インスタフォロワー数5.2万人!SNSで広がる独特の世界観も人気な「フードショップヒライ」

三重県津市にある久居(ひさい)駅から徒歩約15分の地に、家族経営の小さな総菜店「フードショップヒライ」はあります。日焼けした看板が年季を感じさせる素朴な店構えですが、営業日となると様子は一変。週3日、しかもわずか数時間の営業ということもあり、開店1時間ほど前から徐々にお客が並び始め、50~100人ほどが開店を待ちわびます。お客がこぞって買い求めるのは何なのか、そして繁盛店となった理由は。同店のInstagram(以後、インスタ)フォロワー数5.2万人(2026年6月時点)にした仕掛け人の、同店のスタッフである多田良平さんにお話を聞きました。

200個超の総菜、弁当が開店30分で7割売り切れに!

11時15分頃の開店とともに、行列を成していた100人近くのお客が15人ほどずつ入店。店内は6坪ほどの広さなので、混乱を防ぐため時計と反対周りの一方通行で進みながら、売り場中央の平台に手が伸びていきます。お客の視線の先には、200個超の弁当や総菜、ほかにもフルーツサンドやプリンなどのスイーツ、鶏肉、鮭などの生鮮品が次から次へとカゴに入れられます。

勝手知ったるお客が多く、皆しずしずと進みながら目当ての総菜や弁当を素早く買い物かごに入れてゆく

お客がどんどん商品を買い物かごに入れ、平台には空きスペースがみるみる広がっていきました。「おじいちゃんやおばあちゃんと一緒に食べるので」「同僚に頼まれました」といった理由でまとめ買いをするお客が多数。中には1万円近く購入していた人もいました。さらに「前から食べたかったスイートポテトがついに買えたわー。今日は良い日になりそう!」と満面の笑みで語った人も。

人気商品の『まるごとスイートポテト』は、茨城県産などの良質で大きい国産サツマイモが入荷した時のみつくられる冬季〜春限定の商品で、1日の販売数は約20個。長さ約20センチのサツマイモの半身をまるごとスイートポテトにした大胆なスイーツ

かくして開店からわずか30分ほどで、総菜・弁当の7割近くが売り切れに。第2弾、第3弾が隣接の厨房(ちゅうぼう)から急ピッチで運び込まれます。とにかく想像を超える爆売れ状態!約70年前の創業当初から現在のようなさまざまな総菜が並ぶ店だったのでしょうか。

フードショップヒライの人気を押し上げた仕掛け人・多田良平さん

「いえ、そんなことはありません。この店のルーツは、当店のインスタ出演回数も多い祖父が創業した精肉店です。ちなみに現在扱っているお総菜に、『照り焼きチキン』、『チキンロール』、『チキンハンバーグ』など鶏肉を素材にしたものが多いのは、精肉店時代の仕入れルートが今も生きているからなんです。精肉店としてスタートした後、業務拡大で鮮魚、雑貨、菓子、総菜なども扱うようになり小規模なローカルスーパーとなりましたが、大規模ショッピングモールが近隣に開業し始め、競争を強いられるようになりました」

ローカルスーパーとして営業していた時代の看板が現存。創業約70年の歴史を感じさせる

「週3日、各日2~5時間」の“レア営業”が購買欲を刺激する

どうしたら地域のスーパーとして生き残っていけるのか。切羽詰まった課題から導き出した答えが「おふくろの味」です。そして、営業形態も大幅に改変し、週3日・それぞれ2〜5時間のみの営業となりました。

「10年程前から徐々に商品のラインナップを変えて、お総菜・お弁当を主力として大手競合他社との差別化を図りました。僕の祖母がつくっていたお総菜のレシピをベースに、幅広い世代に受け入れられる、懐かしい “おふくろの味”を前面に出すようにしたんです。また数年前から、僕の妹がフルーツサンドやデザート、季節もののクリスマスケーキをつくり、こちらも好評をいただけるようになりました。総菜・弁当・スイーツが、当店の3本柱です」

弁当コーナー。定番の「味ごはん」は三重県の方言で「炊き込みご飯」の意味。商品は茶色が多くなりがちだが、多田さんいわく「茶色は正義です」

リーズナブルな価格も好評です。例えば、鮭、卵焼き、肉そぼろなどが入り、ボリューム満点で重量感のある「スペシャル弁当」はきっかりワンコインの500円(税込)。他にも200グラム近い「マカロニサラダ」180円(税込)や分厚い「ハムカツ」80円(税込)など、全品がお手頃価格。これで利益は出ているのか?と心配になるほどの値付けです。

