6年間毎日ハンバーガーを食べ続けているハンバーガーマニアのえどぽよさんが通うお店とその共通点についてお話を伺いました。
一度ならず、何度も足を運んでくれる“おなじみさん”は、飲食店にとって心強い存在です。そうした常連客の心をつかむお店は、どのような工夫をしているのでしょうか。また、お客さんから見てどういうお店が「通いたくなるお店」なのでしょうか。
今回お話を伺ったのは、「毎日ハンバーガーを食べ続けている」というハンバーガーマニアのえどぽよさん。約30年前に食べたグルメバーガーに感動して以来、ハンバーガー専門店はもとより、ハンバーガーが食べられるお店をくまなく探し、訪ね、Instagramで紹介しています。これまで訪れたお店は2,000軒以上。えどぽよさんが感じるハンバーガーの魅力、そして通いたくなるハンバーガーショップの特徴をたっぷりと伺いました。
- えどぽよさん
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毎日1食以上ハンバーガーを食べているバーガーマニア。これまで訪れた店舗は累計2,000店舗以上。チェーン店から個人店まで幅広く通っている。2023年にはテレビ番組「マツコの知らない世界」にも出演。
Instagram:@edpoyoburger
- ファストフードチェーンのハンバーガーではなく「グルメバーガー」に惹かれたワケ
- うまいハンバーガーは「ビルド」が違う
- えどぽよさんが通う、味はもちろん、居心地のいいお店とは?
- お店の運営は「絶対したくない(笑)」。その理由は?
ファストフードチェーンのハンバーガーではなく「グルメバーガー」に惹かれたワケ
――これまで2,000店以上のハンバーガーショップを訪れたえどぽよさんが、ハンバーガーを好きになったきっかけを教えてください。
えどぽよさん(以降、えどぽよ):学生の頃、友人の家の近くに「FIRE HOUSE」(東京・本郷三丁目)がオープンし、友人とそのお母さんの3人で食べに行ったのがすべてのはじまりです。
パティの圧倒的な肉感とバンズのおいしさに「ハンバーガーってこんなにうまいのか!」と感動しまして。当時はハンバーガーといえば、ファストフードチェーンのものくらいしか食べたことがなかったので、全然違うぞ、と。
そこから、ファストフードチェーンのハンバーガーとは一味違う、食材や調理法にこだわった「グルメバーガー」に夢中になりましたね。
――現在ではグルメバーガーというジャンルも確立されていますが、そもそも巷にファストフードチェーンとは違うハンバーガー専門店が増え始めたのはいつ頃からなんですか?
えどぽよ:2000年前後でしょうか。1996年には先ほど紹介した「FIRE HOUSE」、翌年に「KUA`AINA」(東京・青山)、2000年に「BROZERS'」(東京・人形町)など、後にグルメバーガーブームを牽引していく店舗が続々オープンしています。
でも、「グルメバーガーブーム」の火付け役は2015年に日本上陸した「SHAKE SHACK」(東京・外苑前)と言われています。ファストフードとは違う、肉肉しくジューシーなパティを使用した「SHAKE SHACK」がオープンし、連日メディアが取り上げたことでリッチなグルメバーガーが世の中にも知られるようになりました。
時を同じくして「BROZERS'」や「FIRE HOUSE」で修行した方々が独立し、そこからどんどん専門店が増えていきました。特に東京などの大都市では新店出店の勢いがすごいですね。
うまいハンバーガーは「ビルド」が違う
――えどぽよさんは、そんなグルメバーガーを毎日食べているんですよね?
えどぽよ:そうですね、1日1食は必ず食べています。日によっては2食、3食のときもあります。昼4軒、夜3軒で合計7軒くらいまではおいしく味わえますよ。
仕事柄、出張で地方に行くことが多くて、そのときはここぞとばかりに食べちゃうのですが、1日に8軒行ったときは、結構つらかったです(笑)
――Instagramを見ていると、全国各地のお店に行かれていますよね。行くお店はどうやって決めるんですか?
