休日は最大7万人超を集客。昭和につくられた武蔵小山商店街が、令和でも愛され続けている理由

武蔵小山商店街パルム

東京・武蔵小山駅近くの「武蔵小山商店街パルム」は、日本最大級のアーケード街として知られ、近隣住民を中心に休日は最大7万人もの人が訪れます。多くの人に愛される理由や取り組みについて、事務長の尾村優太さんに伺いました。


シャッター街とも称される場所がある一方で、地域の人たちの暮らしを支え続ける商店街もあります。活気あふれる商店街は、どんな工夫で集客に取り組んでいるのでしょうか?

今回は平日約3万人、休日は最大7万人が訪れるという東京・武蔵小山商店街パルムで振興組合事務長を務める尾村優太さんに話を伺いました。

武蔵小山商店街振興組合事務長の尾村優太さん

尾村優太さん

武蔵小山商店街振興組合事務局長。求人情報誌の営業を経て、2009年より武蔵小山商店街振興組合(商店街事務局)に入社。2015年より現職。12名の事務局スタッフとともに、行事の企画立案や駐車場・駐輪場運営、渉外窓口など多岐にわたる業務で商店街運営の一端を担っている。

1947年発足、若い世代も多く集うアーケード商店街

イタリア・ミラノのガレリアに似ていることから、1988年にミラノ商店街と友好提携を結んでいる

イタリア・ミラノのガレリアに似ていることから、1988年にミラノ商店街と友好提携を結んでいる

――武蔵小山商店街パルムといえば、天候を気にせず買い物ができるアーケードが特徴のひとつです。武蔵小山駅から中原街道まで全長約800mあるとのことですが、いつ頃完成したんでしょうか?

尾村さん:今のアーケードは2代目で、1985年に建て替えられたものなんです。商店街の歴史は戦前から始まっていて、1947年に今の振興組合の前身が発足し、1956年には後に“東洋一のアーケード”と称される、全長470mの初代アーケードが完成しました。その後、延長拡大し、現在の規模になっています。

1964年頃の武蔵小山商店街(武蔵小山振興組合提供)

1964年頃の武蔵小山商店街(武蔵小山振興組合提供)

――長い歴史があるんですね! 現在、お店は何店舗くらい入っていますか? 飲食店や物販など、業態の割合を教えてください。

尾村さん:現在、組合に加盟されているお店は228店舗(2024年1月時点)です。業態は物販が5割、飲食が2.5割、その他は医療やサービス関連ですね。もともと洋服や家電製品といった店舗が大半でしたが、最近は飲食店や八百屋、魚屋なども増えてきました。

――先代から引き継いでおられるお店もあるかと思いますが、移転や新しく開業されるお店の個人店とチェーン店の割合はいかがですか?

尾村さん:おおよそですが、チェーンが7割、個人店3程度の割合でしょうか。武蔵小山商店街は東急電鉄目蒲線開通(1923年)と同時期にお店が集まり始めたので、当時から続いている老舗もあれば、武蔵小山エリアを中心に複数店舗を経営されている個人の方もいます。チェーン店では、他の街でもよく見かけるお店から、新業態の一店舗目、関東では武蔵小山だけというお店もいくつかあります。

武蔵小山商店街パルム

――商店街を訪れるお客さまは、どのような層が多いでしょうか。

尾村さん:近隣に住む方が7割ぐらいですね。残りの3割は電車、バス、お車で来られるお客さまです。

メディアなどでお店を取り上げていただくことも多いので、番組などをご覧になって遠方から来られる方もいらっしゃいます。通行人数は平日で平均35,000人、休日は最大70,000人ほど。年に一度調査していますが、毎年だいたい同じくらいの人数です。

――地元に密着した商店街で、それほどのお客さまが来ているのはすごいですね。武蔵小山駅前は再開発が進んでいて、2019年と2021年にタワーマンションが2棟、その他に商業施設が完成しています。客層などは大きく変わりましたか?

