「凡事徹底」こそ最強の差別化。繁盛店の“条件”を学ぶ|第18回居酒屋甲子園 全国大会レポート

第18回居酒屋甲子園 全国大会の模様をレポートします。全国12地区の予選を勝ち抜いた店舗が自店の取り組みや店舗運営にかける想いをプレゼンテーション。店舗運営に役立つノウハウや視点をまとめました。


2025年11月11日、パシフィコ横浜。「居酒屋から日本を元気にしたい」という熱い想いを持った人々が全国から集結しました。

今年で18回目を迎えた「居酒屋甲子園」は全国12地区の予選を勝ち抜いた店舗や、覆面調査を経て選ばれた優秀店長たちが、自店の取り組みや店舗運営にかける想いをプレゼンテーションする一大イベントです。

今回はおなじみ編集部もイベントを取材。取材を通じて見えてきたのは、「心を満たす接客」や「強いチームづくり」「QSC(クオリティー・サービス・クレンリネス:品質・サービス・清潔さ)の徹底」といった、飲食店の本質とも言える工夫の数々でした。

本記事では、全国大会で紹介された各店の取り組みの中から、読者の皆さんが日々の店舗運営で役立てられそうな視点やノウハウをピックアップしてご紹介します。

優秀店長2人に学ぶ、「接客」と「チームづくり」の極意

優秀店長のプレゼンテーションコーナーでは、全国から選ばれた2店舗の店長が自店の取り組みを紹介しました。


焼肉ひだや 柳町店(岡山県)
延本大輝店長

焼肉ひだや 柳町店 延本大輝店長

「一人ひとりが目の前のお客さまに全力」

そう語る延本店長が率いる「焼肉ひだや 柳町店」は、リピーター率70%、売上昨対比118%という圧倒的な成果を上げています。成果を出すうえで延本店長がこだわっているのが、「感動体験の提供」と「チームづくり」です。

感動体験の提供〜絶え間ないサービスで感動の「花」を咲かせる〜

お客さんに感動体験を提供するため、入店5分以内で「感動の種」を与え、中間サービスや退店時のコミュニケーションを通じて「感動の花を咲かせる」ストーリーを実現しているそう。

まずは来店したお客さんを全力でお出迎え。ファーストドリンクと最初の料理(名物の厚切り牛タンなど)は注文から1分以内に提供し、「早い!」という驚きを与えます。

中間サービスにおいては、モバイルオーダーの導入店舗ながらも、追加ドリンクのオーダーをスタッフが直接聞きに行く。「すみません!」とお客さんに呼ばれる前に、メニューに目が向いたら声をかける。スタッフがお肉を焼きながらお客さんに話しかける、といったお客さんとスタッフの信頼関係を深める工夫が随所に凝らされていました。

そして食事が終わって七輪を下げるタイミングで、新しいおしぼりとともに「スタッフの手書きメッセージ」を渡しています。こうした絶え間ないサービスで、お客さんの感動を生み出しているそうです。

チームづくり〜「指示待ち」から「主体的なチーム」へ〜

かつては「圧倒的なワンマン」で成果を出していたという延本店長でしたが、スタッフの大量離職を経験し、マネジメントのスタイルを一変させました。

実践したのは「デイリーフィードバック」。 営業終了後、スタッフ一人ひとりを呼び、「今日よかったこと」を具体的に伝えてから帰すようにしたそう。「褒める」ことを習慣化した結果、スタッフは「お店のために何かしたい」「自分が早く成長して店長を助けたい」と主体的に動くようになり、最強のチームが生まれたといいます。


炭×肴 じらいや(青森県)
高山裕也店長

炭×肴 じらいや 高山裕也店長

「じらいや」は、月商1300万円、営業利益率28%を誇る青森県屈指の繁盛店。そんな同店の高山店長が徹底したのは、データに基づいた「改善活動」です。

セールスの徹底〜客席でのおすすめと“炙り演出”〜

炉端焼きのお店なのに、かつては焼き物のオーダーが少なかったという同店。そこで、スタッフが客席を回って直接焼き物をおすすめするスタイルに変更。この工夫で、焼き物のオーダー率が50%アップしたそう。

また、名物の鯖寿司は、店舗の入り口に焼き場を設け、お客様の目の前で炙る演出を導入。これによって、注文数が月100個から470個に増えたといいます。

離職率ゼロの職場づくり〜言葉遣いと気遣いでスタッフの心をつかむ〜

かつては「店長の言うことは聞きたくない」と公言するスタッフもいたという同店。そんな厳しい状況を乗り越えた高山店長は今、チームづくりにおいて細やかな工夫を凝らしています。

