具だくさんの贅沢おにぎりと赤味噌を使ったしじみ汁を提供するおにぎり専門店「一汁おにぎり 一粒万福」。開業から約1年ほどですが、地元の主婦層を中心に幅広い世代が訪れる人気店です。SNSを活用したファンづくりや、お客さんへの声掛けの工夫など、お店づくりの背景を伺いました。
東京・西小山にある「一汁おにぎり 一粒万福」は、具材をたっぷり入れた「贅沢おにぎり」を提供するおにぎり専門店です。オーナーの早川由華さんはサラリーマン生活から一転、飲食店開業を決意してから約9カ月でお店をオープン。「二種盛り」を看板メニューに据え、Instagramでオープン前からファンづくりを行いました。さらに、LINE公式アカウントを活用してテイクアウトの機会損失を減らすなどの工夫で、安定的な売り上げにつなげています。
「おにぎりを通して日本の文化や心を伝えたい」と話す早川さんに、お店づくりへの想いを聞きました。
- 早川由華さん
-
株式会社一粒万福 代表取締役
愛知県津島市生まれ。大学卒業後、大手メーカーに入社し法人営業として2年半勤務。26歳で未経験ながら飲食業界に参入し、都内おにぎり店での半年間の修業を経て東京・西小山に自身の店「一汁おにぎり 一粒万福」を開業する。
- 具だくさんの贅沢おにぎりが自慢。「一汁おにぎり 一粒万福」はどんなお店なのか
- 「一汁おにぎり 一粒万福」の立ち上げ当時について
- 「一汁おにぎり 一粒万福」の集客方法
- 「一汁おにぎり 一粒万福」の効率的にお店を営業するコツ
- 「一汁おにぎり 一粒万福」のリピーターづくり
- 国内だけでなく、アメリカへの出店も
具だくさんの贅沢おにぎりが自慢。「一汁おにぎり 一粒万福」はどんなお店なのか
――「一汁おにぎり 一粒万福」はどのようなお店ですか?特徴を教えてください。
早川さん:握りたての「贅沢おにぎり」を提供するおにぎり専門店です。2023年10月、東京・西小山にオープンしました。メニューは350円~650円のおにぎり単品のほか、2個または3個のおにぎりとしじみ汁、自家製塩麹のお新香が付く「一汁おにぎりセット」をご用意しています。おにぎりは、1つ160グラムほど。食べごたえや満足感を楽しんでいただけるようにしました。
おにぎりの具材は21種類あり、お好みで具材を自由に組み合わせることもできます。具材が多くて選べないというお客さまもいらっしゃるので、当店では2つの具材を合わせた「二種盛り」をおすすめしていますね。人気の具材は「さけの親子」や「お月見そぼろ」などです。ランキングを一覧にしてメニュー表にし、ご注文の時の参考にしていただいています。
お米は京都「八代目儀兵衛」のオリジナルブレンド米を使用しています。粒立ちの良さや甘み、表面の滑らかさだけでなく、冷めても固くなりにくいように配合してもらっています。セットのお味噌汁は日高昆布でだしを取った赤味噌のしじみ汁。たくあんと、自家製の塩麹に漬けたきゅうりをお付けしています。
その他、夏限定で「梅みつソーダ」「柚子みつソーダ」などのさっぱりしたドリンクもご提供していました。
――お客さんはどのような方が多いですか? 客層や年齢層などを教えてください。
早川さん:メインのお客さまは30代くらいの女性です。全体を見ると老若男女問わず幅広い方がいらっしゃいますが、曜日や時間帯によってばらつきがありますね。お昼は近所にお住まいの方、夕方はお子さん連れのお母さん、夜はサラリーマンの方、週末は遠方からの目的来店の方や外国人の方、といった感じでしょうか。
イートインだけでなく、テイクアウトやデリバリーも行っていて、それぞれ3割ずつくらいの売上比率になっています。
――お店は東急目黒線の西小山駅が最寄りで、武蔵小山駅からも徒歩10分の距離です。この場所を選んだ決め手はどんな点でしたか?