尾村さん:再開発によるタワーマンション建設前から、近隣に戸建てやマンションなどが多く建つようになりました。20代から40代ぐらいのご夫婦やお子さま連れなど、若い世代のお客さまが増えている印象はありますね。

再開発により将来、商店街周辺の環境が大きく変わる予定です。今後も全体で協力し、武蔵小山のまちを盛り立てていきたいと思っています。

武蔵小山駅前のタワーマンションと商業施設「THE MALL」

武蔵小山駅前のタワーマンションと商業施設「THE MALL」

年間で約20回! 多彩なイベントを行うようになった理由

――「ムサコたけのこまつり」や「おさかなフェア」「さくら祭り」など、年間で大小20 以上のイベントを実施されているそうですが、どのように企画運営されているんでしょうか?

ムサコたけのこ祭り

ムサコたけのこ祭り(武蔵小山商店街の公式Xより)/figcaption>

尾村さん:武蔵小山商店街では昔からお祭り、福引、抽選会など、さまざまな行事を行ってきました。今は売り出しセールや縁日、物産展もあれば、お子さま向けの収穫体験といった遠足企画も実施しています。

一般的な商店街の事務局は受付や事務を担当する方が1~2名という場合が多いのですが、武蔵小山商店街は広報宣伝、防犯防災、会館や駐車場などの施設管理を12名のスタッフで分担しています。

イベントは年間の計画に基づいて行いますが、小規模のもの、例年に則ったイベントは事務局だけでも対応できます。

――振興組合が組織化されているって全国的にも珍しいですよね。ちなみに事務局も含めた商店街の運営費用はどのようになっているんでしょうか?

尾村さん:振興組合独自で運営する直営立体駐車場と駐輪場の収入ですね。商店街とその周辺にいくつか不動産を所有しているので、その家賃収入もあります。先人の商店街店主さんたちが「後世につなげられるように」と組合設立当初から土地を取得し、商店街会館や駐車場をつくってきました。

――未来を見据えて考えられていたんですね。1952年にはクレジットサービスの前身とも言える割賦販売事業も始められています。先人はアイデアマンだったんですね。

尾村さん:現在はクレジット機能付きのポイントカードになっていますが、当時は戦後間もない時期でお客さまもお金がなかったんです。そのため、帳面でお客さまごとの利用枠を管理していて、一括でなくても買えるように商店街全体で取り組みを始めたと聞いています。

商店街独自のポイントカードとして、プリペイド機能付き、クレジット機能付きのカードを展開している

商店街独自のポイントカードとして、プリペイド機能付き、クレジット機能付きのカードを展開している

ポイントカードへのチャージはパルム会館1階ポイントサービスセンターで行える

ポイントカードへのチャージはパルム会館1階ポイントサービスセンターで行える

商店街として子どもたちの思い出づくりにも貢献

――数多くのイベントを行うことで、集客への効果はいかがでしょうか。

尾村さん:ポイントアップデーや、パルムクレジットカードで決済するとポイントバックされるセールなどは、やはり直接の集客に結びつきます。ただ、子どもたちを対象にしたイベントは集客を直接の目的とはしていないですね。

幼少期に商店街で楽しい体験をしたことで「いい町だったな」って思ってもらいたいんです。例えば、成長してからまたこの街に帰ってきたり、お店を開いてくれたり、誰かに「武蔵小山っていい街だよ」って伝えてくれたり。PR活動の一環というか、地域貢献のひとつとして行っています。

武蔵小山商店街振興組合事務長の尾村優太さん

――なるほど。では、日々たくさんのお客さまが来られる中で、商店街として心がけていること、課題に感じていることはありますか?

尾村さん:常に心がけていることは、お買い物や街歩きを気持ちよく、不便なく楽しんでいただくことです。

例えば、2019年には商店街会館のお客様用トイレをリニューアルして個数を増やし、多目的トイレも設置しました。すると、お子さま連れの方や車椅子のお客さまからうれしいお声をいただいて、整備して良かったと思いましたね。

課題については、今まさに取り組んでいるもののひとつに自転車の駐輪対策があります。武蔵小山エリアは平たんな道が多いので、自転車を利用して商店街に来られる方がたくさんいらっしゃいます。

アーケード下の道路は品川区の公道なので、自転車を停めると本来は路上駐輪になってしまうんです。2023年に整備したパルムお客様用駐輪場をはじめ、周辺には複数の駐輪場があるのですが、それでも路上駐輪はなかなか減らず……。ご近隣の方からお叱りを受けることもあります。商店街でも啓発放送や、スタッフによる巡回整理などで対応するようにしています。

――路上自転車についてはどこの商店街も課題になっているかもしれませんね……。その他、例えば全国には“シャッター街”と言われるほど空き店舗が目立つ商店街がありますが、武蔵小山商店街はこれまで、そうした危機はなかったのでしょうか?

