
東京・代官山のカレー店「ハブモアカレー」の店主・松崎洋平さんに、店内BGMのこだわりを伺いました。
飲食店においてBGMはどんな役割を果たすのでしょうか。また、BGMにこだわることにどんなメリットがあるのでしょうか。
音楽制作の知見を店舗運営に活かす、東京・代官山のカレー店「ハブモアカレー」の店主・松崎洋平さんに、音域の調整方法から選曲の考え方まで「お客さんに意識させない音」をつくる工夫を教えていただきました。

- 松崎洋平さん
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1979年生まれ、千葉県出身。音楽制作会社、広告代理店の音楽部門を経て、飲食業界へ。新宿の「curry草枕」(閉店)で働きつつ、月2回のみ要町のカフェで「ハブモアカレー」の間借り営業を始める。2015年、表参道に実店舗をオープン。2021年に代官山へ移転。
※飲食店でJASRACなどの著作権管理団体が管理する楽曲をBGMとして使用する場合、原則として著作権管理団体への申請と許諾、使用料の支払いが必要となります。なお、有線放送などの業務用音源を使用する場合は、提供事業者が著作権管理団体と手続きしており、店舗側の手続きが不要となることもあります。使用前に契約内容を確認してください。
「曲がかかっていると意識させないこと」にこだわる理由
――まずはハブモアカレーのコンセプトを教えてください。
松崎さん:「野菜を食べる、スパイスと食べる」です。野菜がメインといっても、ベジに特化しているわけではなく、野菜の旨味を引き出すためのカレーをつくっています。最近は発酵食材にも力を入れています。
――ハブモアカレーは店内のBGMにこだわっていると伺いました。選曲で大事にしていることは何ですか?
松崎さん:「何かしらの曲がかかっていると意識させないこと」です。知っている曲がかかっていたり、ボリュームが大きかったりすると、曲に意識を持っていかれることがありますよね。曲の良し悪しを問わず、自分のお店ではそうしたくないと思っているんです。あくまで料理や店内の雰囲気を味わってほしい。
なので、歌詞の意味が分かる日本語の曲は、まず流しません。洋楽やインストゥルメンタルが主体です。そして歌詞がある曲も、ヒップホップのように言葉数が多いものはなるべく避けています。
――たしかにお店でJ-POPが大音量で流れていると、つい聴いてしまいますもんね。
松崎さん:「この曲を聴いて」と主張してくるタイプのお店が、個人的に苦手なんです。だから自分の店では、曲に主張させず、雰囲気の一部として溶け込ませたい。完全な無音ではなく、鳴っているのに気づかない程度に。帰り道に「そういえば、こういう雰囲気の曲がかかってたね」と思い出すくらいの印象にとどめるのがベストだと思っています。
――(BGMに耳を傾けながら)空間と一体化していて、良い意味で曲自体の主張を感じませんね。心地よい。とはいえ、まったく印象に残らないわけではなく、かといって印象に残りすぎるわけでもなく、というバランスを保つのは難しそうです。
松崎さん:そうですね。そこは「異国感」という雰囲気のコンセプトに沿って選曲しているので、印象に残らないエレベーターミュージック(商業施設などで流される環境音楽)のようにはなっていないと思います。

BGMと普段聴く音楽は「まったく別物」
――シチュエーションごとに流す曲も変えているのでしょうか?
松崎さん:そうですね。天候や営業時間帯(ランチ・ディナー)に合うものを選んでいます。たとえば雨の日は、ビートのないアンビエントやドローンっぽいもの。豪雨なら、ピアノの曲をかけたり。夏ならダブっぽいもの、冬ならデジタルっぽくないアコースティックなものが多いですね。

――お話を伺う限り、BGMは普段聴く音楽とは違うもののようにも感じますね。
松崎さん:まったく別物だと捉えています。自分の普段聴いている曲を流しているわけではないので。先ほども少し触れましたが、僕にとってBGMはあくまで店の雰囲気を伝えるツールなんです。
――以前のインタビューで「意図的に低音域をカットしている」と話されていましたが、これは今も続けているのでしょうか?
松崎さん:続けています。これも個人的な好みで、低音がズンズン鳴っている飲食店が苦手で食欲も湧かないので……。
ただ、正確にはカットではなくオーディオ機器のイコライザーを使った「シェルビング(ある周波数から上または下を持ち上げたり抑えたりすることで、音域に段差をつける技術)」ですね。カットすると音がスカスカになってしまいますが、シェルビングだとなだらかで違和感なく低音を抑えられます。
さらに、音響の工夫ではありませんが、この漆喰の壁が高音域を吸収して反響を減らしてくれるんです。

