全長36cmの「ジャンボ海老フライ」が話題!コロナ禍でも皆を笑顔にする、和食店・なすび総本店のメニューづくり

なすび総本店

コロナ禍をきっかけに全長36cmのジャンボ海老フライを開発。斬新なビジュアルがテレビにも取り上げられ、SNSでも話題を呼んでいる静岡の和食店『なすび総本店』。ジャンボ海老フライの開発秘話やポイントカードからLINE公式アカウントへ移行した経緯などについて話を伺いました。


新型コロナウイルス感染拡大の影響で、通常とは異なる運営をしている飲食店が増えています。

少しずつ普段通りの生活に戻ってきてはいるものの、お客さんと対面で密なコミュニケーションを取ることはまだ難しい状況です。そんな中でも、お客さんに「また行きたい」と思ってもらうためには、どんな工夫が必要なのでしょうか。

飲食店の店主に、コロナ禍でのお店づくりについて話を聞く『コロナ禍でのコミュニケーション』。

静岡の和食店『なすび総本店』は、コロナ禍をきっかけに全長36cmのジャンボ海老フライを開発。その斬新なビジュアルが話題を呼び、メディア露出だけでなくSNSで写真や動画を投稿する人も増え、新規客を呼び込む宣伝になっています。

また、2021年からはLINE公式アカウントの利用を開始。従来のポイントカードから切り替えたことで普及率が上がり、お店側にとっても管理が楽になるなど、そのメリットを実感しているといいます。

「コロナ禍で沈んだ世の中で、少しでもお客さまに笑って元気になってもらいたい」と話すのは、同店で18年間店長を務める坂東亮介さん。ジャンボ海老フライの開発経緯や『家族召し(めし)』の取り組み、コロナ禍で改めて考えたお客さんとの関係性などを伺いました。

静岡県内で14店舗を運営。コロナ禍による影響は?

――まずは「なすび総本店」はどんなお店か、詳しく伺えますでしょうか。

なすび総本店

なすび総本店

坂東亮介さん(以下坂東さん):「なすび総本店」は、なすびグループが運営する和食料理店です。マグロの集積地として知られる清水港の天然ミナミマグロや駿河湾で獲れる新鮮な地魚など、地元・静岡の食材を使った会席料理を中心に提供しています。

――すごく落ち着いた雰囲気のお店ですよね。今はジャンボ海老フライが話題をさらっていますが、それまで、お店ならではの人気メニューはどういったものでしたか?

坂東さん:コースや御膳などいろいろあるのですが、人気が高いのは氷を富士山に見立て、お刺身を贅沢に盛り付けた「富士山盛り御膳」です。

富士山盛り御膳

富士山盛り御膳

坂東さん:見た目のインパクトもありますし、好みの魚を盛り付けて海鮮丼にしたり、いろいろな薬味で味を変えたりと自由にカスタマイズできるようになっています。「お客さまご自身で作って食べることを楽しんでいただきたい」との想いから生まれたもので、今でも名物料理のひとつです。

――「なすび総本店」さんは、コロナ禍前はどのような利用シーンが多かったのでしょうか。

なすび総本店

50席や80席の大部屋を備える全230席のお店なので、団体のお客さまの利用が非常に多かったですね。慶事や法事など親戚の集まり、近隣企業の宴会や食事会、接待に利用される方が主でした。また旅行会社とも提携していて、観光バスが当店に昼食に寄るケースも多かったです。

地元の方から「来客をおもてなししたい時は“なすび”に行こう」と言ってもらえるようなお店を目指してやってきましたので、リピーターの方が7割、新規のお客さまが3割といった状況でした。

――コロナ禍の影響は大きかったですか? 

