横浜・野毛の人気居酒屋「三代目ハルク」に学ぶ、LINEを活用した日本酒文化の広め方。“まずは熱燗で”を日常に

居酒屋激戦区の横浜・野毛でこだわりの地酒と地魚を楽しめる「三代目 ハルク 野毛」に、LINE公式アカウントの活用方法を伺いました。


立ち飲みやはしご酒が人気の町、横浜・野毛において、あえて広い店内でこだわりの「純米燗酒」と地物を使った料理を提供する「三代目 ハルク 野毛」。そんな同店で、お客さんとの関係構築に欠かせないツールとなっているのが「LINE公式アカウント」です。

今回は店主の黒田弘志さんに、リピーターを育む店づくりと、具体的なLINE公式アカウントの活用術について伺いました。

「三代目 ハルク 野毛」黒田弘志さんのプロフィール写真

黒田弘志さん

横浜・野毛の日本酒居酒屋「三代目 ハルク 野毛」店主。東京・築地の仲卸業者の3代目として生まれる。3度の移転を経て現在の店舗を構える。純米燗酒を中心とした日本酒文化の普及に情熱を注ぎ、熱燗の魅力を伝えることをライフワークとする。酒販免許も取得し、店舗2階では酒屋「黒田源八商店」を営んでいる。

1階は居酒屋、2階は酒屋。珍しい店舗設計にたどり着いたワケ

――まず、お店のコンセプトや特徴について教えていただけますか?

黒田さん:コンセプトは「日本酒」と「海鮮」です。日本酒は純米酒にこだわっていて、さらに言えば熱燗に特化しています。ただ、コアな日本酒ファン向けのお店というよりは、あまり馴染みのない方でも気軽に楽しんでいただけるような場を目指しています。

――純米燗酒に特化されるというのは、通(つう)向けのようにも感じますが。

黒田さん:ニッチな世界に思われるかもしれませんが、文化の側面から考えると、2000年近く続く日本酒の歴史の中で、特に江戸時代以降は「お酒を温めて飲む」のが主流でした。冷蔵庫がない時代は冷酒という概念はあまり一般的ではありませんでしたし、戦時中の米不足で醸造用アルコールの添加が本格化する以前は、米と米麹だけで造る「純米酒」が基本でしたからね。そういう日本酒の文化に触れてもらいたいという思いがあります。

――具体的には、どのような銘柄を取り扱っていらっしゃるのでしょうか?

黒田さん:もともとは地元の神奈川県・山北町にある「川西屋酒造」のお酒(代表的な銘柄に「丹沢山」「隆」)だけを取り扱っていました。一般的な居酒屋さんは、各蔵の代表銘柄を1本ずつそろえて飲み比べられるようにされていますが、当店は蔵を限定し、その蔵のお酒の「スペック(造りや酒米、酵母など)の違い」を味わってもらうスタイルです。

あまり知られていないかもしれませんが、一つの蔵の中でもスペックの異なるお酒が30種類ほどあることも珍しくありません。

それに同じお酒でも、温度帯によってまったく表情が変わります。そうした日本酒の奥深さを体験していただきたいですね。

日本酒メニューは蔵ごとに展開。「川西屋酒造」をはじめ、山形「鯉川酒造(鯉川、Beppin)」、鳥取「山根酒造場(日置桜)」、愛知「勲碧酒造(勲碧)」など、熱燗への思いに共感した蔵と直接取引を行っている。各蔵の魅力を伝えるアンテナショップ的役割も担っているそう

カニやウナギなどの海鮮、地元産のパクチーを使ったメニューがラインナップ。海辺の漁師町の網元料理のような、豪快でボリュームがあり、日本酒が進む料理をイメージしているそう

――どのようなお客さんが多く来店されるのでしょうか?

黒田さん:世代的には30代後半から60代くらいまでの方がメインで、カジュアルな接待として使われるパターンも多いです。商談を終えて親睦を深めるような使い方ですね。もちろん、カップルやご家族でのご利用もあります。

居酒屋としては一般的な価格帯ながら、野毛の立ち飲み屋さんの平均的な価格帯よりも少し高く、ゆったりとした客席をご用意しているからかなと。

――リピーターと新規のお客さんの割合はいかがですか?

