会員権はわずか数分で完売!?ファン続出の完全会員制・住所非公開パフェバー「Remake easy」に潜入

全国6店舗を構える完全会員制・住所非公開のパフェバー「Remake easy」。基本的な会員募集はクラウドファンディング上でのみ行われ、不定期の追加募集もたった数分で終了してしまうほどの人気店です。店を手掛けるのは、パティシエ起業家を名乗る、CEO兼プロデューサーの林 巨樹(はやし・おおき)シェフ。クローズドな経営手法を取る「Remake easy」が、なぜこれほどまでお客に愛されるのか。謎に満ちた話題のバーが人気の理由に迫ります。

目的はパティシエ&パティシエールの働き方改革!林さんが「Remake easy」を手掛ける理由

――林さんが「Remake easy」に携わることになったきっかけを教えてください。

小学生の頃からパティシエになると決めていて、調理学校を卒業後、フランスに渡りました。学びの多い留学経験でしたが、フランスで生き生きと働く多くの若手職人を目にするうちに、従来の日本のパティシエの働き方に疑問を持つようになったんです。それこそ10代から活躍する職人も多いフランスと違い、日本ではたいてい10年間は修業に励むという習わしがあり、独立して活躍できるのは、ほとんどが30代からです。この慣習が日本のパティシエやパティシエールの成長を妨げているのではないか。そう考え、帰国後は理想的なパティシエの働き方を求めて、さまざまな挑戦をしました。

まずは自分自身がパティシエとしての技術を実践的に積みたいと考え、間借りのデザートバーを開いたのですが、経営の知識が不足していたため3カ月ほどで閉店することになってしまったんです。その後も諦めることはできず、今度はパティシエの働き方を経営的な視点から見直そうと、飲食関連のベンチャー企業で働きながらフードビジネスの経営方法やアライアンス事業の展開方法、ITを活用した人材育成術などを学びました。知見を蓄えた後、2020年にパティシエの起業サポート事業を行う「株式会社Bross」を立ち上げました。そして事業を運営する中で、経営が芳しくなく廃業寸前だった「Remake easy」の立て直しの相談が来たんです。

林さんは、若きパティシエ&パティシエールの登竜門ともいえる「ルクサルド・グラン・プレミオ」という大会で最年少入賞を果たした実力者

当時は自社ブランドを継続可能な事業へと進化させる方法が見えてきた頃だったこともあり、お断りしようと考えていたのですが、実際に店舗へ行ったときに考えが変わりました。普段は厨房(ちゅうぼう)にいてお客さまと直接関わることのないパティシエが、この店ではカウンターの内側に立ち、お客さまと話をしながら目の前でスイーツを作って提供していたのです。この店なら新しいパティシエの働き方が実現できるかもしれない――そう思い、「Remake easy」に経営面でのコンサルタントとして関わることに決めました。

完全会員制・住所非公開。情報を制限することで生み出される特別な食体験

――「Remake easy」が他のパフェバーと一線を画すポイントは、「完全会員制・住所非公開」という点だと思います。どのような意図があるのでしょうか。

一言でいうと情報規制です。SNSが発達し、誰もが自由に意見や感想を発信できるようになったことで、ポジティブな発言もネガティブな発言もすぐに拡散されるようになりました。昔より情報収集がしやすくなった一方で、断片的かつ真偽が定かではない情報に、多くの人が振り回されている面があるように感じます。

例えば、せっかく「行ってみたい」「食べてみたい」と思ってくれたとしても、「価格が高い」「(自分が)思っていたものと違った」といったネガティブな口コミを目にしたら、店に足を運びたくなくなってしまうかもしれません。だからこそ、お客さまに食を楽しんでもらう前に、「期待値を下げないまま来店に導く」必要性が高まっているのです。

そこで「完全会員制・住所非公開」にすることで、来店意欲の高いお客さまのみを招くことができます。タピオカブームの時にタピオカ店がたくさんオープンしたように、ひとたびブームになるとそれに関連した飲食店が一気に開業しますよね。でも類似した商品を販売する店が増えると、「いつでも食べられるもの」として商品自体の価値は下がってしまい、結局ブームの終了と同時に廃業してしまうケースも多々あります。一方で当店の場合、仮にSNSやメディアで情報を目にしても、すぐに利用できるわけではありません。簡単に足を運べる場所でないからこそ、来店のモチベーションが高まり、店を訪れる体験自体が幸福度の高いものになるんです。

