お酒を中心とした食べ歩きに関する投稿が人気を集め、Twitterのフォロワー数は約7万人(2022年6月現在)。自分で酒の肴を作るのも大好きで、2021年には著書『自宅が10分で居酒屋に! 魔女っこれいの絶品おつまみレシピ』(扶桑社)を上梓。そんな酒飲みツイッタラー「魔女っこれい」さんが愛する酒場とは? 足立区住人の魔女っこれいさんが最近、よく訪れるという北千住駅周辺を一緒に飲み歩きながら、話を伺いました。
私にとって北千住は町全体が一つの居酒屋
ここは足立区北千住、東京でも有数の人気飲みスポットです。昔ながらの下町の飲み屋街という風情を残しつつ、最近は人気番組『月曜から夜ふかし』(日本テレビ)で取り上げられた影響もあり、若者からの支持も集めています。
本日、インタビューをする魔女っこれいさんとは、北千住駅前で待ち合わせをしているのですが、一体どこに……?
お、……あれはもしかして!
「あの……魔女っこれいさんですか?」
「(こちらに気付いて)……あ、はい! 私が魔女っこれいです!」
というわけで無事に合流できました。今日は魔女っこれいさんのおすすめの居酒屋をハシゴしながら話を伺いたいと思います。
――魔女っこれいさんは足立区にお住まいなんですよね。北千住にはよく飲みに来られるんですか?
魔女っこれい
はい。実は昨日も飲みに来ました!
北千住 ロッソビアンコ お通しビュッフェが再開してた!最高〜!!日替わりイタリアンおばんざいがお皿に盛り放題480円〜私が選んだ中皿は680円。昨日はホタルイカ、鰹、ムール貝、海老、ローストビーフがあった!野菜もたくさん摂れて、ライス、デザートもあり。どれも美味しくてワインが進んじゃうわ pic.twitter.com/6V4k3uhRkS
— 魔女っこれい (@majyokkorei) 2022年5月12日
――あ、そうだったんですね(笑)。行きつけのお店はどれくらいあるんですか……?
魔女っこれい
そうですね……難しいな。北千住ってお店がたくさんあって1日に1軒じゃ終われないんですよね。お店に飲みに行くというより、北千住に飲みに行くみたいな。
――「北千住」という居酒屋。
魔女っこれい
そういう感じです。お気に入りのお店はもちろんありますけど、どこを贔屓にしているというわけではなくて。新しいお店にチャレンジしてみようって思える場所なんです、北千住は。
のんべえにとって古い土壁やボロボロののれんは信頼の証
そうこう話しているうちに1軒目に到着しました。れいさんお気に入りのお店の一つ、「大衆居酒蔵 幸楽」さんです。
のれんをくぐると、メニューの多さに圧倒されます。ザ・大衆居酒屋!
ドリンクメニューが書かれた黄色い短冊が、光り輝くように主張してきます。
ホワイトボードの魚介系メニューも目を引きます。こちらのお店、足立市場の新鮮な魚を仕入れているそうで、足立区民から長年愛されるお店です。
店内をキョロキョロ見渡しているうちに、1杯目のお酒が運ばれてきました。それでは……
乾杯〜〜〜〜!!!!
そこそこ明るい時間からの1杯、背徳感がたまりません……。
れいさんが1杯目に選んだのが店の名を冠した「幸楽ボール」。ウイスキーを飲みたい、されど高くて買えない、そんなジレンマを抱えた昔の人々が焼酎を黄色く着色してウイスキーに仕立てたのが、下町の「ハイボール」文化の始まりだそうです。
魔女っこれい
幸楽にきたら、まずはこれを頼みます。爽やかな甘味で飲みやすいんですよ。
――幸楽さんのおすすめポイントは?
魔女っこれい
昼間から開いていること(笑)。あとメニューが多いので、自分の今の気分に合ったおつまみと必ず出合えるんです。
――確かにすごい数のメニューですね。
魔女っこれい
ぱっと壁を見たときに、お品書きがバーって貼ってあると気分が上がります。それに赤文字の値段がお財布に優しい価格設定なので、いくつも頼んでみたくなっちゃう。種類が多いと、好みの違いもカバーしてくれるので、お友達を連れてきやすい。「安定の幸楽」って言われてますね(笑)。
――ちなみに、れいさんは普段、どれくらい飲み歩きをされているんですか?
