飲食店にとって、お客さん、とりわけ「おなじみ」の存在はとても重要です。
来店してくれたお客さんを常連にさせる「通いたくなるお店」は、一体どんなお店なのでしょうか。また、実際に「通いたくなるお店」を作っている人のお店には、どんな思いや工夫が詰まっているのでしょうか。
汁なし担々麺専門店「タンタンタイガー」店長の東山広樹さんは大の飲食店好き。中学生のうちから食べ歩きを始め、現在でもたくさんのお店を巡っています。
数々のお店を食べ歩き、自らも飲食店を経営する東山さんにとっての「通いたくなるお店」とは、どんなお店なのでしょうか。また、お客さんを“一見さん”で終わらせず、長く通い続けてくれる「おなじみ」にするために、どんな工夫をしてきたのでしょうか。
今回は東山さん自ら筆を執り、自身の「通いたくなるお店」と、「おなじみ」を増やすためにタンタンタイガーで意識していることを、余すことなく書きつづってくれました。
こんにちは! 汁なし担々麺専門店「タンタンタイガー」店長の東山広樹と申します。
タンタンタイガーは2016年夏に開業しまして、現在2店舗展開しております。
自分でお店を経営するだけでなく、東京を始め、全国を巡ってはさまざまなお店を食べ歩いているくらい飲食店が大好きです!
食べ歩きを始めたのは中学二年生の時から。これまで通ってきたお店の数は想像もつきませんが、少なくとも2019年は1年間だけで初訪問店が151店舗ありました。年間平均100件以上は新規開拓をしております。
今回は、飲食店へよく足を運ぶお客の視点と、飲食店を経営している視点、両方の視点から、「私が通いたくなるお店とはどんなお店か?」についてお話しさせていただきます!
自分が好きな飲食店の要素を言語化してみる
これまで本当にたくさんのお店へ足を運んできました。何度も通っていたり、特に印象に残っていたりするくらい大好きなお店にはいくつかの共通点があります。
- 〈1つ目〉シンプルで力強い、「一点突破」のコンセプトがある
- 〈2つ目〉メニューの1つ1つに哲学がある
- 〈3つ目〉活気がある
それぞれについてお話していきたいと思います。
〈1つ目〉シンプルで力強い、「一点突破」のコンセプトがある
ここ3~4年の間に、何かに特化した「○○専門店」がかなり増えました。
これは、「シンプルで力強いコンセプト」を持っていて、メニュー数も絞っているお店のこと。お客さんに対して、「これがおすすめ」と、選択肢を絞って分かりやすく提示していることが人気を博している要因だと考えています。
「ラーメン二郎」は専門店型飲食店の元祖
例えば、かの有名な「ラーメン二郎」。私は、ラーメン二郎こそ専門店型飲食店の元祖なのでは? と考えています。
ラーメン二郎は1968年に創業。その頃、ラーメンを提供している飲食店のほとんどが中華料理店でした。ラーメンをメインで提供しているお店でも、醤油ラーメンの他に味噌ラーメン、塩ラーメン、炒飯、餃子など、メニューの種類がとても豊富だったものです。
しかし、ラーメン二郎のメニューは「ラーメン」のみ。
あとは、豚(チャーシュー)入り、大盛りなど、ラーメンのトッピング的な要素としてのメニューしかありませんでした。ラーメン二郎が自ら名乗っているわけではありませんが、「ラーメン専門店」としての先駆けであったと思います。
「海苔弁」を磨き上げ、高級弁当に進化させた専門店
また、他にも好例としてご紹介したいお店がありまして、それが「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」。
こちらは、「のり弁専門店」として一点突破されているお店です。
「のり弁」といえば弁当店において「一番安い弁当」という位置づけで販売されていることがほとんど。安価なお弁当として知られる存在を、銀座にある百貨店「GINZA SIX」で売られるような高級なお弁当として進化させています。
誰もが知っていて、数多くの人が食べたことがあるものを、こだわり抜いて磨き上げることで、「これは気になる! 食べてみたい!」と思わせるコンセプトが素晴らしいと感じました。
刷毛じょうゆ 海苔弁山登り
GINZA SIX店
東京都中央区銀座6–10–1
TEL:03-6263-9980
公式HP:https://noriben-yamanobori.co.jp/