――逆に、「完全会員制・住所非公開」であることのデメリットはありますか。

住所非公開のため、マップ上で検索できませんし、口コミもありません。同じように、完全会員制のため、SNSで目にしてもすぐに予約することはできません。「たまたま見つけたから行く」「うわさを耳にして、気になったから行く」というような気軽な来店が期待できないのは、集客する上で大きなデメリットですね。

来店するお客さまが制限されるということは、当然ながら、自店の商品を誰にでも届けられるわけではないということを意味します。「丹精を込めて作った料理をできるだけ多くの人に食べてほしい」と願う場合は、ジレンマを感じるかもしれません。

――確かに集客はかなり難しそうですね……。デメリットを乗り越えるために、どんな手を打ったのでしょうか。

オープン前にクラウドファンディングを行いました。住所を公開していて誰でも入れる一般的なお店なら、実際にビラを配ったり、席に余裕がある日は店頭で呼びかけたりすることで集客できますよね。

一方、住所非公開の店ではこの手法はとれません。そこで、クラウドファンディングを広報の場として活用しようと考えました。クラウドファンディング上でオープンを周知し、注目を集められれば、予約の受け入れや利用券の発行という形で、オープン後の客数をある程度確保することができます。そうすることで住所非公開でも客入りを過剰に心配せず、来店されたお客さまへの接客やパフェ作りに集中できるんです。

また、当店では支援いただいたリターンとして、バーの会員権をお渡ししていますが、設定している支援額は決して低くないので、興味がある人は支援を決める前にクラウドファンディングのページをじっくりと読んでいただけます。店のコンセプトや想いをしっかり受け取り、お金を出す対象として妥当かどうか吟味した上で支援するので、お店への理解度が高く、来客の可能性も高いお客さまが集まるのです。

林さんはクラウドファンディング熟練者。「Remake easy」で働く前から、おがくずを使ったハーブティー、お家でパフェを楽しめるキット、廃棄の必要がない飴細工でできたストローなど、クラウドファンディングを活用したさまざまなプロジェクトを手掛けてきたそう

――完全会員制だとお客さんも特別感を味わえそうですね。

お客さまの間では、口には出さずとも「会員制のお店に通う者同士」という一種の仲間意識はあると思います。会員権を持つ人だけが足を踏み入れることができるという事実は、一つのステータスにもなるでしょう。

また、スタッフを通じて知り合った方々で、新しいコミュニティーができることもあります。中には、意気投合して一緒に別のお店へ行く方々もいらっしゃいますよ。

コロナ禍で生まれた「女子会」と「パフェ接待」需要に合致!

――実際に、どういった利用シーンが多いのでしょう。

女性の場合は、「女子会」ですね。コロナ禍を経て2名などの少人数で食事をする方が増えた印象がありますが、当店でも、パフェと一杯のお酒で日々の疲れを癒やされている方が多いですね。

男性の場合は、意外と一人で来店されることもあります。最近はスイーツ好きを公言する男性も増えていますが、カフェや洋菓子店などは女性客が多いイメージがあり、足を運びづらい方もいるようです。しかし、当店は住所非公開で看板も出てないので、来店しやすいのだと思います。

あとは「パフェ接待」としての利用も多いですね。仕事上の付き合いとはいえ、接待や飲み会が苦手な方にとっては、パフェと少しのお酒というペアリングは「パフェを食べ終わるまで」という時間制限がある程度ありますし、ある意味コストパフォーマンスやタイムパフォーマンスがいいと言えるのかもしれません。

ほかにも夫婦やカップルのデート利用、少人数での打ち上げやお店を貸し切ってのイベントなど、利用シーンは多岐にわたります。パフェバーは、「パフェ」と「バー」という距離の離れた2つを組み合わせているので、ラーメン店や居酒屋などと違って「こんな時に適したお店」というイメージを持たれにくく、それが逆に、さまざまなシーンでの利用につながっているのだと見ています。

