間借りでファンとノウハウを獲得!開業希望者と飲食店をつなぐマッチングサービスとは

バーの営業時間外を利用してランチだけ開店するカレー店、ビストロの定休日を利用して週1だけ営業するカフェなど、飲食店において間借り・間貸しという新しい営業スタイルの需要が高まっています。

そこで、間借り・間貸しのメリットや起こりがちなトラブルなど、気になる疑問について開業希望者と既存飲食店をつなぐマッチングサービスを提供する株式会社シェアレストランの藤田新さんと、実際にサービスを利用して間借りで「冒険香る牛すじカレーの店Roman Kitchen」を経営する山本考司さんに聞きました。

サービス誕生の背景に、飲食店の廃業率の高さ

昨今、定休日やアイドルタイムを活用した店舗スペースの貸し借りが普及しつつあります。このシェアリングの仕組みを構築し、開業希望者と飲食店オーナーを結びつけるマッチングサービス「シェアレストラン」を提供しているのが、吉野家ホールディングスグループの株式会社シェアレストランです。

「シェアレストラン」のホームページでは各店舗の間貸しスペースの写真や設備、利用可能日時、月々の利用料などが公開され、開業希望者はその中から条件に合う店舗を探すことができます。サービスを利用して間借り開業した飲食店は750件以上、登録数は現在約5,500人と年々増加しており、需要の高さがうかがえます。

実店舗ありきだった従来の飲食店開業の概念を変えた画期的なサービスが生まれた背景には、飲食業界の社会問題があるとゼネラルマネージャーの藤田さんは話します。

代表の武重準さんのもと、飲食店の開発事業に携わり、新しいベンチャーサービスの立ち上げにも尽力した藤田新さん。「シェアレストラン」は2018年に開発・試験運用が始まり、2020年にサービスを正式リリース

「弊社代表の武重が当時、飲食店の開発事業に長年携わる中で感じていたある課題に着目したことが、サービス開発のきっかけでした。多くの人がチャレンジしやすい飲食業は開業者が多い一方で、中小企業庁『2022年版 小規模企業白書』によると、全産業の平均廃業率3.3%に対して宿泊業・飲食サービス業の廃業率は5.6%と、他の産業と比べても非常に高い業界です。飲食店の開業には小さな店舗でも約1,000万円の初期投資がかかります。お客が来なければ収益が出ず、ランニングコストがかさみ、短期間で廃業するケースもあります。

たった一度の失敗で立ち直ることができなくなった飲食店経営者を数多く目の当たりにする中で、この業界のあり方自体を変えることはできないだろうか、と思っていました。そんな時に大阪を中心に“間借りカレー”というものが流行していることを知ったのです」

高額な初期投資を行う前に、まずは間借りから始めて経験と実績を積むことで、独立後も安定した集客に成功していた間借りカレーのビジネスモデルを参考にしたといいます。

「“間借り営業から実店舗へ”という流れが飲食店開業のスタンダードになれば、飲食業界が抱える問題が解消されるのではないか。その解決策として誕生したのが『シェアレストラン』でした」

「シェアレストラン」のホームページより

間貸し側のファンも増える!?「シェアレストラン」のメリットとは

従来、間借りサービスの利用者は、いつか自分の店を持ちたい料理人やカフェの従業員、バーテンダーなど飲食業界の人がほとんどでしたが、最近は意外にも会社員が副業として間借り営業するケースも増えているといいます。

「コロナ禍でリモートワークが増えたことで、人とつながる機会をつくりたいとの思いから会社勤めの方が週に1日バーを開店するなど、副業として利用するケースが全体の4割(2024年4月時点)まで増えています。こうした新しいニーズにも対応できるのが間借りサービスです」

間借りは既存飲食店の空き時間を利用するため、賃料や設備投資は不要で、水道光熱費や保険料を含む月額利用料金だけで安心して始められるのが大きなメリット。藤田さんはこの利点を生かし、間借り期間でファンを増やしておくことが、飲食店経営を成功させるための必須ポイントだと説明します。

「ファンを先につくっておくと、実店舗を構えた時点ですでにお客がついているため、安定した集客や収益が見込めます。そのため、間借り営業を始める方には、まずは6カ月継続していただくようにお伝えしています」

一方、間貸し側が抱える課題についても、「シェアレストラン」を利用することで解決するケースが増えています。

「コロナ禍を経て店舗でお酒を飲む人が減り、居酒屋やバーでも酒類の売り上げが減りつつあります。また、昨今は人手不足からランチ営業を辞めざるを得ない店も多い。そうした状況下で、間貸しを活用して収益を改善したい飲食店経営者に、当社のサービスを利用いただいています」