坂東さん:コロナ禍の当初、来店客数は9割減の状況でした。なすびグループは、静岡県内で業態が異なるお店を14店舗展開しているんですが、2020年の緊急事態宣言発出から同年の秋くらいまで、宅配やケータリング事業以外は全て休業したんです。補助金や助成金を活用し、何とか赤字を最小限に食い止めました。

団体客の利用が多かった「なすび総本店」の場合、再開後は地元のご家族連れが中心になりました。特に接待や懇親会など大型の宴会需要が減ったことが大きく響いており、ここ1年ほどでようやく6割減程度まで回復してきたところです。

――スタッフさんとお客さんとのコミュニケーションの取り方はどのように変わりましたか?

坂東さん:最初は手探りだったので、まずは会議で「お客さまの前でマスクをつけるかどうか」から話し合いました。「安全確保のためにはマスクが必要」「マスクをして接客なんてお客さまに失礼だ」との意見が出ましたが、何が正解か分からず悩みましたね。結果的に、当グループが掲げた行動理念「なすびフィロソフィ」に基づき、「お客様の安全を最優先に」とマスク着用を決めました。

また、お客さまとの距離感にも気を配りました。アクリルボードや仕切りを導入したほか、配膳の回数が少ないコース構成に変えたり、個室のお部屋にタッチパネルで注文できるタブレットを置いたり。なすびならではの良さを失わず、安全に楽しんでいただくにはどうしたらいいかと今でも試行錯誤しています。

――坂東さんは「なすび総本店」の店長を務められて18年と伺いました。コロナ禍の状況をどのように捉えていましたか。

なすび総本店の坂東亮介店長

なすび総本店の坂東亮介店長

坂東さん:やっぱり最初は戸惑いました。今までと違う接客や配膳の仕方もそうですが、何よりもお客さまがこんなに来なくなってしまうものかと。コロナ禍になって3年、「みんなで飲むのってやっぱり楽しいよね」とお客さまが戻って来てくれるのか、それとも「もう飲み会なくてもいいよね」となってしまうのか。僕たちができることをひとつずつやるしかないですが、今後が心配ではあります。

「外食は楽しい!」お客さんに笑ってもらえるメニューを考案

――その苦しい状況の中で、ジャンボ海老フライが生まれたんですね。どのような経緯で開発することになったのでしょうか。

ジャンボ海老フライ

ジャンボ海老フライ

坂東さん:再開してからも客足はなかなか戻らない状態が続いていたので、考える時間がたくさんあったんです。グループ各店でさまざまな試みを行っていましたが、当店ではこの期間に名物料理を考えようと。スタッフみんなの思考をポジティブにして、お店全体のモチベーションを上げたいと取り組みを始めました。

再開後、最初にお店に戻って来てくれたのはご家族連れのお客さまでした。そこでお子さんからご年配の方まで、好みが違う家族でもそれぞれ好きなものを楽しめるようにと、カレーライスやハンバーグ、焼肉定食などを『家族召し』と名付けて提供し始めたんです。これが好評で、次は海老フライをやろうと。

――その流れなら、普通サイズの海老フライにしますよね。なぜ大きくしようと?

坂東さん:もともと『なすび総本店』では20年以上前にも、20㎝ほどのジャンボ海老フライを提供していたんです。当時も人気でしたが、材料費の高騰などで止めた経緯がありました。その後も「ジャンボ海老フライはまだありますか」と問い合わせが来ることもあり、復刻版として時々は提供していたんです。今回もそのサイズで……と考えていたら、社長の藤田が「せっかくやるなら日本一を目指そう」と。調べたところ、構想段階では35cmが最大サイズでしたので、1cm伸ばして36cmに挑戦することになりました。ただ、海老って大きくても30㎝程度なんですよね。

――そこからどのように36cmまで伸ばしているんでしょうか。

坂東さん:シータイガーという大ぶりの海老を使っているのですが、切れ目を入れて伸ばしただけでは細くなっちゃうんです。衣ばかりの海老フライではお客さまをガッカリさせてしまうので、長さと太さをカバーするために、海老のすり身をコーティングしました。

ジャンボ海老フライ

料理人たちが1本ずつ丁寧に形を整えた後、1度冷凍してから衣を付けて揚げています。

――なるほど、手間がかかっているんですね!

