パティシエ未経験の27歳がスイーツ激戦区・自由が丘で仕掛ける等身大のチーズケーキ戦略

東京でもスイーツの人気店がひしめく自由が丘エリア。そんな激戦区に2025年7月「CHEESE CAKE CLUB」はオープンしました。その名の通り、チーズケーキの専門店で、オーソドックスなものから季節商品まで種類も豊富。濃厚だけれども、さらりと食べられてしまう味わいは早くも舌の肥えたスイーツファンを獲得しています。2026年3月には、日本橋三越本店で行われた催事にて、1週間で総計約1,700点の商品を完売しました。この店を仕掛けたのは、現在27歳のオーナー・中島佑太朗さん(以下、ユウタロウさん)。オープンから1年足らずで人気店を作り上げたユウタロウさんの店舗経営について取材しました。

バンクーバーで出合ったチーズケーキから道を決断

ユウタロウさんがチーズケーキ専門店の開業を志したのは、カナダ・バンクーバーでのこと。2017年春に2度目の大学受験に失敗したのを機に、海外に目を向けたことがきっかけです。心機一転、バンクーバーの大学への進学を目指して渡航しました。そして現地では語学学校を経て、2018年に地元大学のビジネスマネジメント学部に入学しました。

CHEESE CAKE CLUBオーナーの中島佑太朗さん

「ビジネスマネジメント学部には在庫管理や資金計画、販売方法などを学ぶ実践的なクラスがあり、すでに起業してリスキリング(新しい仕事・職種に対応するためのスキルを学び直す)のために通っている経営者も多く在籍していました。僕も高校生の頃から『将来は起業したい』という夢を持っていたので、刺激を受けましたね。ただ大学で学ぶだけでなく、自分で実際に店や会社を経営しながら学べたら役立つだろうなと思いながら勉強していました」

転機はある日、突然訪れました。ダウンタウンから離れた住宅街に、知る人ぞ知る隠れ家のようなカフェ『Cheesecake etc.』があると知ったユウタロウさん。チーズケーキ好きだったこともあり訪れると、辺鄙(へんぴ)な場所にも関わらず、30人ほどの行列ができていたそう。

「提供しているのは数種類のチーズケーキとコーヒーのみで、夜7時から深夜1時までという1日5時間限定の営業スタイルなのに、とても繁盛していて驚きました。それに粒の大きなストロベリーのソースが添えられた、軽い甘さのチーズケーキがすごくおいしかった!ソースやトッピングを、自分好みで組み合わせて選べるのも楽しかったです。『こういう店が日本にあったらおもしろいはず。僕がつくろう!』と即座に決意しました」

CHEESE CAKE CLUBで一番人気のバスクチーズケーキ

日本での開店に向けて、ユウタロウさんは早速行動に移しました。大学を辞めて帰国の準備をする傍ら、東京の自宅から通えるチーズケーキ専門店のスタッフに応募。帰国した翌日には三軒茶屋の「cafe The SUN LIVES HERE」に入店しました。チーズケーキづくりだけに的を絞り、経験値を上げたうえで、できるだけ短い時間で独立することを念頭に置いたため、あえて製菓学校に入学する道は選ばなかったそう。

「実はそれまでアルバイトの経験もなかったのですが、cafe The SUN LIVES HEREのオーナーは、僕の思いを伝えると快く雇ってくださいました。おかげで開業を決意してから、すぐにチーズケーキ専門店の最前線で働き始めることができたんです。当初はホールで接客をしていましたが、ほどなく希望していたケーキ作りに携わらせてもらいました」

cafe The SUN LIVES HEREで一緒に働いていた小山さん。ユウタロウさんに請われてCHEESE CAKE CLUBの立ち上げから共に働いている

ケーキ作りの腕を磨くのと同時に、チーズケーキを100店ほど食べ歩いたというユウタロウさん。材料の配合比率やくちどけ、デザイン、サイズ感、店内の雰囲気や内装など、さまざまな項目を分析し、少しずつ自分の店で出したいチーズケーキのフレーバーや種類などのイメージを固めていきました。

