湯島の人気喫茶店「みじんこ」がDXを進める理由。LINEとセルフオーダーシステムでつくる“温かい店”

ホットケーキや自家焙煎のコーヒーが人気の喫茶店「みじんこ」に、LINE公式アカウントの活用方法を伺いました。


一度ならず、何度も足を運んでくれる「おなじみ」のお客さんは、飲食店にとって心強い存在です。多くの常連客の心をつかむお店は、どのような工夫をしているのでしょうか。

厚焼きのホットケーキや自家焙煎コーヒーが人気の、東京・湯島にある喫茶店「みじんこ」。 2011年のオープン以来、「女性一人でも過ごしやすいお店」というコンセプトで、多くの常連客から愛されています。

昔ながらの喫茶店のような落ち着いた雰囲気を守りながらも、裏側ではLINE公式アカウントやセルフオーダーシステムなどのデジタルツールを積極的に導入。

「アナログな心地よさ」と「デジタルな効率化」をどのように両立させているのか。マネージャーの鈴木一宏さんに、長く愛される店づくりの秘訣とLINE活用の裏側を伺いました。

喫茶店「みじんこ」鈴木一宏さんのプロフィール写真

鈴木一宏さん

「みじんこ」マネージャー。2015年、「みじんこ」にアルバイトとして入社し、以来10年にわたり同店に勤務。SNSやLINE公式アカウントの運用も手がけ、伝統的な喫茶店の魅力を守りながらも、デジタル技術を活用した新しいサービス提供に取り組んでいる。

コンセプトは「女性一人でも入りやすい店」

――まず「みじんこ」の特徴やコンセプトを教えてください。

鈴木さん:「女性が一人でもゆっくり過ごせるお店」がコンセプトです。「昔ながらの喫茶店」をイメージしつつも、インテリアや色味を落ち着いたトーンで統一し、女性のお客さまが居心地の良い店づくりを目指しています。

その他、メニュー構成や接客、店内の音響についても、ふらりと立ち寄り、ゆっくりくつろいでいただけることを意識しています。

本郷三丁目の系列店「アンモナイトコーヒー」で自家焙煎した豆を使用。コロンビアやインドネシア産など、こだわりの「深煎り」豆もラインナップ

――みじんこのコーヒーには、どのような特徴があるのでしょうか?

鈴木さん:「スペシャルティコーヒー」と呼ばれる品質の高い豆を使用し、豆ごとの個性に合わせた焙煎を心がけています。また、今は豆本来の酸味などを生かす「浅煎り」がトレンドですが、私たちは幅広い年代の方々に楽しんでいただきたいので、さまざまな焙煎度合いの珈琲をそろえています。トレンドだけでなく、日本ならではの喫茶店文化も大切にしたいんです。

――ドリンクだけでなく、フードメニューも充実していますね。

鈴木さん:サンドイッチを中心に、レギュラーメニューと期間限定メニューを用意しています。具材のほとんどをお店で手作りしているのが特徴です。オリジナリティーを意識していて、特にシーズナルメニューは「これはなんだろう?」とワクワクしていただけるような組み合わせや見せ方を工夫しています。

秋のシーズナルメニュー「柚子胡椒のグリルチキンとキノコのカルボナーラソースサンド」

――こちらのホットケーキも、とても美味しそうです。

ホットケーキ ¥930。焼き上げと同時にバターを生地の上に置き、あらかじめバターをしみ込ませてから提供するため、そのまま食べても美味しい。メイプルシロップをかけるとまた違った味わいに

鈴木さん:ホットケーキとフレンチトーストはオープン当初からのメニューですね。 熱伝導の良い銅板でじっくり焼くことで生まれる、ふわふわの焼き上がりが特徴です。

ちょうど「みじんこ」がオープンした時期にパンケーキブームが到来したこともあり、開店直後から多くの方が注目してくださいました。ホットケーキがきっかけで当店を知ったというお客さまも多く、今ではお店を代表する「シグネチャーメニュー」になっています。(フレンチトーストは現在、夏季以外の提供)

――プリンも人気商品なんですよね。

鈴木さん:ホットケーキに続くお店を代表するスイーツを作りたいと思い生まれたのがこのプリンです。

ちょうど喫茶店好きの間で「固めのプリン」が再注目されていた時期でもあり、ホットケーキの丸い筒状に似せて、二段に重ねても崩れない「二段プリン」を考案したんです。このダイナミックな見た目がSNSで話題になりました。

プリン ¥780(1段)/¥1,480(2段)。モチっとした食感が新しい自家製プリン。キャラメリゼした表面にオリジナルのコーヒーカラメルをかけていただく

――一般的な喫茶店と比べてフードメニューが驚くほど充実していますが、そこにはどのような意図があるのでしょうか?

