気鋭の建築デザイナー・関祐介さんに聞いてみた「飲食店の“窓”にはどんな意味があるんですか?」

「厨房に窓」や「シャッターが扉」などユニークなアイデアで、飲食店における空間設計のあり方をアップデートし続けている建築デザイナー・関祐介さんに、「窓」に対するこだわりを伺いました。


店内の焙煎機を「鑑賞」の対象に変え、シャッター「扉」として再解釈すると思えば、あえて「厨房の中」に大きな窓を設ける。

建築デザイナー・関祐介さんの手にかかると、私たちが知っている「窓」や「扉」は、まったく新しい意味を持ち始めます。

そのユニークな発想は、デザイン性だけでなく、厨房のオペレーションやスタッフの働きやすさにも直結していると関さんは言います。

「KUMU 金沢」「TSUGU 京都三条」といったホテルから、「Suba soba」をはじめとする人気飲食店に至るまで、さまざまな建築物の空間設計を手がけてきた関さんに、光や風を取り込むだけではない、「窓」から始まる空間設計の哲学を聞きました。

関祐介さん

建築デザイナー。Yusuke Seki Studio主宰。
金沢美術工芸大学卒業後にキャリアをスタートし、ザ・シェアホテルズ「KUMU 金沢」「TSUGU 京都三条」を手掛ける。「OGAWA COFFEE LABORATORY 桜新町」「Suba soba(京都)」「Sniite(目黒)」など、飲食店の設計も多数。東京と京都を拠点に、国内外で幅広い建築・空間デザインを行っている。
Instagram:@sek03

何を見せて、何を見せないか。ガラスがつくる体験のデザイン

——関さんが設計されたカフェ「OGAWA COFFEE LABORATORY 桜新町」(東京都世田谷区)は、外からでも店内がよく見える、大きなガラスの入口と窓が印象的です。カウンター奥の焙煎機もガラス越しに見えるように設計されていますが、どういった意図でデザインされたのでしょうか。

OGAWA COFFEE LABORATORY 桜新町の入口。提供:小川珈琲

OGAWA COFFEE LABORATORY 桜新町の入口。提供:小川珈琲

関さん:僕はもともと、「窓」よりも「ガラス」という素材そのものに興味があったんです。

例えば、人やものをガラス越しに見ると、それだけで少し客観的に感じられることがありますよね。動物園や水族館で動物を見る感覚に近いと思います。ガラスが1枚入るだけで境界になり、「鑑賞」という要素が加わるんです。

なぜそう感じるのかは説明しづらいですが、光の角度や反射などが関係しているんだと思います。絵画に額縁があるのと同じように、ガラスも行為や人を特別に見せることができる素材なんですよね。

「OGAWA COFFEE LABORATORY 桜新町」の焙煎機も、そんなガラスの特徴を生かして、単なる作業場ではなく「鑑賞の視点」が加わるように設計しました。お客さんにとっても、焙煎という行為そのものがひとつの体験になり、面白く感じてもらえるのではと思ったんです。

焙煎機が店内外から見えやすい場所に設置されている。提供:小川珈琲

焙煎機が店内外から見えやすい場所に設置されている。提供:小川珈琲

——対照的に、京都の立ち食いそば屋さん「Suba soba」は外から中が見えにくい構造ですね。

関さん:そうですね。「Suba soba」では、外と内の明るさのコントラストを生かしています。日中は外が明るいので、ガラス面が鏡のように反射して店内が見えにくくなる。一方、夜は店内の照明が主役になるので、外から中がよく見える。つまり、時間によって性格が変わる開口部(壁や屋根に設けられた開放できる部分)なんです。

――昼は閉じて夜は開く、というイメージでしょうか。「時間帯で性格が変わる窓」って面白いですね。

関さん:そうですね。飲食店の空間を設計する際、窓は外の光や風を取り入れる装置としてだけではなく、時間帯による環境の変化も踏まえて、そのデザインや配置を考えるようにしています。反射と透過のバランスを考えたうえで設計しないと、意図せず昼間に「中が全然見えない」といった状態も起こります。

「自動ドア」を窓に。「窓のない店」のデザイン発想

——飲食店の設計において、「窓の配置」をどの段階で意識されますか?

関さん:特定の段階に来て考え始めるというわけではなく、基本的には店舗があるロケーション次第です。設計を依頼いただくのは1階の路面店が多いので、外と中を隔てる要素として、窓を含めた開口部は効果的に設けたいと考えています。

ただ、松原にあるスパイス料理とお茶のお店「マドロム」(東京都世田谷区)では逆の選択をしました。店舗の物件はもともとガレージとして使われていたスペースで、改装の予算も限られていました。なので、お店のブランディングや雰囲気に合わせ、新たに窓を設けない設計にしたんです。

提供:マドロム

ファサードは既存のシャッターを一部分だけカットし、お客さまはそこから入店します。両隣のシャッターは閉めているので店内は薄暗いけれど、その開口が窓の役割もします。逆に、天候のいい日はシャッターを全開にもできるので、開放感もあります。

——シャッターが閉まっていると、お店があることに気づかないくらい控えめな佇まいですよね。

関さん:そうなんですよ。スパイスの香りや雰囲気と、その秘密めいた世界観が合うのではないかと、このようなデザインにしました。

——地下店舗など、もともと窓がないような空間にはどうやって窓を設けるのですか?

関さん:そういう場合は、無理に開放感をつくろうとはしません光が入りにくい場所で明るさを演出しようとするとかえって不自然になるので、「地下であることを楽しむ」方向に振ります。

僕がご依頼いただくプロジェクトは、新築ではなく、ほとんどが既存の建物なんです。だから、与えられた条件に抗うよりも、その物件が持っている個性や制約をどう生かすかを考えます。そのうえで設計側のアイデアで新しい要素を加え、「今まで見たことがない」と思ってもらえるような空間をつくる。結果的に、そのほうが強い店になると感じています。

——では、物理的に窓がつくれなくても、窓のような役割を持たせた例はありますか?