早川さん:もともと「おにぎりに合う温かみのある街」を探していて。世田谷区や大田区も候補に入れていましたが、たまたまタイミングよくこの立地に巡り合いました。西小山も武蔵小山も駅前に商店街があり、ファミリー層が多いんです。メインターゲットを30代~40代女性と決め、生活の延長線上で通いやすいようにと店づくりを考えていきました。
「一汁おにぎり 一粒万福」の立ち上げ当時について
――早川さんは異業種から飲食業に入られましたが、どのような経緯でお店を立ち上げられたのでしょうか。
早川さん:私は愛知県出身で、祖父母が米農家をやっています。大学進学を機に上京してからは、バックパッカーとして休みのたびに海外を巡っていました。日頃から日本で暮らす息苦しさみたいなものを感じていたこともあり、海外での生活に夢中になっていたのだと思います。また、「自分の事業を持ちたい」と起業セミナーにも通いましたが、当時はまだ漠然としていて一歩を踏み出す勇気がなかったんですね。
卒業後はキヤノンに入社し、法人営業を2年半ほど経験しました。ただ、起業への想いはずっとありましたね。その後、ヨガインストラクターの資格を取って個人事業主になりましたが、それ1本で食べていくのはなかなか難しかったです。
そんな中でコロナ禍になり、海外に行けなくなったことであらためて日本に目を向けるようになりました。歴史や食文化を学ぶ中で「日本文化の良さを伝えられるような事業をしたい」と思うようになったんです。
――ご実家が米農家というところにも関係してくるのでしょうか。
早川さん:そうですね。祖父母を通して1次産業の大変さを見てきました。農家を継ぐことも考えましたが、私は日本の文化や和の心を、おにぎりを通して手から手へ伝えたいと考えました。おにぎり専門店を立ち上げることで、間接的でも農家さんへの力になれたらいいなとも思っています。
――起業を決意してから約9カ月で開業されています。スピード感がすごいですよね。調理技術や経営などはどのように身につけましたか?
早川さん:この頃には今までやっていた仕事をすべて辞めていたので後がなかったんです。修業は半年間と決め、すぐに都内のおにぎり店でアルバイトさせてもらいました。
とはいえ、これまで飲食店で働いた経験もなかったので、何も分からなくて。最初はトッピングのネギを切るのにも苦労していました。お店では現場での調理指導のみで、経営面は独学で学びました。飲食関連のSNSコミュニティー、オンラインサロンなどに入って得たことが大きいですね。すぐに生かせるアイデアがたくさんありました。自分ひとりでは難しかったと思います。
「一汁おにぎり 一粒万福」の集客方法
――具体的にはどんなアイデアをお店づくりに生かしたのでしょうか。立ち上げ当初、集客に工夫されたことを教えてください。
早川さん:開業の3カ月前にInstagramを開設し、オープン日までのカウントダウンを始めました。内装の進み具合や食材へのこだわりを毎日投稿し、週に1度はインスタライブも行ったことで、オープン直前には1,500人ほどになりました。また、関係者へのお披露目とは別に、フォロワーさん限定の先行試食会も開催しましたね。カウンター9席の規模で3回転実施しました。
さらに、SNSを見ない世代向けに、お店から2㎞圏内でチラシを配りました。別々の日付で使えるクーポンを複数付けて、何度も来店していただけるようにしました。
――LINE公式アカウントは2024年の夏頃に開設されたと伺いました。どのように活用されているのでしょうか。
早川さん:以前はおにぎりのテイクアウト予約を電話とInstagramのDMで受け付けており、それを簡略化したいと思い導入しました。お名前や受け取り日時、希望メニューなどをフォーマット化していたんですが、営業中だとDMに気付くのが遅くなってしまうことが多くて。お客さまの「予約したい」の熱が冷めないうちに獲得するには、LINE公式アカウントの方が適切だと考えました。
リッチメニューの「予約」ボタンを押すと自動返信でフォーマットが送られるので、必要事項を記入して返信いただくようにしています。予約のやりとりがスムーズになり、機会損失が減ったと感じています。
その他、友だち追加してくださった方への割引クーポンや、新メニューや催事出店といった最新情報を週に1度程度メッセージで配信しています。開封率は70%以上です。
2024年9月には2週間にわたり新宿高島屋に催事出店をし、西小山本店はお休みをしていたのですが、LINE公式アカウントからの告知のおかげもあり、たくさんの方が来店してくださいました。西小山本店の再開時も、ご近所の常連さんが「待っていたよ」と言ってくださってうれしかったですね。
一汁おにぎり 一粒万福のLINE公式アカウント活用方法をさらに知りたいなら
LINEヤフー for Businessでは、一汁おにぎり 一粒万福のLINE公式アカウント活用方法をさらに詳しく紹介しています。活用シーンや友だちの集め方といった店づくりをする上でも大事なポイントをはじめ、運用人数や利用機能など、これから運用したい人に向けて参考になる情報がまとまっています。
詳しくは以下のページをどうぞ!
「一汁おにぎり 一粒万福」の効率的にお店を営業するコツ
―― 開業時と現在とでやり方を変えた部分はありますか?