〈2つ目〉メニューの1つ1つに哲学がある
これは、私が飲食店選びをする時に、かなり大事にしているポイント。
超一般的な定番メニューであっても、既製品をただ使うのではなく、お店の人の「この料理は、こうして作るのが一番おいしい!」という哲学のもと、工夫を凝らした料理を出してくれるようなお店です。
ド定番のフライドポテトを見直し、ブラッシュアップ
例えば、蔵前にある「Comptoir Coin(コントワールクアン)」というお店のフライドポテト。
ここのフライドポテトは、高温で短時間揚げてじゃがいもの表面を揚げ固めた後、ごくごく低温で30分ほどの時間をかけて内部に火を通しながら二度、揚げています。こちらを食べた時、あまりの美味しさに感動しました……。
フライドポテトはどこにでもある定番メニューですが、それを根本から見直し、フライドポテトの本質的な美味しさを追求して、ブラッシュアップしている姿勢が凄い。
Comptoir Coin(コントワールクアン)
東京都台東区蔵前4-8-9 島宅 1F
Instagram:@comptoir.coin
繁盛店の定番メニューも探求の上に成り立っている
あとは上野「大統領」のもつ煮です。
人気のもつ焼き店で、いつも繁盛しているお店。もつ煮があまりに美味しかったので、美味しさの秘訣を伺ったところ、馬のもつを使用されているとのことでした。さまざまなもつを比較した結果、馬にたどり着いたようです。
もつ煮は居酒屋の定番メニューですが、素材を見直すことで、新たな感動を与える逸品に仕上がっていました。こういう探究心のあるお店に強く惹かれます。
もつ焼 大統領 本店
東京都台東区上野6-10-14
TEL:03-3832-5622
〈3つ目〉活気がある
こちらは、ディナータイムでお酒を飲むお店で特に重視しているポイント。
お酒を飲むお店では滞在時間が長くなるため、より雰囲気が大事になってきます。私の場合、お店の人から気持ちのいい声掛けがあり、お客さんとのコミュニケーション・意志疎通ができていて、お店とお客さんが一体になって良い雰囲気を創り上げているお店に強く心惹かれます。
お店とお客さんの在り方に衝撃を受けた鮨店
新井薬師にある「大國鮨」というお店がその典型でした。
お店とお客さんの在り方、というものに衝撃を受けたお店です。
大将が鮨を提供したら、お客さんが料理に対して全力で喜び、真剣に味わう。そして、お客さんが鮨について褒める、そして大将が鮨に対して解説することもあれば、冗談を言って笑わせてくれることもある。さらに、お客さん同士で鮨の美味しさについて盛り上がる。鮨を起点にして、お店の方々、お客さんがひとつになって「団欒」を創り上げていたのです。
食事をするのに、これ以上ない素晴らしい空間でした。
お店の雰囲気も含めて、東京の鮨店でいちばん感激したといってもいいくらいです。こういったポイントは食べログなどの点数でははかれないところだと思います。
大國鮨
東京都中野区上高田5-46-8 石川荘
TEL:03-3386-1060
公式HP:東京都中野区新井薬師の鮨処 大國鮨
「フランクさ」でお客さんの心をつかむ
「だらんま」(神田店、浅草店ともに閉業)というラーメン店は、タンタンタイガーの接客に影響を与えたお店です。
店主がとてもフランクで、お店の前を通りかかった常連さんが、わざわざ窓越しで店主に話しかけて冗談を言うくらい店主とお客さんの関係性ができあがっていました。
店主はお客さんによってはあえて敬語で話さないこともありますが、お客さん一人ひとりの好みを覚えていたり、「美味しい!」というコメントに対してちゃんと喜んだり、接客において大事なポイントをしっかり押さえられていました。
立地の悪い(三等立地)お店ならば、いかにリピーター、地元のお客さんの心を掴むかが大事。だらんまは、まさに地元のお客さんに愛されていました。
自身の経営する「タンタンタイガー」の話
1~3全てのポイントを、自分のお店「タンタンタイガー」でも意識しています。
タンタンタイガーの創業時のコンセプトや設計
〈1〉「一点突破」のコンセプト → 「汁なし担々麺専門店」
タンタンタイガーは「汁なし担々麺専門店」です。これはお店を始めるときに「絶対これ!」と決めていたコンセプトでした。
