トップバーテンダーが開いた次世代の“生カクテル酒場”、渋谷「BW CAVE」へ

2023年12月、渋谷・宇田川町にひとつの隠れ家酒場が誕生した。店名は「BW CAVE」。看板はなし。細い階段を上った先に現れる扉に記された店名だけが頼りだ。ここで味わえるのは、タップから注がれる「生ビール」ならぬ「生カクテル」。秘められし新しい酒場をガイド役が案内する。

お店の特徴

今回の案内人を紹介

沼 由美子さん

ライター、編集者。醸造酒、蒸留酒を共に愛しており、バー巡りがライフワーク。著書に『オンナひとり、ときどきふたり飲み』(交通新聞社)。執筆に『EST! カクテルブック』、編集・執筆に『読本 本格焼酎。』、編集に『神林先生の浅草案内(未完)』(ともにプレジデント社)などがある。

看板のない隠れ酒場は、バーと居酒屋が融合した新しい世界観!

「BW CAVE」へと続く階段を上る。噂通りなんの看板もない。だが、「CAVE into the (BW)CAVE」(BW CAVEへ入る)と暗号のように店名が書かれた扉を開けると、意外にも伸びやかな空間が広がっていた。

渋谷・宇田川町「BW CAVE」が潜むビルはこちら

細い階段を上った先。黒い扉が入口だ

テーブル席とカウンター席、広い窓もある店内は、思いのほか開放的な雰囲気

この隠れ酒場を開いたのは、隣接するビルにあるバー「The Bellwood」のオーナーバーテンダー、鈴木敦さんだ。アジア地域のすべてのバーの中から50店舗のみが選出されるアジア最高のバーアワード「ASIA’S 50 BEST BARS 2023」にランクインするバーで、鈴木さんはニューヨークやトロント、上海など海外でも研さんを積んだバーテンダー。ウイスキーのカクテルコンペティションにおいて世界大会優勝を果たした、ゆるぎない実力を持つ。

「『穴蔵』の意味を持つ『cave』という言葉。英語では『a man cave』(男の秘密基地)なんて言い方があって、この酒場は『The Bellwoodの秘密基地』というコンセプトで開きました。バーよりももっとラフにカクテルが楽しめて、居酒屋のつまみを再構築した料理もある。海外には食事に行く前にバーに立ち寄ったり、食欲増進を兼ねてマティーニを飲むという文化があります。ここは、気軽に立ち寄れるバー的な使い方もできるし、カクテルと一緒に食事を楽しめる居酒屋的空間でもある。バーテンダーを経験してきた僕が考える新しい酒場です」

オーナーの鈴木 敦さん。普段は隣のビルのバー『The Bellwood』でオーナーバーテンダーとしてカクテルを振る舞っている

バーと居酒屋が融合したような稀有なこの酒場がなぜ1人飲みに向いているのか。その理由を紹介しよう。

1人飲みポイント①
テーブル席と一線を画す落ち着き感。1人飲み特等席のカウンター席がある

店内をぐるっと見回すと、わいわい楽しめるテーブル席があるのもいいし、ゆったりとしたカウンター席があるのも素敵です。とくにバー好きな私は、カウンターがあるとほっとします。

鈴木さん

ここ「BW CAVE」は、1人でも来やすい酒場であることを大事に考えました。そのためにもカウンターは必須。バーのよさを取り入れて、ゆったりと座れるスペースを確保しています。女性おひとりで来店する方も多いですし、隣の「The Bellwood」と行き来するお客さまもいます。外国人観光客もふらりとやって来て、東京滞在中に何度も来店してくれることもありますね。

赤坂さん

普段の営業では、マネージャーとして僕がカウンターに入ることが多いのですが、バー×居酒屋というこれまでにないスタイルの店なので、特におひとりでお見えのお客さまにはコミュニケーションをとってお酒や料理を提供することを心掛けています。カウンター席は静かに飲みたい方にも向いていますし、ちょっとした会話から自然と隣席の方とも会話がつながるのも良さですね。バーよりグッとラフな雰囲気がこの店の持ち味です。

 

タップの前のカウンター席は1人飲みの特等席!

壁に描かれるピンクの象もかわいいし、店内の造作がおしゃれですね。たどり着くまでの軽い緊張感と、この空間にいることのワクワク感。そのギャップも心地いい。

鈴木さん

英語文化圏では、酔っぱらうと「ピンクの象が見える」なんて表現されます。空間は、数多くのデザインアワードを受賞してきたTHE WHOLEDESIGNの杉山敦彦さんに、スタッフのユニフォームや店内のアートワークは、アパレルブランドのGLADHANDのデザイナーL.(エル)氏が全て手掛けています。ユニフォームはL.氏デザインでGLADHANDのダブルネームで制作しています。Tシャツやキャップ、小物などオリジナルグッズの販売もしています。食べる、飲むだけじゃない飲食店であること、外見からも楽しめる飲食店であることも目指しているのです。

 

“酔っ払うと見える”かわいいピンクの象は、コースターやグラスにも描かれる(左)。店では、アパレルブランドGLADHANDによるアートワークのグッズを販売(右)

1人飲みポイント②
タップからマティーニ!?ユニークでいてスピーディーだからサクッと飲める

最大の特徴とも言えるのが、こちら!タップから注がれるのは「生ビール」じゃなく「生カクテル」ですね。なんてユニーク!バーでは一杯ずつ目の前で作られるものですが、すでに完成されたものが注がれるとは。

