漫画家・小林銅蟲さんの「通いたくなるお店」は、ロジカルにおいしさを追求するお店

漫画家・小林銅蟲さんの「通いたくなるお店」は、ロジカルにおいしさを追求するお店

飲食店にとってお客さん、とりわけ「おなじみ」の存在はとても重要です。

そうした常連客の心をつかむお店には、どんな特徴があるのでしょうか。また、お客さんから見て、どんなお店が「通いたくなるお店」なのでしょうか。

今回お話を伺ったのは、『めしにしましょう』『ねぎ姉さん』などで知られる漫画家・小林銅蟲さん。銅蟲先生といえば、『めしにしましょう』やブログ「パル」での“超級”な料理で知られています。

強烈な料理の数々を生み出す銅蟲先生に、今回は「通いたくなるお店」について語っていただきました。3つの「おなじみ」なお店を例に、銅蟲先生にとっての通いたくなるお店を紐解いていきます。

聞き手は酒場ライター・パリッコさんが務めます。

※取材はオンラインで実施しました

小林銅蟲さんの「外食事情」

小林銅蟲さん(左)と、聞き手のパリッコ(右)

小林銅蟲さん(左)と、聞き手のパリッコ(右)

―― 今回の取材にあたり、銅蟲さんの『めしにしましょう』全8巻をあらためて読み返したんですが、一気に読むと本当に圧倒されますね。

銅蟲さん:どれもこれも濃いですからね。あんなもんばっかり食べてたら体に悪いですよ。

『めしにしましょう』1話より。浴槽で低温調理しておいた肉の塊を引き上げている図

『めしにしましょう』1話より。浴槽で低温調理しておいた肉の塊を引き上げている図
(C)小林銅蟲/講談社

―― そこから、次作のダイエット漫画『やせましょう 40歳漫画家が半年で15kg本気(マジ)ダイエットした記録』に続くわけですね(笑)。
銅蟲さんは、自作料理についてのインタビューを受けられる機会が多いと思うんですが、今回は「飲食店」についてお聞きしたく。どうしても「自炊」のイメージが強いのですが、そもそも外食はお好きですか?

銅蟲さん:外食は間違いなく好きです。もともと外食したいけどそんなに金もないので自炊を始めたという経緯もあるくらいで。
昨今はコロナ禍で外食しづらいという問題もありますが、一方で、持ち帰りができるお店も増えたので、そのおかげで新しい味を知るという利点もありますね。

―― 近所だけど意外と行ったことないお店とかありますもんね。特に料理漫画を連載していた頃の外食は「ネタ探し」という意味合いもあったかと想像するのですが。

銅蟲さん:まさに外食が取材目的なことも多くて、その場合、あまり同じお店には行かず、単発になりがちです。
自分の場合、外食は二系統に分かれますね。まず1つ目が「生活の中にある外食」。もう1つが「非日常の外食」で、取材目的の、普段あまり食べ慣れていないような料理を食べに行く外食ですね。『めしにしましょう』を連載していたころはやっぱり、後者が多かったですね。

―― 銅蟲さんのもとには、面白い料理や飲食店の情報が自然と集まってくるイメージがあります。

銅蟲さん:食に興味のある知り合いたちから、いろいろ情報が回ってくるんですよ。エスニック系ならこの人たち、野食*1系ならこの人たち、みたいなネットワークが何系統かあって、食事会が開かれたり。あとは、読者の方からの情報というのも多いですね。

―― ご自身でお店を選ぶときの基準は何かありますか?

銅蟲さん:大前提として、自分は偏食なので、食べられそうなものを選ぶ。長ねぎや玉ねぎが苦手なんですが、中華料理がすごく好きなんですよ。でも、中華って長ねぎや玉ねぎをめちゃくちゃ使うじゃないですか。
だけど店によって、どの料理にどの野菜を使うかっていうのもまた個性なんですよね。そこをチェックします。
ちなみに、自分は中華丼が大好きなんですが、玉ねぎが入ってる率が高いんですよ。自分とマッチする中華料理屋を探すのは大変なんです。

―― それらの食材をあまり使っていない、銅蟲さん好みの中華料理店ってあるんですか?

銅蟲さん:それがないんですよ。あいつら、世界レベルでめちゃくちゃ料理に使われてるから!