えどぽよ:県やエリアを決めて、端から端までローラー作戦的にくまなく行くことが多いです。先日、静岡に行ったのですが、静岡の一番西側の三ヶ日町から浜松までくまなく探しました。浜松が思ったよりお店が多くて、1泊2日では食べきれず。まだいくつか残っているのでまた行かなくちゃいけないなと思っています。
――すごい……。そんなに毎日ハンバーガーを食べていて、飽きることはないんですか?
えどぽよ:これが、全然飽きないんです。同じお店のハンバーガーだけをずっと食べていたら飽きるとは思いますが、お店ごとにバンズも違うし、ビルド(ハンバーガーの組み立て方)も違うし、パティの種類も違うから、どれも全く違う。
――そんなに1個1個違うんですか?
えどぽよ:違いますよ! バンズひとつ取ってもかたいものも柔らかいものもあります。パティは基本的にひき肉を使ったミンチパティが主流ですが、東京の三軒茶屋にある「Baker Bounce」をきっかけに、ブロック肉を手切りして細かくしながら成形するハンドチョップのパティがここ10年くらいで増えています。肉は切り方で食感が変わりますし、産地によっても肉質や牛脂の旨みが全然違いますから。
オニオンも焼くか生のままかで印象が変わりますし、味付けも塩胡椒だけのところもあれば、バーベキューソースやケチャップマスタードを使うお店もある。
ビルドは奥が深くて、具材の並べ方で味が全然違うんです。一番下にパティがあると肉肉しく、野菜があると逆にバランスの取れた印象になる。実は、ひっくり返して食べると、味が変わるんですよ。お店の方が完成させたビルドなので、もちろんそんな失礼なことはしませんけど。
――ハンバーガーのビルドに注目したことはありませんでした。面白いですね。
えどぽよ:狙う食感や風味を実現するためにどう組み立てるか、お店の方は相当考えているはず。何通りもある組み立て方の中から、そのビルドになったのはどうしてだろうと考えると、お店の人が伝えたいことが分かるような気もしてきます。お店によってはメニューごとにビルドを変える店もあるんですよ。
丁寧なビルドをしているお店は、一つひとつの仕事が綺麗なんだなと好感が持てます。
――えどぽよさんが頼むのは、どんなメニューが多いんですか?
えどぽよ:その日の気分にもよりますが、通称「ABC」と呼ばれるアボカドベーコンチーズバーガーが好きでよく頼みますね。できる限り新規開拓をしたいので、1つのお店に何度も行けるわけではありません。なので、そのお店のオーソドックスな味をしっかり味わうために、限定メニューよりは、人気No.1メニューやフラッグシップバーガーを選ぶことが多いです。
ただ、オーソドックスなメニューを食べて「おいしい」と思ったお店が変化球のメニューを提供していると、「また来て食べたい」となりますね。
例えば、愛知県・豊橋の「THE ROOTS」というお店で、ベーコンチーズバーガーを食べたんですけど、味がすごくきれいで。このお店なら変わり種も絶対においしいだろうなと思いました。最近、フルーツを使ったハンバーガーがトレンドなのですが、「THE ROOTS」には期間限定のアップルモッツァレラチーズバーガーというのがあって。甘いりんごをトッピングすると「味がブレてしまうのでは?」と思いましたが、あの「THE ROOTS」なら「きっとバランス良く味をまとめているのだろう!」と期待できます。
えどぽよさんが通う、味はもちろん、居心地のいいお店とは?
――今日は表参道にある「THE BURGER STAND FELLOWS(表参道)」でお話を伺っていますが、ここもよく来られるお店なんですか?
えどぽよ:そうですね。もう何度も通っているお店です。
――何度も通っている理由はなんなのでしょうか?
えどぽよ:まずはハンバーガーが本当においしいことですね。炭火の香り漂うパティは肉肉しく、自家製ベーコンは脂の旨みもしっかりあります。
ただ、それだけでなく、店主との距離が近くて、話がいろいろできて、居心地のいいお店であることも大きいですね。
――お店の方とはどんな話をされるんですか?