黒田さん:半々か、リピーターがやや多いですね。ご予約はリピーターの方がほとんどで、フリーで来られる方は新規のお客さまが多い印象です。リピーターの方も、毎日のように通う常連というよりは、使い勝手のよさから「また来よう」と思ってくださる方が多いようです。

――お店のこだわりに共鳴し、ゆったりした空間を好むファンの方に支えられていることが分かります。そういえばお店の2階は酒屋さんとして活用されているそうですね。

黒田さん:コロナ禍のタイミングで酒販免許を取得し「黒田源八商店」という店名で酒屋を営むようになりました。ただ、自店や他の飲食店さまへの卸がメインなので、一般のお客さまがふらっと来て買えるような小売店ではありません。ではなぜ酒屋を営んでいるかというと、多くの種類のお酒を取り扱うことで、酒蔵との関係をより深くしたいからなんです。

「友だち」のような温もりを。LINEを通じたコミュニケーションでつくる、お客さんとの信頼関係

――お客さんとの関係構築に「LINE公式アカウント」を導入されたそうですが、そのきっかけを教えてください。

黒田さん:2年ほど前、体感的にお客さまが減った時期があり、「何をしようか」と選択肢を模索する中でLINE公式アカウントが候補に挙がりました。

決定的なきっかけは、知り合いの飲食店がLINE公式アカウントを活用していたことです。実際に登録して、届いた配信を見て、これなら自分の店でも同じようなことができるし、情報をダイレクトに幅広く伝えることができるだろうと思いましたね。

グルメサイトは基本的に一律な情報、変化の少ない情報を乗せるのには適してますが、季節や日々の告知といった変化の大きな情報を乗せるのには向いてません。その点、LINE公式アカウントは伝えたい情報をタイムリーかつダイレクトに伝えられるところが魅力的だと判断しました。

友だち追加をすると人気メニューの「プリン」を無料でプレゼント

ショップカードも活用

――現在の具体的な活用方法についてお聞かせください。

黒田さん:ショップカード機能と、定期的なメッセージ配信をメインにしています。LINE公式アカウントの友だち追加をしてくださった方には、初回特典としてうちの名物デザートであるプリンをプレゼントしています。

――配信内容で工夫されていることはありますか?

黒田さん:その日のサービスメニューの紹介をベースにしつつ、酒蔵さんと共同で開催するイベントの告知などにも活用しています。その上で、季節感があるか、お客さまにとってお得感があるかは常に意識していますね。

一方で、頻繁に送りすぎてもご迷惑になりますし、内容がマンネリ化するのも避けたいので、現在は週1回、休み明けの水曜日に必ず配信するというスケジュールが定着しました。

そういえば先日は近隣のレジャー施設から割引券をいただいたので、LINE公式アカウントの友だち限定特典として活用させていただきました。

飲食業組合などでもらったレジャー施設のサービス券をプレゼントする企画も

――酒蔵さんとのイベントとは、具体的にどのような企画をされているのでしょうか?

黒田さん:例えば5月には、川西屋酒造さん、そして神田にある燗酒主体の居酒屋さんと共同で、丹沢湖でキャンプをしながら燗酒を楽しむイベントを企画しています。そういったイベントの募集期間中は、LINE公式アカウントの配信メッセージの中にも必ずイベントの案内を一文入れるようにしています。

――LINE公式アカウントのメッセージに担当スタッフの方(タカシさん)のお名前が書かれていたり、人柄が伝わる親近感のある文面が印象的でした。 

黒田さん:配信内容の作成は、現場を任せているスタッフに担当してもらっています。基本的に彼が原案を作り、私がチェックして構成を調整するという流れです。

お店からの事務的なお知らせというよりは、「友だちから来たLINE」のように、彼なりの人柄や温かみを出してもらうようにしています。実際、LINE公式アカウントのメッセージ経由で「今日予約できる?」と直接ご連絡をいただくことも多いですね(席が空いていればLINE経由での予約も承っている)。

――画像やテキストの作成には非常に手間をかけられているように感じますが、効率化の工夫はありますか?

黒田さん:配信用のクリエイティブはもちろん、店内のメニューやPOP作成にもChatGPTをはじめとした生成AIを積極的に活用しています。もちろん、お客さんにとって分かりやすいこと、他人の権利を侵さないことが前提ではありますが、かつてはすべて手書きで行っていた部分も、AIで代替できるものは割り切って任せています。そうすることで、作業の大幅な効率化を実現しています。

文章の添削や誤字脱字のチェック、あるいは硬すぎる表現を親しみやすいトーンに調整する際など、実務を支える「良き相棒」として、今や生成AIは欠かせない存在になっていますね。

生成AIを活用して制作された画像の例

――LINE公式アカウントのほかにInstagramも運用されていますが、どのように使い分けていますか?

