明るくチャーミングな店主・アンちゃんが営むカジュアルバー「どんまるてぃん」。2022年、浅草の横丁に誕生したこの店では、彼女の故郷・ペルーのブドウの蒸留酒「ピスコ」と本格焼酎が楽しめる。男女を問わず1人客が多い理由は、分け隔てのない明るい接客にある。ガイド役が、その魅力を深堀りする。
お店の特徴
今回の案内人を紹介
沼 由美子さん
ライター、編集者。醸造酒、蒸留酒を共に愛しており、バー巡りがライフワーク。著書に『オンナひとり、ときどきふたり飲み』(交通新聞社)。執筆に『EST! カクテルブック』、編集・執筆に『読本 本格焼酎。』、編集に『神林先生の浅草案内(未完)』(ともにプレジデント社)などがある。
1人飲みの門戸が広い街、浅草の”小さな南米”
いつだって賑やかな街、浅草。大通りから入った裏道や、またその奥の小路にも飲食店が連なり、さまざまな人種の観光客や地元客、老若男女が行き交う。2022年、寄席「浅草演芸ホール」からも近い活気ある地区に誕生したのが「どんまるてぃん」だ。
聞きなれない店名は、異国の単語か人名か。これは、店主・大城アンドレアさんの父親の名前から名づけたものだ。大城さんは、在日ペルー人3世。ペルーで生まれ、3歳から小学生まで日本で育ち、中学生・高校生・専門学校生の時代を再びペルーで過ごし、23歳でまた日本へ。ペルーと日本を行き来し、両方の文化を体感してきた。
天真爛漫な笑顔でお客を迎える彼女は、みんなから親しみを込めて「アンちゃん」と呼ばれている。当記事でも、店の雰囲気が伝わるよう「アンちゃん」と呼ぶことにしよう。
店の入り口には、存在感のある大きなアルパカのぬいぐるみがお出迎え。明るく装飾された店内には、サルサやメレンゲ、バチャータといった陽気なラテン音楽が流れ、足を踏み入れた途端に明るい気分になってくる。「浅草の“小さな南米”と呼ばれています。飲んで気分がよくなると、踊り出すお客さんもいます(笑)」とアンちゃん。
浅草に店を開いたのは、日本で社会人や飲食店の経験を積んだのがこの土地だったから。それに、「浅草は1人飲みの門戸の広い街」であることも大きな理由だ。
「私自身、1人飲みが好きでよく飲み歩いていたのです。浅草は女性も男性も1人飲みする人が多く、1人客ウェルカムなお店も多い。お店側が違う店を紹介してくれたりもする。都会の中の村というか(笑)、ほっとかれないくらいの距離感が居心地よくて、自分が店を開くなら浅草、と思っていました」
1人飲みポイント①
ホームパーティーのようなラフさで立ち寄れる
沼
ラテンのリズムに手作り感のある装飾。これまでの浅草にはなかったお店の雰囲気で、店内に入るだけで明るい気分になります。
アンちゃん
ペルーでは頻繁にホームパーティーを開くんです。友人の友人も交ざって、飲んだり食べたり、踊ったりしてわいわいと。この店も、ホームパーティーに訪れるような気軽さで遊びに来てもらうことをテーマにしています。
沼
1人で飲みに来るお客さまは、どれくらいいらっしゃいますか?
アンちゃん
大体7割ぐらいでしょうか。その割合は男性6割、女性4割ほどで、30代から40代の方が多いですね。会社帰りの方や近隣にお住まいの方、飲食店を営んでいる方もいらっしゃいます。うちは、1人客ウェルカム。私自身が1人飲みをしていましたから。1人でも立ち寄りやすい雰囲気づくりをしています。
沼
どんな風に楽しまれる方が多いのですか?
アンちゃん
1人で静かに飲む方が多いですね。サクッと飲んで帰る方もいれば、じっくりいろんな蒸留酒を味わって、カウンターで何時間も過ごす方も。週に何度も来てくれる常連さんもいらっしゃいます。
1人飲みポイント②
ピスコと本格焼酎の奥深い蒸留酒の世界に没頭できる
沼
「どんまるてぃん」で楽しめるお酒は、ペルーやチリで造られるブドウを原料にした蒸留酒「ピスコ」と、日本の国酒である本格焼酎です。アンちゃんのバックボーンにあるピスコに加えて、本格焼酎を扱っている理由は?
