「まんべんなくうまい店」は選ばない。“食いしん坊政治家”渡辺やすしさんに聞く、良店の探し方

現職の新宿区議会議員であり、SNS上では無類の外食好きとして知られる“食いしん坊政治家”の渡辺やすしさんに「お店の探し方」を伺いました。


食べ物に惜しみなくお金や時間を使う人、いわゆる「フーディー」たちは、行くお店をどのように選んでいるのでしょうか。
渡辺やすしさんは、15年以上前から「新宿のなべやす」のアカウント名でX(Twitter)に食レポを投稿し続け、議員となった今なお、グルメ情報を積極的に発信されています。
そんな渡辺さんに、これまでの膨大な外食経験を通してたどり着いた「お店選びの哲学」を伺いました。

新宿区議会議員 渡辺やすしさん

渡辺やすしさん

1985年生まれ。早稲田大学法学部、同大学院公共経営研究科修了。産経新聞記者を経て、東京ニュース通信社で編集者として勤務。2023年、完全無所属で新宿区議会議員に初当選。世代間格差是正と、歳出改革による減税をテーマに政治活動を行う。

X:@nabe_yas1985

公式LINE:渡辺やすし公式LINE

YouTube:渡辺やすし公式チャンネル

「5歳から祇園の割烹に通う」筋金入りのうまいもん好き

――Xのグルメコミュニティーでは「筋金入りのフーディー」と見なされている渡辺さんですが、そもそもなぜ外食を楽しむようになったのでしょうか?

渡辺さん:京都出身で、祇園の常連であった父と一緒に割烹に通うような暮らしを5歳頃からしていました。「ええもんを食べるのが好き」だった父や、祇園で遊ぶ大人たちの背中を見て育ったんですよね。

――とても早熟ですね。食にまつわる情報を発信するようになった時期やきっかけは?

渡辺さん:Xを始めたのは2010年頃、大学生の頃からです。食べ歩きというよりは、当時「女性を口説くのに最適なお店」をよく探していたので、私と同じくそんなお店を探している人の参考になればと。Xでは、『東京いい店やれる店』*1のような、「デート向きの店」や「朝帰り後に行くべき朝食」とかをよく発信していました。

思えばこの頃は、こうした「デート論」を語るのがはやっていたんですよね。それに私は、昔からグルメエッセイを読むのも好きだったので、独自の視点で食にまつわる情報を発信したいなと思っていましたから。特に福田和也さんや坪内祐三さん、色川武大さんといった食通の作家や文芸評論家が、料理やお店について辛口で語る様子にすごく影響を受けていましたね。

就職してからは少し休止していたのですが、2013年ごろ再開し、都内を中心に平日ランチや仕事終わりに行くうまい店を紹介するようになりました。毎日仕事でいろいろな場所に行っていたので、自分の備忘録やフォロワーさんへのシェアのような感覚に変わっていったんですよね。

なぜグルメ情報を発信するのか。それは、普段どういうものを食べているか、どういう店のひと皿に感動しているのか、という話題を通じて、私がどういう人間なのかを開示したかったからです。

それに、うまい飯って働くモチベーションになるでしょう。「あの料理また食べたいな」「前回はいつ頃行ったっけ」という感じで見返すことも多いです。

新宿区議会議員 渡辺やすしさん

行くお店は「ハレの飯」と「ケの飯」にカテゴライズ 

――外食される頻度はどのくらいでしょうか? 

渡辺さん:昼は週3回、夜は週2.5回ぐらいの割合ですね。和食、フレンチ、中華、エスニックと何でもバランスよく行きますが、私の中ではジャンルというより「ハレの飯」と「ケの飯」で分けて考えています。

――「ハレの飯」は具体的にどのような定義なのでしょうか。

渡辺さん:普段とは異なる、特別な日のことを「ハレの日」っていうじゃないですか。その意味から私にとって特別な意味のある食事を指します。客単価3万円前後、もしくはそれ以上のお店が多いですね。

そして、新規開拓するというより、通いたいお店を厳選して、だいたい春夏秋冬、年に4回くらいのペースで順繰りに回っています。何度も行って店主の人柄や料理観を知りたいし、「今回はこういうアプローチなんだ」という発見が楽しいので。

今通っているのは、例えば、銀座の鮨店「青空(はるたか)」や、会員制のイタリア料理店「鈴木家」です。

 

――では「ケの飯」はどのようなお店ですか?

渡辺さん:「ケ」は日常という意味なんですけど、いわゆるランチのような日常的な食事ができる店ですね。安くておいしくて、待たずに入れるお店が中心です。私もそうだけど、一般的なビジネスマンがランチに使える時間って30~40分程度でしょう。その限られた時間でも「午後の労働も頑張ろう」と思えるようなうまい飯を食わせてくれるお店って日頃からストックしておきたいですよね。Xでは「#なべやすの昼ごはんでっせ」というハッシュタグにまとめています。

まとめると、「ハレの飯」に求めることが個々のお店のこだわりや世界観だとしたら、「ケの飯」に求めるのは「安い・早い・うまい」というわかりやすいパフォーマンスですね。

新宿区議会議員 渡辺やすしさん

良店のシグナルは「男ひとり客」

――渡辺さんは、普段どのようにお店探しをされていますか? 