尾村さん:おかげさまで、これまでシャッター街と呼ばれるような危機はありませんでした。逆に1960~1980年代は、お客さまであふれかえって売上がレジに入りきらないほどだったとも聞いています。

――すごい……そういう時代もあったんですね!

特色あるお店と商店街を盛り上げたい

――商店街の運営や街づくりなど、日頃から各店舗とどのように足並みを揃えておられますか?

尾村さん:組合会員さん専用のLINEグループをつくり、イベント開催や合同消防訓練、工事のお知らせなど、営業に必要な情報を回覧板のようにお伝えしていますね。その他、「お店の前に路上駐輪があって困っている」と聞けば貼り紙を出したり、お店同士のトラブルの仲介に入ったり、逆に「商店街にあるお店とコラボしたい」という相談を受けたり。コラボについては制約を設けていないので、お店さん同士が良ければぜひにと。日々、さまざまな場面でお店の方々とやり取りをしていますね。

組合会員の連絡用だけではなく、商店街としてもLINE公式アカウントを開設し、情報を発信している

組合会員の連絡用だけではなく、商店街としてもLINE公式アカウントを開設し、情報を発信している

――今後の商店街運営として、空き店舗の増加や店主の高齢化、後継者不足も課題のひとつにあるのではと思います。商店街事務局として、何か対策を取られていますか?

尾村さん:やはり店主の高齢化や後継者不足で撤退される店舗は少なからずあります。商店街として不動産仲介などをしているわけではないので、各店の判断にお任せしていますね。

――そうなんですね。では、今後「こういうお店が商店街に入ってくれたら」というような思いはありますか?

尾村さん:お客さまから「こういうお店に入ってほしい」とご要望をお寄せいただくこともあります。個人的には、この商店街ならではのお店や、この周辺にしかないお店が入ってくれるとうれしいですね。
また、若い世代のお客さまも多いので、今後も特色あるお店に入っていただきたいなと思っています。

「パルム」という名前は公募で決定。パルは友達、ムは武蔵小山に由来する

「パルム」という名前は公募で決定。パルは友達、ムは武蔵小山に由来する

【武蔵小山商店街に出店しているお店の本音】

2023年4月に武蔵小山商店街にオープンした「蒸気蟹居酒屋Steam Crab Labo」の田中店長にもお話を伺いました。

――お客さまはどんな方が多いでしょうか?

各テーブルに設置した卓上スチーマーで蒸したてのカニや海鮮を楽しめる、日本初の業態

田中さん:50代以上のお客さまが多いです。年配世代の方がカニに対して受けるインパクトが大きく、興味を持っていただける要素があるのではないかと感じます。オープン直後は近隣住民の方が主体でしたが、テレビ取材などをきっかけに遠方からも来ていただけるようになりました。

――実際に出店してみて、印象はいかがでしょうか?

田中さん:普段から通行人数が多く、「気になってたのよね」「いつか行こうと思っていて、今日ようやく来れた」と言ってくださるお客さまが多いです。最初のうちは直接来店につながらなくても、潜在/見込み顧客として獲得できていると感じました。

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【取材先】

武蔵小山商店街パルム

武蔵小山商店街パルム
住所:東京都品川区小山3-23-5
Web:武蔵小山商店街パルム公式サイト
Twitter:武蔵小山商店街パルム公式X
nstagram:武蔵小山商店街パルムInstagram

取材・文/田窪 綾
調理師免許を持つフリーライター。惣菜店やレストランで8年ほど勤務経験あり。食分野を中心に、Webや雑誌で取材やインタビュー記事作成、レシピ提案などを行っている。

編集:はてな編集部