
サイゼリヤの2代目社長・堀埜一成さんに、飲食店におけるオペレーションづくりのノウハウを伺いました。
自社工場でのレタス栽培や、オーストラリア工場でのホワイトソース製造といった手法で圧倒的なスケールメリットを実現し、「驚きの低価格」を守り続けるサイゼリヤ。しかし、その強さの秘密は「規模」だけではありません。
根底にあるのは、創業家・正垣泰彦会長の「おいしいものをおいしい状態で提供する」という揺るぎない信念。そして、それを現場で徹底するための「オペレーション効率化」にあります。
今回は、2代目社長として13年にわたりサイゼリヤの急成長を支えた堀埜一成さんにインタビュー。「掃除機がけの廃止」から「3億円をかけたキッチンの実験施設」まで、常識にとらわれないオペレーション改革の舞台裏と、個人店でも取り入れられる業務効率化のヒントを伺いました。

- 堀埜一成(ほりの いっせい)さん
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1957年生まれ。京都大学農学部、京都大学大学院農学研究科修了後、味の素に入社。プラント生産管理技術者として勤務し、ブラジル工場への出向や発酵技術研究所研究室長を務めたのち、2000年にサイゼリヤ入社。農業事業、工場立ち上げ、事業部長などを経て、2009年に代表取締役社長就任。店舗の省エネや作業環境の改善などにも注力し、13年間でサイゼリヤ急成長の基盤づくりを行った。著書に『サイゼリヤ元社長が教える 年間客数2億人の経営術』(日経BP)など。
- マニュアルは教わるより楽しもう。サイゼリヤがオペレーションを「動画」と「ゲーム」で伝えた理由
- 掃除に「掃除機」を使う必要はあるか。サイゼリヤが「朝の開店準備」を効率化した理由
- 環境がオペレーションを決める。サイゼリヤのキッチンはなぜ狭い?
- 商品数を絞ることは現場を守ることにつながる。サイゼリヤのメニューはなぜあまり増えないのか?
マニュアルは教わるより楽しもう。サイゼリヤがオペレーションを「動画」と「ゲーム」で伝えた理由
――堀埜さんはサイゼリヤに入社後、事業部長として100店舗の運営を任され、その中でオペレーションの「動画マニュアル」を作ったそうですね。
堀埜さん:オペレーションの「教え方」や「教える手順」が店舗ごとにバラバラだった(店舗の裁量に任されていた)んです。いきなり難しいことから教わる新人さんもいて、それはかわいそうだし何より効率が悪いなと。業務手順やオペレーション自体は細かく書かれたマニュアルがあったのですが、「それをどう教えるかという仕組み」がなかったんですね。マニュアルの中身をどの店舗でも同じように分かりやすく新人さんに教えられるようになれば、教育の効率も上がるはずだと考えました。
そこで、いろいろとやり方を検討して、動画を活用すると教えやすく、伝わりやすいのではないかと。というのも、店舗を回る中で、誰よりも上手く、独自の工夫をしながら面白く教えている地区長(エリア内の数店舗を統括するマネジメント職)を見つけたんです。その人のやり方を実際に見てもらえれば、言葉で細かく説明しなくても、直感的に伝わるはず、と思って動画を撮ろうと考えました。
とはいえ、動画の制作に関しては完全手弁当です。自分でビデオカメラを回して、音楽も入れて(笑)。
──とても手間がかかっていそうですね。具体的に、どんな動画だったのでしょう?

堀埜さん:皿の持ち方、歩き方、サーブの仕方、オーダーの取り方、食器やカトラリーの片付け方に至るまで、どういう形で置いておくか、何から下げるか、など、サイゼリヤのオペレーションをかなり細かく学べる内容です。その人にしかできない教え方を、その人がいなくてもできるようにしたかったんです。
ただ、マニュアルを知るだけでは状況判断力は身につきません。そこで、「考えながら学んでもらう」ためにゲーム形式のアプリも作ったんですよ。
――業務をゲームで学ぶ、ということですか?