コンクリートの壁だとキンキンうるさくなるところが、漆喰のおかげで高音がそこまで目立たない。この効果は後から気づいた「副産物」ですね。
――そのほか、音響面で工夫していることはありますか?
松崎さん:自分の中に「理想の飲食店」があるんです。天井がすごく高くて、ホールのように音が鳴っている店。それに少しでも近づけるために、再生機器のエフェクトで、ほんのわずかリバーブをかけて、残響を足しています。
――なるほど、この心地よさにはそうした細かな工夫が詰まっているわけですね。音響の知識がないお店でも取り入れられる方法はあるんでしょうか?
松崎さん:そうですね。まずは客席に座って、料理を食べながら、お客さんにBGMがどんなふうに聴こえているかを確かめてみるといいのではないでしょうか。

うちも配線の都合などでベストな位置にスピーカーを取り付けられているわけではないのですが、席ごとに、また営業時間帯ごとに聴こえ方は変わります。
――機材の面ではいかがでしょう?
松崎さん:特殊な技術や機材は使っていないので、誰でも再現できると思います。今使っているオーディオ機器にイコライザーがあれば、ベース(低音)を少し絞るだけでもいい。iPhoneに標準搭載されているミュージックアプリにも「Bass Reducer」という設定があるので、それを使ってみても変化を実感できると思います(※)。
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BGMを意識しなければ、理想の雰囲気は完成しない
――先ほどBGMはお店の雰囲気を伝えるツールというお話も出ましたが、松崎さんにとってBGMのコントロールは、雰囲気づくりの中でどれくらいの比重を占めているのですか?
松崎さん:4〜5割くらいでしょうか。雰囲気を伝えるうえで、とても大切な要素だと思います。お店のブランドイメージそのもの、とすら言えます。
なぜなら、BGMは店に入ったとき最初に飛び込んできて、雰囲気の土台になる情報だからです。

内装やインテリアを動かない「静的」な雰囲気づくりと捉えるなら、BGMや香りは時間によって移ろう「動的」な雰囲気づくり。だから内装やインテリアだけで雰囲気に統一感をつくるのは難しいんです。
――BGMで雰囲気をつくるには、何から考えればいいでしょうか?
松崎さん:うちであれば「異国感」のように、まずはお店のテーマです。
どんな雰囲気の店にしたいかが決まれば、それに沿って選曲すると統一感が出ます。もちろん、店主が好きな音楽をかけてもいいし、逆にBGMがないほうがいい店だってある。
でも、BGMを雰囲気づくりに活用すると、お店の印象はけっこう変わると思います。
――松崎さんご自身はもともと空間の雰囲気を設計するのが好きだったんですか?
松崎さん:小さい頃から好きでしたね。入った瞬間に「うわっ」と思うような統一感のある空間がすごく好きで。
それを自分の店で突き詰めた結果、「自分」が邪魔になっていったという感じです(笑)。
気になるあのお店のLINE公式アカウント活用事例
【取材先】
ハブモアカレー
住所:東京都渋谷区猿楽町2-13 F93 Daikanyama 1F
TEL:03-6416-1099
営業時間:11:45-16:00(L.O.15:30)/18:00-20:30(L.O.20:00)
定休日:土曜
HP:https://havemorecurry.jp/
Instagram:@havemorecurry
取材・文/花沢亜衣
東京生まれ。食や暮らしにまつわるジャンルを中心にWEBメディア・雑誌で編集や執筆を行う。三度の飯より食べることが好き。一番好きなお酒は青空の下で飲むお酒。2023年J.S.A.ワインエキスパート呼称資格取得。2025年5月に酔談録『二軒目は路面店』を発売。
Instagram:@aipon79
写真:加藤岳
編集:はてな編集部