そんな中、2020年にとあるテレビ番組でcafe The SUN LIVES HEREの「瓶詰めチーズケーキ」が紹介されました。すると、途端に店は連日行列の絶えない超人気店となり、ユウタロウさんも朝から晩まで休み暇もなくずっとチーズケーキを作ることに。この時の経験をユウタロウさんは振り返り、「一気に腕を上げることができた体験」といいます。同時にメディアの影響力の大きさも身に染みたそう。

「この頃、将来自分が経営する店のプロモーションに役立てようと、オンラインの動画編集スクールを複数受講して、制作方法や効果的なフレーズの作り方、カット割りなどを学びました。また、動画制作について書かれた記事も多数読み、有料コンテンツもいくつか買い求めて学びを深めながら準備を進めました」

もう一つのフィールド「古着販売」で開業資金をカバー

約2年間、cafe The SUN LIVES HEREで働いた後、ユウタロウさんはスターバックス コーヒーに修業の場を移します。これも自らの店を持つために必要なプロセスでした。

「成功を収めている飲食チェーンのオペレーションや店舗経営のノウハウ、人の育て方などを学び、自分の店づくりに活かそうと思いました。1年ほど経験を積み、知識を身に付けたタイミングで、いよいよ開店に向けて店舗物件を探し始めました」

開業資金の工面では、ユウタロウさんのもう一つの顔である「古着販売業」の利益からカバーしました。

「カナダにいた頃から古着が好きで、個人でよく売買もしていたのですが、徐々に『これは商売にできるのでは……?』と思いました。3~4年かけて少しずつ商品点数を増やしていったところ、コロナ禍のオンラインショッピング隆盛の時勢にも乗ることができ、規模を拡大することができました。さらに業績を伸ばすために、古着販売の実店舗確保とオンライン販売の仕組みをつくる資金として、個人事業主を支援している日本政策金融公庫から融資を受けました。古着販売業も順調に伸びています」

こうして古着販売の利益から200万円を捻出。加えて、新たに信用金庫から受けた融資500万円の計700万円を、CHEESE CAKE CLUB開業の原資に充当しました。

「多くの金融機関を回りましたが、僕の若さや、個人事業主であるが故の経営基盤の弱さもあり、とにかく断られました。そうした中、融資を決めてくれた信金の担当者は僕と同世代で、古着販売の実績やフォロワーが3万人近くいるSNSの展開を高く評価していただき幸運だったと思います」

チーズケーキ専門店と古着販売店、2業種の店舗の経営者でもある

ブレない自信の源は、“教科書”にとらわれないチーズケーキ

物件を探し始めたのは2025年の初め頃。自身が育ち、愛着のある東急線沿線の世田谷区・目黒区エリアで駅に近い物件を探しました。また、通りすがりでもすぐにチーズケーキの店だと分かってもらえるよう、“路面店”にこだわりました。

店は自由が丘駅から徒歩8分の住宅街にある。ウインドウ越しにチーズケーキが並べられたショーケースが見え、思わず入りたくなってしまう
大きな窓から光が入り、明るい階段を上ると2階のイートインへ

「居ぬきで借りたため、開店前の設備投資はトータル100万円くらいの出費で済みました。スイーツ激戦区の自由が丘エリアでの出店となりましたが、『商品力』と『発信力』の2軸がしっかりしていれば大丈夫という自信がありました」

ユウタロウさんが満を持して提供するチーズケーキには、今までの彼の知見が全て詰め込まれています。

「濃厚でミルキー、でもくどくない。僕が追求するチーズケーキの味の三本柱です。見た目は、大量生産されたようなケーキではなく、良い意味での“雑さ”やクラフト感を大切にしていて、パティシエ出身ではないからこそ、教科書的なケーキにはなっていないと自負しています。ラインナップは常に10~13種類程度。ショーケースの前でどれにするか悩んでしまう……その体験を楽しんでほしいですね」

取材当日は11種類のチーズケーキを販売。多彩なフレーバーがそろっているだけにお客は迷ってしまうが、それもCHEESE CAKE CLUBの魅力

お店の定番となったグルテンフリーのバスクチーズケーキや、北海道産生乳のミルキーな風味を活かしたレアチーズケーキに加え、毎月1点のペースで新作も提供しています。

「旬の果物を使う場合が多いのですが、必ずアレンジを加えて、以前と同じものは作らないのがポリシー。例えば同じ桃でも、カットやトッピングの仕方、底に入っているクッキー、チーズの種類やつなぎの配合を変えるなど工夫をしています。お客さまに飽きられないようにするだけでなく、まだまだ若い店で成長中なだけに、季節や年を経るごとの変化を感じてほしいという思いもあります。何より、新しいものを作った方が楽しいですからね」