―― そんな苦労があったとは(笑)。

銅蟲さん:中華といえば、最近チャーハンが気になっていて、行ける範囲の中華料理店に全部行ってチャーハンを頼んでいます。で、それをスマホのカメラで撮影しておいて、米粒レベルまで拡大して観察する
そうすると、自分が好きなチャーハンは拡大するとこういう傾向なんだ、と頭の中にデータベースができあがっていくんですよね。そこから、家で再現するにはどうすればいいかを考える。

―― 銅蟲さんらしいエピソードでさすがです(笑)。チャーハンを拡大すると、具体的にはどのようなことが分かるんですか?

銅蟲さん:例えば、米に細かい黒い粒がついている場合、鍋肌の焦げか、コショウか、もしくは両方かなので、それを見極めるとか。
あとは、ご飯の炊き具合。これは、米の膨らみ方(ひび割れているなど)や表面の湿り具合で想像します。
それと油の量です。米と米の隙間に油が入りこんでテラっとしている。その割合も店によって違うわけですね。他にも卵の絡まり具合とか。そういうのを総合して、自分がどういう傾向が好きなのかなと。

ただ、結果的に分かるのは、高火力の専門店と同じチャーハンを家で作るのは無理だということなんですけどね。ならば今度は、それを家でできるだけ再現するにはどうしたらいいだろうか? といった具合に考えていくのが好きなんですよね。

銅蟲さんが撮影し続けているチャーハン拡大写真(小林銅蟲さん提供)

銅蟲さんが撮影し続けているチャーハン拡大写真(小林銅蟲さん提供)

―― 食への探究心がすごい。そういえば、取材前のアンケートで、「お店のWebサイトの料理画像のデカさ」を重視しているとご回答いただきました。これって純粋に、画像の大きさのことですか?

銅蟲さん:そうです。お店のホームページを見たときに、ページに対する料理画像の比率がデカいということ。それってつまり、ホームページ全体の出来栄えとかではなくて、「この料理がうまいんだよ!」っていう想いが前面に出ちゃっている気がするんですよ。きっと自分が作る料理に自信を持っている。そういうふうに解釈しているところはありますね。

―― デカい画像というと、チャーハン拡大写真の話にも通じるところがありますね。

銅蟲さん:そうなんですよ。とにかく寄って見たくなる。デカい料理写真にテンションが上がる人ってのは、絶対食いしん坊だと思っています。昨今はSNSが流行っているから、またいろいろと変わってきてるんですけどね。写真映えする料理と、うまい料理って重なったり重ならなかったりする部分があるし。

料理画像のデカさ以外だと、「この人めんどくさそうだな~」って思うような料理の説明文章を書く料理人のお店はうまい説とかもあります。

小林銅蟲さんの「通いたくなるお店」

―― さて、ここからは銅蟲さんが実際に通っているお店から、「通いたくなるお店」にはどんな要素があるのか? を考えていきたいと思います。
事前のアンケートでは「サンク・オ・ピエ(フレンチ)」「TSUBAKI食堂(定食)」「ハイパーファットン(ラーメン)」の3店を挙げていただきました。一見するとまったく違うジャンルの飲食店ですが、それぞれについてお伺いしたく。

シェフへの揺るぎない信頼がある「サンク・オ・ピエ」

銅蟲さん:まずは「サンク・オ・ピエ」(千葉・幕張本郷)から。

ここは、まさに料理写真がデカかった。もともと知らない食材について調べるのが好きで、日々ネットでいろいろ探していたら、ある日「シャラン鴨」という食材の存在を知ったんです。体内に血液を残したまま処理される、フランスでもレアリティーの高い鴨なんですが、それを日本で出していて、当時住んでいた家から近かった店として「サンク・オ・ピエ」に行き着きました。しかも、調べたらそこまで高くもない。行ってみたらものすごく美味しくて、そのまま通い続けて現在に至ります。

あと、ブログで発信している内容が面白い。シェフの中村さんがガチガチの理系の人で、「肉に火が入るとはどういうことなのか?」を理論的に考えるような内容を書いていたんですよ。それを読んで、自分も初めて火入れとは何か? のイメージを持てたところがあります。『めしにしましょう』の1話がちょうど低温調理の話ですが、低温調理はまさに「サンク・オ・ピエ」に影響を受けて始めたようなものです。

―― 初めて行かれたのはいつごろだったのでしょう?

