約2万人以上が行き交う、下町人情あふれる砂町銀座。「昔」を守りつつ目指す商店街の新しいカタチ

砂町銀座商店街

シャッター街とも称される場所がある一方で、地域の人たちの暮らしを支え続ける商店街もあります。活気あふれる商店街は、どんな工夫で集客に取り組んでいるのでしょうか?今回は、東京都江東区にある砂町銀座商店街の理事長を務める、二瓶陵さんにお話を聞きました。


東京都江東区の砂町銀座商店街は、昭和レトロな趣を色濃く残す商店街。おでんやコロッケ、シュウマイなど安くておいしい昔ながらの惣菜店が多く立ち並び、地元住民を中心に、休日には2万人前後のお客さんが訪れます。昔ながらの良さを守りながら、今の時代に合わせた取り組みを行う商店街の工夫について伺いました。

戸越銀座商店街振興組合理事長の二瓶陵さん
二瓶 陵さん

東京都江東区出身、ゴルフ&カラオケバー「BAR砂銀72」店主。砂町銀座商店街振興組合理事長。空調設備会社の運営を経て、「地元を元気にしたい」と砂町銀座商店街内に2021年、同店をオープン。2023年10月より現職。16名の理事、4名の振興組合スタッフとともに活気ある商店街づくりに尽力している。

地域の生活に根差したお店が多く立ち並ぶ、下町の商店街

砂町銀座商店街

――砂町銀座商店街は全長670mの通りに約150店舗が並んでいるそうですね。実際に歩いてみると個人店が多い印象を受けました。飲食店や物販など、業態のバランスを教えてください。

二瓶さん:おおよそですが、物販が5割、飲食が2割、サービスや医療などその他の業態が3割のバランスです。現在は個人店が中心ですね。地主さんなど昔からご自身の土地で商売を続けられている方と、賃貸物件で営業されている個人の方が半々くらいでしょうか。

以前はチェーン店も商店街内に多数ありましたが、近隣にマンションなどが増えて「アリオ北砂」や「イオンスタイル南砂」など大型商業施設が開業すると、チェーン店はそちらに移転するケースが多かったように思います。

1970年創業の増英蒲鉾店。大人気のおでん種専門店。休日には行列ができるほど

1970年創業の「増英蒲鉾店」は大人気のおでん種専門店。休日には行列ができるほど

増英蒲鉾店

――商店街を訪れるお客さまはどのような方が多いですか? 1日の通行人数も教えてください。

二瓶さん:普段のお買い物で利用される地元の方がほとんどです。60代~70代くらいの方や、主婦層が中心ですね。観光目的の方はあまりいませんが、若い人たちがデートなどで食べ歩きを楽しんでいる様子も見られます。商店街の沿道は明治通りと丸八通りをつなぐ場所でもあり、通行人数は平日だと約2万人、休日はもう少し増えます。

砂町銀座商店街には飲食可能なスペースが2カ所ありますので、お買い物や食べ歩きの休憩にも使っていただいていますね。

砂町銀座商店街のほぼ中心部にある「すなぎんひろば」。人工芝の上にベンチやテーブルが設置されている

砂町銀座商店街のほぼ中心部にある「すなぎんひろば」。人工芝の上にベンチやテーブルが設置されている

――このスペースは振興組合で管理されている土地なんですか?

二瓶さん:こちらはUR(UR都市機構)さんが所有する敷地です。日々の管理は砂町銀座振興組合で行っており、共同で運営しています。

砂町銀座周辺は東京都が進める木造密集地域の「不燃化特区」に指定されていて、URさんは江東区から委託を受けて住民とともに防災運動に協力してくれています。この空き地はもともと防災のための用地で、建物は建てず、商店街のお客さまのために広場として開放してくれているんですよ。

砂町銀座商店街

――こうした場所があると、食べ歩きもしやすいですね。

二瓶さん:有名なおでん屋さんを始め、コロッケや唐揚げ、シュウマイなど昔ながらの惣菜店が多いですから、ぜひいろいろなお店をまわってほしいですね。でも、商店街の中にはごみ箱がなく、各店がごみ箱やお皿の返却口を用意するなどそれぞれ工夫をしてくださっています。振興組合としても、今後はごみ箱の設置、トレイやドリンクホルダー付きのカートを貸し出しするなど、お買い物や食べ歩きを楽しんでいただけるような施策を実行していきたいと考えています。

「人とのふれあい」を大切にする地域柄で、新規開業者もなじめる

――二瓶さんは砂町銀座エリアのご出身で、2年半前から商店街でバーも運営されていらっしゃいます。あらためて、砂町銀座商店街に出店する魅力についてはどのように感じていますか? 