アンちゃん
ピスコを提供するのは、ペルー人である使命として。焼酎は、もともと大好きだからですね。飲食店で働いていた時も、本格焼酎に力を入れるお店で経験を積みました。この2つのお酒、似ているところもあるんですよ。ピスコはざっくり分けると、「芳香系」のブドウ品種であるイタリアやトロンテルを使ったフルーティーなタイプ、「非芳香系」のブドウ品種のケブランタやネグラキリオラで造る滋味深いタイプの2つです。焼酎も原料や造りによって芳香系と非芳香系に分けられると思います。
沼
ピスコは日本であまり知られていないお酒だと思いますが、どのように紹介されていますか?
アンちゃん
そうですね。ピスコを初めて飲む方も多いので、初来店のお客さま限定の「ピスコ飲み比べセット」を用意しています。「芳香系」「非芳香系」を少量ずつ飲み比べできて、手頃な価格に設定しているので、1人で来店されてもその違いや自分の好みを体感していただくことができます。
焼酎が好きな人なら、好きな焼酎のタイプからお薦めのピスコを提案することもありますし、ピスコの好みのタイプから焼酎をナビゲートすることもあります。例えば「芳香系」のピスコが好きな方には、“フラミンゴオレンジ”、”ちらんちらん”といった華やかなフレーバーの芋焼酎を炭酸割りで。「非芳香系」が好みの方には“八幡(はちまん)”、“佐藤”、“八千代伝”といった芋焼酎をお湯割りで提供したりします。
沼
面白い~!共通点のあるピスコと焼酎をクロスオーバーして楽しめるということですね。奥深い世界です。両方のお酒を知り尽くすアンちゃんならではのナビゲートです。
アンちゃん
メインのお酒の種類を二本柱にすることで、その場でスイッチングしながら飲むだけでなく、ピスコを目当てにいらした方が、次回は本格焼酎にトライしようと再訪してくれたり、その逆のパターンもあります。いずれにせよ、二本柱にしたことが再訪してくれるきっかけになっています。
1人飲みポイント③
「寂しい思いをさせない」。そんな心意気のフレンドリーな接客がうれしい
沼
接客面で気を配っていることはありますか?
アンちゃん
実は、この店の裏テーマとして自分の中で掲げているのは「お客さんが寂しい思いをしない店であること」なんです。静かにしたい人やマイペースで飲みたい方はそっとしておきますが、話しかけてコミュニケーションを取ったり、そこにいるお客さんの会話とつなげたり、さりげない気配りをしています。
沼
そんな話をお聞きすると、むしろ1人で訪ねてみたくなります(笑)。
アンちゃん
でも、ほかのお客さまに迷惑をかける方にははっきり注意しちゃいます。裏表のない接客をしたいと思っています。
沼
お店の雰囲気を守るのは大事なことですね。
アンちゃん
仲良くなったお客さまたちが、テーブルに移動してカードゲームを始めることもあります。何種類か店に常備して、自由に使えるようにしているんです。イベントもよく開催します。料理人である私の夫も全面協力してくれて、ビーチで夏焼酎を楽しむ会を開いたり、お花見をしたり。
沼
お客さんと密な関係が築けている証拠ですね。
アンちゃん
これからはピスコの勉強会も開いていきたいですね。それと、酒販免許を取って、販売を通してピスコの普及をしたいとも考えています。いつかペルーの蒸留所にみんなで訪ねていけたらいいな。国内の本格焼酎の蔵元にも案内できたらいいな、なんて考えています。
沼
勉強会だと初めての方でも1人で参加しやすいし、ピスコや焼酎のファンが増えたらうれしいですね。
「1人飲みは1人じゃない」を感じさせてくれる店
アンちゃんの今後の展望に夢が広がる。初めての味に挑戦したり、飲み比べでその特性を知る体験を通して蒸留酒の奥深い世界に触れることができる「どんまるてぃん」。それでいて堅苦しい雰囲気はゼロ。興味があったら仲間に入って!という心意気が感じられる。
「どんまるてぃん」で感じるのは、「1人飲みは本当の1人じゃない」ということ。だから、みんなアンちゃんの店に足を運んでしまうのだ。
取材先紹介
- どんまるてぃん
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住所:東京都台東区浅草1-41-5
電話:03-6802-7708
Instagram: https://www.instagram.com/donmartin.asakusa/
- 取材・文沼 由美子
- 写真野口岳彦
- 企画編集株式会社 都恋堂