
「ラーメンを食べた後に夢を語れる店」として国内外に店舗を展開。同時にこれまで多くの修行生を受け入れてきた『夢を語れ』の代表・西岡津世志さんに、人材育成に対する考え方やノウハウを伺いました。
大盛りの二郎系ラーメンを提供し、食べ終えたお客が自らの「夢」を語る。飲食店をコミュニティとして築いてきた『夢を語れ』代表の西岡津世志さんは、そんな場所を全国に広げるため、独立を前提としたスタッフの育成制度(修行制度)を構築してきました。
「1年修行、2年目に独立、3年以内に廃業か屋号変更」という異色のルール。一見厳しくも見えるこの制度の根底には、「義務感(やらされ)」ではなく、本人の「欲求(やりたい)」で動く人材を育てたいという西岡さんの強い想いがあります。今回は、西岡さんの人材育成論と、個人店でも応用できるマネジメントのヒントを伺いました。

- 西岡津世志(にしおか つよし)さん
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1979年、滋賀県生まれ。高校卒業後に上京しお笑い芸人に。ラーメン二郎の味に惚れ込み修行をスタート。2006年、京都・一乗寺に『ラーメン荘 夢を語れ』を開業し、大阪や東京にも展開。2012年に全店を売却し渡米、ボストンで『Yume Wo Katare』を開業。行列の絶えない店として人気を博す。2018年帰国後、孫弟子を含むグループ店舗を全国100店近くに拡大。現在は佐賀県鳥栖市の総本店を拠点に人材育成に取り組んでいる。著書に『夢2.0 ~夢を再定義する~』(ブックダム)。
『夢を語れ』公式サイト
- 修行志望者に「普通のお店で修行するより大変」と伝えるワケ
- 「期限」が人を育てる
- お店のスタッフではなく「お店の経営者」を育てるためのコツ
- 「夢」を語り、「背中」を見せると、スタッフは自走する
- ラーメン屋ではなく人材育成をやっている感覚の方が強い
修行志望者に「普通のお店で修行するより大変」と伝えるワケ
――『夢を語れ』は、孫弟子を含むグループ店舗が全国に100店近くあるそうですね。修行を希望する方たちはどのような方が多いのでしょうか。
西岡さん:年齢層は15~50歳までと、本当に幅広いですね。中学校を卒業してすぐ来た方もいれば、32年間別の会社で働いてから来た方もいます。今のところ結果的に男性のみで、ほとんどが飲食未経験です。グループ店でのアルバイトを機に「修行したい」と志願してくる人もいます。
――それほど幅広い経歴の方が集まってくるのですね。採用に基準はあるのですか?
西岡さん:基本的には「ラーメンが好き」「自分のお店を持ちたい」という夢を持っている人であれば受け入れています。ただ、『夢を語れ』の目的は二郎系ラーメンの店を増やすことではなく、あくまで「夢を語れる人を増やすこと」です。
お客さまが夢を語りたくなる空気を作ることこそ重要であり、単にラーメンがうまく作れるようになればよいというわけではないので、「普通のお店で修行するよりも面倒だし大変ですよ」とは必ず伝えています。ラーメン屋がやりたいのか、『夢を語れ』がいいのか、きちんと考えてから来てほしいと。単に二郎系ラーメンをやりたいだけなら、うちじゃなくてもいいわけですから。

「期限」が人を育てる
――「1年目は総本店で修行。2年目に独立して自分の店を持ち、3年間店舗を経営。その後、廃業か屋号変更を選ぶ」という独自の育成システムを導入されています。この仕組みをつくった背景を教えてください。