魔女っこれい
予定がなければ、ほぼ毎日したい。だいたい1日に3軒くらいはハシゴしています。
――すごいなあ。Twitterでも日々、飲みに行かれたお店の写真を投稿されていますよね。
魔女っこれい
コロナ禍に入ってからは足立区近辺で飲むことが増えましたが、以前はいろいろな地域に遠征してましたね。適当に電車やバスに乗って、この辺良さそうだなあ……と思ったら降りて、Googleマップで居酒屋を検索するんです。事前に調べたり、SNSで情報を教えてもらって参考にしたりすることもありますが、そのパターンが一番多いですね。
――探検みたいですね(笑)。知らない地域の初めてのお店とか怖くないですか?
魔女っこれい
扉を開ける前は緊張感あります。でも、すごくいい居酒屋に出合えたときは感動しますよ。なにか、まだ名前のない星を見つけたみたいな……。
――れいさんはご自宅で料理をされたり、飲まれたりしている印象があるんですけど、外飲みならではの魅力ってありますか?
魔女っこれい
居酒屋は天井が高くて、ふわっと空気の抜けるような開放感があって、人の話し声があちらこちらから聞こえてきて楽しそうで……店員さんの元気な接客に勇気をもらえて、おいしい料理とお酒が飲めて後片付けもしなくていい!
――もはや「空間」として居酒屋がお好きなんですね(笑)。あふれる居酒屋愛。
魔女っこれい
そうですね。振り返ってみれば、私の母も居酒屋が大好きで、子どもの頃、よく連れて行ってもらっていたんですよね。地元の居酒屋なんですけど、カウンターの隅っこで、店主のお孫さんが宿題をしていて……。
――うわー、すごいほっこりする。
魔女っこれい
常連客の方が「●●君、大きくなったね」とか「学校では何が流行ってるの?」なんてたわいもない話をしながらお酒を飲むのが当たり前の光景。その雰囲気が好きで、母に連れて行ってもらうのが毎回、楽しみだったんです。だから、私はお酒を好きになる前に、居酒屋を好きになったんですよね。
――それが原体験なんですね。
魔女っこれい
あと私の居酒屋の好みで言えば、土でできた壁が好きで。
――壁、ですか?
魔女っこれい
塗り直しができないデコボコした砂の壁みたいなものに歴史を感じます。あとは、ボロボロになっているのれん。お客さんがいっぱい通ったんだろうな、と想像させてくれるお店は、私ものれんをくぐってみたくなります。
――この店は間違いないだろう、と。
魔女っこれい
あと看板。看板に自分の好きな日本酒の銘柄や酒蔵の名前が入っていると引かれますね。「会津娘」とか。それに店名のフォントが力強い、習字のタッチになってると行きたいなって思う。ここは酒が濃そうって(笑)。
ネットでなんでも調べられる時代、居酒屋に求められるものとは?
続いてやってきたお店は「千住の永見」。幸楽の向かいにあるので、徒歩1秒。北千住は名店が密集しています。このビジュアルはきっと……酒が濃いぞ!
店内はスーツの男女でごった返しています。一人飲みも結構多いですね。
店内は何から何まで渋いビジュアルで、長年、街の人から親しまれてきた歴史を感じます。
そして、やっぱり恒例の儀式が……。
乾杯〜〜〜〜!!!!