鈴木さん:創業時からの、オーナーの強い思いによるものです。フードを充実させると、どうしてもキッチンのスタッフ数が必要になります。個人経営の喫茶店の場合、通常なら、効率を考えて「一人で回せるメニューの量」を意識してお店をスタートするかもしれません。しかし、うちのオーナーがつくりたかったのは「一人で回せる店」ではなく、「お客さんに楽しんでもらえる店」でした。

食事やスイーツの選択肢を増やすことは、お客さまの「選ぶ楽しさ」になり、お店側としては「また来てもらうための仕掛け」にもなると考えています。

アナログな「心地よさ」を守るためのDX

――「女性一人でもゆっくり過ごせるお店」というコンセプトですが、実際に来店されるのもやはり女性が多いのでしょうか?

鈴木さん:はい、男性だけで来店される方もいらっしゃいますが、7~8割が女性のお客さまです。メインターゲットである30代、40代の女性を中心に、10代の学生さんからご年配の方まで、幅広い年代の方にご利用いただいています。

週末は遠方から「みじんこ」を目当てに来てくださる方も多いですね。最近は外国人旅行者も増えています。秋葉原から徒歩圏内ということもあり、観光の合間に立ち寄られるようです。

――新規のお客さんとリピーターの方、比率としてはどのようなバランスなのでしょうか?

鈴木さん:新規のお客さまが6~7割ぐらいだと思います。ただ、来店頻度はさまざまですが、常連の方も本当に多いです。周辺に企業もあるので、お勤め帰りに寄られたり、お昼休みに来られたりする方もよく見かけます。

――新規客の割合が多いからか、週末には行列ができるほどの人気ですが、混雑時でもスムーズにお店を回すための工夫はあるのでしょうか?

鈴木さん:数年前に「セルフオーダーシステム」を導入しました。以前はスタッフを呼ばないと注文ができないため、忙しい時間帯はお客さまにご不便をおかけするケースがありました。

セルフオーダーシステムを導入することで、お客さまがストレスなく注文でき、お店としてもより早くサービスを提供できます。現在はタブレット端末を活用した注文管理や、入店受付のデジタル化など、各所でDXを進めています。

――「昔ながらの喫茶店」というイメージに対し、DXを進めることへの迷いはありませんでしたか?

鈴木さん:最初は「人間味がなくなるのでは」という懸念もありました。しかし、お客さまの最大の来店動機は「お店のコーヒーや料理を楽しむ」ことにあるはずです。ならば、それを最大限楽しんでいただくためにも、不便さは解消すべきだと考えました。

実際、注文などの業務をシステム化することで、スタッフの心に余裕が生まれ、結果、一つひとつの接客が丁寧になるメリットも生まれていると感じています。

クーポン、新商品情報……LINE公式アカウントの“登録メリット”を追求する試行錯誤

――DXの一環としてLINE公式アカウントを導入されたとのことですが、具体的なきっかけは何だったのでしょうか?

鈴木さん:もともとコロナ禍に始めた「オンラインショップ」の売上を伸ばす導線として立ち上げたのがきっかけです。

当時は多くの飲食店が運営の見直しを迫られましたよね。私たちは業態柄、比較的影響は少なかったものの、やはり「実店舗だけでは、会社の将来に不安がある」と痛感しまして。

ちょうどお店の認知度も上がり、「グッズや豆が欲しい」という声もいただいていた時期だったので、オンライン販売を「第二の柱」にしようと。来店されたお客さまにもオンラインショップを知っていただきたい、そのハブとしてLINEを使おうと考えたんです

LINE公式アカウントとオンラインショップの連携例。友だち追加後に配信されるアンケートに答えた特典としてオンラインショップで使える割引クーポンのプレゼントやリッチメニューにオンラインショップへの導線を設けている。

――実店舗での活用方法についてもお伺いしたいのですが、来店客に対して、どのように友だち追加を促し、どのような情報を届けているのでしょうか?

鈴木さん:友だち追加については、お会計時などにレジ前のQRコードをご案内しながら、なるべく簡潔に「もしよかったら登録もお願いします」と言い添える程度ですね。あまり強く推して負担に思われるのを避けるためにも、自然な流れを意識しています。

――無理強いせず、自然に誘導することを大切にされているんですね。

鈴木さん:登録いただいたお客さまには、登録の翌日に性別や年齢、お住まいのエリアを伺うアンケートをお送りし、約1カ月間は週単位でメッセージが届く「ステップ配信(あらかじめ用意したメッセージを順番に送る機能)」を行っています。

「あの時、食べられなかったメニューを次、行くときに食べたい」と、お店のことをまた振り返っていただければと考えてステップ配信をしています。

それが終わった後は、新メニューの販売開始や臨時休業のお知らせなど、お店からの情報発信がメインですね。このあたりは、まだまだ試行錯誤しながら運用している最中です。

ステップ配信の例。登録したユーザー全員に向けて配信

――配信されるテキストの距離感が、ただ知らせたい情報を羅列するだけでなく、興味を持ってもらえるように工夫されていると感じました! どなたが作成されているのですか?