堀埜さん:そうです。一つは「ウェルカムゲーム」というiPhoneアプリです。お客さまが来たらどの席に案内するかをスピーディーに判断するゲームで、1時間で何人案内できるかを競います。「どの席が回転率を上げるため重要か」「どの席にお客さんを入れちゃいけないか」「どの席を空けておくか」といった感覚を養うためですね。上手いスタッフは100人を超えるんですが、私がやると80人くらいなんですよ(笑)。
他にも店長向けに、店舗運営を1年半体験できる「すごろく形式のゲーム」も作りました。スタッフの採用から設備のメンテナンスまで、店長が担う仕事の数々がどういう結果を生むのか、その因果関係を理解できるようにしたものです。
店をダメにしてしまう人の特徴はだいたい同じで、仕事と結果の因果関係を自覚できていないことが多い。それを自覚してもらうには店舗運営を俯瞰的に見ることが重要で、俯瞰の視点を養う上でゲームが有効だと考えていました。
教えるというより、楽しく学んでもらう。それがマニュアルのあるべき姿だと思うんです。

掃除に「掃除機」を使う必要はあるか。サイゼリヤが「朝の開店準備」を効率化した理由
──社長就任後、エンジニアリング部を立ち上げて本格的なオペレーション改革に着手されました。最初に着手したのは「開店前の作業」だったとか。なぜでしょう?
堀埜さん:営業中のオペレーションは大きく変更しづらいからです。一方で、営業時間外、特に朝の時間であれば比較的変更しやすい。それに開店準備は売上を生まないので、ここを短縮できれば人件費の削減やスタッフの負担軽減にもつながります。
さまざまな店舗で開店準備の様子を見てみると、かなりの時間を「掃除機がけ」に使っていたんです。掃除機のヘッド部分は約30cm幅。仮に1.2mの幅を掃除しようとすると、4回も往復させる必要がありますし、移動の際にはコンセントを差し替える手間もある。でも、1.2m幅のモップなら、1回拭くだけでそれと同じ効果が得られますよね。
──でもそこで「掃除機をやめてモップにしよう」と考えるのはなかなか大胆ですよね。なぜそういう発想ができたのでしょうか?
堀埜さん:「機能分析」の考え方を意識していたからです。これは味の素時代に学んだ、生産現場での故障や不良といった「ロス」をゼロに近づけ、生産性を最大化する考え方です。
例えば、掃除機の機能(何をしているのか?)とは何だと思いますか?
──床に落ちているゴミを取り除くこと、でしょうか。
堀埜さん:「取り除く」を少し具体化すると「移動」ですよね。つまり、掃除機は床から掃除機の中にゴミを「移動」させている。掃除機の機能が「ゴミの移動」であるなら、ゴミを移動させる場所さえ設ければ、移動の手段自体はモップでもほうきでもいいはずです。このように「道具」ではなく、道具が果たしている「機能(目的)」から考えると、何かしらの改善案が見えてきます。

──「何のために」を追求すると、別の手段が見えてくるんですね。
堀埜さん:そうです。私が社長に就任してから採用した「ドライキッチン(床を水洗いしない厨房)」も同じです。
飲食店のキッチン掃除といえば、水を撒いてデッキブラシでこする「ウェット」な方式が一般的でした。でも、食品工場の経験がある私からすると、水を撒くなんてありえない。水気は湿気を呼び、カビや雑菌の温床になるからです。水で洗うと見た目はきれいですが、衛生レベルはむしろ下がってしまう。「清潔な環境で料理を作る」というキッチンの機能を追求するなら、「あえて水を撒かない(乾燥した状態を保つ)」のが正解なんです。これは異業種での経験があったからこそ気づけた視点ですね。
環境がオペレーションを決める。サイゼリヤのキッチンはなぜ狭い?
──サイゼリヤのオペレーションで、他の飲食店と「最も違う点」を挙げるとするなら何でしょうか?