関さん:地下物件ではないんですが、幡ヶ谷のレストラン「SENNE(セネ)」(東京都渋谷区)では自動ドアを開放感のある窓として再解釈しました。自動ドアって、人がいると開きっぱなしになりますよね。

その自動ドアのすぐ後ろ側にベンチを置いたんです。必然的にお客さまが座るとドアが開いたままになるので、そのときだけはベンチがテラス席のようになるんです。これは面白いアプローチだと自分でも思っていたんですが、ネットでお店のクチコミをたまたま見ていたら「関イズムが感じられる店内」と書いてありました(笑)。

大きな自動ドアが印象的な店舗外観。提供:SENNE

大きな自動ドアが印象的な店舗外観。提供:SENNE

スタバの床はなぜ“フラット”なのか。作り手視点で考える「視線設計」

——店舗の空間デザインを依頼された際、「こんな窓にしたい」と店主から希望が出ることはありますか?

関さん:窓を指定されることはほとんどありませんね。お店のコンセプトやイメージをもとに「お任せします」と言われることがほとんど。その代わり僕らは、席数、スタッフの人数、厨房機器のボリュームなどをお店側に必ず確認します。

導線やオペレーションの確保はお店の利益に直結しますし、どんなに美しい空間でも、厨房の環境が悪いと店の持続力が下がってしまう。スタッフが一番長く過ごす場所ですから、ストレスなく働ける環境づくりを最優先にしています。

——基本的にはお客さんの居心地の良さを考えて窓をつくられていると思いますが、お店のスタッフが心地よく過ごすための窓を設計されたことはありますか?

関さん:はい。スペイン・バスク地方にあるスペイン料理店「Txispa(チスパ)」の設計では、厨房の中に大きな窓を設けました。

一般的に飲食店の厨房は壁に向かって調理することが多く、閉鎖的な空間になりやすいですよね。ただ、このお店は山の中にあり、外には大自然が広がっていてとてもいい景色なんです。その風景を見ながら料理できたら、厨房で働く人たちの気持ちも明るくなるんじゃないかと思って。

——厨房に窓ですか! 珍しいですね。完成後、スタッフさんの反応はいかがでしたか?

関さん:とても喜ばれました。「天気の様子が分かるだけでも気分が違うし、その日の空気に合わせて、より繊細に調理できるようになった」と言ってくれて。

時々、厨房とレイアウトはもう決まっていて「デザイン設計だけをお願いします」というご依頼もあるんですが、設計の初期段階から携われないプロジェクトはお断りするようにしています。やっぱり、厨房があってこその飲食店だと思うので。

——関さんもご自身でラーメンを作り、海外でポップアップも経験されていますよね。作り手としての視点も、飲食店の空間設計に生かされていると感じますか?

関さん:めちゃくちゃ感じますね。フランス・パリで2回、スイス・バーゼルで1回、僕が厨房に立ちラーメンを作って提供するポップアップイベントを開催しました。

実際に厨房に立ってみると、本当にいろいろな気づきがあります。

例えば、カウンターの高さ一つとっても印象が変わるんですよね。お客さまの動きが意外とよく見えるとか、見せたくない作業が丸見えになってしまうとか。だから今は、厨房の使い勝手やスタッフの視線まで含めて設計するようになりました。

——視線設計という面では、どんなことを意識されていますか?

関さん:例えばスターバックスって、どの店舗もカウンターの高さと客席の床の高さがフラットになっている印象があります。

お客さんとスタッフの目線が同じ高さにある。すると、お客さんとスタッフのコミュニケーションスタイルも変わるんです。これがサードプレイスとしての心地よさにつながっていると思います。たぶんですが……。

先ほどの「OGAWA COFFEE LABORATORY 桜新町」では、通行人と店内のお客さんの目線が合わないように、店内の床の高さを少し上げています。さらに厨房側の床の高さを下げて、お客さんとスタッフがカウンター越しに話しやすいよう調整しました。

提供:小川珈琲

提供:小川珈琲

——ガラス入口の開口部で鑑賞の要素を入れ、床の高さで視線も設計しているんですね。関さんが飲食店の「体験価値」を重視して空間設計されている様子が伝わってきます。

良いデザイナーを見極めるコツは「カウンターの裏を触ること」

——では、これから飲食店をつくりたい人が、設計者を選ぶときに見るべきポイントはありますか?

関さん:ぜひ、そのデザイナーが手掛けたお店に行ってカウンターの裏側を触ってみてください。カウンタートップは誰でもきれいに仕上げますが、見えない裏側の処理にこそ丁寧さが出る。ビスが出ていたり、塗装が粗かったりする場合は、たぶん全体も同じです。

隅々まで配慮が行き届いているデザイナーは、きっと信頼できます。飲食店のカウンターはお店の顔ですから、そこを大事にできるデザイナーかどうかが分かると思います

——確かに、カウンターの裏は今まで触ったことがないかもしれません。ありがとうございます。最後に、関さんが考える「良い飲食店の窓」とはどんなものでしょうか。

関さん:窓は、光を取り入れる装置というより「コミュニケーションを媒介する装置」だと思っています。店の外と内、スタッフとお客さま、時間と空間。それらの関係をつなぐ窓口としての機能です。たとえ物理的なガラスがなくても、対話が生まれる場所には必ず窓がある。そういう視点で設計すると、飲食店の空間はもっと豊かになると思います。

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取材・文:田窪綾
編集:はてな編集部