業績低迷を脱して売り上げ3倍に!新潟のローカルスーパーが「食のパワースポット」と言われるまで

信濃川が育んだ豊かな大地が広がる日本有数の米どころ、新潟市南区味方(あじかた)に「マスヤ味方店(以下、マスヤ)」はあります。一見、オーソドックスなご当地スーパーといった趣。しかし、商品点数およそ5,000点のうち、売り上げの3割超に相当するのが日本各地から取り寄せた食の逸品で、その充実ぶりに驚かされます。“毎日が全国うまいもの大会”というユニークな戦略で、同店を4年で売り上げ3倍の大人気店に育て上げた株式会社マスヤ社長・栗林礼奈さんに、大逆転黒字に導いたアイデアや実行力の背景を取材しました。

かつてはキャリア志向。家業のスーパーとは無縁の人生だった

マスヤは栗林さんの曾祖父が77年前に開業して以来、創業家が代々経営を引き継ぎ、地元のお客を中心に支持されてきました。しかし四代目となる栗林さんは、マスヤを承継するつもりは全くなかったと言います。

マスヤ味方店の店長で、株式会社マスヤの社長にも就任した栗林礼奈さん

「子どもの頃、両親は日々多忙を極めていましたが、その割に潤っている印象はなくて、後を継ぐイメージはありませんでした。京都の大学に進み、卒業後は東京でバリバリ働いて稼げるビジネスパーソンを目指したんです。人材紹介・派遣会社やIT企業で営業職を経験するなど計7年勤務し、結果も出して、望んでいた高収入を得ることができました。ただ、仕事そのものに面白みを感じることはできなかったんです。お金があることと幸せは直結するわけでないと悟りました」

その後、栗林さんは「自分が本当にやりたいことを探してみよう」と一念発起して会社を辞め、ワーキングホリデーへの参加を決めました。

ところが、出国直前に新型コロナウイルス感染症が流行し、海外渡航を見送ることに。東京の住まいも解約した後だったため、いったん実家に戻り、「ちょっと手伝うくらいのつもり」でマスヤのアルバイトを始めました。

“物々交換”で知られざる全国の逸品を発掘

コロナ禍でマスヤの一員となった栗林さん。当時は客足が遠のき、経営状況は芳しくありませんでした。

「営業職の経験から、『どうすればものが売れるのか』を自然と考えるようになっていました。人材やITとスーパーは分野こそ違えども、お客さまの気持ちを考え、喜んでいただける何かを提供する点は同じですから」

マスヤ味方店の店内

栗林さんが改革の第一歩にしたのが、地元同業者の成功事例のリサーチ。見つけたのが、県内五泉(ごせん)市のローカルスーパー「エスマート」でした。

「当時店長だった父と、エスマートの鈴木社長が旧知の仲だったことから訪問させていただきました。目を引くPOPが付いた個性的な自家製総菜や全国から取り寄せた逸品がずらりと並び、遠方からもお客さまが訪れてにぎわう様子を見て、『大手が扱いそうにないニッチな商品を核に訴求することが必要だ』と痛感したんです」

バックヤードの入り口に貼られている歴代のPOP

かくして栗林さんは、マスヤにも全国の銘品をそろえるために商品調達を開始。市場や他店の巡回、生産者との連携、SNSのチェックといった一般的な手法に加えて、独自の人脈も活用しました。

「私は、大学時代は京都、社会人時代は東京で過ごしたおかげで、関西、関東とその周辺に暮らす旧友やその知人などから成る幅広いネットワークを持っているんです。そこで『新潟のおいしいものを送るから、そっちのおいしいものを送り返してくれる?』と、要は物々交換を依頼しました。すると本当に、新潟ではほぼ知られていない全国の銘品をたくさん発掘できたんです。昔から食べることが大好きで、飲食店やお取り寄せ品などに常にアンテナを高く張っていましたが、友人たちからもたらされた知られざるご当地グルメの情報にはかなり助けられました。今も引き続き頼りにしています」

誰が言い始めたのか、いつしか「食のパワースポット」とも呼ばれるようになったマスヤ味方店。午後2時すぎともなると、完売する商品もたくさん

もちろん、自身でも情報収集や開拓を進めます。そして、全国にあるローカルスーパーで、特に個性が強く、地元の人から高く支持されている店の社長さんや店長さんにコンタクトを取り、直接会って仕入れ先の情報や経営方針などを尋ねました。若く、まっすぐに質問する栗林さんを皆さん快く歓迎したそうです。なかには驚くべき展開となったケースも。

「2年前ですが、ドキュメンタリー番組で見た京野菜のレジェンドのような農家さんがつくる野菜をどうしても扱いたくて、訪ねていきました。その時は全く相手にされなかったのですが、後日すぐにマスヤで扱っている新潟名産の生鮮品の詰め合わせと、私の思いをしたためた手紙をお送りしたところ、『旨かった!』とご返事をいただいたんです。無理だと思っていたその方が作る京野菜を店頭に置くことができました。小売りでは、東京の某高級スーパー1店のみの取り扱いでしたので、当店のお客さまには大変喜んでいただいています」

栗林さんが実際に現地に行って感じたことなどもPOPに反映している

強みは売り手・買い手の関係を超える距離感の近さ

集めた逸品は、栗林さん自身が必ず食べています。そして、率直な感想をそのまま言葉にしてPOPを作成し、店内あちこちの特設コーナーに並べられます。初訪問の人はもちろん、常連のお客もワクワクする「宝探し」が体験できるスーパーといった雰囲気です。

