一日店長募集中!日替わりで店長が変わるカフェバー「週間マガリ」に潜入

大阪市北区・天神橋筋商店街の中にある「本と間借りのナイトカフェ 週間マガリ」は、日ごとに店長が替わるカフェバー。「ヘンな出会いがきっとある。」をコンセプトに掲げ、連日連夜、個性的な店長とお客が集います。2013年に創業してから足かけ12年、これまで店長としてカウンターに立ったのは延べ4,000人以上に。「週間マガリ」が長らく愛される理由を探るべく、オーナー(兼アルバイト)の小西亮さんをはじめ、日替わり店長やお客に話を聞きました。

友だちの家のような雰囲気に癒やされる、どこか懐かしく温かい空間

店の第一印象は「ここって友だちの家?」。靴を下足箱に入れて店内に立ち入ると、本やCD、雑誌、ゲームソフト、フィギュア、パソコン、楽器など、多種多様なグッズが所狭しと敷き詰められた、にぎやかな空間が現れます。

時代感はどことなく90年台前後で統一されているようで、平成に少年〜青春時代を過ごした人にはドンピシャで響くスペース

店に入ってすぐの場所にある掘りごたつ席

店内の本やグッズは、小西さんが趣味と実益を兼ねて、大阪中のリサイクルショップを回って買い集めた

店の奥から出迎えてくれたのは、オーナー兼アルバイトの小西亮さん。大学卒業後、24歳で店を始めました。

「『マガリ』という名の通り、この店は、日替わりの店長さんが店を丸ごと『間借り』して、お客を迎えるスタイルのカフェバーです。学生時代に就職活動に苦戦したことで、『就職できないのなら、自分で起業してしまおう』と、2013年に立ち上げたのが週間マガリのスタートでした」

オーナーでありながら基本ワンオペで雑務も全てこなすので、「アルバイト」も名乗っている

「オカルト怪談BAR」「社畜バー」など、日替わりで設定されるユニークなテーマも魅力

『週間マガリ』では、店長が日ごとにテーマを企画しています。毎回、「オカルト怪談BAR」「社畜バー」「マッチングアプリ夜話」といった、ユニークなテーマが設定されているのも特徴的。

こう聞くと、トークライブハウスのような店をイメージするかもしれませんが、週間マガリは、一方通行ではなく、お客も含めてみんなでわいわいと雑談をする双方向型のコミュニケーションが多いようです。

「実際に盛り上がるのも、来た人を巻き込む『お客さん主導型』の企画が多い印象があります。店長さんはあくまで司会者で、お客さんにも話してもらう。お客さんからしたら、他人の面白い話を聞くだけじゃなく、自分もプレイヤーになれる。しかもテーマが決まっているから話しやすい、といいことずくめなんです」

一日店長もお客も、フラットな視点で会話を楽しむスタイル。カウンターに立つのは、本日の店長の古家さん

この日、古家さんとともに店長を務めた愛桜さん。ライブ配信で古家さんと出会って、週間マガリの存在を知ったのだとか

また、店長としての敷居が限りなく低く設定されているのも特徴の一つ。例えば、ドリンクづくりや接客は小西さんが担当するので、店長は企画だけに専念できます。店長に立候補するのにも格式ばった企画書などは必要なく、その日来たお客を小西さんがスカウトして、次の日に店長になっていた、なんてこともあるのだとか。

その敷居の低さから、創業から店長を務めた人は延べ4,000人以上と「日本いち店長が多い店?!」をWebサイトでうたうまでに。「基本は誰でもOK」という自由度の高さから、毎日違う色を楽しめる、個性的な店長が集う店となりました。

新規も常連も店長も、垣根なくフラットに交われるのが魅力

週間マガリを利用するお客や店長は、その場をどのように楽しんでいるのか?お話を聞いてみました。ちなみに取材で訪れた日は、店長が有名なライブ配信者だということで、ライブ配信や視聴を趣味とする方々が集っていました。

マーシーさん(常連)

「2、3年前に友人に誘われて来たのが最初のきっかけで、それから気になる店長さんの日を中心に訪れるようにしています。店の魅力は、毎回異なる『空間』が楽しめるところですかね。店長さんによってテーマが違うので、自分とはまったく関係のない世界に触れることができます。実はいまライブ配信にどっぷりハマっているんですけど、それも週間マガリで現役ライバー(配信者)の店長さんに出会ったことがきっかけなんです」

ぱっつあんさん(新規)

「僕もライバーをやっていて、今日はライブ配信で仲良くさせてもらっている方が店長を務めるということで、興味があって来ました。第一印象としては、すごくフランクな雰囲気で居心地がいいなと思いました。バーにありがちな緊張感がないというか。お客さん同士や、オーナーの小西さんが、そういう雰囲気をつくってくださっているのも大きいのかなと感じます」

三宅さん(常連)

「マガリに通って5、6年です。最初の頃はどハマりして、感覚的には週5くらいのペースで来ていました(笑)。普通のバーだと、知らない人としゃべれるかな?という不安があるんですけど、ここは毎回テーマがあるのでしゃべりやすい。誰かとしゃべりたくてふらっと立ち寄ったり、面白いテーマの日に怖いもの見たさで来てみたり、いろいろな楽しみ方ができるのがいいですね」

古家さん(店長)

