新宿で60年続く老舗バー「イーグル」がLINE活用に力を入れるワケ。「時代は我々を待ってくれない」

創業から60年を迎える新宿の老舗バー「サントリーラウンジ イーグル」に、LINE公式アカウントの活用方法を伺いました。


一度ならず、何度も足を運んでくれる「おなじみ」のお客さんは、飲食店にとって心強い存在です。多くの常連客の心をつかむお店は、どのような工夫をしているのでしょうか。

新宿東口の地下に佇むバー「サントリーラウンジ イーグル」。1966年の創業から60年の歴史を刻むこの店は、今なお多くのファンに愛され続けています。
近年は、LINE公式アカウントを活用した「デジタル会員証」を導入するなど、時代やお客さんのニーズに合わせて変化しています。

今回、「サントリーラウンジ イーグル」のマネージャー・上原幸雄さんに、長く愛されるためのお店づくりの極意と、LINE公式アカウントを活用したファン作りの工夫について伺いました。

「サントリーラウンジ イーグル」上原 幸雄さん	プロフィール写真

上原 幸雄さん
「サントリーラウンジ イーグル」のマネージャー。1986年からスタッフとして勤務している。店舗に立っての接客サービスのほか、店舗運営、SNSを活用した発信にも携わる。

創業60年。火災とコロナを乗り越え、新宿で歴史を刻む

――まずは、イーグルの歴史について教えていただけますか?

上原さん:創業は今から60年前です。先代が池袋で1号店を立ち上げ、その後新宿へ進出しました。最盛期には東口の徒歩5分圏内に5店舗を展開し、どこかが満席でも近くの系列店をご案内できる体制をつくっていました。しかし、時代の変化とともに少しずつ規模を縮小し、現在はここ1店舗のみで営業しています。

――店舗を減らされたのには、どのような背景があったのでしょうか?

上原さん:大きな転機は2001年の歌舞伎町ビル火災(歌舞伎町の雑居ビルで発生した火災。死者44名、負傷者3名を出す大惨事となった)でした。当時、雑居ビルそのものに対する不安感や、地下にあって出入り口が1つしかないという当店の構造から、お客さまの足が遠のいてしまったのです。

とどめは2020年のコロナ禍です。先代が亡くなり後継者も不在だったため、一時は全店閉店も検討されました。しかし、現在のオーナーとのご縁により、この「イーグル」だけは存続させようと決まり、今に至ります。

――歴史といえば、店名に「サントリーラウンジ」と冠しているのはどういった背景からなんでしょうか?

上原さん:実は創業当初はサントリーと直接の関係はありませんでした。しかし以前、店でボヤを出してしまった際、お付き合いのあったサントリーの営業担当の方が非常に親身になって助けてくださったんです。

それに先代が感激し、「これからはサントリー商品をメインでやっていく」と決めたことで強い絆が生まれました。当店をオープンする時にはすでにその信頼関係がありましたから、「サントリーラウンジ」の看板をいただき、それをずっと継承しています。

――60年という長い歴史の下地に、サントリーさんとの深い絆があるのですね。飲食店が次々と入れ替わる激戦地・新宿で、これだけ長くお客さんに選ばれ続けている「イーグルならではの魅力」とは、どのような点にあるのでしょうか?

上原さん:お酒はもちろん、「料理」が充実している点です。1軒目として食事も楽しむ方から、2軒目として静かにお酒を嗜む方まで、どんな時間帯・どんな動機でいらしても満足いただけるのが強みです。お一人様からグループ、男性同士、女性同士など、あらゆるシチュエーションを受け止められる広さと、駅近という立地の良さも、当店が選ばれ続ける理由かと思います。

「昭和レトロ」が若者にヒット。変えるもの、変えないもの

――「サントリーラウンジ」の看板を掲げているということは、やはりウイスキーはサントリー製品が中心なのでしょうか?

