飲食店にとっては、定期的に足を運んでくれる常連さんは嬉しい存在ですが、お客さんからすれば「行きつけ」にしたいお店の基準も人それぞれ。店内がこぎれいで気さくな店員がいるお店が好きな方もいれば、ガンコ親父が無愛想に中華鍋を振るう(しかし料理は絶品!)ようなお店が好きな人もいるでしょう。
そこで、行きつけにしたいお店の条件についてアンケートを実施。料理がおいしいだけではなく、自分にとって適切な距離感をとってくれるお店を好む、常連さんたちの本音が見えてきました。
(「おなじみ編集部」調べ n=158)
「行きつけのお店」を求める人は多い
まず、「行きつけと思える飲食店はありますか?」という質問に対し「はい」と答えた人は、なんと全体の70%。また、「いいえ」(30%)と答えた人でも、「行きつけの飲食店があったらいいと思いますか?」という質問には、85.5%の方が「はい」と答えています。こんなに多くの人が「行きつけの店」を求めていたとは――。
一人あたりの行きつけのお店の数で最も多かった回答は「3〜5店」(54.9%)。次いで、2位が「2店」(26.5%)でした。これもまた、予想よりも「多いな」という印象。中には行きつけの店「10店以上」(0.9%)というグルメサイトの常連レビュアーみたいな猛者も……。
行きつけのお店に行く頻度で一番多かった回答は「月2〜3回」(32.7%)。多くの人は2週間に1度ほど通う店を「行きつけ」と認識しているのかもしれません。
「おいしい」だけでは常連にならない
では、どのような理由で「行きつけのお店」になるのでしょうか。「行きつけになった理由は?」という質問への回答は以下の通り。
圧倒的に多かった回答が「料理のおいしさ」(85.8%)。どんなに雰囲気のいいお店でも、料理がおいしくなければ積極的に通う理由にならないということでしょう。それを裏付けるように、「行きつけにしたいお店に必要なものは?」という質問への回答でも、
・一番は料理のクオリティー
・家から近くて、料理がおいしい
・他店と同じだけど一捻りしたメニュー(お!?というちょっとした感動)
という、メニューやおいしさに言及するコメントが数多く寄せられました。確かに「あの店、最高だよね。……味以外は!」という話は聞いたことがないかもしれません。
おいしい料理が食べられることは大前提として、続いて多い回答が「店主の人柄や関係性」(51.3%)。「行きつけになったな、と思った瞬間はどんなとき?」という質問でも、
・名前を覚えてもらった
・帰り際に「いつもありがとう!」と言われるようになった
・スタッフと親しくなった
・店長と飲みに行くようになった
という回答が寄せられるなど、スタッフとの距離感が縮まることで、お店への愛着も増していることが分かります。
でも、私は声を大にして言いたい。「店員さんの距離感が極端に近いと、怖くないですか!?」と。アンケートでも「接客サービスが熱心すぎず、ある程度放っておいてくれる雰囲気」がいいというコメントもあり、そのお客さんにとって一番心地の良い距離感をとってくれるお店が行きつけになりやすいということなのかもしれません。
「行きつけにしたいお店に必要なものは?」という質問には、以下のような回答もありました。
・居心地の良さ、立地的な行きやすさ、付かず離れずの接客
・カウンター席、一人で入りやすい雰囲気
・家と比較したとき、それでも行きたいという面倒さを超える魅力
出不精の人間にとっては、ちょっと近くの店に行くのも億劫なものなので、最後の意見は納得できます。本当に好きなお店に出合うと「もう、ここが家になればいいのに!」と思ってしまうのは、私だけではないはず。
居心地の良さとは、適度なフレンドリーさ
逆に「行きつけになりにくい飲食店の特徴は?」という質問には、
・店員の態度が悪い
・店員さんが怖い
・店員さんが無愛想
といった回答が目立ち、やはりスタッフの人柄や接客態度の悪さはネガティブ要素になりやすいようです。共感できるのが次の回答。
・シェフがスタッフを怒鳴っている声が客席に聞こえるなど、シェフの機嫌で店が支配されている
たぶん、この店で食べたら料理の味がしないと思います。その他、
・常連さんが偉そうにしている
・常連の輪がすごすぎて入れない
・常連っぽい先客が優遇されている
・一部の常連ばかりを相手にしていて新規客に気遣いがない
という意見も少なくありませんでした。私事ですが以前、友人と地方に遊びに行ったとき、思いつきでランチをやっている見知らぬスナックに入ったのですが、扉を開けると、そこは地元のおじいちゃん、おばあちゃんが昼間からカラオケを楽しむ完全に異質で内輪な空間。
でも、店主のおばちゃんがよそ者にもとても優しく、気まずい思いをせずに楽しむことができました。すっかり気に入って、翌年にも遊びに行きましたよ。常連さんだけを重視しない、開かれた雰囲気や適度なフレンドリーさがあるお店は行きつけになりやすいですね。
同じ質問では、以下のような回答もありました。
・客の素行が悪い、変な客がいる
・店員同士でずっと笑って話している
・店主が頑固すぎる
・独自ルールがありすぎる
お店のこだわりがお客さんを遠ざけてしまうことも……。うまくバランスをとるのは難しそうです。ちなみに、私のかつての行きつけだった近所の中華料理店は「巨人戦でホームランが出ると、席番と打順が同じ人に缶ビールが振る舞われる」という独自ルールがあり最高でした。そういうハッピーなルールであれば大歓迎ですよね。
最後に、今は常連になっている飲食店がないけど、行きつけの店を見つけたいと思っている人は、行きつけが見つからない理由をどのように考えているのでしょうか。
・「きっかけがない」(58.8%)
・「いいお店に出合っていない」(39.2%)
・「恥ずかしくてお店の人(店主や従業員)と話せない」(17.6%)
・「探す時間がない」(11.8%)
などに回答が集中しました。
常に「行きつけのお店」は探しているけど、たまたまいい巡り合わせがないだけ。そんな人が多いのかもしれません。
人ぞれぞれの「行きつけのお店」に対する価値観が見えてきた意識調査でしたが、「料理のおいしさ+お客さんそれぞれに適した快適な距離感」を保つことは、共通して行きつけになりやすいお店の条件となりそうです。
ただお店の視点に立つと、一見しただけで、お客さんが求めている距離感を判断するのは至難の技。お客さんが何かしら意思表示できるシステムがあるといいのかもしれませんが……いかがでしょうか。
文/小野和哉
1985年、千葉県生まれ。フリーランスのライター/編集者。盆踊りやお祭りなどの郷土芸能が大好きで、全国各地をフィールドワークして飛び回っている。有名観光スポットよりも、地域の味わい深いお店や銭湯に惹かれて入ってしまうタイプ。
イラスト/オギリマサホ
1976年東京生まれ。イラストレーター/文章家。シュールな人物画イラストを描くかたわら、街歩きや野球、哲学についての文章を書く。著書『斜め下からカープ論』(文春文庫)。
http://ogirima-saho.com/