渡辺さん:「ハレの飯」に関しては行く店がだいたい決まっていますけど、新規開拓する場合は、自分が好きな作家や料理家、よく通っている飲食店の店主がおすすめしてくれたお店だとアタリの確率が高いですね。映画もそうじゃないですか? 好きな映画評論家が「面白い」と太鼓判を押す映画は、自分にとってハズレがない、みたいな感覚です。

「ケの飯」は直感で入ることが多いので、自分の好みに合わない「ハズレ」もよく引いていましたよ。でも、ランチなら1000円程度だし、ハズレてもいいかなって。

絶対失敗したくないならチェーン店に行けばいいのですが、そもそも私は料理を通じて店主の人生観を知るのが好きだから、個人店推しですね。

――「ケの飯」は直感で入る、とのことですが、具体的にどんな基準でお店に入るかどうかを決めているんでしょうか。

渡辺さん:外観なら、ちょっとボロい年季の入っている店がうまそうだなと思います。それと、ちょっと中をのぞいてみて、男性のひとり客が多かったら、私にとってはアタリの確率が高いです。経費を使った会食でなく、デートに利用して女性に何かをアピールするわけでもない。自腹を払って、一人でここの飯が食べたい、っていう男性が来る店はうまい店だと判断しています。

……といってもほとんど感覚的なものだから、良い店を嗅ぎ分けるためには場数を踏むことが必要ですよね。今では「ハズレ」を引くことはほとんどなくなりました。

――なるほど……。ではこれから自分好みの「アタリ」の店を多く見つけたい人は、どういう風にお店探しをすればいいと思いますか? 

渡辺さん:やっぱり、好きなお店の店主におすすめしてもらうことじゃないですかね。例えば、会社の裏にあるトンカツ屋とか、家の近くのラーメン屋とか。客単価の高い店じゃなくても、よく行く個人店って誰でもひとつはあると思うんですよ。

そのお店に気に入って通うってことは、きっと店主との感性も合うと思うんで。だから、店主に「よく行く店ってどこですか」ってストレートに聞いてみるのがいいでしょうね。私もよく聞いてますよ。

あとは、失敗や空振りを恐れないこと。グルメサイトやインフルエンサーが発信する意見は、あくまで他人の評価ですから。他人の評価に一度背を向けて、ただひたすら自分の好みに合う店を探して、突き詰めて行った方が面白いんじゃないですかね。

飲食店はお客に合わせてチューニングしなくていい

――では、飲食店に向けて「もっとこうしたら食いしん坊に見つけられやすくなる」といったポイントがあったら教えてください。

渡辺さん:飲食店経営については全然わからないので、あくまで「うまいもん好きが飲食店に求めていること」として聞いてほしいんですけど。

「もっとこうしたら食いしん坊に見つけられやすくなる」とか、考えなくていいです!SNSやインフルエンサーの意見を気にせず、自分の出したい料理を貫いてほしいです。

例えば、私が何年も通っている「青空」のシャリは、酢がしっかりきいているんですよ。私は最初「苦手やな」って思ったんですけど、どうして酢をここまできかせているのか、その理由が知りたくなったんです。それで何度か通ううちに「このネタの強さには、この酢飯の酸っぱさが合うんやな」ってわかるようになってきました。

もし「渡辺さんは酢がキツイの苦手でしたよね、少し控えめにしておきました」なんてチューニングされたら、興ざめして次から通わなくなったと思います。

「ハレの飯」のコース料理でも、「客単価3万なんだから全部満足させてくれ」なんて思ったことはないです。コース全体でまんべんなく満足したいなら、価格と質のバランスが良いホテル飯でいいじゃないですか。8品のうち、2~3品でも「これはすごい」とインパクトを感じられればもう十分。個人店では、食に対する価値観がアップデートされていく感覚を楽しみたいんですよ。

だから、個人の飲食店にはぜひ、自分が表現したい料理を自信を持って出してもらいたいと思いますし、そうした店が繁盛するといいなと思っています。

――個性的な個人店が増えると、お店選びも楽しくなりそうですよね。

新宿区議会議員 渡辺やすしさん

渡辺さん:そうなんですよ。現在、新宿はもちろん、全国各地で大規模な再開発事業が進んでいます。飲食業界も「資本力勝負」になってきた印象で、個人店は減少傾向にありますよね。でも、資本力やマーケティング力を持った店ばかりだと街が平板になり、どんどんつまらなくなると私は思っていて。

それに、私がまずいと思った店でも、誰かはうまいと思って通っている。そうした多様性が、街や飲食店には絶対に必要なんです。だからこそ、店主の個性はどんどん打ち出してほしいし、個性的なお店こそが生き残ってほしい。これまでいろいろなお店で味わわせてもらった楽しさや学びを、今後は街づくりや区政にも生かしていきたいなと思っています。

 

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取材・文:田窪綾
編集:はてな編集部

 

*1:作者はホイチョイ・プロダクションズ。「女性とのデートで使える店の紹介」に特化したグルメ本。1994年にベストセラーとなった