間貸し側にとって大きなメリットになったのが、営業時間外を活用して収入を得られること。また、間借り店のランチを利用した人が、ディナーの時間帯にも来店するきっかけにもなり、新規顧客が増えるチャンスも広がります。

「昼も夜も営業している状態になることで店自体が活性化し、認知度を上げるための取り組みも兼ねるなど、多くの相乗効果が見込めます。『シェアレストラン』の利用がより増えていけば、先に述べた飲食店の廃業率を抑制することができ、飲食業界全体の問題解決につながるのではないかと考えています」

サービス利用者必見。マッチングを成功させるため4つのポイント

では、実際に間借り希望者と飲食店オーナーとのマッチング成立には、どんな注意点があるのか。事前に準備することや確認したいポイント、コツについてまとめました。

1. 【間借り側】事前にコンセプトを設計する

藤田さんによると、マッチングで一番重要なのは、店舗の明確なコンセプトを設計すること。ターゲットとなる客層、メニュー、価格設定、提供するドリンク類、必要な調理器具などの要素が事前に決まっていると、マッチングしやすい傾向があります。

「飲食店オーナーとの面談や内見の際に、コンセプトが明確に固まっていてしっかりPRできると、飲食店オーナーは具体的に店舗の使用状況をイメージすることができるため、スムーズに話が進みやすくなります。また、コンセプトが後に大きく変わると、オーナーとの齟齬が生じて運用面で難しくなる場合もあるので、なるべく事前に明確にしておくことが重要です」

2. 【間借り側】保管スペースは念入りに確認

店舗を探す際に必ずチェックしたいのは、冷蔵庫や保管場所などのスペースがどのくらいあるか。基本的にキッチンスペースや冷蔵庫などはシェアすることが多いため、メニュー内容や提供量によっては、食材やドリンク類などの保管にどの程度のスペースが必要かを確認しておくことが重要なポイントとなります。

「中には、マッチングが成立して間借り営業を始めたものの、清掃やゴミの処理、利用できるスペース、冷蔵庫内の食材管理などに関して互いに齟齬が生じてしまい、トラブルに発展するケースもあります。内見の際にチェックし、どのくらい使用可能かを確認しましょう」

3. 【間貸し側】賃料を上げすぎない

店舗オーナーは間借り側が支払う月額利用料を設定することができますが、その価格設定がポイントとなります。藤田さんによると、価格が低いほどマッチングの成功率が上がるとのこと。

「少し高めに価格を設定したい気持ちは分かりますが、高すぎると借り手がつかなくなる傾向があるため、オーナー側には価格設定についてアドバイスさせていただくこともあります。例えば週5〜7日の昼時間を間貸しするオーナーには家賃の半額ぐらいを目安にしていただくよう、説明しています」

4. 【間貸し側】掲載する画像にこだわる

キッチンの設備や内装などの雰囲気を重視して決める人が多いため、サイトに公開する写真は重要です。公開する画像の点数を多めに用意するほか、内観はなるべく画質が良く店舗の雰囲気が伝わりやすいものを使用することがポイント。間借り側も具体的に自分が使用する様子をイメージできるため、物件に興味を持ちやすくなります。

「目安としては、厨房のガスコンロや冷蔵庫・冷凍庫、その他の保管スペース、また、客席部分についてもカウンター席・テーブル席などが分かる画像など、厨房・客席と合わせて5枚以上準備することをおすすめしています」

間貸し側の利用を増やすことが今後の課題

2018年に試験運用が始まり、2020年に正式リリースした「シェアレストラン」のサービスは、飲食店業界の課題を踏まえ、これまで間借り・間貸しの両者の店舗経営をサポートしてきました。

2024年4月時点でサイトに登録している間借り希望者が5,500人ほどに対し、受け皿である飲食店オーナーの登録数は1,150件ほどと圧倒的に少ないため、今後も飲食店オーナーの登録者数を増やすための地道な営業活動が必要だと意気込みます。

「飲食店オーナーの中には、『グレーな取り引きをしてもめ事が起きるのが怖い』と、間貸しに少なからず抵抗を持っている方もいらっしゃいます。『シェアレストラン』は、マッチングが成立して間借り営業が軌道に乗れば、双方にとってメリットの大きいサービスです。廃業率の高い飲食店における助け舟となるだけでなく、業界全体を活性化させてくれる新しいビジネスモデルとして認知を広げていきたいですね」