上原さん:メインで取り扱っているのはサントリー製品や、サントリーが輸入する洋酒ですが、時代のニーズに合わせて幅広く取り揃えています。

今は「山崎12年」や「白州12年」など、ジャパニーズウイスキーの人気が非常に高いですね。それらを目当てに来店されるお客さまも多く、特に海外の方には大変喜ばれています。

――幅広いニーズという意味では、ウイスキー以外のお酒にも力を入れているそうですね。

上原さん:はい。特に季節のフルーツを使ったカクテルは人気があります。レギュラーメニューも固定せず、新しいリキュールが出れば試し、反応が良ければ採用します。逆に出なくなったものは入れ替えるなど、常にお客さまの反応を見て調整しています。

60年続いているからといって、その歴史に安住せず、時代の流れにアンテナを張り、SNSをマメにチェックするなど、他店の情報収集なども欠かしません。

お客さまからの情報やSNS情報で気になった映えるカクテル、お料理を見かけたら、お店にお邪魔して実際にいただくようにしております。カクテルやお料理は実際に食べてみないとわかりませんので。

同時にサービスの取り組みなどで気になった点はどんどん真似して、よければ継続、そうでなければ改善していくということを繰り返しています。

宮崎県産の完熟金柑「たまたま」を使用した冬限定のオリジナルカクテル「金柑トニック」

人気メニューのビーフストロガノフ。長年変わらぬ伝統の味

――時代の変化に合わせる一方で、創業当時から変わらず愛されているメニューもあるのでしょうか?

上原さん:お料理に関しては、和洋折衷でバラエティー豊かにご用意していますが、基本的には昔ながらの味を守っています。中でも不動の人気は「ビーフストロガノフ」です。

私が1986年に入社した時には既にあったので、少なくとも40年以上続くメニューですね。クリーミーな仕上がりが特徴で、来店されるたびに注文されるファンの方も多い一品です。

そのほか、濃厚な蟹味噌とバターを丹念に裏ごしして合わせ、ブランデーで風味付けしたおつまみ「特製蟹味噌バター」などのオリジナル珍味も長く愛されていますね。

――お客さんはどのような方が多いのでしょうか?

上原さん:昔からの常連さまも多いですが、最近はSNSなどの口コミを見て来店される若い方が増えました。60年前から変わらない内装が「昭和レトロ」として新鮮に映るようで、皆さん写真を撮られていますね。かつて近隣にお勤めで、久々に東京に来て立ち寄ってくださるシニアの方から、SNSをよく見る若い方、そしてサントリーウイスキーを目当てに来店される海外の方まで、本当にさまざまな方がいらっしゃいます。

時代の変化を感じるのは、女性のお客さまです。近年、お一人様や女性のグループが圧倒的に増えました。季節のカクテルを楽しみに来る方もいれば、「ウイスキーをロックで」という方も珍しくありません。「飲んだことがないので教えてほしい」という若い方も多く、女性のパワーと好奇心を感じますね。

――それだけ多様なお客さんがいらっしゃると、接客面の工夫も多いのではないでしょうか。

上原さん:一番大切にしているのは、「うちはこうだ」と店のルールを押し付けるのではなく「お客さま目線」を徹底することです。

もちろん、その場ですぐに完璧な対応をするのは難しいことですが、若いスタッフにはまず「一生懸命やろう」と伝えています。一生懸命さが伝われば、多少の不慣れさはカバーできますから。その上でベテランスタッフがフォローし、一人ひとりに合わせたサービスを心がけています。

――一生懸命さを伝える以外にも、何か接客面で工夫されていることはありますか?

上原さん:「どの席にご案内するか」には細心の注意を払っています。当店ではホールスタッフの中でもレジ担当が席をご案内するのですが、お客さまが階段を降りてくるその一瞬で「どういう雰囲気の方か」を察知します。

ただ空いた席から順に案内するのではなく、例えば「静かに飲みたい方だろうから、賑やかなグループとは離そう」と即座に判断する。どの席にどんなお客さまを案内するかでお店の空気は変わりますから、ご案内の時点から「雰囲気作り」は始まっているんです。

「時代は待ってくれない」。老舗が挑むSNSとLINE活用

北海道厚岸町にある、日本最東端の蒸留所でつくられたウイスキー「厚岸(あっけし)」

――集客面の工夫についても教えてください。

上原さん:希少なウイスキーを少量ずつ仕入れ、ラインナップを常に入れ替えています。「こんな珍しいウイスキーが入りました」とSNSで発信すると、それを見た方が「無くなる前に飲みたい!」と来てくださるんです。

今はInstagramとX(旧Twitter)に加え、2022年頃からLINE公式アカウントも活用し始めました。今のオーナーが情報発信にとても積極的で、「これからは自分たちで発信する時代だ」と。それまでは全くやっていなかったので、私なんかは慣れるまで大変でしたよ(笑)。