西岡さん:僕は義務感で動くことが好きじゃなくて。やりたいからやる、という状態を常につくりたいんです。だからこそ、あえて「3年」という期限を設けています。
ちなみに、修行を始めて1年で自動的に独立できるわけではありません。独立しても良いかどうかの見極め方を明確にお答えするのは難しいのですが、一つ「過去の自分を超えるチャレンジができているか」がポイントになるかと思います。
――なるほど、店長ともなると店員に比べてやるべきことは圧倒的に増えるわけですからね。それに、ロードマップが提示されていると「もっと成長しなければ」という思いも強まりそうです。
西岡さん:僕は制限がある方が人は動きやすいし、夢を膨らませやすいと考えています。例えば、「自由に描いて」と言われるより、「A4の紙に赤・青・黄色でラーメンを描いて」と言われた方が手を動かしやすい人も多いですよね。言うならば、紙のサイズは「3年」という期間で、色が「ラーメン」や「出店地域」に当たります。そのうち、黒も使いたいな、もっと大きな紙が欲しいな、という当初の条件にない選択肢が欲求として生まれる。
――「3年」という期間には、どんな理由があるのでしょうか。
西岡さん:石の上にも3年という言葉があるように、絶妙な期間だと思っています。ゼロから始めるのは本当に大変ですが、信念を持って行動し続ければひとつの結果がつくれる。「夢を語れる環境」という、その土地にない文化も、本気で取り組めば「夢を語るラーメン屋」として形になる。だから3年にしています。
――期限という「枠」があるからこそ頑張れるし、次の欲求も生まれるのですね。
西岡さん:ええ。もし一生ラーメン屋を続けると決めてしまったら、どうなるでしょう。ゴールが見えないことで、ラーメン屋がいつしか「やらされ仕事」になるかもしれない。ラーメンが自分の中でただの「お金を生む道具」に変わってしまうかもしれない。でも、「『夢を語れ』の店長としてラーメンを作れるのは3年後まで」というゴールが見えていたら、ゴールを切った後に叶えたい夢を主体的に考えられるし、夢を叶えるまでの道筋も立てやすくなるはずです。
経営者初心者に10年後のビジョンを描けと言っても難しい。でも3年なら見えやすい。ここを走り切りたいという意識が、次は自分の屋号を掲げたい、ラーメン以外のビジネスに挑戦したいという「WANT(やりたいこと)」を生む。これは修行生が自ら次のステップへ進んでもらうための仕組みなんです。
もちろん期限や独立後について、入店前に十分説明して修行生の理解を得ています。独立後は雇われ店長ではなくオーナー店長として店を運営し、3年という期限以外はメニューや営業スタイルなども基本的に本人の裁量に任せています。
――退店後のキャリアも考えてスタッフの皆さんと向き合っていることが伝わりました。実際に3年後、修行生はどんな選択をしているのでしょうか。
西岡さん:屋号を変えてラーメン屋を続けている人が多いですが、ラーメン屋と居酒屋を両立させている人や、海外に出店した人もいます。店を閉めて本部側に回り、「全国に夢を語れる場所」を増やすためのサポートをしてくれているスタッフもいますよ。
大事なのはラーメン屋を続けることではなく、自分のなりたい姿や夢を主体的に考えて、その実現に向けて動くことですから。

お店のスタッフではなく「お店の経営者」を育てるためのコツ
――西岡さんが「3年ルール」にこだわる理由が分かりました。では実際に、飲食未経験の方をどのように育てていくのでしょうか。