坂東さん:すり身を加えているので「海老フライとして成り立つのだろうか」と最初は不安でしたが、試食してみたら身がプリプリしていて、1本丸ごとの海老フライといった印象。これならお客さまに出しても大丈夫だとスタッフみんなが自信を持てる商品になりました。調理場には大容量のフライヤーが2台あり、折れる心配なく10本ほどを同時に揚げられます。

フライヤー

――団体客を受け入れていた調理設備が生かされていますね。海老フライの大きさもさることながら、吊るした状態での盛り付けも話題になった要因のひとつではないかと思います。

坂東さん:これも「せっかく36㎝の大きい海老フライなのに、お皿での盛り付けだとインパクトがないよね」と社長が言いまして。そこで常務がバーベキュー用の串を探してきたんです。海老フライに刺して上から吊るすと、プラプラと揺れつつも意外に安定していて面白かったんです。僕も初めて見た瞬間思わず笑っちゃいましたから(笑)。

逆にこのぐらいビジュアルで突き抜けちゃった方が、お客さまに喜んでもらえるかなと思いました。コロナ禍になって「外食は悪だ」というような時期もありましたが、ジャンボ海老フライをきっかけに会話が生まれ、「外食って楽しいね」と感じてもらえるんじゃないかと。

――吊るされた海老フライをお皿に移すこと、ソース用にごまをする動作などはエンタメ性もあり、先ほどの「富士山盛り御膳」に通じる楽しさがありますね。SNSの反応やテレビ放映など、反響はいかがですか。

坂東さん:実際に提供すると、お客さまは「何だコレ」「面白い」「どうなってるの」ってみんな笑顔になるんです。「狙い通りの商品ができたね」とスタッフみんなで喜んでいます。

最初の頃はSNSシェアやクチコミなどで広まっていましたが、それでも地元のお客さまが中心でした。地道に時間をかけて名物料理に育ってくれれば……と思っていたところに、出演依頼をいただいたのがバラエティ番組の「ヒューマングルメンタリー オモウマい店」です。

これまで紹介されてきたお店と当店とでは、趣旨が少し異なるのではと最初は戸惑いましたが、「オモウマい店=面白くてウマい店。ぶら下がっている海老フライがすごく面白いのでぜひ紹介させてほしい」と。

2日間の密着取材だったのですが、ディレクターさんはお客さまにも敬意をもち、愛情深く編集してくれました。これまでにもテレビ取材を受けたことはあるので、ある程度の混雑を予想していたのですが、電話が鳴りやまず、200本ほど用意した海老フライは2日持たずに売り切れてしまうほど。他店からヘルプを呼んで乗り切りましたが、過去一番の反響で驚きました。

コロナ禍以前はリピーター7割、新規のお客様が3割でしたが、現在はその割合が逆転し、県外から若い年代のお客さまも多数訪れるようになりました。ジャンボ海老フライに続き、「ロング牡蠣フライ」「ジャンボ海老天丼」などシリーズ化も進めており、お客さまにさらに楽しんでもらおうと工夫を凝らしています。

ロング牡蠣フライ

ロング牡蠣フライ

ポイントカードからLINE公式アカウントへ普及率が上がりオペレーションも簡素に

――なすびグループでは2021年9月からLINE公式アカウントを運用されていると伺いました。以前は「なすびプレミアムクラブ」という会員制度があったそうですが、具体的にはどのようなシステムなのでしょうか。

坂東さん:「なすびプレミアムクラブ」は100円につき3ポイントを付与するポイントカードシステムです。なすびグループ全店共通で、1ポイント=1円として1,000ポイントごとに食事代として利用できます。1年間の利用額に応じて付与額や利用額が異なるステータスが決まり、一番高いプラチナ会員の場合は5%ほどの還元率です。

会員申し込みの際は、用紙に記入してもらってカードを発行します。利用のたびにレジで提示していただいて、スタッフは手入力でポイントを打ち込んでいました。10年以上前から行っていたポイントカードのシステムですが、課題もありました。

――どのような課題があったのでしょうか。

坂東さん:まず、会員を増やすのが大変でした。お会計時にポイントカードの案内をして、希望の方にはその場で申し込み用紙に記入していただくのですが、時間がなかったり、書くのが面倒だとお断りされたりすることも多かったんです。さらに、せっかく記入していただいても手書きのメールアドレスは判読が難しく、メルマガ配信は7割ほどが不達になっていました。

――さまざまなサービスがある中で、LINE公式アカウントを選ばれたのはなぜですか?