黒田さん:LINE公式アカウントに関しては、「お店をアピールすること」と「お客さまにお得な情報を届けること」に特化しています。

一方、Instagramは私と現場スタッフの両方のアカウントを運用しており、こちらはお店に来られたことがない方も見ているので、日々の出来事やプライベートな内容も含めて発信しています。LINE公式アカウントはお店の具体的な情報、特典、サービスに特化したものだけを送るよう使い分けています。

――その他、集客やリピーター作りの面で工夫されていることはありますか?

黒田さん:基本的なことですが、ぐるなびやGoogle マップに掲載している店舗情報を定期的に更新することですね。コースのメニュー構成なども、常にお客さまが求めているものを考え、なるべくこまめにブラッシュアップしています。いろいろと試行錯誤する中で、反応がよいものは残し、あまりよくないものは柔軟に変えていくよう心がけています。

「まずは熱燗で」を、これからの時代の当たり前に

――メニュー構成なども日々試行錯誤されているとのことですが、はしご酒の文化が根付く野毛ならではの経営の難しさや、独自の工夫はあるのでしょうか?

黒田さん:野毛は3軒、4軒とはしご酒をされる方も多く、うちに来店されるときには「もう飲まない、食べない」というケースも少なくありません。それではお店の経営が厳しくなってしまうため、当店では「席のみの予約」は取らず、予約されたお客さまには必ず刺身盛りや小鉢、熱燗の基本プランをご用意しています。お店の空間を守りつつ、お客さまに当店の魅力をしっかり味わっていただく。お互いにとって一番よい形を模索した結果ですね。

――そうしたお店の質を守る工夫を続けられていますが、長年飲食店を営まれる中で、最近の集客状況についてはどう感じていらっしゃいますか。

黒田さん:正直なところ、平日はかつてないほど苦戦しています。26年この仕事を続けてきて、これほど売り上げが落ち込むことはありませんでした。昨今の物価高の影響か、予約なしで来店される飛び込みのお客さまの注文が価格重視になり、お金の使い方が明らかに変わりましたね。

ランチ営業を始めてみる、開店時間を早めてみるなど、今も試行錯誤の連続です。ただ、そんな厳しい状況だからこそ、お客さまとの会話を何より大切にしています。

――ハルクのように料理やお酒にとことんこだわったお店では、お客さんとの「距離」をどう縮めるかが鍵になりそうですね。接客において、黒田さんなりの哲学はありますか?

黒田さん:一方的に説明を押し付けるのではなく、お客さまの「知りたいこと」を自然に引き出すテーブルトークを心がけています。どんなに忙しくても、質問をいただいた際は丁寧にお答えし、そこから話を膨らませる。そうした地道なコミュニケーションこそが、お店への信頼につながると信じています。

――日本酒の文化を伝えたいというお話がありましたが、これからこのお店を通じて、どのような価値を届けていきたいとお考えですか。

黒田さん:規模を広げて多店舗展開することよりも、この店を通して「熱燗」という文化を深く伝えていくことが、私の役割だと思っています。居酒屋での一杯目を選ぶとき、ビールやハイボールと並んで、当たり前のように「熱燗」が選択肢に入る。そんな未来を目指して、これからも熱燗の真のおいしさを、この場所から力強く発信し続けたいですね。

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【取材先】
三代目 ハルク 野毛
住所:神奈川県横浜市中区宮川町2-56-56 三代目ハルク
TEL:050-5488-2255
営業時間:土・日・祝14:00~23:00、月・水~金16:30~23:00
定休日:火曜日
HP:https://g429102.gorp.jp/
Instagram:@96hulk869

 取材・文/花沢亜衣
東京生まれ。食や暮らしにまつわるジャンルを中心にWEBメディア・雑誌で編集や執筆を行う。三度の飯より食べることが好き。一番好きなお酒は青空の下で飲むお酒。2023年J.S.A.ワインエキスパート呼称資格取得。2025年5月に酔談録『二軒目は路面店』を発売。
Instagram:@aipon79

写真:佐坂和也
編集:はてな編集部