行列必至!「ラーメン三浦家」が大人気店になった理由

東京都葛飾区、JR金町駅南口ロータリーに面する一角に、連日行列の絶えないラーメン店があります。「ラーメン三浦家(以降、三浦家)」は、横浜家系の人気店「武蔵家」で総大将を務める三浦慶太さんが独立してはじめた店で、口コミサイトが実施する読者投票によるランキングで1位を獲得するなど、競争の激しい業界で確固たる実績を残しています。人気店を生み出した三浦さんに、独立までの背景、人気店であり続ける秘けつなどについて伺いました。

「接客」を超えた「接遇」に目覚めた20代

もともと、ラーメン店ではなくスノーボーダーを目指していたという三浦さん。スキー場近くの旅館でアルバイトをしていた時、仲居さんの接遇の素晴らしさと奥深さに感動したことで、サービス業に興味を持ったと話します。「接遇」とは、必要最低限なサービス提供を行う「接客」を超え、お客の気持ちや状況を把握した上でサービスを提供するというもの。

「20歳頃に居酒屋をオープンしましたが、当時はうまくいかず、あらためて旅館の仲居さんレベルの接遇を身に付けようと、居酒屋を畳んで旅館に研修を受けに行きました。その後、ラーメンが好きだったので、身に付けた接遇のスキルをラーメン店で生かそうと、家から近かった『武蔵家』松戸店で働き始めました」

「ラーメンばかり食べている」と話す三浦慶太さん。常においしいラーメンをつくることを考えているという。同業店はもちろん、話題の飲食店などのリサーチも欠かさず、味の研究に余念がない。自分の味を追い求めすぎて、ラーメンの原価率が50%になってしまったこともあるそう

27歳で「武蔵家」のアルバイトとして働くようになった三浦さん。「接遇は習得した」と自負していたものの、武蔵家では全く通用しませんでした。

「作法や所作にとらわれているだけで、本当の意味でお客さんの気持ちを考えられていなかった。最初はホテルマンみたいな話し方がいいのかと思い『かしこまりました』『承知しました』みたいな言葉遣いを意識していましたが、一向にお客さんと打ち解けた実感がない。ほかのヤツはお客さんとタメ口で話していて、しかも、一番口の悪いヤツが一番お客さんと仲が良かったんです。悔しいので観察していると、そいつは目の前のお客さんのためだけに声を掛けていた。『おまえ、店来すぎだよ!』とか『腰痛いって言ってただろ?気をつけろよ』とか。それを見て、言葉遣いや所作を完璧にしても、心が伝わらないとマジで意味ないんだなって思いました」

接遇で最も大事なことを武蔵家で学んだと話す三浦さん。その後、三浦さんは武蔵家の中で頭角を現し、入店から約7年で武蔵家全店舗を総括する「総大将」となりました。その地位は、独立した現在も継続しています。

「武蔵家の集大成として、ここまでできるって見せたかった」

「武蔵家の総大将が独立」というニュースは、業界内でも瞬く間に広がりました。同時に話題になったのは、三浦さんが「脱家系」を宣言したことです。

「僕は武蔵家の総大将なので、『武蔵家が本気を出したらすごいんだぜ』という気持ちから、フラッグシップのつもりで三浦家をオープンしました。だから、三浦家は武蔵家の集大成のようなものです。そして、自分にとって一番気合の入る地元・金町に出店しました。ただ、『家系』という枠があると、どうしても僕がつくりたいラーメンがつくれなくなってしまう。だから『家系を辞める』と宣言し、新しい方法をどんどん取り入れています」

とことん味を追求する三浦さん。スープの仕上がりが常に気になる様子

2024年7月現在、「ラーメン三浦家」は昼の営業のみで、三浦さんがそのとき一番おいしいと思うラーメンを提供しています。1カ月に1度はマイナーチェンジを、1年に1度は大幅なリニューアルが行われます。とはいえ、開店当初に提供していた横浜家系寄りのパンチの効いた濃厚な鶏豚骨スープを求めるお客の声も多いため、2024年4月から夜の営業形態として「とんこつみうら」と屋号を変え、開店当初のラーメンを提供しています。

夜は「とんこつみうら」として、三浦家創業時の濃厚な鶏豚骨スープのラーメンを提供する

独立した店を「武蔵家の集大成」、また「フラッグシップ」と明言する三浦さん。知名度だけで考えれば「武蔵家」の屋号を残した方が有利に働くものの、あえて自身の名字を冠する店名にしたのは、脱家系以外の理由があるのでしょうか。

店名や場所は関係なく、内容が伴う営業を続けていけば絶対に利益が出せるということを、武蔵家で働くみんなに見せたかったんです。ネームバリューがあっても内容が伴わなければすぐにダメになるし、いい職人でも、現場に出なくなった途端に偉そうになって、結果的に消えていった店もたくさんある。だから、自分がしっかり先頭に立って、現場を見ながら営業する。この姿を後輩たちに見てもらって、忘れないでほしいんですよ」

自分の店だけでなく、後進の良き見本となるように模索し、実現する。三浦さんの取り組む姿勢はラーメン職人でなくとも学ぶところが多々あります。

取材時の三浦家の「上ラーメン」(税込1,200円)は、阿波尾鶏(あわおどり)のスープと、隠し味にサバなどの魚介を使った豚骨スープの2種類用意しブレンド。かえしは、焦がししょうゆと北海道産の生醤油(きじょうゆ)で、どんぶりの中で混ぜ合わせて香りを引き立たせている。昼は鶏豚骨感のある少しクリアなスープを目指し、昼の営業後は夜の「とんこつみうら」開店までにスープにどんどん豚骨を入れて煮詰め、濃度を上げていく