誰が作っても、どこから食べても、“パーフェクト”なパフェ

――パフェのこだわりを教えてください。

一般的に、湿度や気温によって体が欲するものは変わるため、メインのメニューに加え、季節ごとの体の状態に合わせたパフェも提供するようにしています。例えば、8月になると体力の消耗が激しく体はクエン酸を欲するので、レモンやパイナップルなど酸味のある素材を選ぶなど工夫しています。

季節のパフェはだいたい販売の2カ月前から考え始めますが、その月に一番おいしいと思えるパフェを提供したいので、メニューを考案するための作業部屋は、常に2カ月先の平均気温と湿度に設定しています。お客さまの体の状態をなるべく具体的に想像することで、自然とその月に合ったパフェの構想が生まれてくるんです。

また、お客さまがどこから食べ始めても“パーフェクト”なおいしさを感じられるよう、素材同士の温度や食感の相性までこだわっています。

例えば、一番人気の「イチゴの花畑パフェ」は9つのパーツから作られるパフェですが、クリームの上に載っているイチゴは、あえて常温に戻して使用しています。常温にすることで甘い匂いがより香り立ち、嗅覚でもイチゴを楽しんでいただけます。

パフェの中にもふんだんにイチゴを使っていますが、こちらは3口目以降に現れるアイスクリームと合うように、冷やしたイチゴを使っています。じつは、口の中の温度変化はおいしさを感じることに大きく関係しています。例えば、アイスクリームは冷たいのにイチゴが生ぬるいと、口の中で微妙な違和感を生んでしまうんです。

素早くも正確で美しい手さばきに、思わずくぎ付けになってしまう

さらに、パフェのスプーンは、あえてイチゴ1個分しか載せられない大きさにしています。一度に口に運べる食材の量を調整することで、口内の水分量とクリームの割合が絶妙なバランスになるようにコントロールしているんです。

――一つのパフェに相当なこだわりが詰まっているんですね!全国に複数店舗展開されていますが、味や見た目の再現性はどのように担保しているのでしょうか。

再現性については、かなり気をつけています。僕自身、複数店舗へのフルコミットは難しいですし、商品開発や他の事業をしていることもあって、各店舗に月1日程度しか出勤できていません。

そのため、あえて電子レンジで作るようにしているレシピもあります。例えば、牛乳を沸騰させる際に、その牛乳の温度や気圧など調理する環境によっても、実は微妙に沸点が変わってきます。一方、電子レンジのマイクロ波は、物質の分子を振動させることで熱を発します。そのため、作業場所の室温・湿度、作り手の技量などに依存せず、一定のクオリティーを保つことができるんです。

もう一つ大切にしているのが、できないことは無理にやらないようにすることです。パフェのメニューにはメレンゲのクッキーなどの焼き物も使用していますが、焼き物は技術を要するため、専用のセントラルキッチンを用意してプロに作ってもらうようにしています。

パフェは複数の素材が組み合わさって一つの作品になります。一個一個の素材が70点だと、最終的な完成度がかなり低くなってしまいます。だからこそ、作る人によって完成度にブレが出ないように戦略的にレシピを設計していく必要があります。

すごいのはパフェだけじゃない!?訪れる者を魅了する“パーフェクト”な空間づくり

――これだけかわいらしいと、思わず写真に収めたくなっちゃいますね。

はい、パフェには食べる以外に、見る・共有する楽しみもありますよね。そんな方のために、店内はパフェが最も美しく撮影できるように設計されています。例えば、テーブルの照明はパフェの真上に設置して、パフェに影ができないようにしています。

林さんいわく、「店にとってパフェはアイドル、カウンターはステージ!」。パフェが最大限美しく見えるための内装づくりに一切妥協はない

また、椅子の高さとテーブルの高さも全て計算しました。座ったままスマートフォンでパフェを撮ろうとすると、斜め上45度の角度から店舗のSNSやメニュー表と同じ写真が撮れます。それをお客さまがSNSにアップすると、それを見た方から「おいしそう!」「かわいい!」と共感していただけるのです。広告としてもとても良い働きをしてくれますね。

