家族連れに加えて、現在は若者世代にまでファン層を広げています。なぜ、開業から50年超の時を経てもなお、ニューアカオは愛され続けるのか?2024年から総支配人を務める礒崎(いそざき) 慎さんに伺うと、そこには「昭和レトロ」に終わらない、ホテルの戦略と魅力がありました。

唯一無二のロケーションで多くの人に親しまれた、熱海のシンボル

レトロ感あふれる外観と錦ヶ浦エリアから臨む唯一無二のロケーションが魅力。ロビーからは一面のガラス窓を通して迫力の海を楽しめる

――礒崎さんは、開業当時から長年ニューアカオで働いていらっしゃったそうですね。

新卒から23年間、当ホテルのスタッフとして働いていました。閉業前に一度退社しましたが、リニューアルオープンした際にかつての同僚に声をかけられ、「愛着を持って長年働いてきたニューアカオでまた働きたい」という思いが戻ってきまして。

――ニューアカオの歴史を当事者として体験されてきたのですね。熱海温泉には多くの宿泊施設が存在しますが、その中でニューアカオはどのような存在ですか。

当ホテルは、熱海温泉の中心部から少し離れた錦ヶ浦エリアにあるただ一つのホテルです。その独特の立地から、開業当時より「海の上に立つホテル」と呼ばれてきました。1980年代には熱海旅行ブームをけん引し、宿泊者だけでなく、地元の方や観光客にも、熱海の象徴として親しまれていましたね。

総支配人の礒崎慎さん

――2021年に一度営業を終了していますが、2023年にリニューアルオープンした際は、その反響も大きかったのでは?

そうですね。ニューアカオが閉業していた2年間は、熱海を照らしてきた明かりが一つ消えたような期間でした。それだけに、市内にラッピングカーを走らせてリニューアルオープンを告知した際は、地元の方やかつてのお客さまから「懐かしい」「昔家族で行ったよ」というお声をたくさんいただきました。

“昭和レトロ”な内装はそのままに、懐かしさを意識した施設もオープン

――リニューアルオープンした際のキャッチコピー、「昭和98年(2023年)7月1日、熱海のシンボル“蘇る”」には、どのような思いがあったのでしょう。

昭和の雰囲気が残るヨーロッパ調のゴージャスな内装、レトロな外観など、「昭和を代表するホテル」としての魅力をそのまま残してリニューアルしたことをアピールしたかったんです。ニューアカオならではの“昭和らしい”魅力を、当時若者に流行しはじめた「昭和レトロ」というキーワードとともに、SNSやマスメディアを通じて、浸透させていきたいと考えていました。

――残したもの、変えたもののバランスはどのように考えましたか。

できるだけ元の姿を大切にしながら、老朽化している部分など、どうしても手を入れざるを得ない部分だけを見直す、という方針で考えました。

まず設備面では、ニューアカオの特徴である昭和の雰囲気が残る内装を、できるだけ開業当時のまま残しています。家具などの調度品は開業当時から使用しているものをリペアに出し、らせん階段やシャンデリアなどの装飾品もメンテナンスしながら使用し続けることにしました。変えたのは老朽化したキッチンなど、最低限の設備だけです。

ニューアカオの象徴であるメインダイニングも、ほぼ当時のまま。初めて訪れたお客は、まるで映画のワンシーンのようなスケール感に驚く

接客面では、スーツではなくポロシャツでお出迎えし、明るいあいさつを徹底するなど、リゾートホテルらしい程よい距離感と、親しみやすい接客を引き続き大切にしています。

加えて、リニューアル後はコンテンツの充実を図り、お客さまの楽しみ方がより広がるようなおもてなしを意識していますね。具体的には、館内でのイベントや自然のアクティビティーを充実させたほか、射的コーナーや缶詰バーなどの懐かしい昭和の風景を意識した新たな施設を入れています。

リニューアル後に設置された缶詰バー。熱海温泉の中心地から離れた場所にあるため、館内で飲食を楽しんでもらえる工夫が凝らされている

スタッフの“ニューアカオ愛”と“一体感”を育むため、研修プログラムを実施

――旧ニューアカオの魅力を残したリニューアルとはいえ、およそ2年の休業期間がありました。リニューアル後は、スタッフの体制づくりなどで苦労されたことはありましたか。

そうですね。実はリニューアルのタイミングでは、旧ニューアカオのスタッフに加え、新卒採用で入社したスタッフやグループ会社から来たスタッフ、外国籍のスタッフやパートの方々まで、200名近くのスタッフが集まってくれたんです。

背景も経歴も異なる者が一斉に集まったものですから、当然ニューアカオの歴史や熱海に関する知識もまちまちですし、言語面を含むコミュニケーションの課題もありました。そのため、スタッフ間の団結が弱く、一体感のあるおもてなしにはつながりにくい状況でした。

――どのように改善したのでしょう。

まず、スタッフ同士のコミュニケーション課題を解決するために、熱海市内にあるまちづくり会社の協力のもと、研修プログラム「熱海を知る 街歩き研修」を実施しました。熱海の歴史やまちづくりをゲーム形式で学び、それを接客やおもてなしに生かすことを目的としているプログラムです。参加者は3人1組のチームを組み、熱海の街を実際に歩いてミッションに挑戦し、獲得した得点を競い合います。

スタッフの地域理解につながることはもちろん、互いに知らない者同士が協力してゲームに参加することで、スタッフ間の交流を深めてもらいました。

また、リニューアル後にスタートしたアクティビティー「錦ヶ浦散策ガイド」は、ホテルの歴史や周辺の自然について、スタッフが案内・解説を行うツアーです。スタッフ育成の意味も込め、あえて担当者を固定せず、持ち回りでガイドを担当しています。