銅蟲さん: もう10年以上前だったと思います。ブログきっかけにお店を知ったので、そこに載っていた料理を片っ端から食べてみたかったんですよね。「あれ食べてみたいです。これも食べてみたいです」って、コースをお願いして、そこでわがままを言いまくる。最初から最後まで肉料理のコースをお願いしたこともあります。

最初から最後まで全て肉料理のコースをお願いしたときのツイート

―― そういうお店は、常連さん同士のネットワークも強そうなイメージがあります。

銅蟲さん: ファンのオフ会とかもあるみたいですね。自分は参加せず、そのファンたちによるブログをひたすらチェックしてたんですけど。人見知りするので。

―― 「サンク・オ・ピエ」で食べた料理が、ご自身の創作活動に影響を与えることも多いですか?

銅蟲さん:『めしにしましょう』で「モツプロフ」というもつの炊き込みご飯を作る回があるんですが、そこで登場する「もつの白ワイン煮込み」は「サンク・オ・ピエ」の中村シェフのレシピなんです。
ただし、同じレシピで作っても本人以外には同じように作れないという不思議な料理で……。やってみたら失敗したので、じゃあリサイクルしようと、ごはんと炊き込んだんですけど。

『めしにしましょう』に登場する「モツプロフ」
(C)小林銅蟲/講談社

―― レシピ通りなのに作れない理由は何なんでしょう?

銅蟲さん:職人性が高いんですかね。すごく理詰めな人ではあるんだけど、その理論にさらに高い技術をのせるので、全然マネできない。

中村シェフは、「料理で大切なのは頭の中にあるイメージだ」というようなことを言っているんですよね。自分の持っているイメージを技術でアウトプットする。自分でそれができればいいので、レシピの再現性が高いというわけではないというか。

実はこれって、漫画を描くのと近いんですよね。漫画もまずイメージがあって、それを自分の手でアウトプットする。そのやり方が分かっていれば誰でも同じように描けるかというと、そうはいかないじゃないですか。そこに、人によって個性が出てくるのが面白くて。

―― なるほど。分かりやすい例えです。銅蟲さんにとって「サンク・オ・ピエ」最大の魅力はなんでしょう?

銅蟲さん:ストレートに言えば、何を食ってもうまいんですよ。ということは、自分が知らなかったり、嫌いだったりする食材すらも食べられる可能性がある。

さっきの話と逆になりますけど、「あの店でだったら玉ねぎも食べられる」みたいな現象がたまにあって。そういう経験を通して、家で牛丼を作るときも玉ねぎを入れるようになるとか、広がりが生まれる。確かに、玉ねぎの香りがあった方が牛丼はうまいなと気付いたんですよね。家では、完全に溶けるまで煮込むんですけど。

だから、「サンク・オ・ピエ」にいる間だけは、嫌いな食材はないということにしています。中村シェフの作るものなら、きっと何でも食べられるだろうと

―― シェフへの信頼がすごいですね。

銅蟲さん:自分的に「ガストロノミー(※)とは、おいしいものをいっぱい食べること」という考え方をどこかで読んで、それに共感していて。あと、西洋人は日本人よりもずっと量を食べる。フランス料理ってちんまりしたイメージがあるかもしれないですが、そんなこともなくて、実際あの店は量が多い。あそこで「お腹いっぱい食べたいです!」なんて言うとえらいことになりますよ(笑)。

※ガストロノミー:辞書的な定義では、料理を中心として芸術、歴史、科学、社会学などさまざまな文化的要素を考える総合的な学問のこと。美食学。生理的のみならず精神的にも意義を持つ食の営みを研究し、おいしさを作り出す技術を、理論で裏付ける。

フレンドリーだけど押し付けがましくない接客の「TSUBAKI食堂」

―― 続いて、「TSUBAKI食堂」はどういったお店でしょうか?

銅蟲さん:横浜駅の西口にあった「大ど根性ホルモン」(現在は閉店)というお店にたびたび行っていて。ホルモン屋さんだと思って入ってみたら、めちゃくちゃ野菜がうまくて驚いたという。

同じオーナーが、横浜市新市庁舎と同じビルにオープンしたのが「TSUBAKI食堂」(神奈川・馬車道)です。オーナーシェフがフレンチ出身で、ここも何を食べてもうまいんです。もちろん肉料理もうまいんですけど、その前にどーんと野菜が出てくるイメージというか。

「大ど根性ホルモン」時代にお店を訪れていたときの様子

―― ちなみに、どんな野菜料理があるんですか?

