創業50年のハンバーグ店が「高円寺のソウルフード」と言われるまで地元民から愛されている理由

高円寺にあるハンバーグステーキ専門店「NEW-BURG(ニューバーグ)」の店主・平井誠一さんの写真

東京・高円寺で1969年に創業、地元で愛され続けるハンバーグステーキ専門店「NEW-BURG」。昔から作り方を変えていないハンバーグは「高円寺のソウルフード」と呼ばれ、家族4代にわたって通う常連客も。地元に根付くためのお店づくりの方法についてお話を伺いました。


一度ならず、何度も足を運んでくれる「おなじみ」のお客さんは、飲食店にとって心強い存在です。多くの常連客の心をつかむお店は、どのような工夫をしているのでしょうか。

NEW-BURG(ニューバーグ)」は創業後、しばらくして経営難に陥ったことがありました。そんな時に同店を買い取ったのが、現在の店主である平井兄弟のお父さま。引き継いでから30年以上がたった今では、高円寺を代表する老舗の1つとなっています。創業以来、いっさい作り方を変えていないというリーズナブルでおいしいハンバーグは、いつしか「高円寺のソウルフード」と呼ばれるまでに至りました。

店主を務める平井誠一さんは「特別なことをやっているつもりはない」と言いますが、半世紀にわたってお店を続けられたのには理由があります。地元に根付いたお店づくりの姿勢について話を伺いました。

底辺からのスタート。お店を引き継いでから立て直すまで

――もともと「NEW-BURG」は、別のオーナーが始めたお店を引き継がれたそうですね。まずはその時のお話を聞かせていただけますか?

高円寺にあるハンバーグステーキ専門店「NEW-BURG(ニューバーグ)」の店主・平井誠一さんの写真

平井誠一さん(以下・平井さん):前のオーナーがこのお店を始めた当時、ファミレスなどの競合が増えたことで状況が厳しくなったりして、経営的にも難しくなっていました。譲渡先を探していた時、たまたま仕入れのお肉屋さん経由で父に打診がありました。

うちの父親はもともとサラダや総菜を販売する店を経営していて、自社工場を持っていたんです。その工場で、ハンバーグやソースを作ることができると考え、店を引き継ぐことに決めたというわけです。はじめは父親がお店の運営から携わっていたのですが、体調を崩してしまって。そこで、まず弟が手を貸すようになり、その次に僕が入ったという流れです。

売上が落ちているところからのバトンタッチだったので、最初はどん底からのスタートでした。そこから徐々に売上を伸ばし、立て直したという感じです。とにかく、どれだけお客さんを呼び込むのかというところで苦労しました。最初からお客さんがついているお店を引き継いだわけではなかったので。

お店を引き継いだ時もそうでしたが、高円寺は昔から物価が安いんです。料理を安く提供している個人店があって、ほかのお店もそれにならった価格設定で、薄利多売でしたね。数を売って少し利益を出す、そんな状態がしばらく続いていました。

――そこからお店を軌道に乗せて今に至るわけですが、コロナ禍の営業時間短縮のような、お店にとって大変な時期もありました。その間はどのような状況だったのでしょうか。

平井さん:たまたまうちは飲み屋ではなく食事をする飲食店だったので、昼間のランチタイムは通常通りに営業することができました。夜は時短営業でしたが、2~3時間は店を開けていられましたし。あとは都からの補助金ですね。20時閉店で、それ以降の売上は補助金で補いました。

営業中はありがたいことに、お客さんに助けられました。本当に、常連のお客さんがついていてくれたからこそです。コロナ禍で閉店してしまったお店もあった中、お客さんが支えてくれたと思っています。

味には妥協せず、経営努力で低価格を実現

――常連のお客さんに長い間愛され続けてきたのには理由があると思います。まず、メニューについてお聞かせください。

高円寺にあるハンバーグステーキ専門店「NEW-BURG(ニューバーグ)」で提供しているハンバーグの写真

平井さん:作り方は創業時のレシピから変えていません。一度だけ、引き継いで何年かたった頃にちょっと味を変えてみたことがあります。新しい味にチャレンジするというか、時代のニーズに合わせる必要があるのではないかと思ったんです。