二瓶さん:テレビや雑誌などのメディアでもよく例えられる通り、砂町銀座商店街はすごく人情味にあふれる場所なんですよ。みんなおしゃべりが好きで、お客さんとの会話を大切にするし、お店同士の距離も近いんですね。あっという間に下の名前で呼び合って仲良くなるくらい(笑)。僕はここが地元ですが、別の地域から新しく来た方もすぐに馴染めると思います。

砂町銀座商店街

――確かに……。先ほど商店街を通ってみましたが、お客さんやお店同士との垣根がなく、あちこちで楽しそうに会話している様子が見えました。

二瓶さん:今も活気がありますけど、僕が幼い頃の商店街は、もっと人が多くて賑やかだったんですよ。お使いで行くとたくさんおまけをつけてくれたり、閉店間際には「ちょっと寄って行って!」って揚げ物をくれたりもしましたね。

新規開業で入ってくださる方もいるので加盟店の数は少し増えていますが、やはり建物の老朽化や店主の高齢化の影響で廃業されるお店も増えていて、昔より少し寂しくなったなとも思います。

夜はほとんどのお店が閉店してしまうので、「ちょっと飲みたいな」「遊びたいな」という時、このあたりに住む方の多くは錦糸町や亀戸に出てしまうんです。昼だけでなく夜も砂町銀座で楽しく過ごせる場所が欲しいと、バーを開業したんですよ。

砂町銀座商店街振興組合理事長の二瓶陵さん

――そうなんですね! でも、この辺りは家賃が高いのでは? 

二瓶さん:そうですね、知名度がある分、価格に反映されているのだと思います。もう少し安くなれば若い方も出店しやすいですから。

でも、近年では商店街の活性化のため、都や区が新規開業者向けにさまざまな助成金を用意してくれているんですよ。商店街に出店する大きな強みになると思うので、ぜひ活用してほしいですね。多彩なお店が増えることで、幅広いお客さまが来街してくれるのではないでしょうか。

――ちなみに商店街の中だけではなく、周辺エリアも家賃は上がっているのでしょうか。

二瓶さん:いいえ、ひとつ路地に入ると全然違いますね。商店街の中よりもだいたい3/4程度安くなるのではないでしょうか。 

振興組合への加盟も、以前は商店街の中のお店のみでしたが、2年程前から周辺エリアで営業されている方も加盟していただけるようになりました。ただ、やはりメインの通りではないので人通りは少ないです。

そうした状況でもみなさん加盟費をお支払いくださっていますので、振興組合としては少しでも恩返しがしたいと、イベント開催時は商店街の周辺エリアの店舗に「沿道のブースに出店しませんか」と優先的にお声がけしています。もちろんこの場合の出店は無料です。こうしたお祭りを効果的に活用していただいて、お店の認知度を上げてくださればいいなと思っています。

毎月10日の「ばか値市」を始め、親子でも楽しめるイベントを開催

――先ほど「砂町銀座商店街は地元のお客さまが多い」と伺いましたが、集客のためにどのような取り組みをされていますか?

二瓶さん:まずは、毎月10日に実施している「ばか値市」が人気です。1976年から続いている行事で、例えばある惣菜店では唐揚げ100グラムが通常150円のところ100円になったり、あるお店は全品20%引きにしたりと、グッとお買い得になります。集客人数をあらためて計測したことはありませんが、感覚として平時の倍くらいのお客さまに来ていただいていると思います。

「ばか値市」の参加協力店を募り、割引のチラシを毎月約1万5千部制作している

「ばか値市」は参加協力店を募り、割引のチラシを毎月約1万5千部制作している

二瓶さん:また、2024年は「七夕まつり」がコロナ禍を経て5年振りに復活します。73回目となる歴史あるお祭りで、8月の2、3、4日の3日間かけて、縁日やミニライブ、福引きなどを行います。

僕が生まれる前からある行事で、子どもの頃はこの時期になるとワクワクしていました。ぜひ今の子どもたちにもそうした気持ちを味わってほしいなと思っています。

2019年に開催された際の七夕まつりのチラシ。2024年度版は3万部ほど印刷予定

2019年に開催された際の七夕まつりのチラシ。2024年度版は3万部ほど印刷予定

――5年振りだとますます気合が入りますね。その他、集客のために今後計画されていることはありますか?