銅蟲さん:「ど根性サラダ」っていう、異常な大きさのサラダがあるんです。確か、野菜が350gくらい盛ってある。これを「減んね~な~」なんて言いながらパリパリ食べ続けたり。最近野菜が足りてないなと思ったら、とにかくここに行くような感じですね。

野菜に自信があるからだと思うんですが、「小松菜丼」なんてメニューも見かけました。

地産地消を謳っているので、野菜をはじめ調味料なんかも地元産のものを使っています。地場食材って、問答無用でうまいし、好きなんですよね。

―― 地元の食材を使っていると聞くと、確かにいいお店というイメージを抱きやすい気がします。

銅蟲さん:単においしいというのもあるんですが、地元の畜産・農産業者にコミットしているのがポイントだと思います。
お店の人の顔が見えていると生産者側もより力が入るだろうし、関係性ができていればお店的にはコスト面の融通が効くだろうし、お互いにメリットがあるんでしょうね。そうやってうまく回っていくと、純粋に料理がうまくなって、客側にも利がある。

―― なるほど。地場食材がおいしいことにも、きちんと論理がありますね。

銅蟲さん:それとですね、店長さんなのかな、スタッフさんがめちゃくちゃ人なつっこい方なんです。普通の気のいいお兄ちゃんっていう感じで。

―― さっき、銅蟲さんはご自身のことを「人見知りする」とおっしゃっていましたが(笑)。

銅蟲さん:なので普段は引いてしまうんです。でも、ここのスタッフさんは、それを超えてフレンドリーなんですよ。ペースを持っていかれるというか、こっちもつられてフランクになってしまうという……。

かといって、押しつけがましいわけでもなくて、「ここではこの人に合わせた方が居心地がいいし、楽しいんだろうな」と思わせてくれるというか、そういう空気をつくるのが上手なんですよね。

自分が積極的な方ではないので、そうやってアプローチしてくれた方が本当は助かるんです。今日は何がおいしいとか、限定メニューは何だとか、本来はお店に甘えたいタイプなので。

あと、小さい子どもがいるので、子連れで行っても歓迎してくれるのも今はありがたいですね。さっきの「サンク・オ・ピエ」もそうなんですが。

―― 居心地の良さも大きなポイントなんですね。

銅蟲さん:サンク・オ・ピエはシェフの世界観が強いので少しとっつきにくいかもしれませんが、TSUBAKI食堂は誰でも入りやすいと思います。

ファン作りがうまい「ハイパーファットン」

―― 3店目の「ハイパーファットン」(神奈川・新羽)は、またジャンルがガラッと変わって、ラーメン屋さんということですが。

銅蟲さん:もともとは、お店が移転する前の旧「ファットン」時代に、仕事場の近くでいい感じのラーメン屋さんを探していて、何気なく入ったんです。すごくうまかったのはもちろん、週替わりとか日替わりの限定メニューをTwitterで告知して、それを目当てにお客さんがやって来ていたんですよね。こういうネットから導線がある取り組みをうまくやっているお店がたまたま近所にあったという。

ファットンに訪れていたときの様子

ここの創作ラーメンは変なのが多くて、冒険ぶりがすごいのにうまい。

つまり、ラーメンという枠から見たらギャップがあるけど、うまい料理にラーメン側から寄せていって、ちゃんとうまくなるような事例を探し当てる嗅覚がすごい。

自分はビビンパ風のメニューがすごく好きでした。要するに、ビビンパの米の部分が麺になっているまぜそばですね。あれは異常にうまかった。

他にも、「ピッツァ」「スキヤキ」とか……あと「てりそば」っていうメニューが面白かった。照り焼きハンバーグとレタスが麺にのっているんですが、「これを頼む方は外の自販機でコーラを買ってきてください」と(笑)。そうやってすぐ変なメニューを作ってるんだけど、どれもうまいんですよ。

―― それは銅蟲さんが好きそうだ(笑)。

銅蟲さん:横浜にある「第一亭」という台湾料理店に、にんにくたっぷりのまぜめんで「パタン」っていう裏メニューがあるんです。第一亭の方のオリジナルは食べたことないんですけど、ファットンのインスパイアメニューを食べたらすごいうまかった。

さらにそのインスパイアとして、うどんを代用して作ったのが『めしにしましょう』に出てきた「ウ゜ドン」っていうやつです。

銅蟲さんが試作した「ウ゜ドン」

銅蟲さんが試作した「ウ゜ドン」(小林銅蟲さん提供)

―― 発音できないメニュー(笑)。こちらもお店の方とのお付き合いはあるんですか?