でも、お客さんから前の味の方が良かったんじゃないかと言われました。それを聞いて、昔から食べに来ているお客さんは同じ味を求めている、今風にアレンジしてはいけないんだと気付きました。以来、レシピは変えていません。

――お店の具体的なメニューについて教えていただけますか。

平井さん:看板メニューはハンバーグです。ソースはデミグラスソースとメキシカンソースの2種類から選べます。

メキシカンはピリ辛のソースで、ここでしか食べられない味なのでそれも強みになっています。何十年も前から来ているお客さんからも、「NEW-BURGはメキシカンソース」という声が多数あります。

デミグラスソースは牛骨から作った自家製です。辛いのが大丈夫か聞いてみて、大丈夫ならメキシカン、ダメならデミグラスソースをおすすめしています。

ハンバーグも「これが個性の際立つNEW-BURGのハンバーグ」という強い思いで作っています。ファミレスに多いふっくらした食感のタイプではなく、ギュッと肉の詰まったタイプです。合い挽き肉を使って、玉ねぎは生で撹拌(かくはん)しています。やっていることはいたって普通、シンプルです。何か企業秘密があるということもありません。

あとは、おいしいご飯を提供するようにしています。これは僕のこだわりです。僕らも外食しますが、ご飯に手を抜いているお店は気になってしまうんですよね。

ほかには付け合わせのスパゲティが人気で、追加で頼む人もいます。ボイルしたスパゲティにシンプルに塩コショウしただけなんですが、作り方の秘密を聞かれることもあります。

ソースやハンバーグはもちろん、付け合わせのスパゲティやポテトサラダまでほとんど手作りです。ポテトサラダはジャガイモをふかすところから作っています。既製品や冷凍食品を使わず自家製でやっているというのは、低価格に抑えられている理由の1つでもあります。

――なるほど。価格に関することをもう少しお聞かせください

平井さん:自社工場で一括して製造しているので、食材ロスが削減できます。お店で1枚1枚作っていると、どうしてもロスが多くなってしまうんです。手間暇をかけて自分たちで作ることで、そのぶんコストを抑えることにもつながっています。

あとは仕入れの価格交渉です。安さばかりを追い求めるとクオリティーも下がります。品質が伴っていることが重要なので、品質も価格も満足できる仕入れ先を見つけるのが大変でした。とくに肉は仕入れ先を何回か変えて、ようやく安定しました

――お客さんの受け止め方などはいかがでしょうか

平井さん:高円寺以外のところからいらっしゃるお客さんからは「コスパが良い」と言われますが、高円寺は物価が安いので、これが普通と思っている地元のお客さんもいます。

実は2022年の4月に原材料がアップしたとき、10%値上げしたんです。受け入れていただけないお客さまもいたと思いますが、利益を求めないことには商売が成り立たない。今回の原材料の値上げは半端ではなかったので、仕方ないと割り切りました。

いろいろと苦労もありますが、昔の味を守り続けることでお客さんがお店をつくってくれていると思います。常連のお客さんがメニューを作るきっかけになってくれたり、コロナ禍でも来店してくれたり。「高円寺に来たら、NEW-BURGで食べないとダメ」とお客さまが話しているのを聞くこともあります。

土地柄、役者さんやミュージシャンもいるのですが、下積み時代にお世話になったと話してくれる人もいます。創業半世紀以上のお店って、そうそうないですよね。やっぱり個人店で50年以上やってきて、老舗の強みというものがあると思っています。

自分がおいしいと思うものを、お待たせせずに提供したい

高円寺にあるハンバーグステーキ専門店「NEW-BURG(ニューバーグ)」の店主・平井誠一さんの写真

――お客さんに育ててもらえるのも、長年お店を続けて、お客さんに来てもらえる努力をずっとされてきたからこそだと思います。お客さんが来てくれる理由、来たお客さんが常連になってくれる理由については、どうお考えでしょうか。