錦ヶ浦は、市街地沿岸部の南端に位置する断崖地域。展望台や遊歩道など、断崖を見下ろせるスポットもあり、熱海の景勝地として人気

こうした地道な取り組みによって、スタッフ一人一人の意識が少しずつ変わり、いまでは全てのスタッフがニューアカオの魅力を理解し、自分たちの言葉で伝えられるようになってきました。ようやく、一体感のあるおもてなしが形になりつつあると感じています。

リニューアルが、世代を超えたニューアカオの魅力を発信するきっかけに

――苦労を経てリニューアルをされましたが、お客さまの反応はいかがですか。

より幅広い世代のお客さまに楽しんでいただけるようになりました。「子どものころ、家族でニューアカオに来た」という方が、今度はご両親とお子さまを連れて3世代でお越しになることが増えましたね。

とくに印象に残っているのが、リニューアルオープン後に最初にいらしたお客さまです。親、子、孫の3世代でお越しになり、開業当時のパンフレットを見せていただきました。私も持っていない古いもので、大切に取っておかれていたのを見て感動しましたね。同時に、それだけ多くの方に愛されてきたホテルを、皆さんの思い出のままの姿で引き継いでいけることを誇らしく感じました。

ほかにも、リニューアル前と比べて若い世代のグループや、女性同士で宿泊されるお客さまが増えている印象があります。「昭和レトロ」というキーワードとSNSに投稿されたお客さまの写真が、若い方に響いていると感じますね。

――滞在客の楽しみ方は変わったと感じますか。

客層を問わず、写真を撮っていかれる方が増えましたね。かつては、「旅先のホテルで自分たちの写真を撮る」というお客さまが多かったのですが、SNSが身近ないまは、自分が気に入った景色や調度品にこだわって撮影される方が多い印象です。

メインダイニングに続く廊下と開業当時のまま残るらせん階段(左)。シャンデリア(右)はLEDに対応していないため、こまめに電球を変えるのだそう

――具体的に、どのような場所が撮影スポットとして人気なのですか。

ニューアカオのシンボルであるネオンサインが見えるオーシャン・ウイングのテラスや「メインダイニング錦」、フォトスポットとして開放しているダンスホールは人気があります。一方で、らせん階段やシャンデリア、メインダイニングに続く廊下など、長年ニューアカオで働いてきた私のような者にとっては「ごく当たり前にそこにあったもの」を撮っていかれる方も多く、お客さまの目を通して、あらためてニューアカオの魅力に気付かされています。

ニューアカオの名物として知られているレトロな書体のネオンサインは、ロゴグッズにも展開される

お客の声に柔軟に対応。スタッフ自ら手がけるイベントやグッズも大人気

――リニューアル後は館内でさまざまなイベントを開催されていますが、どのように企画されていますか。

PR会社を入れることもありますが、ホテルの企画広報チームがアイデアを出し、自分たちで形にすることも少なくないですね。2025年に入ってからは、「昭和100年記念」と称してニューアカオの歴史や「昭和レトロ」に紐づいた企画を続々と開催しています。

「ニューアカオクイズ」もその一つ。3択問題でニューアカオに関するクイズを出し、最後の問題まで正解した人に賞品を用意しましたが、50人以上の家族連れが集まり大変盛り上がりました。(※イベントは時期によって異なります)

また、若手社員の有志が集まった「昭和未来会議」が、イベントや企画のアイデアを出すこともあります。部署や役職に関係なく、自分たちがやってみたいと思う企画を自由に提案できる環境をつくっています。

――お客さまの反応をコンテンツに反映させることも多いのでしょうか。

お客さまがニューアカオに来てどのように楽しまれているのか、何を喜んでいただけるのかを見ながら企画に反映しています。例えば、現在(2025年8月)射的コーナーの横に設置した駄菓子屋は、お子さま連れのお客さまから大変好評で、期間限定の予定を延長して設置しているところです。お客さまの反応を見ながら、常設も検討しています。

ロゴグッズも同様に、はじめはTシャツだけでしたが、お客さまの反響があまりに大きかったので、他のグッズにも展開しました。

「あなたにとってのホテルニューアカオ×昭和100年」をテーマに一般から募集したTシャツデザイン(左)と企画広報チームのデザイナーがデザインしたという「昭和100年記念Tシャツ」(右)(画像提供:ニューアカオ)

実はグッズデザインは、企画広報チームの若手が手掛けている。「昭和100年記念Tシャツ」のイラストも手掛けているというから驚きだ

熱海市の駄菓子問屋とコラボした駄菓子屋スペース。ニューアカオの「昭和100年」と駄菓子問屋の「創業100年」の100年コラボが実現した

――熱海のシンボルとしてお客さまに選ばれ続けるホテルであるために、今後取り組んでいきたいことを教えてください。

お客さまのお顔を見て、声を聞き、何を喜んでくださっているのかをキャッチしていきたいですね。「昭和レトロ」はニューアカオの特色の一つですが、世の中のブームとマッチしたことで、より大きな反響を生むことができたと感じています。

しかし、ブームはいつか終わるものです。ブームに頼り過ぎるのではなく、お客さまがどう楽しみたいかを知りながら、一つ一つ形にしていくことが大切だと考えています。その上で、自分たちが誇れるものとして、ニューアカオの歴史やその存在を発信し続けていきたいですね。

取材先紹介

ホテルニューアカオ

取材・文原田さつき
写真瀬尾直希
企画編集株式会社都恋堂