自分の大好きなラーメンというジャンルであったこと、シンプルで力強いコンセプト、そしてお店を始めた当初はまだ同じコンセプトのお店が東京になかったこと(自分調べ)が理由です。
ただ、お店を始めた当初は、周りから「汁あり担々麺や、醤油ラーメンもメニューに入れなくていいの?」など心配の声がありました。
しかし実際、私としては、メニューを一点突破に絞ることで、
- レシピ開発にかける時間が物理的に増える
- お客さんにはっきりと目的意識を持って来店してもらいやすい
- メニューを絞ることによって最適なオペレーションが構築できる
などメリットが多々あると感じていました。
そのため、あえてこのコンセプトで突き進みましたが、結果もついてきていると感じています。最近は「○○専門店」を謳うお店も増えてきたので、当時の自分の考えは間違いじゃなかったのかな、とも実感しています。
メニューに悩んでいる飲食店経営者の方は、メニューを増やすのではなく「減らす」ことも視野に入れてみてもいいのかもしれません。
〈2〉メニューの哲学 → こだわりの汁なし担々麺
タンタンタイガーオープンにあたり、さまざまなお店を食べ歩いたのはもちろん、試作メニューを全てExcelで管理し、試作数が1,000を超えてから、3カ月間試食会を開催。計200人を超える方々に試食していただき、その意見をもとに改良しました。
参考までに、私がどのように試食会を行っていたかを紹介します。
- 試食会に来ていただく方は、面識のない方。その方がシビアな意見が伺えると考えたからです
- そのため、まずは友人や、友人の友人に「2~10人くらいの規模感で人を集めてもらって、汁なし担々麺の試食会を開催させてほしい」と連絡しました
- その後は、試食会に参加していただいた方に同様のお願いをして、どんどん試食会を開催
- 試食会の際には、趣旨を説明の上、キッチンをお借りして、お皿からカトラリー類、トッピング類まで全て出店予定のものに合わせて提供しました。毎回、食材や寸胴鍋といった調理器具類、お皿なども含めて30kg近い荷物を運んでいて、とても大変だった思い出があります
非常に大変なプロセスでしたが、これがタンタンタイガーの商品開発のブレイクスルーポイントだったと思います。
試食会によって、自分では見落としていたポイント、全く思いもつかなかった発想を得ることができました。
例えば、タンタンタイガーのトッピングには「トマト」があるのですが、これは試食会時の意見から生まれたものです。私自身、担々麺とトマトを合わせるという発想は全くなかったのですが、試してみたところ実に相性が良かった。
試食会の開催は、飲食店開業希望者の方々にはぜひオススメしたい手法です。
なお、一点突破型の専門飲食店で長く愛される味を作り上げるには、「本質を追求する」ということが大事だと捉えています。
タンタンタイガーの場合、ラーメン業態なので、「麺が一番大事」だと考えておりました。
というのは、日本人はとにかく麺自体の味にこだわっているからです。
例えば、日本古来の麺料理である蕎麦は、麺を茹で締めして、つゆにつけて食べるシンプルな料理で、麺の味を味わうことにとにかくフォーカスしています。
開業を決めた瞬間から、自分自身も製麺を勉強&実践しましたし、とにかくたくさんの製麺所から麺を取り寄せて、比較を続けました。
その中でブレイクスルーポイントだったのが、開業時から今も麺を卸していただいている松本製麺所との出会い。
松本製麺所は、私の要望に応えた完全オリジナル麺を特注で作ってくれたのですが、その麺が圧倒的に美味しかったのです……私の理想通りの麺どころか、“理想を超えた麺”を作ってくださいました。
つまり、麺料理の本質とは「麺の美味さ」であり、その本質を追求するために松本製麺所という技術力のあるパートナーに巡り合え、納得がいく麺をとことん追求できたことが、「長く愛される」メニューでお店を続けてこられたポイントだと感じています。
実際、タンタンタイガーの担々麺を召し上がったお客さまからの誉め言葉で一番多いのが「麺がモチモチして美味しい」というものです。
長く愛されるお店づくり
〈3〉活気 → 一言会話を交わす仕組み
タンタンタイガーでは、辛さ・シビレがそれぞれ5段階でかなり細かく選べる仕組みになっています。そして券売機で食券を買ってもらった後に、「辛さとシビれはどうしますか?」と直接お客さんにお伺いする仕組みにしました。来てくださったお客さまと必ず一言交わすためです。