なすびグループのLINE公式アカウント

なすびグループのLINE公式アカウント

システム担当者の勧めでしたが、LINEの普及率の高さと導入のしやすさがポイントでした。なすびグループで公式アプリをつくるとなると大がかりな予算が必要ですが、スマホを持っているお客さまならほとんどの方がLINEのアプリを入れています。QRコードを読み込むだけですぐに友だち追加ができるのも大きな魅力でした。

スマホを持っていない世代へのアプローチが問題ではありましたが、今はご年配の方でも使っているケースが多いので、それほど大きな影響はないだろうと判断しました。ホームページやメルマガ、店内ポスターで告知をし、3カ月ほどの移行期間を設けて運用をスタートした形です。

――運用に際し、お客さまの反応はいかがでしたか?

坂東さん:導入して1年ほどたちますが、旧ポイントカードの会員数を超えましたね。急速に会員数が伸びたのは、以前のカードよりも気軽に登録してくださる方が多いことが要因だと思います。

――導入したことで、スタッフさんのオペレーションなどで改善した点はありましたか?

坂東さん:旧ポイントカードの時代は、ポイントをスタッフがレジで手打ちしていたんです。そのため、ポイント取得や使用の際に打ち間違いなど人的ミスが一定数発生していました。LINE公式アカウントでは食事代と連動してポイントが付与されるシステムになっているので、間違いがほとんどなく非常にラクになりましたね。

また、メールマガジンが届かないという問題も、LINE公式アカウントからメッセージ配信が利用できるので解決しました。開封率も高く、導入して良かったと思っています。

なすびグループのLINE公式アカウント

地元食材×アイデアでお客さまを笑顔にする

――最後に、お店として新しく考えていることなどがあれば教えていただけますか?

坂東さん:今「ジャンボシリーズ」としていくつか出していますが、秋からの新商品を目下開発中です。地元食材の天然ミナミマグロの大トロを豪快に使った逸品で、インパクトが大きいのでこれもお客さまに楽しんでもらえるのではないかなと。

僕たち飲食店のスタッフって、やっぱりお客さまに「ありがとう」と言われたり、笑顔になってもらったりするのが見たくて働いている人が多いんです。今回、僕はコロナ禍であらためて実感しました。

ジャンボ海老フライでたくさんの笑顔が見られたように、これからもこうした楽しいお料理を提供し続けていきたいなと思っています。

【お話を伺った人】

坂東亮介さん

『なすび総本店』店長。なすびグループに入社し20年、うち18年は同店の店長としてお店を支え続けている。

【お店】

なすび総本店

静岡県内に和食、焼肉、すし、カフェ業態など14店舗を展開する「なすびグループ」の和食店。 それぞれコンセプトや店名が異なり、ニーズに合わせたお店づくりに注力している。コロナ禍をきっかけに開発した「ジャンボ海老フライ」が2021年7月放送のバラエティ番組「オモウマイ店」で紹介されると一躍話題に。
住所:静岡県静岡市清水区富士見町5-8
電話:054-352-1006
なすび総本店公式サイト:なすび総本店
なすびグループInstagram:@nasubigroup

取材・文/田窪 綾
調理師免許を持つフリーライター。惣菜店やレストランで8年ほど勤務経験あり。食分野を中心に、Webや雑誌で取材やインタビュー記事作成、レシピ提案などを行っている。

編集:はてな編集部

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