西岡さん:修行生が自ら考え、自ら育つことを重視しているので、あえて直接指導しないよう心がけています。もちろん大前提として、ラーメンの作り方はちゃんと教えますよ。ただ、レシピを教えれば誰でも作れるようになるんです。経営に必要な要素を10とすれば、ラーメン作りなんてそのうちの1つに過ぎません。
ですから基本的には、総本店で一緒に営業しながら、僕がやっていることの「意図」を見てもらっています。最初はみんな、僕の動きの100分の1も見えていません。でも、日常業務に慣れてくると解像度が上がってくるんです。「師匠の目は、今どこを見ているんだろう?」「なぜそこに気づけたんだろう?」と考え始める。そこからインプットの質が劇的に変わる。
さらに、今どき珍しいかもしれませんが、うちの修行は「私生活も共にする住み込み」が基本です。仕事中だけなら上手に立ち回れても、1年間も24時間一緒にいれば必ずボロが出ますし、人間関係の壁にもぶつかる。その試練の中で「周りから応援される人間」になれるかどうか。これが、お客さまに夢を語ってもらえる空気づくりや、経営者に不可欠な「人間力」を鍛える訓練になっています。
「学びのプロにならない限り、ここを卒業した後、何の成長もできないよ」と修行生には伝えています。身につけてほしいのは、技術そのものよりも、自ら目標を設定し、自らそれをつかみ取っていく姿勢なんです。場所は与えるけれど、与えっぱなしにはしない。それがうちのスタンスです。
――将来的には独立して、屋号変更(廃業)後は自分で進路を決めなければならないわけですから、そうした自走力や経営者マインドは大事ですよね。『夢を語れ』総本店だけでなく、他のお店など外で学ぶことも重視されているそうですね。
西岡さん:そうですね。よく「外から学びなさい」と言っています。『夢を語れ』の中だけを見ていたら、経営者は僕しか知らないままですから。いろいろな経営者に会って、自分なりの経営観を育ててほしいんです。
僕自身も毎週経営者の集まりに参加していますし、修行生を連れて行くこともあります。ボストンでお店を運営していたときには、当時、ハーバード・ビジネス・スクールの竹内弘高教授と知り合い、よく相談に乗ってもらっていました。
シフトの通りに営業中だけ仕事しているなら、ただ雇われているだけ。経営者にはなれません。例えば、他のお店に話を聞きに行く。何日かでも働かせてもらう。他にも、さまざまな形で飲食に携わっている人や、お客さんと仲良くなって出かけたり、同じ境遇の人たちと夢を語ったりする方が圧倒的に大事だと僕は思っていて。実際にそういう行動ができている人はスムーズに(総本店を)卒業していきますよ。

――徹底していますね。では、独立後に必要となる「経営者感覚」を持ってもらうために、お金の使い方についてはどのように伝えているのでしょうか。
西岡さん:商売の本質って、その商売を取り巻く人たちにお金を再配分することなので、案外シンプルなんですよね。「三方良し」のスタンスで、お客さま、地域や業者さん、スタッフに還元し続ける。そうしてお金を循環させていれば、自然と商売は回ります。
稼いだお金を全部自分の懐に入れたら一瞬は儲かるかもしれないけど、誰も自分についてこなくなる。逆に、全部お客さまに還元したら、喜ばれるかもしれないけれどお店が潰れる。そのさじ加減が腕の見せどころです。
商売がうまくいかない原因は、大抵お金の再配分の仕方にあります。
「夢」を語り、「背中」を見せると、スタッフは自走する
――人材育成に悩む個人の飲食店オーナーも多いと思います。スタッフの自走力を引き出すために、『夢を語れ』のモデルから応用できるエッセンスはありますか?