えどぽよ:店主さんがハンバーガー好きなので、シンプルにハンバーガーの話をしますね。例えば、最近食べたハンバーガーについて情報交換をしたり。他の店でもそんな感じですよ。
――他にも通われているお店、通いたいお店として、いくつか名前を挙げていただけますか?
えどぽよ:まずは東京・淡路町の「THE GRABBER hamburger pub」。ここはオレンジチーズバーガーやレモンチーズバーガーなど個性的なメニューの多いお店です。野菜にはハンバーガーにあまり使われないサニーレタスが使われていて、シャキシャキというよりフワフワした食感を楽しめます。それに、クラシックチーズバーガーはピクルスや玉ねぎのソテーもたっぷりと入っていてめちゃくちゃうまい。
バンズがサンワローラン(※業務用パンを製造する会社。ハンバーガー用のバンズも卸しており、サンワローランのバンズを使用するお店も多い)のふわもちバンズであることも高ポイントですね。
あとは、東京の本所吾妻橋から虎ノ門ヒルズへ移転された「Builders」(2024年11月で一時閉店)。店名にも冠している「ビルド」がとにかく綺麗。
店主の町田さんに「きれいですね!」と言うと、「ビルダーズ=ビルドする人たち。だから、ハンバーガーの組み立て方や重ね方にはこだわりがあるんです」と教えてくれて。そんなやりとりがきっかけで仲良くなりました。
実は、Instagramに毎日ハンバーガーを投稿する活動のきっかけをつくってくれたお店なので、ハンバーガー屋を100店舗行くごとに「Builders」へ行って、報告しています。
お店の運営は「絶対したくない(笑)」。その理由は?
――Instagramでの発信活動をはじめられたきっかけは「Builders」だったんですね。
えどぽよ:はい。当時、自分のInstagramアカウントで食べたハンバーガーを投稿していたのですが、日常のアカウントも兼ねていたので、どうしようもない投稿の中にハンバーガーがあるような感じで。「Builders」の町田さんが、「そんなにハンバーガーを食べているんだから、専用のアカウント作ってみたら?」と言ってくれたんです。
専用アカウントを作って投稿しはじめると、楽しくなっちゃって(笑)。それまでは年に200個程度で毎日食べるほどではなかったんですけど、投稿をきっかけに毎日食べるようになりました。
――Instagramは、どんなことを意識して投稿をしているのでしょうか。
えどぽよ:1店舗につき外観、ハンバーガーのアップ、引きの画像を3投稿セットで毎日投稿しているんですが、マニアじゃない人が見ても興味を持ってもらえたらいいなということは考えていますね。少しでもハンバーガー屋さんに貢献できればという思いがあります。
あと、僕の「まずい」は誰かの「おいしい」かもしれないので、ネガティブなコメントはせず、良いところをピックアップした投稿を心がけています。
――毎日ハンバーガーを食べ、投稿し続けるそのモチベーションはどこからくるのでしょうか?
えどぽよ:僕は同じことを続けることにストレスを感じないんです。365日6年間毎日投稿しているけど全然飽きない。好きになったらずっと好きでいられる性格だからというのが大きいですね。
あとは好奇心かな。どうしても、まだ食べたことのないハンバーガーへの好奇心が勝ってしまって、リピートするお店が少なくなってしまうんですけどね……。
――そんなにハンバーガーが好きなら、「自分のお店を持って自分の好きな味を誰かに食べてもらいたい」と思う時もあるんじゃないですか?
えどぽよ:自分でお店は……絶対したくないですね(笑)。ハンバーガーの仕込みって本当に大変なんですよ。もうハンドチョップの大変さを見ているとお店の人に頭が上がらない。おいしいハンバーガーを作ってくださって感謝しかありません。
だから、食べる時はいつもピュアな気持ちで味わうようにしています。「これはどうなってるのかな?」と考えるときもあるけど、「うまい!」という気持ちが一番大切。みなさんが作るプロなので、僕はずっとおいしく食べるプロでいたいんです。
あの人の通いたくなるお店は?
取材・文:花沢亜衣
写真:小野奈那子
編集:はてな編集部