飲食店は他業種と比較しても競争が激しく、短期間での廃業率が非常に高いとされています。万が一廃業することになった場合は多くの作業や手続きが必要なので、あらかじめその手順を正しく知っておくことが重要です。
「飲食店の廃業について具体的に知っておきたい」という飲食店経営者に向けて、飲食店の廃業の流れや必要書類などを、飲食店経営者兼コンサルタントの山川博史さん監修のもと解説していきます。
こんな人におすすめ
- 飲食店を経営して1〜2年目の店主やオーナー
- お店を廃業したいと考えており、必要な流れについて知りたい人
- お客さんにお店の廃業を知らせたいと考えている人
- これからの時代の・飲食店マネジメント協会
代表理事 山川博史 -
1971年生まれ。複数の会社経営に関わり、一般社団法人これからの時代の・飲食店マネジメント協会【これマネ】の代表理事として、採用・育成・定着・自走をテーマに、飲食店向けeラーニング【これマネ教育DX】を活用した指導を行っている。著書に『1店舗目で成功したオーナーはなぜ2店舗目で失敗するのか』『これからの飲食店マネジメントの教科書』などがある。
Webサイト:これマネ教育DX
X(旧Twitter):@yscrewproduce
Instagram:@yamakawahiroshi
飲食店を廃業する流れ
飲食店を廃業する手順は、個人事業主と法人で異なります。法的手続き以外にも水道やガスの解約、リース品返却など細かいタスクがたくさんあるので、まずは全体を把握しておくことが大事です。ここでは、飲食店の廃業の流れについて見ていきましょう。
個人事業主の場合
まず、個人事業主の飲食店を廃業する際の手続きは以下のとおりです。
1 | 金融機関に連絡 | 借入金がある場合は、取引のある金融機関に連絡する必要があります。 |
2 | リース契約の精算 | リース契約を途中解約する場合は、精算が必要です。 |
3 | 不動産管理会社へ解約通知 | 物件を管理する不動産管理会社に、解約通知書を提出します。賃貸借契約によって、提出期限は異なります。 |
4 | 従業員に対して廃業通知 | 雇用している従業員に対し、解雇する30日以上前に解雇予告通知書を渡します。 |
5 | 保健所や税務署など行政機関に対して届出の提出 | 開業時に届出を提出した各行政機関に対し、各種手続きを行います。(こちらの章で解説します) |
6 | 仕入れ先やゴミ回収委託業者など取引先へ連絡 | お店を閉業する1〜2カ月前をめどに、取引先へ廃業の連絡を入れます。 |
7 | リース品の返却 | ビールサーバーや、厨房機器、おしぼりウォーマーなどのリース品をリース会社に返却します。 |
8 | 店舗の原状回復工事 | 入居時の状態に戻すための工事です。 |
9 | 電気・ガス・水道の停止・解約手続き | 電気やガスなどのインフラ停止のための手続きです。 |
10 | 店舗総合保険や地震保険などの解約手続き | 保険に加入している場合は、解約を行います。契約内容によっては、未払い分の保険料を請求される場合があります。 |
上記の流れはあくまで一例です。店舗の状況によっては順番が前後する場合もあります。
法人の場合は追加で手続きが必要
法人経営の飲食店は上記に加え、以下の手続きが必要になります。
1 | 登記 | 「解散」と「精算」の2つの登記が必要です。会社が解散してから2週間以内に、管轄の法務局で手続きを行います。清算手続きでは清算人を選任する必要があります。 |
2 | 解散公告 | 会社を解散した後は、速やかに政府発行の機関紙「官報公告」で解散広告を掲載します。申し込みは全国官報販売協同組合のホームページで行うことができます。 |
3 | 確定申告 | 「解散」と「精算」の2つの確定申告が必要です。解散確定申告は、会社の解散日から2カ月以内に実施します。残余財産が確定したら、1カ月以内に精算確定申告を行います。 |
上記のように、法人の解散手続きは期限が定められています。手続きの遅れや、申告漏れがないよう十分に気をつけましょう。
飲食店ならではの必要書類とは
事業の特性上、飲食店は開業時にさまざまな行政機関へ各種書類の届出をします。そのため、廃業の際もそれらの機関に再度の届出が必要です。
- 保健所へ廃業届などを提出
廃業から10日以内に保健所へ「廃業届」を提出します。また、開業時に保健所から取得した「飲食店営業許可書」も返納しなければなりません。
- 消防署へ防火管理者解任届出書を提出
飲食店は開業時に消防署へ「防火管理者選任届出書」を提出しています。そのため、廃業後は速やかに「防火管理者解任届出書」の提出が必要です。
- 警察署へ廃止届書などを提出
開業時に警察署へ「深夜酒類提供飲食店営業開始届出書」を提出したお店は、廃業から10日以内に「廃止届出書」を提出します。また、風俗営業許可を受けている場合は、返納理由書を添付して許可書を返納します。
- 税務署へ廃業等届出書などを提出
個人事業主は廃業から1カ月以内に「廃業等届出書」の提出が必要です。
そのほか、従業員を雇用していた場合は「給与支払事務所等の廃止届出書」、所得税の青色申告をしていた場合は「所得税の青色申告の取りやめ届出書」、消費税課税事業者だった場合は「事業廃止届出書」を別途提出する必要があります。
- その他
雇用保険に加入していた場合は、公共職業安定所に「雇用保険適用事業所廃止届」「雇用保険被保険者資格喪失届」「雇用保険被保険者離職証明書」の3つの届出をします。
また、雇用保険や健康保険に加入していた場合は所轄の年金事務所に「雇用保険適用事業所廃止届の事業主控」や「健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届」を、雇用保険または労災保険に加入していた場合は所轄の労働基準監督署などに「労働保険確定保険料申告書」を提出します。
このように、廃業に伴いさまざまな行政書類の届出が必要になります。それぞれ提出の期限が異なるので、計画的に手続きを行いましょう。
なお、飲食店経営だけでなく、通販など他の領域にも事業を拡大しているお店は、個人・法人共に上記と異なる手続きが必要になる場合があります。まずは信頼できる税理士や専門家に相談をしてください。
まとめ:飲食店を廃業する際は閉店の挨拶も忘れずに
上記のような手続きに加えて、今までお世話になった取引先や従業員など関係各所への連絡、挨拶も忘れないようにしましょう。
そして「閉店のお知らせ」をはじめ、通ってくれていたお客さんへの連絡も大切です。別の場所で新しく飲食店を開く際でも、今の常連客との関係性を保っておくことでスムーズに再スタートできるでしょう。
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文:大瀧亜友美
編集:はてな編集部
編集協力:株式会社エクスライト