
大阪市北区・中津のスーパーマーケット「goody(グッディ)中津店」の、ちょっと変わった取り組みが注目を集めています。19時を過ぎると、買った食材をスタッフがその場で調理してくれて、スーパー内で食べたり飲んだりする “店内飲食”ができるのです。2024年に始まったサービスで、SNSや各種メディアでたちまち話題になりました。実際はどんな様子なのか、この目で確かめるべく、お店に足を運んでみました。
飲食店の並びにあるスーパー、なぜか夜になると……
阪急電鉄「中津駅」から、淀川方面に2分ほど歩くと、「goody」と書かれたお店のサインが現れます。中規模マンションの一階で、外観はいかにも普通のスーパーマーケット(以下、スーパー)です。

店内も、一般的なスーパーと何ら変わらない光景。

生鮮品から、お菓子、缶詰、調味料、冷凍食品、飲料と、一般的なスーパーと遜色ない品ぞろえです。自然農法や産地・製法に配慮した“こだわり”が感じられる商品も、積極的に入荷しています。
19時。二つある自動ドアの片方が閉じられ、その前の空間にテーブルや椅子が用意されました。店内飲食は基本、総菜コーナーの大テーブルでの飲食となりますが、利用が複数組重なった場合など、自動ドア前にテーブルを設置したり、陳列棚を即席の簡易テーブルにして使用しています。

「スーパーで飲み会」という非日常な体験がやみつきになる!
間もなく、店内飲食の目的で男女5名のお客が来店。その様子を密着させていただきました。

早速、楽しそうにワイワイとお買い物を始めます。3名は過去にもここで店内飲食をしたことがあるそうですが、2名は初めての来店。ちなみに、店内飲食は事前予約も可能です。

「近所に住んでいて以前からこのスーパーで買い物をしていましたが、雑誌でこのサービスを知りました。試しに店内飲食で利用したら、とても楽しかったんです。だから今日は知り合いを連れてきました」と、一足先に席について、ハイボールで総菜をつまむ男性。
総菜など、調理不要ですぐに食べられる食品は先に会計を済ませます。一方、調理が必要な食品は、後でまとめて支払うシステム。後者は、商品の合計金額に1.5〜2倍を掛けた金額で、調理の手間や使用した調味料によって倍率も変動します。余った食材(調理後含む)で持ち帰りができるものは持って帰れます。
調理を担当するのは総菜部の通称「はっちゃん」。調理方法やメニューのオーダーはできるだけ具体的な方が好ましいですが、「この食材を食べてみたい」、「この調味料を味わってみたい」という要望から、はっちゃんがメニューを提案してくれることもあります。

テーブルでは料理が出そろったので、先ほどまで棚に並んでいたアルコール飲料(持ち込みはNG)を掲げて「カンパーイ!」。スーパーの中での奇妙で楽しい飲み会がスタートです。

メインディッシュは、「オイルサーディンともやしの炒め物」。今回初めて訪れた女性が「オイルサーディンを食べてみたい」と希望し、もやしと取り合わせました。パプリカパウダーを使った味付けは、はっちゃんのアレンジ。絶妙なバランスで仕上がっています。


できあいのシメサバもはっちゃんの提案で、「あぶりシメサバ」にグレードアップ!お酒もグイグイ進み、缶やビンが次々と空になっていくおいしさです。

「スーパーの中で居酒屋気分を味わうという、この非日常感がすごく楽しい!」と盛り上がるみなさん。さっくり一時間ほど楽しまれて退店されました。
ちなみに、入り口近くには商品棚を利用したDJブースがあり、週に数回、DJが音楽で盛り上げます。取材日は昭和歌謡が流れ、お客も楽しんでいました。もちろん、19時以降も通常どおり、肉や卵をカゴに入れ、レジで会計を済ませて帰るお客もいます。
未知の料理にも対応!お客の想像の上を行くはっちゃんの対応力
スーパーの概念が吹っ飛ぶ非日常な空間。がぜん興味が出てきた取材陣も、食材を買って料理をお願いすることにしました。ライター、カメラマン、編集者がそれぞれ食べたいものを選びつつ、「焼きうどんは、せっかくなので関西風にしてください」、「豚肉とカレールウで何か作れますか?」、「イカが食べたい」など、好き勝手にリクエスト。