というわけで、インタビューの続きです。
――最近では若者の間でも、れいさんの好きそうな老舗のお店、レトロなお店は意外と人気を集めていますよね。
魔女っこれい
それはありますね。流行りとしては、看板のデザインがシンプルで、お料理のコンセプトが明確で、ガラス張りで店内の賑わいが一目で分かるようなお店が人気を集めているようにも感じます。一方で、私が好むような趣のある古びた居酒屋にも若者が集まっているんですよね。
――やっぱり、そうですか。
魔女っこれい
鶯谷に「鍵屋」っていう江戸時代から続く老舗があるんですけど、女性は男性と一緒でないと入れないルールがあるんです。ハードルが高いお店に感じて、行くのを躊躇してしまいそうじゃないですか?でも実際に行ってみたら若い方や女性がすごく多くて。ただでさえ、駅から徒歩15分のひっそりと目立たない場所にあるのに、あれだけの若者が足を運ぶのは、やっぱり引きつけられるものがあるんでしょうね。
足立区出身のカメラマン(酒好き)
私が10年前に行ったときは、女性客が私だけで、かなり緊張しましたよ。時代は変わりましたね。
――若者や女性が入りづらかったお店も、だいぶ入りやすくなっているんでしょうか。
魔女っこれい
そもそも一昔前は、女性が一人で飲みに出ることを良くないと捉える人も多かったのかもしれません。いまだに、趣味で飲みに来ているだけなのに、家庭に問題があるんじゃないかと心配されたり(笑)。そういう雰囲気はどんどんなくなってきていますよね。
――そう考えると、せっかく雰囲気が良くて料理がおいしいのに、若い人や女性に威圧感のあるお店は、もったいない気がしますね。
魔女っこれい
新しく人気のあるお店って、必ず女性や若いお客さんがつきものという印象があります。地元の方を大切にするというやり方もとてもいいと思うんですけど、これから新規で居酒屋をやるんだとしたら、まずは若いお客さんをターゲットにした方がいいのかなとも思います。
――確かに今やネットで事前に情報が調べられるので、いいお店だったらどんなに遠い場所でも足を運んでくれますもんね。
魔女っこれい
今の若者や女性はアグレッシブなので、どんなに入りづらそうなお店でも、いいお店だったと人から聞いたら来るんですよ。
――酒飲みとしてれいさんが居酒屋の方に求めることはなんでしょうか。
魔女っこれい
そうですね……(しばらく考えて)、でもそうだな、私がお店の人に望むことはなんて、ほぼないです。お店の人に望むなんてできない。滅相もないです。
――ええ!? (謙虚!)。例えば、店員さんに愛想良くしてほしいとか。
魔女っこれい
もちろん元気に注文を取りに来てくれたり、気を遣ってもらえたりするとうれしいですけど、店員さんも忙しいと思うので、あまり会話はなくても大丈夫ですし。私は食べ物とか見て「はあ、おいしそう」って一人ニヤニヤしているだけで幸せなので(笑)。
――居酒屋へのリスペクトを感じる……。
魔女っこれい
終わりよければ全てよしってあるじゃないですか。最低限の安全と清潔さがあって、頼みたいメニューがあって、最後にありがとうございますと一言、言ってもらえたら、また来たいって思います。
女性や若者も安心して楽しめる空間、それが人気の居酒屋の条件
若者はお酒を飲まない、コロナ禍で外飲みが減った、そんなことを言われながらも、今回実際に居酒屋に足を運んでみて、繁盛する店は、どんな状況でも繁盛するんだということを実感できました。
その秘訣は、立地がいいから? レトロで趣があるから? 料理がおいしいから? 店主の人柄がいい? もちろん、それらの要因もあるのでしょうが、大事なのは「安心して飲める」ということなのではでしょうか。
一人でも、女性でも、若者でも、気兼ねなくお酒と料理とお店の雰囲気を楽しめる、そして明朗会計。そんな心理的な安全性が担保された空間。これが当たり前のようで、令和の大切なキーワードなのかもしれませんね。
取材先紹介
- 大衆酒蔵 幸楽
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東京都足立区千住2-62
電話:03-3882-6456 - 千住の永見
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東京都足立区千住2-62
電話:03-3888-7372
- 取材・文小野和哉
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1985年、千葉県生まれ。フリーランスのライター/編集者。盆踊りやお祭りなどの郷土芸能が大好きで、全国各地をフィールドワークして飛び回っている。有名観光スポットよりも、地域の味わい深いお店や銭湯に引かれて入ってしまうタイプ。
note: https://note.com/kazuono - 写真鈴木愛子
- 企画編集株式会社 都恋堂