二瓶さん:毎年12月に行われる「砂町銀座感謝デー」でも多くのお客さまが来られます。今後はもっとイベントに注力していきたいと思っていて、例えば今年は9月の盆踊りや10月のハロウィンなども開催予定です。普段はあまり砂町銀座商店街に来られないようなファミリー層やお子さん連れの方にもぜひ来てほしいなと思っていますね。

砂町銀座ならではのコミュニケーションを世界へ発信

――江東区内の豊洲には多くの外国人観光客が訪れていますし、深川や門前仲町周辺には歴史ある寺院も数多くあります。昔ながらの趣を残す砂町銀座商店街も外国人観光客に人気が出そうですが、インバウンドへの取り組みなどはされていますか?

二瓶さん:インバウンドを始め集客に向けての動きをより一層高めていきたいと考え、昨年から江東区の観光協会に加盟しました。準備段階ではありますが、現在はAIを使った翻訳アプリの導入に取り組んでいます。砂町銀座の人たちは明るくて人懐っこいので、今でも外国人のお客さまが来られると身振り手振りで接客していますが、翻訳アプリを使うことで、持ち味である温かみのある接客がより深く伝わるのではないでしょうか。今後はお店の方たちに向けて定期的に勉強会を開こうと考えています。

――近隣施設とも協力して「砂町銀座を盛り上げよう」という体制なのでしょうか?

二瓶さん:そうですね。例えば、砂町銀座商店街を訪れるお客さまは最寄りの錦糸町駅からバスを使われることがほとんどですが、ありがたいことに都営バスさんは乗り場に「砂町銀座に行く方はこちら」という貼り紙を掲示してくださっています。また、「アリオ北砂」さんは、砂町銀座商店街に近い出口を「砂町銀座口」と名付けてくれています。

これからは、もっと砂町銀座商店街の魅力を自分たちでも発信していきたいですね。今はどうしても有名店ばかりにお客さまが殺到してしまいますが、他にも素敵なお店がたくさんあるので。地域全体で活性化させていきたいと思っています。


【武蔵小山商店街に出店しているお店の本音】

2024年3月に、砂町銀座商店街エリアにオープンした小料理屋「うーちゃんち」のオーナー・関さんにもお話を伺いました。

第7代RISEライト級チャンピオンなどの称号を持つキックボクサー・直樹さんがご夫妻で運営する小料理店

第7代RISEライト級チャンピオンなどの称号を持つキックボクサー・直樹さんがご夫妻で運営する小料理店

――開業にあたり、砂町銀座を選んだ理由はなんでしょうか? 

関さん:若者がたくさん集まる街というよりは、アットホームで落ち着いた雰囲気の街で開業したいと考えていました。主に出身地である江東区や江戸川区内をメインに物件を探しており、ご縁があってこちらに落ち着きました。

――実際にオープンしてみて、印象はいかがでしょうか。

関さん:砂町銀座は歴史ある商店街で、人が多いけれど雑多な雰囲気ではないところがとても良いと思います。オープンしてまだ日が浅いですが、20代~80代まで幅広いお客さんが来てくださっています。みなさん落ち着いて楽しんでくださる方ばかりで、思い描いた通りのお店づくりができています。

僕たちは30代の夫婦で若いこともあり、「砂町銀座」という完成された場所に入っていくのに最初は不安を感じましたが、商店街のみなさんが温かく迎えてくれました。営業のアドバイスをくださることも多く、「みんなで砂町銀座を盛り上げよう」とする意識がすごくある街だと感じています。

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【取材先】

砂町銀座商店街

砂町銀座商店街

住所:東京都江東区北砂3丁目 ~5丁目付近
Web:砂町銀座商店街公式サイト
Instagram:砂町商店街Instagram

二瓶理事長の運営店:ゴルフ&カラオケバー「BAR砂銀72」

取材・文/田窪 綾
調理師免許を持つフリーライター。惣菜店やレストランで8年ほど勤務経験あり。食分野を中心に、Webや雑誌で取材やインタビュー記事作成、レシピ提案などを行っている。

編集:はてな編集部