「焼きうどんの具に、ニンニクの芽はどうですか?」、「たらこはイカにあえて、残りはあぶりましょうか」など、はっちゃんも色々と提案してくれます。

はっちゃんは入社7年目。一貫してgoodyの総菜部を担当してきました。もともと料理は好きでしたが、調理学校や飲食店修業などは経験しておらず、入社当初から総菜部の先輩に教わりながら腕を磨いてきたそうです。
2年前、社内で新しい取り組みとして本サービスのアイデアが出たとき、最初は「できるかな?」と戸惑いがあったものの、前向きに挑戦した、とのこと。いまでは自分の成長につながる取り組みとして捉え、楽しみながら続けているそうです。


「これまでで一番難しかった料理は、トリニダード・トバゴという国の料理のリクエストでした。常連のお客さまから『同僚のトリニダード・トバゴ人に故郷の味を食べさせたい』と相談を受けたのですが、私には未知の料理。動画で作り方を調べ、一度試作してから、当日に臨みました。結果、とてもご満足いただけました」
このサービスがSNSで話題になって以降、海外からの来店も増えたそうです。リクエストで一番多いのは、「日本の家庭料理が食べたい」というものだそうです。
調理中のはっちゃんに話を伺っていたら、取材班の料理も完成しました。だしのうま味が生かされた関西風焼うどん、ポークソテーのカレーソースがけ、ヤリイカとたらこのバター炒め、あぶりたらこの計4種がテーブルに上りました。どれもこれも絶妙な味付けでお酒が進みます。

そして、スーパーの棚を眺め、「あれも食べたいね」、「これもいいね」、と仲間で会話をするのが楽しいひととき。食材の組み合わせは無限大、考えるだけでワクワクします。

利益追求ではなく「面白いこと」「楽しいこと」をしたい
では、なぜこのようなユニークなサービスが生まれたのでしょうか。 店主の八尾良介さんにお話を伺いました。

――このユニークなサービスを始めた経緯を教えてください。
お客さまから「食材を買っても、家で自炊するのが面倒」、「実家のようなちゃんとしたごはんを食べたい」というお声をいただくことが多く、「だったら、うちには優秀な調理スタッフもいるし、注文されたものをその場で作って提供してみたらどうか」と思い付きました。スーパーを「巨大な冷蔵庫」と捉え、「自炊の延長」として利用していただければと思っています。
――食べたい料理を調理してもらえるという点は大きなメリットですね。
自分の口に入るものを、自分で選べるという安心感があるのも、このサービスの大きな利点だと思っています。普通の飲食店だと、メニューは選べても、食材までは選ぶことはできませんよね。味付けも「塩分を少なくしてください」など、細かくリクエストできるので、自分に合った料理を食べることができます。
――話題になると予想していましたか。
実は、始めた当初は店内に張り紙を貼ったくらいで、全く宣伝しませんでした。ただ、他のスーパーでやっていない取り組みだったので、いずれ話題になるだろうという予感はありました。近隣にはMBS毎日放送や関西テレビなどのマスコミの本社もあり、すぐに取材に来ていただけたこともあったと思います。最初は穏やかでしたが、2025年初頭あたりから一気に話題になりはじめました。
――話題になったことで、お店の売り上げも向上しましたか。
正直、売り上げが劇的に伸びたということはありません。そもそもこのサービスは利益追求よりも、「面白いこと・楽しいことをやる」という発想で始めたものです。始めてみると面白がってくれるお客さんも多いですし、はっちゃんの料理の腕も着実に上達しているので、店としても成功したサービスです。
――今後の展開を教えてください。
店内飲食の実現によってスタッフも成長し、お客さまとこれまでよりもコミュニケーションを深められるようになりました。例えば現在DJとして活躍しているスタッフは、元々うちをよく利用していたお客さまです。「スーパー所属のDJにならない?」と声を掛けて仲間に迎えました。こうした取り組みのように、店としても「面白そう」からはじまるサービスが、結果として、お客さんの楽しさやワクワクにつながると思っています。これからもうち(goody中津店)ならではの、面白くて斬新なサービスを発信していきたいです。
取材先紹介
- goody中津店
-
住所:大阪府大阪市北区中津1-17-12 メロディーハイム5番館 1F
HP

- 取材・文小野和哉
-
1985年、千葉県生まれ。フリーランスのライター/編集者。盆踊りやお祭りなどの郷土芸能が大好きで、全国各地をフィールドワークして飛び回っている。有名観光スポットよりも、地域の味わい深いお店や銭湯にひかれて入ってしまうタイプ。
- 写真新谷敏司
- 企画編集株式会社都恋堂