早川さん:開業当初は私ひとりだったので、ランチ営業のみだったんです。人材が確保できたこともあり、翌2024年から夜営業やデリバリーをスタートさせ、販路を拡大していきました。次に取り掛かったのが客単価を上げることで、二種盛りの提案をするようにしました。
当初から口頭ではご案内していましたが、組み合わせに迷ってしまい決められないというお客さまが多かったんです。人気ランキングがあれば参考になるかな、注文ハードルが下がるかなと考えてメニュー表を用意したところ、二種盛りがお店の看板になりました。現在の客単価は1,300円~1,500円ほどで、おにぎり店としては高い方ではないかと思います。
――注文してから提供までの時間も早いですよね。効率よく店舗運営をするために意識していることを教えてください。
早川さん:カウンター9席と狭いお店なので、小規模のラーメン店を参考に回転率を高めることを意識しています。お客さまが数人来られたらお店の外でもメニューをお渡しして、店内に入る時にはすぐに注文していただけるようにしています。
また、ショーケース内はよく出る具材を中央に配置し、スムーズに調理できるようにしています。おにぎりの完成まではおよそ2~3分。指導をして私以外の握り手も増やしていきました。イートインの場合、滞在時間は平均で20分程度。毎日200~400個ほどのおにぎりが出ます。
――セットのみそ汁を赤味噌のしじみ汁にしたのも理由があるのでしょうか。
早川さん:これもオペレーションを簡素化する工夫のひとつですね。おにぎり店では豚汁を出す店が多いですが、野菜や肉のカットなど仕込みの工数が増えるので、別の具材を考えました。
また、私が愛知県出身なので赤味噌のおいしさを伝えたかったこともあります。しじみなら赤味噌に合うし、砂抜き済みのものを使えば効率よく作れます。ご家庭ではなかなか登場しないお味噌汁だと思うので、お客さまからも好評ですね。
――取り扱っている具材も豊富です。食品ロスなどにはどう対応していますか?
早川さん:毎日3~4種類、少なくなってきた具材から仕込み、その場で冷凍しています。どの具材も基本的に冷凍できるので、ロスがほとんど出ないんです。
「一汁おにぎり 一粒万福」のリピーターづくり
――常連のお客さんをつくるために工夫したことはありますか?
早川さん:常連さんをつくるためというよりは、お客さまとの距離感を大切にしたいと考えています。例えば、お客さまへのお声がけですね。一般的な飲食店では、料理の提供時に「ごゆっくりどうぞ」と言いますが、当店では「お楽しみください」とお伝えします。
というのも、店内が狭いですし、回転が早いのでそもそもゆっくりできないですから(笑)。なので「おにぎりを通して福や幸せを感じてほしい」という意味を込めてこのような言葉に変えました。お見送りの際は「ありがとうございました」ではなく「良い1日を」とお伝えします。
――開業する前から決めていたのですか?
早川さん:はい。私にとっておにぎりは心を伝える手段なんです。できたての温かいおにぎりを食べて幸せを感じてもらいたい。それに、私たちスタッフもこの方が楽しいので。必要以上にかしこまらず、お客さまとスタッフが気持ちよくコミュニケーションできたらいいなと思っています。
国内だけでなく、アメリカへの出店も
――今後はどのようなお店にしていきたいですか?展望をお聞かせください。
早川さん:国内外に店舗展開をしていきたいと考えています。店舗展開は起業を目指していたころから視野に入れていたので。もうすでに何人かFC加盟に名乗りを挙げてくださっていて、「まだ仕組み化できていないから」と半年ほど待っていただいていたんです。ようやく整ったので、来年の京都店オープンなど少しずつ進めていく予定です。
――海外にも出店されるのですね。
早川さん:ニューヨークやボストンへの出店を予定しています。アメリカ在住の方から「おにぎり店をやりたいから教えてくれ」とInstagramのDMをいただいたのがきっかけです。一緒にやろうということになり、アメリカ本部としてFC展開をしていただく予定です。
心を伝えるおにぎりで、少しずつ日本の文化を広めていきたいです。
気になるあのお店の集客成功事例
【取材先】
一汁おにぎり 一粒万福
住所:東京都品川区小山6-6-14
Instagram: 一汁おにぎり 一粒万福Instagram
取材・文/田窪 綾
調理師免許を持つフリーライター。惣菜店やレストランで8年ほど勤務経験あり。食分野を中心に、Webや雑誌で取材やインタビュー記事作成、レシピ提案などを行っている。
撮影:関口佳代
編集:はてな編集部