「はじめて週間マガリに来たのは6、7年前です。自分の趣味を広めたい、同じ趣味同士の人で集いたいという気持ちで店長をはじめたんですけど、それが実現できているので楽しいですね。あと『ヘンな出会いがきっとある。』というコンセプトの通り、すごく癖の強い人とか(笑)、予想外の出会いがあるのも魅力です」

「斜(しゃ)に構える」の極地でたどり着いた独自スタイルが人気のヒケツ

毎日、店長とテーマが変わることで、思いがけない出会いがあることが週間マガリの大きな魅力のようです。では、なぜ小西さんは「日替わり店長」というスタイルを取り入れたのでしょうか。

「店を立ち上げた頃、シェアスペースの運営に興味がありました。中でも日替わり店長の店の仕組みって、いろいろな人と関わりたいときに、一番いいスタイルじゃないかなと思って採用したんです。というのも、自分の看板で店をやってしまうと、自分と似た人しか来ないので、客層が固定されてしまう。でも、店長が変わったら、お客さんにグラデーションが生まれますよね。違う界隈の人たち同士がやんわり関わって、『こういう人たちがいるんだ』と互いに刺激を受けられるんです」

「日替わり店長」、「ヘンな出会いがきっとある。」というコンセプトは開業以来変えていないといいます。しかし、それだけの要素で12年間も店を継続することができるのでしょうか。小西さんの個人的な印象としては、シェアスペース関連の店の多くは「もって2年」しか続かないそう。

その理由の一つとして考えられるのが、他店舗との差別化。小西さん自身も「自分は斜(しゃ)に構えボーイ」と自称するように、他の同系列店がやりがちなことを意識的に避けていくことで、現在の独自のスタイルが確立されたようです。

「例えば、店長が手料理を振る舞うのってシェアスペースでありがちじゃないですか。スパイスカレーとか(笑)。だからうちでは、基本的には店長が料理をしない仕組みにしています。あとこういう場所って、文化人や芸能人をゲストで呼ぶことも結構あると思うんですけど、そういう人の話ってだいたい皆さん1時間くらいで飽きちゃうので呼びません。僕の体感としては、有名人や変に自意識の高い人より、何も知らずふらっと店に入ってきた一般客が一番とがっていて面白いんですよね」

店長がお客に一方的に何かを与えるのではなく、お互いがフラットな目線で双方向に話せる仕組みにしたこと。さらに、店長の参加ハードルを低くし、店のテーマや客層もあえて流動的にしたことで、マンネリ化せず、飽きのこない空間が生まれました。

また、「シェアスペースだからつながらなければいけない」という同調圧力のような雰囲気にも小西さんは異を唱えます。

「よくあるのが、『みんなでつながりましょう、連絡先交換しましょう』とか言い出す人。僕、あれがほんま嫌いで(笑)。人ってそれぞれにちょうどいい距離感があると思うんです。だから、店の空間も区画を分けて、企画に興味がない人も楽しめるようにしていますし、逆にお客さんの様子を見て興味がありそうだったら、ちょっと企画に参加してみませんか?と声をかけて交ざっていただくこともあります」

交通整備員のようにお客の様子を見ながら、心地よく過ごせる空間づくりを意識しているのだそう

店内はカウンター席、ソファー席、掘りごたつ席の3つの区画に分けられていますが、空間づくりにも工夫が。ソファー席は、店長が中心となって企画についての交流を深めるエリアですが、カウンター席は、企画に関係なく一人で来た人や、ふらっと飲みに来た人同士で過ごすエリア。掘りごたつの席は、週間マガリのことを何も知らずに入ってきたカップルや団体客が利用することが多いエリアなど、空間をやんわりと区切ることで、どのお客も気持ちよく時間を過ごせるようにしているそうです。

週間マガリの内観イラスト。店内にはおおまかに3つの区画があり、奥がカウンター席、その手前がソファー席、入り口付近の空間は掘りごたつ席

目指すのはつながることもできるけど、つながらなくてもいい場所

そんな小西さんが理想とするシェアスペースとは、「匿名の面白い人と出会える場」。知らない人と会って、盛り上がったところで解散。仲良くなってもオフでのつながりはほとんどなく、集合場所は毎回「週間マガリ」。その関係性や空間を、オーナーである小西さん自身が楽しんでいると言います。さらにこの絶妙なあんばいが若い人たちにも受け、最近では客層がグッと若返っているのだとか。

「みんなで連絡先交換しようと言い出すのは大体30〜40代(笑)。いまの若い子たちは盛り上がるところは盛り上がるけど、割り切るところは割り切っている。SNSも基本鍵をかけていますしね。ほんまにしっかりしています」

コミュニケーションは過度になると、疲れてしまう。人と人の心地いい距離感を探りながら、従来とは一味違ったシェアスペースを追求してきたことが、「週間マガリ」をサステナブルな空間たらしめた要因なのではないでしょうか。

取材先紹介

週間マガリ

取材・文小野和哉

1985年、千葉県生まれ。フリーランスのライター/編集者。盆踊りやお祭りなどの郷土芸能が大好きで、全国各地をフィールドワークして飛び回っている。有名観光スポットよりも、地域の味わい深いお店や銭湯にひかれて入ってしまうタイプ。

写真中村宗徳
企画編集株式会社都恋堂