口コミでも多く寄せられている神接客

ラーメン店といえば、「怖い」「話しかけづらい」といった粗野な接客に遭遇することがあります。しかし、三浦家の接客は、従業員が常に声を掛けながら、かゆいところに手が届く心地よいものです。そして何より、店内が明るい雰囲気に満ちています。

「特別な接客マニュアルは用意してないです。ただ、僕が必ず言うのは『自分の彼氏・彼女の親が来たと思え』ということ。あと、『思ってもいないことを口にするな』とも伝えますね。うわべだけで『ありがとうございました』や『また来てください』って言っても伝わらないじゃないですか。接客・接遇は教えてできるものじゃないし、お客さんに認められて、本人がどんどん仕事を楽しいと思うようになれば自然に身に付くものだと思っています」

また、お店の空気や雰囲気づくりの一環として、意識していることもあると言います。

店の空気がカラッとするように意識しています。僕の感覚なのですが、売れてない店ってカラッとしてないんですよ。怒号が飛んで、面白くなさそうに仕事している店は空気がどんよりしています。従業員に厳しいことも言いますが、その場限りで後に引きません。それに、僕はこの店を『日本一のラーメン店にしたい』という目的があります。その上で注意しているので、注意された側も納得できるんだと思います」

言いよどむことなく快活に笑顔で質問に答えてくれる三浦さん。時折、質問の答えを従業員のみなさんと考えてくれる場面もあった

「日本一のラーメン店」を目標に、三浦さん自身、常に自問自答しながら営業していると話します。

「究極は、一回来たお客さんの好みなどを全部覚えられるぐらいになりたいですね。あと、それぞれのお客さんが『自分は特別だ』と思ってもらえるような接客をしていきたい。お客さんの様子を見ながら、求めていることをさりげなくサービスする。白いシャツを着ているから紙エプロンを勧めたり、お客さんの様子や服装から空調を調整したり、対応はオーダーメイドです。これが本当の接客であり接遇だと思うし、カウンター商売の基本です。本当に特別なことは何もしていないんです。当たり前のことをしているだけ」

ベビーカーを押して入店できるのもうれしいサービス

これからのラーメン店のために、そして三浦家の未来のために

三浦家のような人気を集めるためには、どんなことから始めるべきか。そのヒントを、三浦さんに聞いてみました。

「簡単にできるのは、やはりSNSだと思います。『苦手』とか言っている時点で、どんな店をやろうと失敗すると思います。だって、売らないとどうにもならないのなら、是が非でも売ろうとするはずじゃないですか。そのためには、どんどん自分から発信すべきです。また、ラーメン店なら絶対に地域に根ざした店を目指した方が長続きします。だから、地元での集客を考えた方がいい。あと大切なのは、どうやったらお客さんに愛されるかってことを考えること。飲食店って味に走りがちだけど、お客さんは味に付くんじゃなく、人に付くんです。これはラーメンに限らず、カウンター商売なら絶対です。いかに応援されるかってことを考えた方がいい」

たくさんのファンを持つアルバイトのレオナさん(右)。この日も昼の営業中、お客さんから大好物の差し入れが

ちなみに三浦家では、「お客は人に付く」という考えから、戦略的に「食洗機を導入しない」という方針を取っています。そこには、「従業員の一生懸命な姿をお客に見せたい」という意図があるからです。

「食洗機がないのは本当に辛いですよ。でも、人の力でできることは人の力でやる。そこがいいんです。あと、寸胴(ずんどう)鍋は客席の前に置いて、かき回す作業がお客さんから見えるようにしています。どちらも必死に作業しすぎると張り詰めた空気になって、お客さんが声を掛けづらくなってしまうので、さじ加減が難しいところですが。一生懸命だけど少し余裕があるというか、その采配を振るのが店長の腕の見せ所かなと」

三浦さんをはじめ、従業員がこまめにかき回す寸胴(ずんどう)鍋。中をのぞくラーメン好きのお客が多いそう。夕方、豚骨が次から次へと投入され、「とんこつみうら」用のスープを仕上げていく

最後に、三浦さんが描く三浦家の今後について聞いてみました。

「今いる仲間のために『三浦家』を何店舗か増やしていきたいと思います。やっぱりみんなの給料がもっと上がるとか、そういった夢を持ってもらいたい。ただ、店舗数の拡大というより、もっとブランディングを強化していきたいですね。経営者目線では、いつも働くみんなの今後を考えています。この仕事は腰を痛めるし、体を酷使します。年長の従業員もいるので、体が動かなくなった時、現場に出なくても働ける環境が必要です。そうなると、何店舗か増やし、そのマネジメントに携わってもらうとか、通販の工場を造って管理を任せるとか……。従業員を守るため、違う収入減を確保するために模索しています。だからこそ、三浦家をもっとブランド化していく必要があります」

「とんこつみうら」も18時の開店とともに満席。取材日、夜の一番客は1時間以上前から並んでいた

ラーメンにこだわり、おいしいのは当たり前。その上で、真の接客を追求し、後進の良き手本となって、ともに働く従業員の未来も考えていく。三浦さんの考えに触れるたび、「そりゃ、人気店になるわ!」と納得しました。

取材先紹介

ラーメン三浦家


 

取材・文別役 ちひろ

コピーライター、ライター、編集者。東京生まれ。まち歩き系のフリーペーパー制作に長年携わる。旅や食、建築にまつわる執筆が多く、銭湯のフリーペーパーで10年以上執筆している。特にキリスト教会の建築・美術の愛好家で、30都道府県・約1,000軒の教会を訪ね歩いている。

写真新谷敏司
企画編集株式会社 都恋堂