卵2個と食パン3枚を使った「玉子サンド」280円(税込)も大人気。一人2パックまでの限定品

フルーツサンド、スイーツも看板商品。イチゴは三重県産、プリンは三重県内の学校給食でも親しまれる大内山牛乳を使用

「お客さまに喜んでいただくため、値段はできるだけ努力して下げています。当店は11時15分頃~16時が営業時間で、お店を開けるのは基本的に週3日間のみ。それでも常に開店から数時間で200~300パックの商品がほぼ完売となるため、かつてに比べれば売り上げは数倍上昇し、相応の利益は出ています。短期営業の理由は、働いている家族の体力を考慮してのことなんです」

基本的に総菜・弁当は日替わりで15種類以上、3日間で40種類以上のラインナップで、調理は実質4名で担当しています。営業日は前夜から仕込みを行い、かつ朝も4時頃から準備を行うため、かなりの重労働。従業員の健康に配慮した結果ですが、「1週間のうち3日間の営業で、数時間しか開いていない店」という“レア感”も、繁盛店になった要因の一つと言えそうです。

つくり手の思いを載せた動画が繁盛店への第一歩に

同店が繁盛店となった最大の理由は、多田さんがプロデュースするSNS戦略です。

「僕は地元津市の高校卒業後、名古屋でIT系の専門学校を卒業し、名古屋や東京のIT企業で働いた後、2016年11月に戻り家業を手伝い始めました。もっと店の認知度を上げたいとの思いから、インスタで情報発信を開始したのは2019年3月からです。最初はもっぱら、ブツ撮りしたお総菜やお弁当などの商品写真をアップしていました」

壁に貼られているのは、すべて多田さんが撮影した三重県内の絶景写真。「ふがまるちゃん」の名で三重県内の風景写真を個人のSNSで発信している。写真を見て懐かしがるお客とコミュニケーションするのも楽しみの一つという

しかし、料理雑誌のような商品写真では想定していたような反響はなく、フォロワーも伸びませんでした。

「そこで、うちの商品がどのように調理されているのか、つくり手はどんな思いを持っているのかを届ければ、お店に対してもっと親近感を持ってもらえるのではないか、と方針を変更することにしたんです」

画像ではなく、ショート動画の方が手間はかかるものの、より伝わりやすくなるはずと考えた多田さん。動画一発目は、当時、人気商品だった「鶏のねぎま串」づくりを担当していた祖父を演者に抜擢。1本ずつ手づくりする様子を約10秒の動画にしてアップしたところ、5万回以上の再生となりました。

フードショップヒライのインスタの中でも転機となった「じいちゃんのねぎま」動画。この投稿のおよそ2カ月後にフォロワー数1万人を突破している

アクシデントを正直に伝える“やらかし動画” で人気がブースト

この動画のヒットで徐々に客足が伸び、手応えを得た多田さんは、ほかの家族にも出演を打診。ここ2~3年で、2人のスタッフがメキメキ頭角を現しました。

一人目は動画で【母親】と紹介される多田さんのお母さんの佐栄子さん。当初はおすすめ品を持って紹介する内容でしたが、ある出来事がきっかけで、キャラクターが変化していきました。それはある日、人気商品のチキンロールを1時間余計に煮込んでしまい、真っ黒にしてしまったというトラブルが発生したときのこと。煮込みすぎたことで通常より味は濃くなりましたが、商品として品質に問題はないため、色が濃くなってしまった理由を佐栄子さんが正直に伝える動画を投稿したところ、これが797万回再生の大バズリ動画になったのです。以降、何らかの間違いやトラブルが発生するたびに、「やらかしました……」と謝罪する一つの投稿スタイルができました。

チキンロールの色が黒くなってしまった理由を正直に伝える動画

「正直に素の姿を伝えることが、より関心を高めるのではないかと考え、そうした動画をつくりました。ほかにも『豚バラ大根に茄子のあんを間違えてかけてしまった』、『いちごのフルーツサンドをつくり過ぎてパンがなくなり、ほかのフルーツサンドがつくれなくなった』などのアクシデントも隠さず発信しています。ご覧になったお客さまがそれらを面白がってくださって、再生回数やいいねの数の増加につながっています。今では母親のやらかしを待っているヒライファンもいます(笑)」