LINE公式アカウントを友だち追加するとテーブルチャージ(660円)が半額になるチケットが付与。来店ごとにスタンプが貯まり、4つ貯めるとテーブルチャージが無料に

上原さん:メインは「ポイントカード」としての活用です。ポイントを貯めると、ドリンクやお料理、希少なウイスキーのサービスなどの特典もあります。「イーグル特別会員」という名称にしているので、登録するとお店の「ファミリー」になったような感覚を持っていただけるようです

また、リッチメニューには「食べログ」への予約リンクを設置しています。コース料理や週末の予約など、どこから予約すればいいか迷わないよう、わかりやすい導線をつくりました。

――店内ではどのように友だち追加をご案内しているのですか?

上原さん:テーブルにQRコードを置いているほか、会話の流れで「こういうのもありますよ」とご案内しています。登録特典としてその場で「テーブルチャージ半額サービス券」をお渡ししているので、多くの方が登録してくださいますね。

――歴史ある老舗が、こうして新しいツールを積極的に取り入れるのは珍しいのではないでしょうか。

上原さん:今はもう、SNSやLINEが日常生活に欠かせない時代じゃないですか。時代は我々のことを待ってはくれません。どんどん進んでいくわけですから、合わせていかないと取り残されてしまいます。「これまでこうだったから、これからもそうだ」という考えは通用しません。だからこそ、我々も慣れないなりに一生懸命やっているところです。

LINEは皆さん日々使っているツールなので、フットワーク軽くコミュニケーションができますよね。実は、私個人のLINEアカウントでつながっている常連さまもたくさんいて、そちらに直接ご予約いただくこともあります

一方で、LINE公式アカウントの方は、もっと安定して配信ができるよう体制を整備中です。今はまだ「たまに配信している」という状態なので、そこをピシッと整えないといけないですね。イベントや新商品のご案内をきっちり漏れなく配信してお客さまに情報提供していきたいのですが、「やったりやらなかったり」が一番いけないと思うので。

――Instagramの写真も素敵ですが、撮影はどうされているんですか?

上原さん:スタッフがスマホで撮っているんですよ。お店の雰囲気が出ていますよね。ハッシュタグ一つ、文章一つで見られ方は変わりますから、スタッフと「これなら、このタグがいいね」と相談しながら、トライアルアンドエラーを繰り返しています。

――デジタル活用が進む中で、リピーターを作るために意識していることはありますか?

上原さん:やはり一番大切なのは「接客」です。我々は対面での商売ですから。例えば、初めて来て「なんとなく良いな」と思って帰られた方が、2回目に来た時に「先日はありがとうございました」と顔を覚えられていたら、やっぱりうれしいじゃないですか。そうした細やかな対面コミュニケーションの積み重ねが、長く通っていただく秘訣だと思います。

お店の「箱」は有限でも、発信は無限

――今年60周年を迎えますが、今後のお店の展望について教えてください。

上原さん:やはり、あくまでもお客さまあってのことですから。常に時代に合わせて、お客さまのニーズに合わせたラインナップ、サービスの質を提供することが大事ですね。

とどまっていてはいけないと思うんです。どんどん進化していくわけですから。常に好奇心を持って、「もっとこういう方がいいんじゃないか」「もっとこっちがいいんじゃないか」という気持ちを店全体で持ち続けていく。そんな店でありたいですね。

――SNSやLINE公式アカウントもその展開の1つですか?

上原さん:そうです。お店の「箱」の大きさは決まってしまっているわけですが、発信できる情報は無限ですから。見る人も無限にいるわけですから、そこに対してどんどん手を出していかなければいけないですね。

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【取材先】
サントリーラウンジ イーグル
住所:東京都新宿区新宿3-24-11セキネビル 地下1・2F
TEL:03-3354-7700
営業時間:17:00~23:30
定休日:月曜 不定休
Instagram:https://www.instagram.com/sl.eagle7700/

取材・文/花沢亜衣
東京生まれ。食や暮らしにまつわるジャンルを中心にWEBメディア・雑誌で編集や執筆を行う。三度の飯より食べることが好き。一番好きなお酒は青空の下で飲むお酒。2023年J.S.A.ワインエキスパート呼称資格取得。2025年5月に酔談録『二軒目は路面店』を発売。
Instagram:@aipon79

写真:佐坂和也
編集:はてな編集部