平井さん:一番は「味へのこだわり」だと思っています。まずは自分が食べておいしいと思うものを提供するようにしています。値上げはできるだけせずに、質は落とさない。品質がついてこないと、これだけずっと続けることはできなかったでしょうね。

値段が安いからそんなにおいしくなくてもいい、仕方がないという商売はやっていません。大きな利益はあげられませんが、細く長くやってきたのが今日につながっていると感じています。

例えば、素材は昔より良いものを使っています。ハンバーグの味を左右する大きなポイントは、やっぱり肉です。うちでは合い挽き肉を使っていますが、牛肉と豚肉の比率によっても味は変わってきます。良い肉を低価格で提供するためには、先ほどの話のように仕入れ先との値段交渉になるというわけです。

おかげでハンバーグだけでもおいしいと思えるところまでたどり着きました。何十年かぶりに来たお客さんから、「味が良くなっていますよね」と言ってもらえたことがあります。分かってくれている人は分かってくれていると実感しますね。

それから、うちのハンバーグは「“中毒性”がある」と言われることもあります。一度食べるとまた食べたくなるんだそうです。万人に合わせたようなハンバーグではないと思っていますし、口に合わないという人も当然います。

ただ、やっぱりリピーターになる人の比率は高いと思いますね。高校生の頃から食べていて、今は従業員になっている者もいますが、20年たった今でも週5で食べています。身内がおいしいと思って食べてくれているんですよね。

素材は良いものに変えていますが、先代から引き継いだレシピは変えていません。ですので、懐かしい、味が変わらないと言ってもらうこともあります。

――料理を提供される際のオペレーションについて、何か工夫されていることはありますか。

平井さん:オペレーションについては、店長をしている弟のスキルが大きいですね。うちはカウンター席だけですが、テーブル席があると人員が必要になります。カウンターしかないのも、お店のオペレーションにとってプラスになっています。

あとは何十年かやってきて、どれが効率的か試行錯誤した結果が今のやり方になっています。うちは焼き置きしておいて、提供前にレンジで温めています。これだけの単価でやっているので、回転率を上げなくてはいけません。フライパンでイチから焼くのは難しいのです。

ただし、焼いてからはできるだけ時間をあけずにお客さんに出すよう努力しています。生で工場から配達して、お店で朝と夕方の2回に分けて焼いています。朝にランチの分、夕方のアイドルタイムは夜の分ですね。

――接客についてはいかがでしょうか。

平井さん:実はあまり意識していません。ネットのお店の口コミを読むと「(店員さんが)寡黙」と言われていることもあるのですが、カウンターの中は意外と忙しくて余裕がないんです。

お客さんもお待ちなので、なるべく早くお出ししたいと思っていますし。お客さんの流れを滞らせないように、手際よく黙々とやることを考えています。どのメニューにも目玉焼きが付いているので、座ったら目玉焼きをまず焼き始めるとか。お客さんをお待たせしないことを優先しているというか、接客は自然体というか、自分たちではうまく言えないですね。

ただ、お客さん1人ひとりのことは気にしています。例えば、目玉焼きは黄身が半熟の状態でお出ししているのですが、半熟が苦手な方もいます。常連さんが鉄皿の熱で黄身に火を通しているのがちらっと見えたことがあって、その次からはそのお客さんには両面焼いて出したりとか。

とくにお互い会話はしていないのですが、気を使っていないようで気を使っている、1人ひとりのお客さんを見ているという意識はあります。

隅々に行き渡る「お客さんありき」の姿勢が常連さんづくりにつながる

高円寺にあるハンバーグステーキ専門店「NEW-BURG(ニューバーグ)」の店主・平井誠一さんの写真

――「地元に愛される繁盛店」であり続けることについてお伺いします。普段から心がけていることはありますか。

平井さん:繰り返しになってしまいますが、自分が食べておいしいと思うものを提供していく、妥協はしない、一生懸命やる……やっぱりそういうところですかね。お店に来てくれるお客さんは、ハンバーグやソースがおいしいと思うから来てくれるので。なによりもおいしいものを提供する、それだけは心がけています。