開店前に人気コンテンツの「やらかし動画」を収録。佐栄子さんの“嘘泣き”演技もこなれている

そして二人目は動画で【姪】と紹介される多田さんの妹の娘・櫻子さん。現在まだ5歳ですが、デジタルネイティブ世代なだけに、店の動画を見て「自分も出たい!」と多田さんにアピール。2年ほど前から出演しています。

「もう一回!大きな声で!」と多田さんの演技指導にも熱が入る

「役割はおすすめ商品のアピールです。出始めた3歳の頃は当然今より舌足らずで、セリフがうまく言えませんでしたが、だんだん笑顔でうまくしゃべれるようになってきました。『ドーン!うまい!』という“決めゼリフ”もあります。常連さんの中には、姪の成長を楽しみにしてくださる人もいます。通っている幼稚園の先生や園長先生も来てくださるようになり、客層の拡大にも貢献してくれました(笑)」

「これがヤバイ、これがヤバイ」と言いながら、本日おすすめのフルーツサンドをアピールする櫻子さん。自然な笑顔で歩きながらの演技はとても様になっていた

家族一丸となって“ヒライファン”とお客さまの笑顔を増やす

一方、演じる側は動画出演をどう感じているのでしょうか。

「もちろん最初は恥ずかしかったです。でもそのうち、コメントがたくさん来るようになったり、来店したお客さまに『動画見ましたよ!』なんて言われるようになったりして、面白くなりました。何より、動画の配信でお客さまの数が目に見えて増えたのがうれしいですよね。やりがいがあります」(佐栄子さん)

フードショップヒライのアイドル・櫻子さん

「ん~動画に出るのも、お客さんにカゴを渡すのも楽しい!大きくなってもお店の手伝いをするの。あとゲームのカードを買ってもらえるのもうれしい!」(櫻子さん)

現在は駐車場の整理係も担う【じいちゃん】こと外澄さん。開店してまだ1時間ほど、平日にもかかわらず、20台の駐車スペースは満車に

「動画に出るのはそんなに嫌じゃなかったよ。『おしゃべりクラブ』という近所の友だちとおしゃべりする会をつくっていたくらいで、話をするのが好きなんだ。これからも店のために頑張るよ」(外澄さん)

慣れた手つきで動画撮影・編集を行う多田さん。編集途中、櫻子さんは多田さんのポケットに内緒でメモを入れるかわいいいたずらをしていた

お客の中には、フードショップヒライの“人気キャラたち”とツーショット写真を撮らせてほしい、という人もいるそう。インスタ配信は営業日のみで、1日にライブを含めて3~4回動画をアップ。台本などは特になく、即興で多田さんがセリフや動きを考え、その通りにしゃべり、動いてもらうスタイルです。多田さんは、10秒ほどの動画1本を編集作業も含め、わずか15分ほどで完成させ公開します。使う機材は、スマホと手持ちの小型ライトのみ。

「こんな感じでアップするよ」、「いいんじゃない」。動画配信直前の内容確認も和やか

最後にこれからの展望について伺いました。

「2026年中にインスタのフォロワー数6万人を超えるのが目標です。視聴者さんは沖縄から北海道まで全国にいらっしゃるので、ご遠方のファンを増やすことも大切だと思っています。『いつか三重に行った時に立ち寄ってみたい』と思っていただけたり、『癒される・面白いから見る』というエンタメ要素もあることで、再生回数・いいねの数が多い状態を維持でき、話題を呼ぶと考えています。

そういえば、過去、津市出身で現在アメリカ在住のお客さまがインスタをご覧になって来てくださったこともありましたね。そして一番の目標は、一人でも多くのお客さまにお越しいただき、うちの惣菜・弁当・スイーツで笑顔になっていただくこと……と言いたいところですが、家族経営なので1人でも欠けたら営業できません。みんなで楽しく営業できる今の状況を維持していきたいですね。これからも家族一丸となって、面白い・おいしい惣菜店を目指します」

取材先紹介

フードショップヒライ


取材・文保倉勝巳
写真新谷敏司
企画編集株式会社都恋堂