見ているだけで何か買いたくなってしまうマスヤのチラシ

新しい商品情報はSNSとチラシの二軸で発信。特にInstagram(以下、インスタ)では、多い日は1日10回くらい緊急ライブを行います。 “勧めたい”という栗林さんの熱量が高いため、投稿を見たお客の熱量も高く、情報の拡散や来店、購入につながっているといいます。

「取り寄せ品の中には、決して安くない価格の品も含まれていますが、それだけの価値があるもので、実際によくご購入いただいています。スマホの扱いが苦手なお年寄りの中には、『口コミでマスヤのインスタ動画が面白いと聞いて、どうしても見たいので孫にスマホの操作方法を教わった』なんて方もいらっしゃいますね」

「今日が来店2回目」と話す親子は、POPを見ながら「これ●●だって!」と楽しく真剣に商品を吟味。買い物かごにはマスヤのインスタで話題になった商品が入っていた

最近もSNSの効果を痛感する出来事があったそう。

それは、県内で知名度の高いヤマヨ果樹園が、自社で育てた西洋梨『ル・レクチェ』を原料にしたグミを、発注ミスで在庫を大量に抱えてしまい賞味期限が迫っている、という相談でした。そこで、安く仕入れたこと、地元の企業が困っていることをインスタで発信したところ、ほぼ2日で100万回超えの大バズリに!お客も多く来店し、中には120個近く買った人もいました。

「当店のお客さまは、私たちだけでなく、地元の生産者を応援したいという気持ちも持ってくださっているのだな、とうれしく思いましたね。また、おいしいものに対する感度の高いお客さまも多く、例えば『旅先でこんなおいしいものがあったよ!』などと教えてくださることも。試したところ本当においしくて、それを仕入れ、ヒットしたことも少なくありません」

店頭には大きな洋梨の書き割りが置かれ、大きく「SOS」の文字が(左)。そして入り口の目の前に積まれた「ル・レクチェ」のグミの箱(右)。買い物客は皆一様にPOPを眺め、一つ、二つと手に取っていく

「ル・レクチェ」グミは箱買いする人も続出!

「単なる売り手・買い手の関係を超える距離感の近さが当店の強みです」と栗林さん。店舗スタッフも常連客の顔と名前を憶えていて、取材日もご近所同士のようなフランクな会話をしながら、商品をおすすめする場面が何度もありました。また、陳列していた商品をひょいっと開封して、「これ食べてみてください!」とそのままお客に提供する“直接試食”の場面も。食べた後、ほとんどのお客がその商品を買い物かごに入れました。

「これはね……」とすぐに商品の説明をする栗林さん(左)。「なんかしょっぱい系のお菓子はない?」とのオーダーに、「これ食べてみてください!」とすかさず富山の薄削り昆布の袋を開けて試食として振る舞っていた(右)

全権移譲し、サポートしてくれた寛大な父に感謝

2021年の店長就任以降に進めてきた改革によって、2024年度までに従前の売り上げを3倍に引き上げた栗林さん。ここまでの足取りは順調に見えますが、いくつも失敗したり、壁に突き当たったりしてきたそう。

「私のモットーは、『失敗していない大人ほど怖いものはない』。失敗してもいいから挑戦を続けたほうが、必ず学びが得られると思っています。仮に最初の能力は一緒でも、失敗を重ねた人の方が最終的には前に進めているはず。ですから、これからも失敗を恐れず、新しいことにどんどんチャレンジしていくつもりです」

栗林さんはじめ、スタッフも気さくな人ばかり

2026年3月には、父が経営母体であるマスヤ株式会社の会長に、栗林さんが社長に就任。これまでを振り返り、父の寛容な対応には感謝しています、とも。

「素人同然の娘が、自分が手塩にかけて育てたスーパーを、前例のない手法で変えようとしたわけですよね。それでも父は止めずに『やってみればいいんじゃないか』と全面的に任せてくれました。反対されていたら今のマスヤはなかったと思います。また、私が改革を始めた当時の社員さんは疑心暗鬼だったと思いますが、父が私と社員の間に立ち、緩衝材のような役割を果たしてくれたことにも感謝したいです」

パート従業員・熊倉順子さん(左)は、元気で発信力の高い栗林さんの下で働きたいと応募。同・小林桃子さん(右)は栗林さんの高校の同級生。栗林さんを支えたいと事務職から転職した。二人に共通しているのは、お客と双方向にコミュニケーションできることの面白さにやりがいを見出していること

最後に、今後の展望について聞いてみました。

「学生時代に旅行してとても気に入ったアメリカのカリフォルニアに、マスヤを出店する、あるいはサプライヤーとして日本の商品を供給するという夢があり、情報収集を続けています。ただ、今はその前に足元を固めることに集中しています。当店に隣接する建設業者さんの移転に伴い、約600坪の敷地を譲り受けることが決まっていて、現在、駐車場の拡張工事を進行中です。2年以内に、バックヤード、倉庫などを増設した新店舗を建設し、現店舗はイートインにリニューアルする計画です!」

スケールの拡張に伴い、商品ラインナップをより充実させ、居心地の良いスーパーであり続けたいと語る栗林さん。新生・マスヤ味方店への期待がふくらみます。

取材先紹介

マスヤ味方店

取材・文保倉勝巳
写真新谷敏司
企画編集株式会社都恋堂