誰でもメニュー表と同じ角度で、美しいパフェの写真撮影ができる

――そこまで計算されているなんて、驚きです。店内のあらゆるところに、お客さんに“パーフェクト”な食体験を提供する工夫が凝らされているんですね。ほかにも何か工夫はありますか。

例えば、カウンターテーブルの奥行きは90cmに設定しています。この幅が絶妙で、ビストロなどの一般的な飲食店のカウンターよりも20cmほど広めに設計しました。スタッフとの間にある程度距離があるため、お客さまは安心して自分の空間に浸ることができます。かといってスタッフと遠すぎることもないため、複数名で来店された方にメニューの説明をする際なども、ほかのお客さまにとって耳障りにならない声量でお話しすることができるんです。

誰が座っても心地よくホールドされるサイズ感にこだわった椅子は特注。「パフェを撮ろうと思ったらスマートフォンのバッテリーが切れていた!」ということにならないよう、カウンターには電源も付いている

あとはお客さまから作業しているところが見えないように、カウンター下の作業台の高さも計算していますね。カウンターがステージだとしたら、作業台はステージ裏。もし見えてしまったら、なんだか夢が覚めちゃうじゃないですか。

人によって差はありますが、お客さまは平均して3カ月に1回程度のペースで通ってくださっています。一度や二度ではなく、何度も足を運んでいただけるということは、もはや店の雰囲気そのもののファンになってくださっているんです。だからこそ、パフェだけでなく、このバーでパフェを楽しむこと自体が“パーフェクト”な体験になるように、細部まで気を抜けません。

夢はパリ支店!実現に向けて京都・祇園店を準備中

――次のステップとして思い描いていることがあればお聞かせください。

直近の目標は京都・祇園での店舗展開です。こちらは、日本特有の「侘び寂び文化」をコンセプトにする予定なので、完全無欠な世界観を提供する「Remake easy」と、ある意味では真逆とも言えるお店です。「Remake easy」とは全く別の店と捉えているので、もちろん名前も変える予定ですし、クラウドファンディングもしないかもしれません。

――次のお店もやはり、「完全会員制・住所非公開」でしょうか。

そのつもりです。ただし、「Remake easy」に来たことがある方だけにご紹介する予定です。いわば、現代版の「一見さんお断り」のお店ですね。店内にBGMは流さず、照明は和ロウソクのみ。千利休がやろうとした世界観を、僕たちになり再現したお店です。

「Remake easy」で目指した“パーフェクト”で普遍的な美しさもあれば、それと相対する刹那的な美しさもありますよね。和ロウソクに照らされたパフェは、瞬間ごとに表情を変えるので、二度と同じ写真は撮れません。そういったことからも、今この瞬間を生きていると実感できるような体験を提供したいと考えています。

――将来的には海外展開なども視野に入れているのでしょうか。

いつになるかは分かりませんが、フランスのパリに支店を持つことは、一つの大きな夢ですね。フランスでの修行中に思ったのですが、日本のフルーツは世界一おいしいんです。そして、パフェはフランスの「パルフェ」というアイスケーキが元になっているのですが、パルフェにはフルーツが載っていません。フルーツやアイスに生クリームが載っているパフェは、日本の喫茶店文化の中で独自に進化した形なのです。

こんなにおいしいパフェを日本だけで食べるなんて、もったいないですよね。いつかは日本のパフェをパリに持って行こうと思っています。その際に使用するのは、もちろん日本から取り寄せたフルーツです。

まだまだ漠然とはしていますが、日本のフルーツにスポットライトが当たるようなメニューを開発して、パリの人たちに日本のフルーツのおいしさを知ってもらう。そして、パフェを食べて幸せな気持ちになっていただきたいという夢を持っています。

取材先紹介

Remake easy 新宿店


取材・文安倍川モチ子

鳥取県出身で東京在住のフリーライター。2011年よりライター(たまに編集者)として活動しはじめ、現在はWebメディアを中心に、グルメ、エンタメ、歴史、ライフスタイルなどの幅広い分野で執筆している。

写真田淵日香里
企画編集株式会社 都恋堂