「美味しさ」というのは“舌”で感じるものではなく、正確には“脳”で感じるもの。例えば、同じ料理を食べるシチュエーションでも、家族の団欒の中で食べる料理が美味しいと感じるのは、そういう理由です。
それを飲食店に当てはめて考えた時に、気持ちの良い接客を受けたり、心を通わせた店員さんがいるお店で料理を食べた方が美味しいと感じるな、と気づきました。自分としてはそういった心の触れ合いがあるお店が「いいお店」だと思っています。
人と人とが心を通わせるにはさまざまな方法がありますが、その一つに「言葉を交わす」というものがあります。言葉を交わしたことで、さらに仲良くなれるきっかけが生まれるかもしれません。
なので、もしこの仕組み(辛さとシビれをカスタムできる・券売機で指定いただくのではなく直接お伺いする)がオペレーションを圧迫してしまうとしても、お客さまにより「美味しい」と感じてもらえるシチュエーション作りの観点から、外せない要素だと考えました。
辛さとシビれをカスタムできるのも、オペレーションの手間はかかります。しかし、お客さまの立場に立った時には「自分でオーダーメイドができる」という楽しみが生まれます。
また、「前食べた時は『中』だったけど、今回は『中強め』にしてみよう」など、セルフメイドできることにより、一つのメニューしかなくても新たな味わいを感じることができて、「飽きにくさ」につながるとも考えました。
そのためにもオペレーションコストを割く価値があると今でも実感しています。
そのほか、お客さまのご来店時に、必ず体と顔を向けて「いらっしゃいませ」、ご退店時にはお見送りをするお気持ちで、ドアを出られる寸前まで体と顔を向けて「ありがとうございます。またよろしくお願いします」と声を掛けています。
日々のオペレーションの中で「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」は、いともたやすく記号化してしまいます。しかしそれは、やはり人と人との「会話」に他ならない。そのため、お客さま一人一人と会話する気持ちで全てのお声掛けを徹底するように心がけています。
地域密着型、地元のお客さまを大事にする姿勢を続けてきて、おかげさまでタンタンタイガーはリピーターがとても多く、5年半お店をやっていますが、開店時から通い続けてくださっているお客さまもたくさんいらっしゃいます。
タンタンタイガー、今後の展望
タンタンタイガーは先述のとおり「汁なし担々麺専門店」を貫いてきましたが、お客さまから「タンタンタイガーの汁あり担々麺を食べてみたい!」「東山さんの作る麻婆豆腐を食べてみたい!」とのお声をいただくことが多々あります。
そういったお客さまへの恩返し的な意味合いを込めて、1日限定イベントのような形で「汁あり担々麺Day」などをやってみたいと考えています。その結果お客さまにとって良い思い出になればうれしいですし、料理人として挑戦してみたい気持ちもあります。
おなじみのお客さまとの関係性の継続、新たな関係性づくりにも生きてくるかもしれません。
【著者】
東山広樹
東京、蔵前&中野の汁なし担々麺専門店『タンタンタイガー』の店長。子供の頃から料理好きで、日々料理について色々調べたり、作ったりしている。
東京農業大学卒業、新卒で株式会社パソナに入社したが、料理についてもっと勉強するために食の総合出版社、株式会社柴田書店へ転職。そこで料理について学べば学ぶほど、「料理人になりたい!」という夢が諦めきれなくなり夢を叶えるために2015年8月に株式会社柴田書店を退職。
2016年「株式会社TOKYO OIL SHOCK」を設立。そして“日本一の汁なし担々麺専門店”を目指し「タンタンタイガー」を開業。
現在は、タンタンタイガーの店長の傍ら、飲食店の開業支援や、レシピ開発に携わる。
調理科学ブログ:Cooking Maniac
Twitter:東山 広樹(タンタンタイガー店主) (@h_gashiyama) | Twitter
【お店紹介】
- タンタンタイガー 蔵前店
東京都台東区鳥越2-2-1
TEL:090-4450-2986 - タンタンタイガー 中野店
東京都中野区新井1-23-22 ヒグチビルII 101号
TEL:090-4439-9151
編集:はてな編集部