鈴木さん

ここに来たら、まずこの店ならではのマティーニ、通称「生ティーニ」を味わっていただきたいですね。「CLASSIC(キホン)」、「Green&Spicy(ピリッとミドリ)」、「Dry&Funky(甘くないけどファンキー)」、「Easy&Tropical(優しさの楽園)」の4種類を用意しています。味のバリエーションを付けることで、コース料理を味わうように順に数種類飲んだり、料理とのペアリングを楽しむことができます。

 

タップから注ぐマティーニのごときカクテル「生ティーニ(各税込1,500円)」。4種類を展開

木の芽ジン、山椒ベルモット、トマトを使った「Green&Spicy」(左)と、ココナッツジン、バナナベルモット、カカオの「Easy&Tropical」(右)

鈴木さんが一杯ずつ味を確認しながらお客さまの目の前で作るマティーニと違って、すでに完成されたカクテルを詰めておかなければいけないわけですよね。あらかじめ仕込んでおく量も手順も違うので、普段のカクテルとは違う難しさがあったのでは?

鈴木さん

そうですね。すでにカクテルとして味が完成したものを「ケグ」という樽に詰めて提供します。最初は、味のバランスをチューニングするために何度も試作を重ねました。独自のクラフトハイボールも6種類提供しています。こちらは炭酸で割るという概念を取っ払って、あらかじめ作っておいたカクテルに炭酸を注入して提供するスタイルです。

カクテルのレシピづくりは大変そうですが、一杯ごとの提供がスムーズですね。遅い時間でも、ちょっといいお酒で気分転換してサクッと帰れるのも魅力的です

鈴木さん

たとえバーテンダーの経験がないスタッフでも、カクテルの味がぶれることなく提供できるのもメリットです。お客さまにとっては、素早く、いつでも誰が注いでも安定した味わいのカクテルが味わえるのがいい点です。バーでカクテルがつくれるようになるには、何年も修業が必要なもの。それが理由で新しくバーテンダーになろうと思う人や、バー自体が減ってしまうことに懸念を抱いていました。でも、このスタイルなら誰でも同じクオリティで提供できます。スタッフには、職人の力が合わさってできたこの空間で、カクテルに関わりながら働くことに興味をもってもらえたらいいなと考えています。

シェイカーを振らずにカクテルを提供するスタイルが、お店のカジュアル感にもつながっています。オーセンティックなバーだと気後れしてしまう人でも、入りやすく感じそうです。

1人飲みポイント③
ユニークな“再構築系つまみ”を堪能できる1人飲みの秘密基地

お料理が豊富なのもバーとの違いですね。メニューのカテゴリーが「Let‘s Go!(始まり)」から始まって「Fries&Fire(揚げと焼き)」「Rice&Noodles(米と麺)」「Desserts(甘い皿)」とあり、選びやすいですね。あれ?でもよく見ると「炙りエイヒレ2.0」に「銀鱈マサラ西京焼き」!?料理が全然想像ができない(笑)。

 

「炙りエイヒレ2.0(税込900円)」は、肉厚なエイヒレに醤油ジェノベーゼ、レモン味噌、七味マヨといった斬新なディップが付く

鈴木さん

ひとひねりもふたひねりも利かせた変化球づくしです。同じ渋谷にある和食割烹「酒井商会」店主の酒井英彰さんに、「NEO IZAKAYA MESHI(ネオ居酒屋飯)」をテーマとした和洋折衷な酒場料理を提案してもらいました。さらに僕のアイデアも盛り込んで一緒に完成させています。

赤坂さん

どの料理も1人でも食べやすいボリュームです。今、新しいメニューも増やしているところで、何回も通いがいがある内容にしています

知っている食材だけど、そこからの想像を超える料理ばかりです。これが、鈴木さんがおっしゃた再構築系のおつまみですね。

鈴木さん

驚きや意外性など期待値を超えるものを提供したいと思っています。1人飲みの秘密基地にしてほしいですし、誰かを連れてきたくなるような秘密基地でもありたいですね

 

梅干しのマヨネーズソースが入る、「鰻と梅のバオ(税込1,100円)」

「銀鱈マサラ西京焼き(税込1,200円)」。ジューシーな銀鱈にスパイスをまとわせて。味噌の風味とスパイシーなニュアンスが、「クラフトハイボール(税込1,100円~)」を誘う

ドリンクメニューの筆頭に「DRAFT MARTINIS ON TAP(とりあえず生ティーニ)」、多彩な料理メニューには「Let‘s Go!(始まり)」とすぐ出るつまみが記してあり、バーでは珍しく注文の順序をナビゲートしたカテゴライズで掲載

1人でも誰かを連れてでも。「おなじみさん」になる楽しみがある

鈴木さんの言葉通り、「BW CAVE」は秘密基地である一方、その唯一無二のユニークさに、誰かを連れて「すごいよね」「おもしろいよね」と紹介したくなる酒場でもある。

オーセンティックバーとは違う、バーと居酒屋が融合したこの店ならではの空間でカクテルに触れる。気分に合わせて、シチュエーションによって、お腹の具合を見ながら。想像を覆すメニューの数々は、飽きさせず、通う楽しみを生む。誰かの都合に合わせず、思うがまま、1人で潜入するほどになじみになって「BW CAVE」のより深い世界をディグりたい。

取材先紹介

BW CAVE

 

取材・文沼 由美子
写真野口岳彦
企画編集株式会社 都恋堂