シーズナル商品で2026年春の新作・イチゴゼリーレアチーズケーキ。この他にオレンジを包んだゼリーを載せた新作も。いずれもさわやかな味わいと軽い食感でぺろりと食べられるため、2品一度に頼んで食べていくお客も多い

全国へ魅力を届けたい!リアルな接点を増やして次なるステージへ

「商品力」とともに、CHEESE CAKE CLUBの人気を支えるもう一つの軸が「発信力」。ユウタロウさんはかつて学んだ動画編集のオンラインスクールで活用したInstagramとTikTokに、「等身大」をコンセプトにした画像や動画を、週1~2回のペースで発信しています。

「良いこと、悪いこと、すべてを包み隠さず、等身大の自分や店について伝えることを大切にしています。大学受験の失敗や、500万円借金をしたことなどを正直に伝える一方、新作開発のプロセスや新製品が想定以上のスピードで完売した喜びなど、何でも率直に動画や写真でお伝えしています。『こんなにうちの店は素晴らしい』といったキラキラした情報は注目を集めるかもしれませんが、決して共感は得られないと僕は思っています。そうした内容は底の浅さが見抜かれてしまうと思うからです」

CHEESE CAKE CLUBにまつわるあらゆる出来事や、日常のひとコマなどオープンに発信

CHEESE CAKE CLUBのInstagramのフォロワーは約1.2万人(2026年5月時点)に上ります。SNSの発信が日本橋三越のバイヤーの目に留まり、2026年3月には催事への出店も実現。この催事のために新たに作ったキューブ型のバスクチーズケーキ「バスクキューブ」は約200個を完売し、その後のオンライン販売でも数時間で完売しました。SNSを見て来店するお客が多く、等身大の情報発信は間違っていなかったとユウタロウさんは話します。

「外国の方がいらっしゃった際、僕が『Cheesecake etc.』をきっかけにこの店をオープンしたと話したところ、偶然その方もCheesecake etc.に通っていて、『ケーキの雰囲気が似ているよ』と言われたのはうれしかったですね。また、車で片道2時間かけて来てくださるご夫婦は、毎回お二人でケーキを8つほど召し上がってくださって、『次回の新作を楽しみにしています』と声を掛けてくれます。こうしたお声がけややり取りでとてもモチベーションが上がります」

一方で、SNSのコメントの中には衛生面を問題視したり、「借金のことなど書くな」と指摘する声も。

「そうした反応があるのは健全なこと。むしろ議論があるほうが良いなと思いますし、僕は特に気になりません。それを補って余りあるのが、CHEESE CAKE CLUBを支持してくださるフォロワーさんと双方向でつながれることです。例えば新作を開発する際、ラム酒を入れるか迷っていると問いかけると、『あんまりアルコールは得意じゃないですね……』とか『少しならうれしいです』といった声を直接拾えて、新作づくりに生かせるのは強みだと思います」

SNSのフォロワー数も2026年に入り急増。三越の催事やオンライン販売も始まり、「今、大きな手応えを感じている」と自信を見せるユウタロウさん。現在、都内と関西地方の大型ショッピングモールから催事出店のオファーがあり、8~9月の出店に向けて準備を進めています。

チーズケーキ専門店の開業を決めてから、ユウタロウさんの動きに尻込みは一切ありません。「これで勝負する」と決めたら、あとは脇目も振らずに突っ走る。20代の柔軟で怖い物知らずのエネルギーと、瞬発力・機動力がビジネスを成功に導いたのは明らかです。そんなユウタロウさんに、最後にこれからの展望を伺いました。

「自由が丘の本店ももちろん大切にしつつ、全国いろいろな場所の催事やポップアップストアに出店したいと思っています。1人でも多くのお客さまとの接点を増やし、僕のチーズケーキの魅力を広めていきたいですね」

来年の確定申告が楽しみです、と自信を見せるユウタロウさん

取材先紹介

CHEESE CAKE CLUB


取材・文保倉勝巳
写真新谷敏司
企画編集株式会社都恋堂