飲食店開業の新しい形として、期待値が高まりつつある間借り営業。実際に間借りで開業している人は、どのような手応えを感じているのでしょうか。サービス利用者にインタビューしてみました。

夢はベーカリーレストランの経営!メニューやオペレーションを間借り店舗で試行錯誤

「シェアレストラン」を利用して間借りカレーを営業する「冒険香る牛すじカレーの店Roman Kitchen」の山本考司さんは、2023年10月に初めて間借り営業をスタート。紆余曲折を経て数カ月の間に2回移転しましたが、現在は事業も安定しています。

2023年12月から「世界一周 旅ダイニング居酒屋PUSHUP 秋葉原店」のランチ時間帯に間借り営業する山本さん

――「シェアレストラン」の利用に至った理由や目的を教えてください。

私は15年間、イタリアンを中心に飲食店で働いていました。将来はベーカリーレストランを経営したいと思っていますが、その前のステップとして、オペレーション含め店舗を経営することに慣れておきたくて「シェアレストラン」を利用しています。

――サービスを実際に利用して感じた間借りのメリットはありますか?

備品がすでに揃っているため初期費用を抑えられること、そして店がすでに飲食店として認知されていることは開業希望者としてはありがたいですよね。間貸ししている店舗の常連さんが昼に間借り営業していることを知って、足を運んでいただけることが多いんです。一方で、たまたまランチに訪れてくれたお客さんが、夜帯の営業に興味を持っていただけることもあります。双方の往来が増えることで集客面での相乗効果も感じていますね。

――逆に課題として感じる点があれば教えてください。

今回で3店舗目の間借りなのですが、冷蔵庫やキッチンはどこまで使用させてもらえるか、備品はどこまで貸してくれるかなど店舗ごとに条件が異なるので、念入りに確認する必要があります。契約前と契約後で相違があったことから、トラブルに発展したこともありました。食材などを保存するスペースが十分に確保できなければ、満足のいくメニューを提供することはできません。現在のお店は、オーナーさんとも良好な関係を築けているので満足しています。

――間借り営業を成功させるために必要な視点は何でしょうか?

間借り営業は時間に制限があるため、限られた時間内で利益を生む仕組みができているか、ワンオペで回せるのかといったことを、間借りする前によく検討する必要があります。私自身、将来的にベーカリーレストランを経営したいですが、オーブンなどの設備のある店舗はなかなかなく、仕込み時間なども十分に取れないため、メニューはワンオペで回せるカレーに絞りました。

器やグラスなどは既存店のものを利用しているが、カレー専用のスキレットは山本さんが持ち込んでいる。看板メニューは、だしに漬け込んだカブの旨みを最大限に活かした「始まりの冒険カレー」

ほかには、短い営業時間帯でもしっかりお客さんに認知してもらうために、コンセプトをとがらせるなど店の「強み」を持つことが必須ではないかと感じています。例えば、この店のテーマは「冒険」です。冒険をほうふつとさせるようなBGMやメニュー名にこだわったり、ワクワク感を創出するためにスキレットでカレーを提供したりしています。

また、料理自体も「この店舗ならでは」の味を意識していて、提供しているカレーは香味野菜炒めに2時間、鶏ガラだし抽出に3時間、牛すじ煮込みに3時間をかけ、修業時代に培ったイタリアンの技法を取り入れて自分の味を追求したオリジナルです。間借り期間中に見つかった課題を試行錯誤しながら解消し、実店舗を持つまでにファンを増やして成長していきたいですね。

まとめ

高額な初期投資や廃業率の高さなど、これまでハードルが高かった飲食店開業も「シェアレストラン」のような間借りサービスの登場によって、失敗のリスクが下がり、チャレンジしやすい状態が整いつつあります。間借りから実店舗へという流れがスタンダードになれば、飲食業界にとっても大きな変革。この新しいビジネスモデルに今後も注目です。

取材先紹介

株式会社シェアレストラン
冒険香る牛すじカレーの店Roman Kitchen
取材・文味原みずほ

敬食ライター。B級グルメから星付き店まで都内レストランを中心に取材・執筆。料理人をはじめ生産者、料理研究家、ブルワー、マルシェ出店者へのインタビューなど食・農のフィールドで活動中。

写真田淵日香里
企画編集株式会社 都恋堂