鈴木さん:SNSの運用は、基本的に私が担当しています。テキストについては、カジュアルすぎても馴れ馴れしいですし、堅苦しいと機械的になってしまうので、そのバランスに気を遣っていますね。

内容自体はInstagramとも近いのですが、LINEには「パッと見のビジュアル」が直感的に伝わるというメリットがあります。そのため、新商品のお知らせなら、シズル感が伝わる写真を大きく配置するなど、見せ方を工夫しています。

――LINE公式アカウントの配信がきっかけで、お客さまとのコミュニケーションが生まれることはありますか?

鈴木さん:ええ。「LINEを見て来ました」と声をかけてくださる方もいますし、「この日の混雑状況はどうですか?」といったお問い合わせもいただきます。

ただ、ドリンククーポンの利用率はそこまで高くないかもしれません。週末に遠方から来られる方は、クーポンを取得してから次の来店までの期間が空いてしまう、という事情もあるのかなと分析しています。

――その他、LINE公式アカウントを運用してみて、新たな気づきや課題はありましたか?

鈴木さん:導入自体はパートナー企業さんのアドバイスもありスムーズでしたが、運用する中で「お客さまにとって当店のLINE公式アカウントを見ていただく本当のメリットとは何か?」という課題に直面しました。

ただ新商品の情報やクーポンが届くだけでは、お客さまにとって本当の価値にはなりません。なぜなら、その情報は実際に店に来て「体験」して初めて価値が生まれるものだからです。クーポンも、使って満足できなければ意味がありません。デジタルの情報を、どうやってお店でのリアルな「体験」や「満足」につなげていくか。そこが一番の課題であり、これから深めていきたい部分ですね。

――そうした課題も見えてきた中で、今後はどのような活用をイメージされていますか?

鈴木さん:現在、友だち数が5,000人を超えており、これはお店にとって大きな財産です。ただ、この既存のお客さまに対して何ができるのか、まだ可能性を模索している段階です。今後は情報発信だけでなく、顧客データの分析や、LINE公式アカウントのショップカード機能の活用なども検討していきたいと考えています。

DXの目的は「人の温かみ」を守ること

――長く愛されるお店づくりで、鈴木さんが特に大切にしていることは何ですか?

鈴木さん:お客さまに「もう一回行きたい」と思っていただくこと、それに尽きますね。 商品、空間、接客を含めて満足していただき、その方がまた誰かを連れて来てくださる。そうした「満足の連鎖」を生むためにやるべきことは、実はすごくアナログなんです。

食事や会話を通じた「空気感」は、デジタルでは代替できません。実際に店舗で過ごしてどう感じるか。サービス業の醍醐味である、そのアナログな価値こそ大事にしたいと思っています。

――人にしかできないことに注力するために、LINE公式アカウントの導入をはじめとするDXをあえて推進されていると。

鈴木さん:その通りです。効率化はもちろんですが、それをどう活用して「人の温かみ」につなげていくかが、何より重要だと考えています。

――最後に、今後「みじんこ」をどのようなお店にしていきたいですか?

鈴木さん:「ひさしぶりに湯島に来たら、まだ『みじんこ』があった」。 そう思ってもらえたらうれしいですね。 時代に合わせたアップデートは続けつつ、人の記憶に残り、街と一緒に生き続けるお店でありたい。15年続けてきたからこその責任だと感じています。

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【取材先】
自家焙煎珈琲みじんこ
住所:東京都文京区湯島2-9-10湯島三組ビル 1F
TEL:03-6240-1429
営業時間:[月-金]11:00〜20:00/[土・日・祝]10:00〜19:30
HP:https://mijinco-coffee.com/

取材・文/花沢亜衣
東京生まれ。食や暮らしにまつわるジャンルを中心にWEBメディア・雑誌で編集や執筆を行う。三度の飯より食べることが好き。一番好きなお酒は青空の下で飲むお酒。2023年J.S.A.ワインエキスパート呼称資格取得。2025年5月に酔談録『二軒目は路面店』を発売。
Instagram:@aipon79

写真:佐坂和也
編集:はてな編集部