堀埜さん:「おいしいものをおいしい状態で出すこと」を最も重視することでしょうか。熱いものは熱く、冷たいものは冷たく。そのためにキッチンの構造から設計しているんです。
例えば、サイゼリヤのキッチンは完成した料理を置くスペースをあえて狭くしています。だからスタッフは「できた料理をすぐ運ぶ」以外に取れる選択肢がない。料理を置いたまま違う作業をすることは物理的に難しい。
──精神論ではなく、キッチンの構造によってスタッフの動きが変わるんですね。
堀埜さん:そうです。だからこそ、キッチンはクローズドにせず店内が見える構造にし、スタッフがすぐホールに出られるよう設計しています。
そもそもキッチン内の動き方の原則は「ピボットターン(片足を軸足として床に固定し、もう一方の足を自由に動かして体を回転させる動き)」です。片足を軸に回転する動きは、効率がいい。
その動きを正垣会長はよく「宇宙飛行士だ」と表現していました。狭いコックピットの中だけで一歩も動かず、くるくる回るだけでほとんどの作業を完結できる。あれがキッチンにおける理想の動き方なんだと。サイゼリヤの小型店舗では、極限まで動かずくるくる回るだけで作業できるキッチンになっていますよ。
――非常に納得感はありつつ、そうした理想を形にするのは簡単ではないと思います。キッチン開発はどのように進められたのでしょうか?
堀埜さん:3億円をかけて、実験用に倉庫をひとつ買いました。そこに発泡スチロールで模擬キッチンをいくつも造り、プロジェクトチームのメンバーで実際に動いてみて、もっとも動きやすいキッチンの構造を検証しました。検証って頭で考えてもダメなんです。実際にやってみないと。
──実験に3億円とは、ケタ違いのスケールですね。
堀埜さん:実はリターンを考えると安いんですよ。キッチンは客席と違い、売上を生みません。だから、キッチンを半分のスペースにすると、客席を12席増やせて、それだけで売上は何十億円も変わってくる。ここで出資をケチっていては大きな成長は見込めません。それに、お金をかければそれだけ「どうやって活用しようか」と真剣になりますしね。
商品数を絞ることは現場を守ることにつながる。サイゼリヤのメニューはなぜあまり増えないのか?
──オペレーションを効率化させるためのさまざまなノウハウを学んできましたが、個人の飲食店がサイゼリヤの考え方を応用するには、何から始めればいいでしょうか?
堀埜さん:オペレーションの話をしてきたところ恐縮ですが、オペレーションから考えるとかえって遠回りになる(抜本的な改善につながりにくい)かもしれません。まずは「商品(メニュー)の数を絞ること」ですね。商品の数が絞られると、材料も作業のバリエーションも自然に減っていきます。オペレーションは「数」ではなく、「種類」を減らすことで一気に効率化できるんです。
商品の数を絞るには、まずは「核になる商品」を作ることが大事ですよね。サイゼリヤで言えば、ミラノ風ドリアです。正垣さんは社長時代、一番売れていたこの商品を490円から290円に値下げしました。
売れない商品を値下げしても意味はありません。一番売れている商品の価格を下げるのは怖いですが、そこで圧倒的な数が売れるようになれば、本当の意味での「核になる商品」に育つ可能性が出てきます。そうして注文を集中させることが、結果的に商品を絞ることにもつながっていくんです。
──個人店だと、看板商品の値下げはかなり勇気がいりますね。
堀埜さん:そうですね。でも、メニューの数を減らすことのオペレーション上のメリットは少なくありません。
まず、製造時のミスが劇的に減ります。メニューの種類が多すぎると、料理ごとに「Aは80g、Bは120g」といった細かい計量が必要になり、どうしても「はかり」が手放せません。
しかし、メニューを絞り込めば、食材の発注スタイル自体をレシピに合わせて「使い切り」に統一することもできます。 結果、サイゼリヤのように「はかり」を使わず、「レードル(お玉)1杯」「1袋」といった単位だけで調理が完結するようになり、誰がやっても間違えない仕組みがつくれるんです。