銅蟲さん:店名も入れてツイートしていたら、エゴサーチで見つかりました。ただ、お店に行っても会話をする間柄ではなかったんです。でもいつからか、どうやら姿形も捕捉されているらしいというのは感じていて。よく分かる恰好なので。
お店が移転して、しばらく間が空いてしまったんですが、久しぶりに行ってみたら、サインを求められました。

銅蟲さんがハイパーファットンに贈ったサイン

―― 限定メニューを求めてやって来るファンが多いということでしたが、常連さんが多そうですね。

銅蟲さん:ラーメンマニアの固定客以外にも、職業体験とかそういった取り組みもしていて、地元住民とのコンタクト能力もすごいんですよ。単にラーメン屋さんというだけでなく、見ているビジョンが大きいように感じます。

―― 正真正銘、地域密着! ここで関わりを持った学生が、将来良いお客さんになったり、あるいはスタッフになったりするのかもしれないですね。

さて、ここまで3つのお店について話を伺いましたが……どのお店も一筋縄じゃないというか、銅蟲さんがお好きになるのがなんとなく分かる気がしました。

銅蟲さん:まずおいしいというのは大前提なんですが、自分の場合はさらに、ロジカルさを感じるおいしいものが好きなんですよ

―― 銅蟲さんが通いたくなるお店には、おいしさの裏に何かしらの論理があるんですね。

「おなじみ」のお店が創作に生きることも多々ある

―― お店で食べたものが漫画の題材になることもあると伺いましたが、「この仕事をがんばったら、ごほうびにあの店に行くぞ!」みたいなパターンもありますか?

銅蟲さん:ありますね。というかむしろ、大変な仕事が目の前にあるから、あらかじめ良い店に行って気合を入れることの方が多い。だから原稿が追い込まれるほどラーメンを食べに行く率が高くなって、よけい体に悪いという。

―― 濃いメニューの数々の試作もあるのに(笑)。『めしにしましょう』は完全に銅蟲さんの私生活をベースに描かれていますよね?

銅蟲さん:そうですね。主人公である青梅川おめがの食の好みが完全に自分です。あとは广大脳子(まだれだいのうこ)のモデルである松浦だるま先生*2にも食材の得意不得意があるので、それも反映されています。

『めしにしましょう』の广大脳子(まだれだいのうこ)と青梅川おめが

『めしにしましょう』の广大脳子(まだれだいのうこ)と青梅川おめが
(C)小林銅蟲/講談社

基本的に、現実世界で実際に作って出したものを漫画でも描いているので、その過程において嘘は描けない。だから、自分がネギを食べられないから使わないとか、グルメ漫画としてはどうなんだって感じですが。

あと、うまくいかなかったり、想定通りにはできたけど食べてみたらそこまで美味しくはなかったり、いろんなパターンがありました。

―― 一読者としては、そういう失敗も込みで楽しんでいました(笑)。絶品レシピ紹介漫画ではなく、過程をストーリーとして楽しむ作品というか。

銅蟲さん:料理漫画をずっと描き続けてる先生はすごいですよ……本当に。『めしにしましょう』で紹介できたレシピは80個あるかないかくらいで、連載がひと段落したあと、また新しく興味を持って作ってみた料理のレパートリーは増えましたが、ではそれを定期的に考えて作品化したら、ということになるとやはり全然違うので、本当に大変だと思います。

世の中には食べたことのないものがたくさんあるし、まだまだ新しいお店の開拓もしてみたい。それを研究発表する場もあったらいいなとは思うんですが。

―― 『めしにしましょう』のシーズン2を心待ちにしています!

銅蟲さん:いや~、ある程度ストックを貯めても、いずれ絶対にレシピがなくなるし、本当に大変なんですよ!!

【お話を伺った人】

小林銅蟲さん

小林銅蟲さん

漫画家。著作「ねぎ姉さん」「さいはて」「寿司虚空編」「めしにしましょう」など、よくわかんない内容の作風で知られている。

Twitter:小林銅蟲 (@doom_k) | Twitter

取材・文/パリッコ
1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家/イラストレーター、DJ/トラックメイカー、他。酒好きが高じ、2000年代後半よりお酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』『晩酌わくわく!アイデアレシピ』『天国酒場』『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』『ほろ酔い!物産館ツアーズ』『酒場っ子』『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』、スズキナオ氏との共著に『のみタイム』『“よむ”お酒』『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』『酒の穴』。

Twitter:パリッコ (@paricco) | Twitter

編集:はてな編集部

*1:野外で採った食材を調理して食べること

*2:『めしにしましょう』連載開始時、小林銅蟲さんは松浦だるま先生のチーフアシスタントを務めていた