ハンバーグという料理が一過性のものではないのも、広く受け入れられている理由だと思います。「◯◯を入れているからおいしい」というのではなく、僕らは普通にやっているだけなんです。

他のお店では手の込んだものを出していると思うんですけれども、うちは「余計なことはやらずに、必要なことだけをやる」という考えです。シンプルなだけに飽きないし、幅広い層に気に入ってもらえるのだと思います。

――常連のお客さんはどういう人が多いのでしょうか。

平井さん:うちの常連さんは幅広いですね。やはり男性が多いですが、おばあちゃんが1人で食べに来たりとか、若い女性もいらっしゃいます。お子さんからお年寄りまで幅広い客層だというのは感じています。

あと、来てくれたお客さんが次のお客さんを呼んでくれるんです。お父さんがよく食べに来ていて、ある時に子どもを連れてくる。その子どもが大きくなって、今度は自分の子どもを連れてくる。そうやって世代が引き継がれて、つながっていくんです。家族4代でいらしてくれる常連さんもいます。

――幅広い方々に常連さんになってもらうため、工夫はされているのでしょうか。

平井さん:女性1人でも入りやすい雰囲気があるとは思います。あと、「商い」は「飽きない」ことが大事。とにかくやり続けることが大切という信念はあります。商売をやって愛され続けるためには、細く長く地道にやっていくしかありません。

お店を引き継いでから32年、試行錯誤しながら今までずっと培われたものが、こういう形になったんだというのが実感です。 

ほかには、料理が普遍的で特化性がないというのも常連さんに愛される理由としてあると思っています。おいしいものを地道に作る。半世紀同じことをやっています。「ホットケーキ」が「パンケーキ」と呼び名が変わるような流行とは無縁のお店なんです。

本当に、お客さんありきなんですよね。おいしいものを手頃な値段で、待たされることなく食べてほしい。それが全部です。僕らは当たり前に32年間そうしてきました。その結果、いろいろなことがついてきたんです。

「高円寺のソウルフード」と言われていることにしたって、お客さんがそう評価してくれたわけで、自分たちから言いだしたわけではないわけですし。

――最後に、これから取り組んでみたいとお考えのことはありますか。

平井さん:今までずっと「変わらないこと」を意識してやってきたので、なにかを変えるのではなく「NEW-BURGのハンバーグとはこういう味だ」ということをもっと多くの人に知ってもらえるよう、精進していきたいと思っています。

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【お話を伺った人】

平井誠一さん

平井誠一さん

創業53年のハンバーグ専門店「NEW-BURG」を代表取締役として取りまとめる。製粉会社に勤務していたが、父が前のオーナーから店舗を引き継いだ後に自らもNEW-BURGへ。弟で店長を務める仁さんとともに、二人三脚で運営を続ける。誠一さんが工場での仕込みを、仁さんが店舗の調理を担当。低価格ながら手作りにこだわり、隅々まで目の行き届いたその味づくりと店づくりには有名人から食のプロまでファンが多い。

 

【取材先】

高円寺 NEW-BURG

高円寺 NEW-BURG

住所:東京都杉並区高円寺北3-1-14

電話:03-3339-0919

営業時間:11:00~22:00(ラストオーダー21:45)

定休日:無休(日曜日も営業)

公式サイト:NEW-BURG ニューバーグ

Twitter:@burg_new

取材・文/スズキマサシ
埼玉県在住のフリーライター。フードコーディネーター3級、飲食店勤務の経験あり。食やフィットネスのほか薬機法関連など、Webを中心に記事作成を行っている。

撮影:沼田学

編集:はてな編集部

編集協力:株式会社モジラフ