──なるほど。食材の発注スタイルが変われば料理のつくり方も変わってきそうですね。
堀埜さん:だから、新商品を出すなら、何かを減らす決断が必要です。難しいですけどね。サイゼリヤでも、「わかめサラダ」を一度メニューから外したときは多くのクレームをいただきました。でも、メニューが増えれば増えるほどオペレーションは複雑になり、教育も大変になります。メニューを増やさないことは、結果的に現場を守ることにもつながるんです。
――確かにそうですね。商品を絞ることは、「やらないことを決める」ことでもあります。
堀埜さん:その通りです。「やらないことを決める」ことの大切さを実感した出来事があります。
実はサイゼリヤでも、ハンバーガーやカフェなど新業態に挑戦したことがあったんです。でも、どれも簡単ではありませんでした。特にファストフードは難しかった。
我々のようなレストラン業態の発想だと、どうしても商品を「作り込み」すぎてしまう。そうするとファストフードが目指すべき高い回転率を実現できないし、店舗も展開しづらい。つまり、業態ごとに重視すべき指標がまったく違うんです。
だから私は店舗運営においては、「何をやるか」以上に、「何をやらないか」を決めることが大事だと思っています。
――「やらないことを決める」ための判断基準として、先ほどのお話にあった「機能分析」が役立つのでしょうか。
堀埜さん:役に立ちますね。「各商品・各設備が果たす機能」を理解できれば、やるべきことも自ずと絞り込めるはずです。
「機能分析」というと難しく聞こえるかもしれませんが、要は「それは何のためにやっているのか」を問い続けることです。
飲食店の現場には、「昔からそうしている」「教わったから」という理由だけでなんとなく続いている作業が本当に多い。そこを疑うことから、改革は始まります。

──「機能分析」でムダを省くことは、昨今の物価高や人手不足への対策にもつながりますね。そうした刻々と移り変わる環境の中で、個人店が生き残るために追うべき「指標」はありますか?
堀埜さん:指標はシンプルかつ分かりやすく、が鉄則です。オペレーションと同じですよね。
今は変わっているかもしれませんが、私の時代のサイゼリヤには生産性指標しかありませんでした。「利益を上げろ」とは言わず、ずっと「生産性をいくらにしろ」と言い続けていたんです。なぜなら、生産性の向上は売上増に直結するからです。何人で、何時間働いて、いくら売ったか。この「人時売上」ならその場で計算できて、リアルタイムで把握できます。
――ありがとうございます。もし今、堀埜さんがご自身で飲食店を始めるとしたら、どんなお店をやりますか?
堀埜さん:中華も面白いけど、やるなら「スペイン料理」ですね。特にパエリア。 日本だと高い店ばかりで、安く食べられるチェーン店がないじゃないですか。
私なら、パエリアなんて300円で売りますよ。 だって、本場のスペインに行くとすごい種類のパエリアがリーズナブルに食べられるんですから。「エスカルゴのパエリア」が出てきた時は驚きましたけど、食べてみると美味い。現地でその値段で売れるなら、おそらく日本でもできるはず。パエリアって要は「炊き込みご飯」でしょう。
――300円ですか! 日本だとどうしても豪華なシーフードのイメージがあります。
堀埜さん:そう、みんなエビとかムール貝を乗せたがるでしょ? でもエビなんて原価が高いんですよ(笑)。高い材料を使うからランチの価格帯では出せないんです。ランチパエリアにするなら、エビは外せばいい。その代わりチキンやそぼろ肉、卵を乗せればいい。魚介ならイカが一番安くて楽です。野菜だけのパエリアだって十分に成り立つ。
「パエリア=豪華な魚介」という固定観念を捨てて、具材と製造工程を見直せば、安くて面白い店が作れるはずなんですけどね。 ……誰かやりませんか? 私、コンサルしますよ(笑)。
あの人が語る「飲食店」
取材・文:田窪綾
編集:はてな編集部