西岡さん:やっぱり、一番はオーナー自身が夢を語ることだと思います。「こういう店にしたい」と言葉にする。大きな夢じゃなくていいんです。「今月みんなで頑張ったら来月ご飯に行こう」でも、「週末乗り切ったらサウナ行こう」でもいい。
さらに言えば、アルバイトの人も含めてスタッフ全員の夢を紙に書いてお店に貼ってみてほしいですね。騙されたと思って、一度やってみてください。質より量でいいし、週に1回でいいから、小さな夢を言葉で共有して、みんなで叶えるサイクルを回す。それだけでも、場の空気は変わりますよ。
――あらためて考えると、自分の夢を語るのって難しいですね。少し照れくささもあります。
西岡さん:そうですよね。でも、夢って考えているだけだとぼんやりしたままです。夢を言葉にすることで「夢の筋肉」がほぐれて、いつでも周りに共有できるようになってくる。
夢が書けない人には「心がワクワクするものはすべて夢。行きたい場所や食べたいものでもいいから、100個書いてみて」と伝えています。
最初は10個ほどしか出てこなくても、慣れると60〜70個出てくる。その後、例えば、夢のひとつである「ディズニーランドに行きたい」を実際にどう叶えるか、具体化していくんです。日時やアクセス手段、お金をどう工面するか。ここまでくれば、やり方を知って実行するだけですよね。夢は分解していくと、ただのスケジュールになるんです。

――確かに、「何を叶えたいか」が考えられていれば、自動的に「あとはそれをどう実現するか」を考える段階に入れますね。
西岡さん:夢は語り続けないとすぐ冷めます。ラーメンと一緒で、できあがった(言葉にできた)瞬間が一番熱い。だから思いついたらすぐ動くこと。その環境をつくることが、自走力につながると考えています。
――これまでのお話を伺っていると、西岡さんご自身の熱量の高さをひしひしと感じます。その原動力はどこにあるのでしょうか。
西岡さん:僕は「ダントツで先頭を突き進む」ことを自分に課しています。例えば、部下が集めた夢の数が5つなら、自分は10以上集める。 “ダントツ”とは僅差で1位になることではなく、2位以下に倍の差をつけることです。まだできていないことも多いですけど。
経営者が圧倒的に動くこと、挑戦し続けること。常にその背中を見せることが、結果的に人を育てると思っています。
――「圧倒的に動く」とは、例えばどんなことでしょうか?
西岡さん:普通にやっていては、上司と部下の差は縮まりません。ならば、下を見て成長を求めるのではなく、まずはオーナー自らが「とんでもない」と思われるようなチャレンジをすることが重要です。
例えば、部下に本を1冊読んでほしいなら、自分が10冊読む。それでも響かなければ100冊読むでもいいと思います。もっと具体的に言うと、限定商品を積極的に提案してほしいなら、まず自分がいくつも試作して研究する。作りながら「ちょっと味見してみて」「あと何を足したらいいと思う?」と巻き込んでいく。言葉で指示するより、背中を見せるほうが早いですから。
ラーメン屋ではなく人材育成をやっている感覚の方が強い
――2018年に修行生を受け入れ始めた頃と近年とでは、修行生の性質にも変化を感じますか。
西岡さん:変わりましたね。最初の頃は、良くも悪くも「勢い」があった。多少無茶でも、とにかくやってみるという人が多かったです。今は得られる情報も見えている選択肢も多い。その分、慎重に物事を進めたい人が増えている印象があります。
だからこそ、今までのやり方がそのまま通用するとは思っていません。総本店での修行制度も、この先は形を変えていくかもしれません。
――修行制度のあり方そのものを、根底から見直す可能性もあるということでしょうか。
西岡さん:そうですね、その可能性もあります。やっぱり人材育成は難しいですから。こちらの思いがそのまま伝わることの方が少ないですし、嫌われることもあります。でも、言うべきことは言わないといけない。ここで言わなかったら、その人は一生言われないかもしれませんから。
――思いが伝わらないもどかしさや、嫌われるリスクを引き受けるのはしんどいことだと思います。それでも、人を育てることにこだわる理由は何でしょうか。
西岡さん:人が変わる瞬間を見るのが、やっぱりうれしいし、楽しいんですよ。ほとんどは思い通りにならない。でも、ある日ふと「変わったな」と感じる瞬間がある。そのときに、やっていてよかったと心から思います。
極端に言えば、僕はラーメン屋をやっているつもりはあまりなくて、人材育成をやっている感覚の方が強い。全員が自分で判断して、決断して、責任を持って生きられるようになってほしい。そのための場をつくり続けたいと思っています。
あの人に学ぶ、飲食店運営のノウハウ
取材・文:田窪綾
編集:はてな編集部