例えば、言葉遣いの面では「やって」と指示するのではなく、質問型で頼みごとをする。「嫌な仕事だったら嫌だと言ってください」と伝え、スタッフの「やりたいこと」を汲み取る。

一人だけが大変になってしまうような「悲劇のヒロインスタッフ」をつくらないよう全体に目配りして配慮する。そうした工夫によって、オープン時からの離職率ゼロを実現したそう。

優勝店舗が掲げる「凡事徹底」の精神

その後、全国5店舗のファイナリストによるプレゼンテーションを経て、会場投票により第18回優勝店舗に輝いたのは、和歌山県の「焼肉家 㐂ねん(きねん)」です。

和歌山駅から徒歩1分とはいえ、繁華街とは逆側の不利な立地。それでも今や平均月商1070万円以上、営業利益率30%を誇る繁盛店へと成長しました。

同店のスタッフがプレゼンテーションで語ったのは「基本を徹底することが最強の差別化になる」という大原則。そして、「おいしいから選ばれる店ではなく、居心地がいいから選ばれる店でありたい」という、極めてシンプルなコンセプトです。

㐂ねんの皆さん

お客さんの心を満たす接客〜マニュアルを活用したサービスレベルの維持〜

接客においては、以下のようなツールを使ってサービスレベルの維持や教育コストの削減に努めているそう。

㐂ねん秘儀: スタッフ用の接客マニュアルです。外国人スタッフや新人スタッフでも安定してハイレベルな接客が行えるよう、50項目にわたる「おもてなしの心得」を言語化しています。

㐂ねん秘儀
㐂ねん秘儀
編集部撮影

指南書:お客さんにメニューとともに渡す資料。メニューだけでなく、オーダーの仕方やお店の楽しみ方までを伝え、お客さんとお店の一体感を生み出すことに寄与しています。

お客さん向けの指南書

編集部撮影

また、クレンリネスにおいては、洗面所やトイレの掃除を徹底的に行い、ピカピカに磨き上げます。この習慣は、掃除が苦手だった外国人スタッフが「掃除が好きになった」と語るほど、スタッフの意識改革にもつながっているそうです。

スタッフの心を満たすマネジメント〜「家族巻き込み型採用」と外国人スタッフのサポート〜

お客さんの満足度を上げるため、㐂ねんでは「人づくり」も大切にしています。 スタッフの採用時には、面接後に一度家に帰って「家族会議」を開いてもらい、家族の同意を得てから入店を決めてもらう「家族巻き込み型採用」を実践。この工夫によってスタッフが定着し、離職率も10%以下に抑えられているといいます。

また、ネパールやミャンマーなど海外出身のスタッフも多く活躍する同店では、役所の手続きや携帯の契約までサポートするなど、彼らの人生そのものを受け入れ、支援しています。プレゼンテーションの中で田村怜子店長は、母国の政情不安で家族と連絡が取れない中でも遠く離れた日本の地で働くミャンマー人スタッフのエピソードを紹介。「彼らのためにも私たち日本人スタッフはお客さまの心を満たす努力を惜しんではいけない」と強く訴えました。

優勝コメント〜“感謝力”こそがチームを強くする〜

優勝決定後、同店の田村辰彦さん(株式会社中心屋 専務取締役)は「一人でも多くの方の心を満たせたか心配」と謙虚に語りつつ、次のようにメッセージを送りました。

お腹よりも心を満たすお店でありたいというコンセプトが評価されたと感じています。皆さんも、目の前の大切な人に「ありがとう」と伝えてみてください。“感謝力”こそがチームを強くするとしみじみ実感しています。感謝って、一番身近な人にこそ伝えづらいものですから。

田村辰彦さん

当たり前のことを、当たり前以上にやり抜くことの大切さ

今年の居酒屋甲子園で語られたのは、決して奇抜なアイデアではありません。

お客さまの「入店5分間」に全力を注ぐこと。スタッフ一人ひとりをよく見て、こまめに感謝を伝えること。QSCという基礎を、誰にも真似できないレベルで徹底すること。

飲食店を取り巻く環境が目まぐるしく変化する現代だからこそ、優勝した「㐂ねん」が示したように、人の手による「ぬくもり」や「心を満たすサービス」の価値が高まっていると言えるのかもしれません。

当たり前のことを、ちゃんとやる。このシンプルな真理こそ、結果的に長く愛されるお店を作る一番の近道となるのかもしれない。そんなことに気付かされた取材でした。

▼大会のダイジェストと優勝店舗「焼肉家 㐂ねん」へのインタビューをおさめた動画はこちら!

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取材・編集:はてな編集部
写真:是枝右恭